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天才魔術師父子と私の魔法のごはん  作者: 氷雨そら


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3/3

天才父子と私の普通のごはん 3


 アーノルド先生は、赤茶色の髪と瞳をしている。

 彼は土魔法の第一人者として、王立魔術師団で活躍している。


「いらっしゃいませ、アーノルド先生」

「こんにちは、夫人」


 彼はフェーン子爵家の嫡男だ。

 研究だけしているわけではあるまい。


 彼のおかげで、辺境伯領も北端も南端も、穀物の収穫量が増え、わが国はより豊かとなった。


 ――そんな立派な人が、ロイの家庭教師のために来て下さっているのは、一つはロイが天才だから、もう一つは旦那様が頼み込んだからにほかならない。


「お忙しいところ、いつもありがとうございます」

「いいえ、ロイ君はとても優秀で教えるのが楽しいですから」


 確かにロイは優秀かもしれない。

 宿題をまだ終えていないことを伝えるべきか悩んでいると、階段の上が騒がしくなった。


「せんせー!!」

「ロイ君!?」


 ロイは再びイストの背に乗り階段を下りてくる。


 そしてアーノルド先生に、ノートを開いて差し出した。


「はい!!」

「ふむ――正解だが、もう少し丁寧に書くように」

「えへへ〜」


 本気になればすぐに宿題を終えられるのに、ギリギリまでしないなんて。

 あとで少し話をしなくては、と思いながらうれしそうなロイの様子を見つめる。


 旦那様は侯爵家の生まれだ。嫡子ではないが英雄として活躍したことで伯爵領を与えられている。

 そろそろロイも社交界に出なければならない。


 私も公爵家に生まれ、礼儀作法は学んできたが……社交界に行けば、魔力がないからと私のことを疎む家族たちと対面することになる。


 ――私が魔力も持たない落ちこぼれであることで、旦那様にも迷惑を掛けるだろう。


 結婚してすぐに妊娠をしたことや、旦那様の意向により社交界からは遠ざかっていたが……。


「お母さま?」

「ロイ、アーノルド先生にしっかり教えてもらうのよ」

「うん!!」


 ――ロイを守るために、社交だって避けては通れない。


 魔法を扱うためには、強い魔力を持って生まれるだけでなく、魔法陣を理解する力が必要だ。


 魔法陣の理解は、普通の言語とは違っていて努力だけではどうにもならない。


 魔力と魔法陣の理解能力、両方があってはじめて魔法を行使できるのだ。


 ロイは旦那様によく似て、その両方の能力が著しく高い。

 彼を利用しようとする人たちは、これからもたくさん現れるだろう。


 ――魔法陣を理解できる者は、その能力が高ければ高いほど愛や喜びなどの理解が困難で、時に孤独になりやすいという。


「……確かに、出会ったころの旦那様はいつも寂しそうだったかもしれないわね」


 彼は感情について難しく考えすぎるところがある。けれど今は、私やロイを愛してくれている。


 ――そういえば、最近ロイは愛や喜びについて強い興味があるようだ。


 私なりに教えられることはあるだろうか……。


 子育てとは難しい、自分と考え方がまったく違う子どもが産まれることもあるもの。


「でも、そう考えると、旦那様は私に歩み寄ってくださったのに、私は何も変わっていないかもしれないわ」


 左手の薬指にきらめく指輪を見つめる。

 彼の瞳の色、金色の指輪には子育てや家事の邪魔にならないように飾りがない。


 しばらくの間、指輪を眺め、それから私は家事へと戻るのだった。


 * * *


 アーノルド先生の授業が終わる頃、エントランスホールが突如騒がしくなった。

 

 不思議に思って階段を下りていくと、仕事に行ったはずの旦那様が帰ってきていた。


 彼には魔術師団副団長バーレイ様が付き添っている。

 嫌な予感がしたが、怪我をしているわけではないようだ。


「おかえりなさいませ」

「――ルナシェ・ローズワルト」

「え……?」


 ローズワルトは、私の旧姓だ。


「バーレイが言っていた、俺と君が結婚したというのは、事実か」

「はい?」


 遅れてこの場に来たアーノルド先生は、状況の異常さを察したのだろう。


「ロイ君、一度部屋に戻ろうか」

「え? でも、お父さまは、僕と約束したよ!」


 アーノルド先生は、ロイを連れ戻そうとする。


 ロイはアーノルド先生の手を振り払って、旦那様に走り寄った。


「お父さま!! 早かったね!! 今日帰ってきたら、遊んでくれるって約束したもんねっ!!」

「……!?!?」


 ロイは遠慮なく旦那様の太腿あたりに抱きついた。

 旦那様は呆然としている。


 ――そういえば、彼は付き合ったばかりのころは子どもは苦手だと言っていた。


「お父さま!! 抱っこ!!」


 ロイが両手を広げて、抱き上げてほしいと訴える。


 旦那様はものすごく困惑したような表情を浮かべたが「抱っこ抱っこ!!」と繰り返すロイの圧力に負けたのか、彼を抱き上げた。


 そして、ロイと私を交互に見る。


「え? 俺と君の……子ども??」

「……」


 状況的にもしや記憶を失ったのかなと察し、ロイのことをどう説明しようか、などグルグル考えていたのに――旦那様はなぜか、ロイが私と自分の子どもであるとあっさり結論づけた。

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