故郷へ−5
そういえば国王陛下の代わりにキャサリン殿下が父の墓参りをするのだった。
忙しいので後で墓の掃除をしようと思っていたが、先に済ませてしまった方が良さそうだ。
キャサリン殿下に言って少し待っていて貰おう。
「国王陛下……?」
「父の墓参りを代わりにお願いするって」
「アレックスの父ということは、国王陛下の友人であったハインリッヒの墓か」
「そうだよ」
ジョシュが少し悩んで、騎士団からも何人か墓参りをさせて貰えないかと言う。
何故かと思っていたら、百年前の戦争を経験している者なら墓参りをしたいと言うかもしれないと語った。
「それなら構わないけど、百年前だと曽祖父の墓だと思うよ」
「いや、ポーションを供給できるようにしたハインリッヒの名前は大きい」
「そうなのか。分かった。墓参りは好きにして貰っていいよ。だけど掃除をしていないから少し待っていて欲しい」
「それこそ手伝おう」
騎士に墓掃除などさせる訳にはいかないと断ろうとしたが、ジョシュの話を聞いていた騎士団の団員から任せろと言って何処かに行った。
すぐに戻ってくると、長生きしている亜人であろう人を呼んできたようだ。
事情は聞いたと任せるように言われる。
「しかし騎士団の皆様に任せる訳には……」
「アレックス、それだけハインリッヒは功績を上げたと言うことだ」
亜人であろう人が深く頷いている。
父は直接関係ないのだが、墓参りをして貰えるならと迷いつつもお願いをする事にした。
ジョシュがキャサリン殿下へ掃除の間待っているように言っておくと請け負ってくれた。
アレックスは騎士団の団員と父の墓がある場所へと向かう。
墓は村の共同墓地の中にある。
そう数がない墓石の中にまだ新しい墓石がある。
石を切り出して作る村の墓石は年月とともに風化していく。
父の墓石は母自らが切り出して来たものだ。
墓に近づいていくとどうやら誰かが綺麗にしていてくれたようで、汚れた様子が無かった。
これなら掃除を頼む必要もなかったかもしれない。
それでも騎士団の団員は掃除をしてくれた。
アレックスはその間に近くにあった花をいくつか摘む。
そのままキャサリン殿下を呼びにいく事にする。
キャサリン殿下が滞在している建物に着くと周囲を警備していた騎士団の団員が気づいて声をかけてくる。
アレックスが事情を説明すると、すぐにキャサリン殿下を呼んでくれた。
キャサリン殿下はジョシュと共に出てきた。
「アレックス? もう掃除は終わったのか?」
「ジョシュ、綺麗にしてくれてたみたいなんだ」
「そういう事か」
キャサリン殿下が護衛を連れて墓参りに向かうと言う。
ジョシュはマーティーを待たせているので戻ると広場へと言って、戻って行った。
キャサリン殿下を連れて墓地へと案内する。
「キャサリン殿下、態々ありがとうございます」
「国王陛下、いえ、お父様としてのお願いでしたから」
「国王陛下が出来るなら自身で行きたいと言っておられました」
「お父様は忙しい上に、簡単に来れる場所ではありませんから仕方がないです」
会話をしながら歩いていくと、墓地に辿り着いた。
父の墓は周囲まで騎士団の団員によって綺麗にされている。
先程摘んだ花をキャサリン殿下に一輪渡して墓に手向けて貰う。
掃除をしてくれた団員にも花を渡して父の墓に手向けて貰うようにお願いした。
メグにも花を渡して、アレックスと一緒に花を墓に手向ける。
少しの祈りを経てキャサリン殿下や騎士団の団員にお礼を伝えた。
キャサリン殿下を滞在する建物まで送り届ける必要はない気もしたが、一応騎士団の団員と護衛しながら送り届けた。
「キャサリン殿下、ありがとうございました。何か用事があったら呼んでください」
「アレックス、助かります」
始祖鳥を見に行く為に、明日の朝出発の予定だが雨の場合は中止することを改めて確認したおいた。
今日の山の様子だと問題なく晴れるとは思うが、山なので突然変わることもある。
雨を予測するのが得意な村人がいるので、朝に晴れていても雨と予測された場合は中止だ。
キャサリン殿下との話が終わったところで、再びメグを村の皆に紹介しに行く事にする。
普段であれば珍しさもあり、集まって来て一瞬で挨拶など終わりそうなのだが、今日は流石に皆色々とやる事があるようで一人ずつ挨拶をしていった。
夕食までに挨拶が終わり安堵する。
「メグ、時間がかかっちゃってごめん」
「ううん。忙しいのだから仕方ないよ」
村の皆が用意してくれた夕食を皆で囲んで食べながら、村長にヘルハウンドがドラゴンの縄張りで確認されていることを話した。
夕食が終わった後は、その日は実家でメグとトレイシー含め三人で泊まった。
アレックスが朝起きると家を出て外の天気を確認する。
雲一つないとまでは言わないが晴れている。
今日雨は降りそうにないとアレックスは予想したが、外れることもあるので予想が正確な人に聞いた方が良いだろう。
「アレックス、晴れているみたいだけど、今日行けそう?」
「多分行けると思う。装備を戦闘用にしておいて」
「分かったわ」
山の朝は夏に近いとはいえ、冷える。
メグが体を少し震わせながら家の中に戻って行った。
アレックスも家の中に戻って装備を付け始める。
メグとアレックスはお互いに装備に不備がないか確認をする。
「問題はなさそうね」
「それなら私は村長のところに行ってくるよ」
「うん。私はキャサリンの様子を見てくる」
メグと家の前で別れてアレックスはトレイシーを連れて村長の自宅へと向かう。
村長は既に起きていたようで、家の前で村人と話し合いをしている。
近づいていくと、村長はアレックスに気づいたようで挨拶をしてきた。
アレックスが挨拶を返すと、早速今日どうするかの話になった。
天気を読むのが得意な村人は口を揃えて今日は晴れると言うので、出発するのは問題がないようだ。
村長は想像以上に護衛の数が多いので、案内をするのがアレックスとトレイシーだけでは逸れてしまった場合に、人数が足りないだろうと、何人か道案内に村人を出してくれるようだ。
「騎士団なので逸れることは普通ないだろうが、ヘルハウンドが心配だからの」
「誰かヘルハウンドをドラゴンの縄張りで見た人は?」
「村では誰も見ておらんようだが、ドラゴンが言っておるのだから居たのは事実なのだろう」
ヘルハウンドは空を飛ぶことはできない。
飛んで移動しているだけなら良いのだが、始祖鳥を見にいくならば地上に降りる必要があるだろう。
そうなるとヘルハウンドの奇襲を受ける可能性が高くなる。
騎士団ならヘルハウンドでも問題なく倒し切るだろうが、怪我人が出た場合は別れて行動する可能性もある。
緊急時のために多めに道案内をする人はいた方が良さそうだ。
考えがまとまったアレックスは、キャサリン殿下に許可を貰ってくる事にした。
「キャサリン殿下、相談があるのですが」
「どうしました?」
「案内をする者を増やそうと思うのです。ヘルハウンドが出て怪我人が出た場合に、案内ができる人が複数いた方が良いのではないかと」
「確かにアレックスだけでは対処できませんか」
村長が既に人選をしているとキャサリン殿下に伝えると感謝された。
キャサリン殿下と共に村長の元に向かう。
キャサリン殿下が挨拶をして話すと、村長が四人ほど候補を決めたと言う。
「良ければ四人をお連れになって下さい」
「タッカー村長、配慮感謝します」
「キャサリン殿下、お気になさらず」
どうやら案内役として四人が着いて来てくれるようだ。
四人はアレックスよりも狩に慣れているので戦力にもなるだろう。




