天才父子と私の普通のごはん 1
ハートフルな家族のお話が書きたくなりました。たまに山あり谷あり。のんびりどうぞー♪
これは、毎日のように繰り返される非凡な家族の平凡な朝である。
「はい、ごはんよー」
私が差し出したのは、何の変哲もない根菜スープだ。
それなのに、白銀の髪に金色の瞳を持つ5歳児は、真剣な面持ちでスープを睨めつけた。
「これは、闇の魔力30%、土の魔力70%」
「ロイ……魔法なんてかかってない普通のスープよ? ねえ、あなた……何か言ってあげて」
「正確には闇の魔力28%、土の魔力72%だ」
「もうっ、あなた!」
「ゴホンッ……主な成分は母さんの愛情だ。つまり、味わって食べるように」
お揃いの色合いの旦那様と愛息子。
息子のロイは旦那様に似て強い魔力を持って生まれたが、母である私には魔力がまったくない。
さらに私は、淡い茶色の髪に淡い緑の瞳と色合いまで平凡なのである。
私が作るのは何の変哲もないスープなのに、彼らはまるで魔法薬でも分析しているようだ。
「……でも、おかしいよ」
「ロイ?」
「お父さま。魔力を足したら100%になってるよ? 愛が入り込む余地がない」
そもそも、このスープに魔力は入っていないはずだ。
だが、旦那様は自慢気な笑みを浮かべた。
「魔力と愛情はレイヤーが別なんだ」
「レイヤー?」
「ふむ、ロイにはまだ少し難しかったかな」
私にも、意味がわからない。
私が作った根菜たっぷりスープは、近くの市場で買ってきた普通の素材だけで作られているのである。
しかも旦那様やロイのように魔力が高い人が作ったなら入り込む余地があるだろうが……私には魔力がないのだから入るはずがない。
それにしても、このままでは、魔術オタク二人の魔力談議が始まってしまう。
私の旦那様、レインハルト・サーシェス様は、筆頭魔術師だ。
家では少し頼りないが、周囲に尊敬されていて、彼がいなければ進まない重要案件は多々あるという。
このままでは、眉間のしわを深くした副団長様が、彼を迎えに来る事態を招いてしまう。
魔力すら持たない平凡な妻ではあるが、私には彼を時間通り出勤させるという責務があるのだ。
「お父さま、愛の組成は……?」
「実は俺にもいまだにわからず……しかし、ファクターXは確かに存在する」
「ファクターX……!!」
大変だ、ロイが目を輝かせてしまった。
私は慌てて二人の間に割り込んだ。
「このスープは、100%愛情でできてるのよ!」
「「愛……100%!!」」
ぽかんと同じ表情を浮かべて私を見つめる父と子。彼らはまごうことなき、王国が誇る天才である。
しまった、ただのスープなのに、私まで組成談議に参戦してしまった。
――でも、二人の健康を願い丁寧に作ったスープには、形のない愛情が確かに込められているはずだ。
「君が言うとおりだろう……君が言うことは抽象的なようで、いつも正しかった」
彼は天才であるがゆえに、出会ったときから物事の捉え方が私とは違った。
けれど私たちはなぜか強く惹かれ合い、愛し合い、夫婦になった。
私は、優しくて穏やかでちょっと変わり者な彼のことが大好きだ。
「……お仕事がんばってきてくださいね」
「ああ、愛しているよ、ルナシェ」
「私も愛しています、レイン」
――額に口づけが落とされた。
結婚してから早6年。
こんなふうに口づけをされれば、新婚のころのように、付き合いたてみたいに、出会った瞬間のように、私の心臓は変わらずときめくのだ。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ」
少しバタつきはしたが、今日も無事に旦那様は仕事へと出掛けていった。
「……確かに、愛を囁き合ったとたん、お父さまの魔力がお母さまを取り囲むみたいに強まった――ファクターXは存在する」
「早く食べなさい。家庭教師のアーノルド先生が来てしまうわよ」
「はーい」
今日も穏やかで風変わりで楽しい1日が始まる。
「あー、こんなにこぼして」
食べながら考え事をしたせいか、ロイはスープを胸元にこぼしてしまったようだ。
着替えたばかりなのに……。
私はひとまず、洗濯魔道具に汚れた服を追加で放り込んで、洗濯を始めるのだった。
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