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3 国境騎士団長は手強い

 翌日から、俺はリカルド様の姿をよく見るようになった。

 というのは、隊長の傍によく現れるからだ。


 俺たちは城内護衛で、交代制だ。

 俺も毎日隊長の姿を見るわけではない。

 だけど、隊長がいるといつもリカルド様がいる。

 そして俺に変な笑みを向けてくる。

 いらってするのはなぜだろう。


「おい、オリバー。隊長、やっぱり結婚すんのか?」

「知らねーよ」


 そのうち隊長がリカルド様の元婚約者だったという話も広まっていった。俺からじゃない。誰かからだ。

 隊長は結婚したくないって言ったけど、どうなんだろうか。


「おい、オリバー。ちょっと来い!」


 ある日、アダム副団長に拉致された。

 今度は首を絞められて気を失ったとかじゃない。

 まあ、拉致とはいわないか。


「まあ、そこに座れ」


 連れていかれたのは副隊長室だった。

 勧められた椅子に座って、真向かいに座ったアダム副隊長を見上げる。


「ヘイゼルの結婚をどう思う?」

「やっぱり隊長、結婚するんですか?」

「さあ、知らない。が、リカルドはそのつもりだ」

「そうみたいですね。リカルド様もそう言ってました」

「じゃあ、お前はいいんだな」

「俺は?なんで俺に聞くんですか?これは隊長とリカルド様の問題です。部外者の俺が口を出すことではないです」

「そうか、お前はそういうか。じゃあ、いいわ。話は終わり。じゃあな。がっかりしたぞ」


 一方的にそう言われて、俺は追い出されるように副隊長室を後にした。


 なんだよ。

 いったい。


「いち、に、さん」


 規則正しい声が聞こえてきて、ぶうんと素振りの音がする。

 隊長か?

 自然と俺はその声の主を探して、見つける。

 いつも模擬戦をするところで、隊長が剣を振るっていた。

 綺麗だ。

 隊長の剣を振るう姿はとても綺麗で、ずっと見ていて飽きない。


「ふう」


 一通り終わったらしく、隊長はやっと剣を降ろす。

 そして俺に気が付いたみたいだ。

 ちょっと悲しそうな、困った顔だ。


「隊長。俺に訓練をつけてもらってもいいですか?」


 なんだか俺はそう聞いてしまっていて、隊長はにこりと笑うと頷いた。


 隊長の剣にはなぜか迷いがあった。

 だから、いつもの切れがない。


「負けだ」


 だから、俺の剣が隊長まで届く。


「隊長。オカシイですよ。どうしたんですか?」

「おかしいか。弱くなったんだよ」


 隊長はその場に座り込み、笑う。

 自分を笑っている、そんな悲しい微笑みだ。


「そんなことないです。今日は切れがなかっただけです」

「そうか?そうかな」


 隊長は自信なさ気だった。

 まるでお見合い相手として会った時みたいに。

 今日はドレスを着ていない。

 だけど、とても女性らしく見れる。


「隊長らしくないですよ。どうしたんですか?」

「……私は結婚しないといけないらしい」

「どうしてですか?」


 隊長はとても結婚したいという感じじゃなかった。


「もう、父上は私がいらないようだ。跡取りは弟だ。だから、私はいらない」

「なんですか、それ。勝手じゃないですか!」

「お前は優しいな」


 隊長は儚く笑う。


「……亡き兄上の代わりに騎士らしくあろうとした。剣術を磨き、立ち振る舞い、私は完璧な騎士になったつもりだった」

「隊長は完璧な騎士です」

「オリバーは優しいな。だが、父上にとっては違った。結婚して女性として幸せになれと言われた。女性として?今更?私は女性としての教養をすべて持っていない。男に近づくべく、励んだ。刺繍する暇があれば、剣を磨き、体を鍛えた。今更女性になど戻りたくない。ドレスを身に着けたが、私はあれが嫌いだ。お茶も嫌い。化粧なんて気持ち悪い。私は、女性らしい幸せなんて求めていない。だが、父上はそれを望んでいる」

「勝手ですよ!そんなの。隊長は立派です。俺は隊長を尊敬してます。隊長みたいな騎士になりたいと思ってます。それは俺だけじゃないはずです。諦めないでください」

「ありがとう」


 隊長は短く礼を言って、目を閉じる。

 目元に何か光るものを見た気がしたけど、俺は視線を逸らした。


「隊長。騎士団長を越えましょう。ぎゃふんと言わせるんです!」

「なんだ。それは!」

「力をつけて証明するんです。隊長ならできます。アダム副隊長も巻き込んでやりましょう!」


 アダム副隊長が絡んできたのはこういうことか。

 隊長は結婚を嫌がってる。 

 だったら隊長のために何かすべきだ。

 うん。

 俺は隊長に協力を惜しまない。


「目にもの見せてやりましょう!」


 俺がそう言うと、隊長ががははと笑い、久々の笑い声に嬉しくなった。


 ☆


「お前ら、無理なこというな。騎士団長より強くなる?無理だろ」

「それなら隊長が望まない結婚をするのを黙ってみているつもりですか?友人としてひどくありませんか?」

「お、おう。それは酷いな」

「だったら、隊長を鍛えましょう。アダム副隊長の力があれば大丈夫です」


 俺は随分無責任なことを言っている。

 だけど隊長があまりにも悲しそうで、何かしたかった。


 ☆


 二週間後、隊長は騎士団長に挑んだ。

 けどやっぱり駄目だった。

 でも隊長の気持ちは伝えられたらしく、結婚の話はなくなった。


 リカルド様は国境に帰っていった。

 なんか、めっちゃ俺睨まれていて、怖かったんだけど。

 いつか殺されないよね?

 俺もやっぱりもっと強くなるべきだな。

 リカルド様は強すぎるけど。

 まあ、隊長も騎士団長より強くなるため、頑張ってるから、俺も頑張ろう。


「最近やけに頑張ってるな」


 アダム副隊長のしごきはまた再開した。でも以前より強くなりたいという気持ちが強くなっていたので、全然余裕だった。

 痛いけど。 

 周りの隊員たちは俺を避けるようになったけど、なんでだろう?


「俺、リカルド様に勝てるようになりたいんです」

「お?そうか。とうとう、お前……。よし、俺は応援するぞ!」


 俺の気持ちを伝えたら、しごきがますます厳しくなり、余裕なんてこいていた自分を殴りたくなった。



 

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