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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プロローグの墓場

故郷を目指す旅人達

作者: 調彩雨

※書きたいところだけ書いた未完作品です

 

 気付けば、荒野、だった。


 ё  ё  ё  ё  ё  ё


「こんな所で、何してるんだ!?お前、何だ!?」

 いきなり銃を向けて来た少年に苛っとして、私は怒鳴り返した。

「人に尋ねる時はまず自分から名乗りなさい!!」

「は!?」

 拳銃に動じない私に少年が見事な動揺を見せた。私は少年を睨み付けて更に怒鳴る。

「名を名乗れって言ってるのよ!!」

「え、あ、えっと……ジョバンニ……です」

 旅の道連れになりそうな相手の名前がジョバンニとは、皮肉な話だ。

「そう。ジョバンニ。覚えたわ。よろしくジョバンニ。私はカンパネルラ(仮)よ。気安くカンパネルラ様って呼んでくれて構わないから」

「カンパネルラ様は気安くないだろ……」

 少年は脱力した様に突っ込んだ。

「で、ジョバンニはどうしてこんな所にいるの?」

 ここに詳しいらしいジョバンニがこんな所と言ったのだから、ここはこんな所なのだろう。ならば、ジョバンニがここにいる事だっておかしいはずだ。

「え……それは……」

「ちなみに私は気付いたらここにいたのよ。捨てられたのかしら」

 口籠ったジョバンニに訳有と感じ取り、私は明るく話題を反らした。

「ここがどこかもわからないの。良かったら教えてくれない?」

「え、あ……ここは、シグヌス砂漠の南部だ」

 ジョバンニが何故か気不味気に答えた。シグヌス、益々皮肉な話だ。そして、

「聞いた事の無い地名ね」

 溜め息と共に吐き出した一言に、ジョバンニの表情が心配気に曇った。

「えっと……」

「帰り道もわからないし。まぁ道がわかったとしてこんな装備じゃ砂漠を越えられっこないけど。私をここへ捨てたひとはどうやら殺すつもりだったみたいね。何か悪い事でもしたかしら、覚えが無いけど」

 異世界へワープだなんて、果して原因は悪事か善事か。考えるのも面倒臭くなって、私は小さく首を振った。

「まぁそんな物よね、人生なんて」

 夢かも知れないし、夢でないかも知れない。ここで死んでもベッドの上で飛び起きるだけかも知れないし、博士予備群が今は亡き博士等と同じ末路を辿ったと思われるのかも知れない。そんなの夢の中にいる間はわかりはしないのだ。要は何て事も無い、このまま訳もわからず死んだとして、それも又、人生だ。科学者になる夢を叶えられないのは残念だが、このさき生きていたとして夢が叶う保証も無い。未知の世界に吹っ飛ばされて死ぬなんて、滑稽な死に方だってたまには良いかも知れない。やり直しが利かないのが難点だけれど。

 うんうんと一人納得した所に、ジョバンニが話し掛けて来た。

「お前奴隷か何かなのか?お前も、故郷が、わからないのか?」

「お前?」

「あ、ええと、カンパネルラ?」

 一睨みするとジョバンニが言い直した。‘様’が抜けているが、まぁ良しとしてやろう。

「少なくとも昨日までは奴隷でなかったわ。ここにいる経緯がわからないから今はわからないけど。故郷は……わかるわ。帰り方がわからないだけで」

 地球にシグヌス砂漠なんて地名が有るならば別だが、あいにく地理には詳しくない。ここが地球だったとして、先ずは一文無からの不法帰国の方法を模索しないといけないが。そんなのもし成功したら本が書ける。不法入国者として強制送還されるのが楽かも知れない。

 なんて考えては見たが、多分ここは地球ではないのだろう。

「まぁ故郷なんて実は無いのかも知れないけどね」

 見上げた空には白い月が三つ浮かんでいた。私の記憶が正しければ、地球の衛星は一つだけのはずだ。

「俺……俺、故郷に帰りたいんだ」

 同じ様に空を見上げ、ジョバンニがぽつりと呟いた。

「ふぅん」

 彼の故郷はこの星に有るのだろうか。

「帰れると良いね。お互い」

「……一緒に行かないか?」

 思わぬ申し出にぽかんとした。

「え……何?プロポーズ?」

 ここは砂漠だ。人助けなんてしていたら死ぬ。

「否違っ……、くない……、うん、違くない……かも」

「嘘やん」

 会って五分でプロポーズ。乙ゲのキャッチコピか。

「違うんだ。えっと、俺脱走兵で」

 いきなり話が物騒になって来た。

「追われてるんだ。でも巡礼中の夫婦の振りをすれば疑われ難いから……」

「あー……御遍路さんね」

 うんうん成程と頷く。どこへ行っても熱心な宗教家はいる物だ。

「オヘンロサン?」

「否……故郷じゃ巡礼者をそうやって呼ぶのよ」

 プロポーズは通じて御遍路さんは通じないのかと妙な感慨に耽りながら、今更ながら言葉が通じる事に気付いた。翻訳蒟蒻でも食べたのだろうか。

「へぇ……カンパネルラの故郷は何て所なんだ?」

「えーと……地球の、日本と言う所よ」

 どの規模で答えれば良いか迷って、何だか大規模な回答になった。

「日本か……ごめん、聞いた事無いや」

 それはそうだろう。

「まぁ……多分貴方が行った事の無い位遠くよ。ジョバンニは?」

「ケンタウルス草原の北にあるクラックスと言う集落だよ」

「北十字の次は南十字ね……」

 私の呟きにジョバンニは首を傾げた。私は首を振って尋ねる。

「ここから遠いの?」

「わからない」

「え?」

 ここに詳しいのだと思ったのに。落胆する私に、ジョバンニは慌てた様に言い訳した。

「俺、無理矢理徴兵されて、移動はずっと船底で外が見えなかったし、そのあと捕虜にされて何か色々運ばれたしで……」

 言い訳に意味が無いと判断したらしい。ジョバンニの言葉が止まった。

「ごめん、この辺りは詳しく無いんだ。正確な位置もわからない」

「うん、そっか」

 防人さきもりみたいな物なのかも知れない。訳もわからず連れ去られて、死んで。

「まぁ少なくとも私よりはマシでしょう。私は土地勘どころか常識すら無いからね。砂漠も草原も、足を踏み入れるのは初めてよ」

「え……!?」

 ジョバンニが信じられない物を見る目で振り向いた。ここの文明レベルは知らないが、少なくとも彼はコンクリートジャングルを知らない様だ。

 うん、無用な心配は避けた方が良いだろう。

「ずっと森にいたのよ。こんなに暑くて乾いた所に来たのは初めて」

 嘘は行ってない。ざくっと見れば日本の極相は森のはずだ。

「森に……」

「そう。砂漠じゃ役立たずでしょう?」

 言外に、それでも連れて行く気かと問うたつもりだ。現代人はサバイバルに向かない。足手まといにしかならないだろう。

「カンパネルラがいれば逃げ切れる可能性が上がる。どこの馬の骨ともわからない男に物怖じせずに付いて来てくれる娘なんて、そうそう見付からないよ」

 ジョバンニはきっぱりと言った。

「カンパネルラ、付いて来てくれるだろう?ここに人通りは無いよ。今一緒に来なきゃ、助けは来ない」

 それは、頼みと言うより脅しに近かった。私は笑って、答えの代わりに訊いた。

「て言うかジョバンニ、結婚出来る歳なの?」

 せいぜい十四、五にしか見えないのだが。言った瞬間ジョバンニが頬を染めた。

「お、俺は十八だ!!カンパネルラの方が本当は若く見えて心配……」

「私、二十五なんだけど」

 ジョバンニが唖然として私を見つめた。

「は……?」

「あ、うん。私の故郷の人って幼く見えるらしいからね。私良く童顔って言われてたし」

 化物を見る様な目で見ないで欲しい。これでも現在博士課程後期なのだ。

「カンパネルラ……もしかして」

「夫はいないから。長寿で晩婚なのよ、私の故郷は。所詮振り、でしょう?見た目は釣り合ってるんだから、我慢してよ、それ位。歳なんて言わなきゃわかんないしいくらでも誤魔化せるわ」

「……振り、ね」

 ジョバンニは苦笑して私に手を差し出した。

「じゃあ、行こうかカンパネルラ。巡礼中の夫婦は手を繋ぐのが慣例なんだ」

「この、暑いのに?」

「それが常識だから。やらないと怪しまれるよ」

 仕方無くジョバンニの手を握った。熱くて固い手だ。ごつごつで荒れている。ふっと、ジョバンニが笑った。

「カンパネルラの手は、冷たいな。ひんやりして、気持良いや」

「それ、私の涼を奪ってんだからね」

「あはは、ごめんごめん。ああでも、本当に気持が良いや。柔らかいしすべすべだし、お姫様の手みたいだね、カンパネルラ」

 当たり前だ。一日中部屋にこもって研究に明け暮れているのだから。最近は家事もほとんどしていない。手が荒れる要素が皆無なのだ。

「何も持ってないから、褒めても何も出ないわよ」

 とりあえず、ジョバンニの手をしっかり握った。

 暑苦しくて堪らないが、私には唯一の命綱だ。


 ё  ё  ё  ё  ё  ё


「無理なのかな、やっぱり」

「っ!!馬鹿言ってんじゃないわよ!!」

 弱音を吐いたジョバンニを私は思いっ切りぶん殴った。頭でなくみぞおちをえぐる辺り、私も本気だったと思う。蹲り身体を折ってげほげほと咳き込むジョバンニを見下ろして呟く。その一言、理系として納得行かない。

「人間はねぇ、人間が思っている以上に動物なのよ。でもって動物ってのは魂にこの上無く忠実で限り無く合理的なの。だから、出来ると思った事しかやらないのよ。そう言う生き物なの、人間は」

 理系としてなんて言いながらあくまでこれは自論だ。師範の言葉を元に導き出した私なりの答えでしかない。でもこれが今の所、私のまごう方なき信念だ。

「出来ると思ったからやるの、行けると思ったから目指すの。貴方だって、行けると思ったから目指したんでしょう!?だった無理な訳無い。自分を裏切るな、諦めるな。帰れる!!」

 荒々しく胸ぐら掴んで叫んだ私をジョバンニはぽかんと見つめた。

「貴方が貴方をを疑って、どうするのよ」

 吐き捨てる様に言い放って私はジョバンニを捨てた。諦める奴に用は無い。博士予備群として、私は人間に不可能が無いと信じているのだ。人間が、想像出来る範囲では。


 ё  ё  ё  ё  ё  ё


 かたん

 何かが倒れる音がした。目の前の、近過ぎるほどに目の前の、ジョバンニの肩を押す。

「えっと、ね、これは、何のつもりかな?」

 額から後頭部へ、冷や汗が伝った。

「だって、俺達、夫婦でしょう?」

 仮面のね、と言う反論は、もはや役に立ちそうも無かった。

「否、だって、東京都青少年の育成に関する条例に引っ掛かるからっ」

「何それ?」

 ジョバンニが目を細めた。私だって何それだ。地外法権だって何ら役に立たないだろう。

「故郷の、東京の掟よ。二十歳以上の人は二十歳未満の人と生殖行為はしちゃいけませんって」

 合気道じゃなくて柔道をやっておけば良かったかも、と思いながら打開策を考える。合気道じゃ寝技は習わなかった。

「カンパネルラ、ここは、トウキョウじゃないよ」

 そう来ると思ってた。

 伸びて来た手を掴んで体勢を入れ換える。やっぱり合気道だ。理由は、腕力勝負にならないから。締めだって、力技じゃなく動きを封じられる。

「どこだろうと嫌な物は嫌なの。このカンパネルラ様押し倒そうなんざ、一年早いのよこのアホウっ。二十歳になってから出直して来なさいっ」

「一年が何だって言うんだよっ、十九も二十も大して変わらないじゃないかっ」

 怒鳴った私にジョバンニは怒鳴り返して来た。負けじと私も怒鳴る……様ないたちごっこはせず、正攻法(仮)で返す事にした。

「意味なんか無いわよ。決まりなんてそんな物でしょう」

 くいっと、軽く、向きを少しばかり変える。理想的な締めは動いたら痛いけれど動かなければ痛くないと言う状況だ。つまり、状況を少し変えれば痛い訳で。

「って————っ!!」

 肩関節を決められたジョバンニは痛みに悶絶した。が、動けば余計痛いと言うのが締め技の怖い所だ。

「二度とやらないと誓いなさい。ほら、早くしないと肩が外れるわよ」

「いでで……」

「誓いなさいな」

「……もうしません。二十歳までは」

 頷いて、離す。

「次やったら腕折るから」

 脅しは本気だった。


 ё  ё  ё  ё  ё  ё


「大丈夫。貴方は、帰れるわ、ジョバンニ」

 私は笑って言った。自信満々で、胸を張って。

「何の根拠が有ってそんな事……」

 ネガティブスパイラルに陥っているジョバンニが、うつ向いたまま明らかに信じていない口調で言った。瞬間いつかみたいに張っ倒そうかと思ったが、いつに無く辛抱強く優しさを引き擦り出した私は種明かしをしてやる事にした。

 本当はそんな事、するつもり無かったのだけれど。

「私がカンパネルラ(仮)で、貴方がジョバンニだからよ」

 私が堂々と宣言した台詞に、ジョバンニは訳がわからないと言いた気な表情を返した。

「ある、星の綺麗な晩に、少年が二人、旅に出るの」

「は?」

「童話よ。私の故郷のね」

 ジョバンニが童話と言う概念を知っているかは無視して、私は言った。反応を待たずに続ける。

「少年達は故郷を遠く離れて旅をするの。二人で、一緒に、どこまでも行こうって、ずっと遠くまで」

 随分前に読んだ童話だ。正確な記憶ではないかも知れない。

「ケンタウルスと言う村から旅に出て、シグヌスを通って、クラックスに辿り着いて、その側のコールサックで、少年の内一人がいなくなってしまうの。そうして残された少年は気付けば元いた村、自分の故郷にいるのよ。そこで少年は知るの。共に旅していた彼が、死んでいた事を」

 そう。夢から覚めたら、友は死んでいた。そう言うオチの話だ。どうにもしっくり来ない話と思うのは、私だけだろうか。

「無事帰れた少年の名はジョバンニ。死んだ少年の名はカンパネルラよ」

 言った途端、ジョバンニがばっと顔を上げた。そんなジョバンニに私はにっこりと笑みを見せた。

「貴方は故郷に帰れるわ、ジョバンニ」

「カンパネルラ……」

 呆然と呟かれた名前に頷きを返す。

「そう。私はカンパネルラ(仮)よ」

「カンパネルラっ」

 立ち上がったジョバンニが私の肩を掴んだ。

「しっ……、っ帰らない、つもりなのか?」

 死ぬ気かと言う問いは発されなかった。

「まさか」

 私は鼻で笑う。

「帰るわよ。いくら符合がそろい過ぎているからと言って、それで運命が決まるとは思わないわ。言ったでしょう?結果が出るまで諦めないのが信条なの」

「……カンパネルラは諦めても良いよ」

 肩を掴む手に力が籠った。ジョバンニが真剣な目で口を動かす。

「帰るのなんて、諦めれば良い。ずっと、ずうっと、俺と一緒にいれば」

「それこそまさかよ」

 私はジョバンニの胸ぐらを掴んでその顔を見上げた。

「たとえ胡蝶の夢であったとしても、私には故郷でやり残した事が有るの。諦めたりしない。帰れない運命だとしても私は帰れると思い続ける。帰れる前提で動き続ける、だから」

 最初から言っている。

「だからカンパネルラ(仮)なのよ。私は、カンパネルラその物になる気は無いの」

 胸を張って笑った。何の根拠も無い、あるいはジョバンニより絶望的な状況だと言うのに、堂々と。

 私は帰る。必ず、帰るのだ。


未完のお話をお読み頂きありがとうございます


十年以上前に書いたので

成人年齢が二十歳なのですよねこれ

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