再スタート
「みんな~! こーんにちはー!」
画面に向かって、元気よく挨拶を交わす。
寒気が来るほどの、さぶい挨拶。
『何で、僕がこんなこと……』
内心の僕が、疲れたように呟く。
「今日は~、にんじんを切ります!」
今日の企画は、『僕が料理を出来ることをアピールする企画』。そして、裏設定は『兄貴(姉貴)は、こんな風に生きているよ、誰か貰ってください』という、切実なる家族の願い。
そう、僕は、恋愛にポンコツな兄貴(姉貴)のために、そして、家族の平和のために、一番なりたくない姿に身をやつしている。
僕が一番嫌いな、兄貴の姿。
『何で、僕がこんなこと……』
同じ言葉がリフレインする。
『兄貴が、やればいいのに』
僕にこれを提案した一番上の兄貴は、白昼堂々、ごろごろしている。
日差しと人間の気配に敏感な兄貴は、昼はどっかの猫ちゃんよろしく、ごろごろしている。
そう、床を、掃除している。
『掃除するなら、僕にして。こんな姿で衆目に晒される、この醜い僕を掃除して』
内心で精一杯叫んでみるが、音にならない悲鳴は兄貴には届かない。
兄貴は、この世で大切なのは「音になる声」であって、「声なき声」ではない、と言ってはばからない。
『今の時代、少しは憚った方がいいのに』
そう。いくら僕が優秀でも、出来ることと出来ないことがある。最近の風潮やトレンドに、過度に疎くては、世間でやっていくには無理がある。
思わぬところで、足元を掬われるとも限らない。
僕は、再三注意しているのに、兄貴は「大丈夫、大丈夫」と言って、全然聞かない。
『ふん。どうせ、僕が年下だから、馬鹿にしてるんでしょ』
何度目かしれない劣等感に苛まれる。
兄弟の四番目。
家を継ぐわけでも、家業を継ぐわけでも、家を守るわけでもない僕は、何の為に生きているのか分からない。
でも、きっと、生まれたからには、何かしなくちゃいけない。何かして、お金を稼いで、生活を立てていかなくちゃいけない。
それは、大事だって……、周りが言ってた。
学校も言っていたし、友だちも言ってた。
……兄貴(姉貴含む)たちは言ってないけど。
だから、僕は将来お金になりそうなことは全部やった。
学生なら、あまり警戒心を持って接してくる人はいない。学生の今のうちに、学生ブランドを大いに活用して、安く手軽に色々な経験を積んでおかなければいけない。
色々な経験を積んだ後、大事業を始めて、大儲けして、日本一の……、いや、世界一の大富豪になる。
大富豪になって、みんなにお金を配る。欲しいっていう人がいれば、全部、惜しみなく与える。神様みたいなことが出来る。
僕が知ってることは全部教えてあげて、全部伝えてあげる。
あげてあげてあげて、あげ続けて、そして何にもなくなる。何にもなくなったところで、次の事業に着手する。
そうやって、僕と僕の家族を宣伝する。
世界中に知らしめる。
“これが、最高の家族だよ!” って
それが……、画面の中の「僕」の夢。
「はーい、無理とか言わなーい。無理じゃないように準備してきたもん!」
まるで子ども。反抗期の子ども。そんなのが、ネット上の僕。
「無理なことをいつまでも無理とか言ってる方が、悪なんです~!」
無茶苦茶なことを。
リアルの僕が絶対に言えない言の葉を。
それを全て、電波に乗せる。
みんなのところに、届くように。
誰かが助かり、誰かが苦しむように。
僕は今日も、言葉の刃を電波に乗せる。
“現代の切り裂きジャック”
僕が目指しているのは、そこだから。
誰しも平等に切り刻む。誰もの心を、確実に握って、完膚なきまで叩きのめす。
二度と……、僕の家族を傷つけることがないように。
切り裂くのは、我慢の心。ジャックするのは、世界の電波。
昔はバスのハイジャックとかが流行ったらしいけど。
今じゃ、それはもう古い。
そんなくだらぬものをジャックして、一体、いくらになるという?
『お金になるのは正義だが、お金にならぬは非正義なりー!!』
僕の丹田がそう叫ぶ。
僕も全く同意する。
この世界、資本主義とか言う、この世界。お金があるかないかが問題で。
お金がない奴、何にも言えぬ。
それが社会の暗黙知。
……なのに。
僕の世界は、そうじゃない。
お金のないやつ、デカい顔。お金がある奴、悲しい顔。
デカいこと言うのは、いつでもお金のない奴で。
小さく出るのはお金のある奴。
不思議な文化の世界線。
で、あんまりうるさいものだから、『そんなら、やってやるよ!』と啖呵切った僕が運の尽き。
ホント、運の尽き……。
兄貴がどこぞから、するっと金を集めてきて、必要な品を揃えてくれた。
機材も、衣装も、何もかも。
「……」
見事な手腕に、絶句する。
「これで、出来るはず!」
にこにこしている兄貴と機材。双方眺めて、ため息をつく。
『どうして、その才を、世に生かそうとは思わない……!』
うちはきっと、裕福で。経済的には苦労がない。
父と母はあんまりいない。家の中にあんまりいない。
二人とも、それぞれに、それぞれの人生謳歌中。
僕らのことなんて、一切歯牙にもかけない人間。
昔から……、そうだった。
「うん、ありがと」
僕は少し青ざめつつも、やると言った己を恥じる。
「頼まれたもんは、揃えたはずだから、足りなかったら言ってくれ」
「うん……」
「じゃあ、俺、約束があるから」
「うん、行ってらっしゃい」
兄貴が家を出て行って、残された機材と衣装をただただ見つめる。
「……君たち、ほんとに、僕のところでいいの?」
物に向かって語り掛ける。
物は主を選ぶというし、本当は他に行きたい子がいるかもしれない。
「……」
当然ながら、返事はない。
「……僕みたいなので悪いけど、野望を叶えるためだから。だからどうか、最後まで付き合って。僕と君らで、最高の……、兄貴の鼻を明かせるくらい、素敵な物語、紡ぐから」
僕が頼んだ。それから1日。兄貴が頼んだ全てを揃えてしまった。
流石に3日くらい……、それくらいはかかるかと。踏んでた僕が馬鹿だった。
兄貴の才を……、見誤った。
「ねぇ、みんな。いつか……、いつか兄貴をこちらの世界、引きずり込んで笑おうね?」
少々不満げなその子たち、きっと、そういうことだと思う。
『あいつがやれよ。お前じゃなくて』
たぶん、きっとそういう流れ。
他人は事情を知らずとも、僕らの仲間になった “ 物 ” ならば、きっと事情は知っている。
「じゃあ、みんな……、作戦開始と、行きましょう」
僕が静かに指揮して回る。
「君は僕の右腕で。君が僕の左腕。それで、君が次期頭領。とりあえず、今はそれで行こう」
君らがいれば、一人じゃない。
ひとりでいても、ひとりじゃない。
僕は人間苦手でさ。学校行けない馬鹿だけど、兄貴の馬鹿よりマシだと思う。
だから、僕はこれでお金を稼ぐ。
家族を守る、お金を稼ぐ。
……それが大事という国の、制度の穴を突くために。
「みーんな~? 用意はいいかー! 出陣じゃー!」
僕を馬鹿にした全ての者に。
言い聞かせたい言葉があって。
僕を邪険に扱った、あの日の君に届けたく。
僕がいない学校で、のほほん生きてるあのアホに、投げたい武器があるもので。
『君はそっちで、僕はここ。戦う舞台は違えども、その信念に曇りはあらず』
必死に磨いたその鏡。
曇らせる暇など与えない。
どんな鏡もピカピカに磨けば、僕の姿が映る。
僕の鏡像、いかがです?
世界に問うてやるまでよ。
『世界がこの世に存する限り。世界が僕を嫌っても。兄貴が僕を好きならば、この世に怖いものはなし』
そう、大事にすべきは投資家だから。
僕にお金を与えてダメにする。
そういう趣味の投資家だから。
彼らの機嫌を取れるなら、僕はいつでも修羅になる。
僕は何でも成し遂げる。
出来ないことなどないのだと、必ず世界とあいつに見せつける。
『それが、儂の生まれた意味ぞ……!』
心の中は、お殿様。
みんなが馬鹿だという殿様だけど。
それくらいがいいじゃない。
それくらいじゃなきゃ、やれないよ。
……僕らは、とっても強いから。
とっても強くて、分からない。
世界の誰にも分からない。
僕の想いも、あいつの声も。
聞こえないなら、聞かせてやろう。
僕らこそが、世界一。
僕らが一番、強いんだ。
言って聞かせて、やらせてやって、褒めてそやして、ダメにする。
そこまで行かなきゃ、パチモンだから。
ダメにするのが仕事だもん。
人がひとりで生きるなど、正味おかしなことだと言うて、
誰かと共にいる未来。
願って見せろ、ホトトギス。
君らは自分に忠実に。
世界の原理に従って。
生きているよな、ホトトギス。
『これより……、全人類革命計画を……起動します』
プログラムが動き出す。
のんびりしてた、プログラム。
準備は念入り、確実に。
そうでなくっちゃ、つまらない。
きっと、そうでしょ。あの世のあの子。
僕がゆっくりしすぎてさ、駆け足でそっちに行っちゃった、あの子の願いを叶うべく。
僕は今日も、銃を取る。
えっと―……。たまに、ふりがな(ルビという。(`・∀・´)エッヘン!!)が正規のものと違いますが、仕様でございます。学校のテストや、人前で堂々と「この小説で読んだもん!」などと言わないようにしましょう。
いいですか、子どもたち。僕は教育には厳しいです。義務教育も受けてない人間に分かることなど何もないと思っています。ドキッとしたそこの親! 「教育を受けさせる権利」果たしましょう。そして、学校が非常にヤバいところなのは今昔一緒です。あんなとこ行って平気でいられるのは化け物です。化け物級の人間です。化け物でない子どもは、「みんな、お化け……。怖い……」と逃げてくるのが普通です。だから教えてあげましょう。「生まれてこの方、お前もバケモンみたいに強いよ」と。刃物出されたら通報です。先生に、友達に、ネットに、通報です。電話で警察呼ぶのはその後でもよい。
「それはー、ライン越え~! ぶっぶー!」とか言って煽った上、「で、そんな君に提案があんだけど。……友だちなろうぜ!」という年上すぎる対応をする友達か、「そんなことはいいから、食おうぜごはん!」という飯トモか、「……それ、どこで買ったの? いくらだったの……? 高くない? 君んち金持ちなの? 親、何の仕事してるの? マジで!? それ……出典は? お前? うーわー、信用出来ねぇ!」などと酷いことを言うキャバ嬢予備軍か、「……ダメだよ。そんな風にしちゃ。もっとそれは、腰を落として、こう!」「センセー、ガキ大将暴れてるー!」という馬鹿トモに任せましょう。当然、大人の。そういう大人にきちんと責任を取らせましょう。
『はぁ、馬鹿じゃないの? それは、紙を切るものであって、人を切るものじゃないのに。そんなことも知らないの? これだから、ガキってやつは……』
などと思うような、ASD気質の人間に任せてはいけません。事態を悪化させます。暴力に正論は効きません。暴力には、暴力です。目には目を、歯には歯を。ただし、上手な振る舞いと言論に限る。
この、作者のように。




