故郷へ−4
アレックスが村の様子を説明していると、ジョシュがメグに視線を移したことで、随分とメグが緊張していることに気づいた。
母は不在だと伝えてあるが、やはり緊張はするのだろう。
アレックスも改めてニコルに挨拶をした時が一番緊張した。
「メグ、大丈夫?」
「アレクシア伯爵は居ないって聞いてるけどやっぱり緊張する」
「私もニコルに挨拶をした時は緊張したから分かるよ」
タッカー村長にもメグを紹介したいが、今はキャサリン殿下とエリック殿下の相手をしている。
落ち着いてから紹介をした方が良さそうだ。
それに村はそう広くはない、すぐに村の説明は終わるだろう。
村を回っていると、診療所までたどり着く。
普段モイラおばさんが居る場所だ。
今更ながらにタッカー村長だけでモイラおばさんが居ないことに気づいた。
普段のタッカー村長ならモイラおばさんも連れてきていそうなのだが、居ないという事は怪我人でも出たのかもしれない。
「ここが村唯一の診療所です。必要はないと思いますが、殿下も何かあれば尋ねてみてください」
「助かります」
タッカー村長がキャサリン殿下とエリック殿下に少し待っていて欲しいというと、診療所の中に入っていった。
中に入れないということは、やはり怪我人でも出たようだ。
タッカー村長がモイラおばさんを連れて戻ってきた。
モイラおばさんが姿を現すと皆が騒ぎ始めた。
モイラおばさんが挨拶をすると、キャサリン殿下やエリック殿下が緊張した顔で挨拶を交わしている。
キャサリン殿下やエリック殿下の方が緊張しているようだ。
モイラおばさんにエリック殿下が魔法が好きなことを伝えると、興味を持ったようだ。
「魔法が好きなのかい?」
「はい。モイラ伯爵に魔法を教えて頂きたいのですが……」
「私がかい? 教えられるか分からないが構わないよ」
エリック殿下がスプルギティ村へ来た目的である、モイラおばさんから魔法を教わるという目的は達成できそうだ。
エリック殿下が約束を取り付けた後、アレックスに紹介してくれて助かったと、お礼を言ってきた。
緊張して言い出すことができなさそうだったので正解だったようだ。
村の説明はやはりすぐに終わった。
キャサリン殿下とエリック殿下が宿泊する場所や、天幕を広げる場所に案内が終わればタッカー村長は一息ついたようだ。
アレックスが紹介する暇がなくなりそうだとメグをタッカー村長に紹介した。
「メグさん、アレックスをよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「田舎ですが、のんびりしていって下さい」
タッカー村長は父の代わりのように挨拶をしてくれている。
村長はどうやら随分と気を遣ってくれたようだ。
メグは挨拶を終えたことで緊張が取れたのか硬い表情ではなくなった。
村長とメグの挨拶が終わったところで、待っていて貰っているトレイシーを探す。
明日一緒に始祖鳥を見にいくのに最初から護衛をしてくれるので、村で待っていてくれている筈だ。
トレイシーを探すとピュセーマと一緒に大雀が集まっている場所にいた。
「トレイシー、案内終わったよ」
「そうか」
メグが待っていて貰ったことを謝ると、トレイシーが知っている場所だから遠慮したと笑っている。
「私が知っている人しかいないからな。それなら大雀と一緒にいようと思ってね」
「トレイシーは大雀に人気ね」
「ドラゴンの側は安全だから大鳥が寄ってくるのさ」
「そうなの?」
「そうだよ」
メグは大鳥がドラゴンの側で休むことを知らなかったようだ。
アレックスがダニー長老から聞いた始祖鳥を見にいく理由を話すと、メグはとても驚いている。
トレイシーを連れて、モイラおばさんにも挨拶をしておいた方が良いだろうと、メグを連れて診療所へと戻る。
診療所の中に入って行き、モイラおばさんにメグを紹介する。
再びメグは緊張した様子だったが、モイラおばさんの雰囲気がそうさせるのだろうか、すぐに緊張は取れたようだ。
「モイラおばさん、ところで診療所に居るってことは怪我人が出たの?」
「張り切りすぎて怪我をしたのが居たからベッドに縛りつけてるよ」
「準備に張り切ったのか」
「グリフォン捕まえたは良いけど怪我までしてきたのさ」
グリフォン程度であれば怪我をする事はあまりない。
珍しい事もあるのだと思っていると、マーティーの兄がやる気を出して怪我をしたのだと教えてくれた。
マーティーの兄という事は、当然モイラおばさんの子供だ。
村では若い分類に入るので、狩で失敗することが多い。
アレックスやマーティーよりはかなり強いのだが、魔物との経験が足りないのだろう。
モイラおばさんがしばらくベッドに縛りつけておくと言っている。
村に人が来るのは珍しいため楽しみだっただろう。
かわいそうに。
「そういえば、マーティーを見てないんだけど、どこにいるの?」
「また工房で何か作ってて忘れてるんじゃないかい?」
「ああ。友人が来たって教えておくよ」
「頼んだよ」
村で錬金術師が錬金術をできる工房はアレックスの実家にしかない。
メグを連れて実家へと向かう。
アレックスの実家は大きな建物に小さな家が着いたよう見た目をしている。
家に錬金術の工房を追加する為に増築をしたら、家より工房の方が大きくなってしまったらしい。
鍵もない家の扉を開けると中は綺麗になっていた。
定期的に掃除をしてくれているようだ。
「ただいま」
「え? もしかしてここがアレックスの家なの?」
「そうだよ。隣が錬金術の工房になってる」
「ここがアレックスが育った家なんだ」
メグが家を見回している。
特別何かあるような家ではない。
オルニス山の中腹にあるため寒いので、大きな暖炉が特徴的なくらいで普通の家だ。
王都で今住んでいる家の方が随分と豪華だ。
メグに家の中を紹介して、繋がっている工房へと向かう。
工房は王都の工房と似たような配置になっている。
アレックスが慣れている配置が家の物だったからだ。
椅子に座って魔道具か何かを作っているマーティーが居た。
髪の毛が短いマーティーは後ろ姿でも髪の中から角が見える。
近づいて声をかけると、マーティーは驚いたように振り向いた。
「アレックス?」
「ただいま。案内するために帰ってきたよ」
「そうだった。村長と母がそう言っていたな。おかえり、アレックス」
「マーティー、ジョシュも来ているから挨拶してきなよ」
「やはりジョシュも来たのか。分かった」
マーティーは魔道具を作る作業に切りをつけたようだ。
マーティーは椅子から立ち上がると大きい。
モイラおばさんほど大きくはないが、二メートル近い身長で、体に筋肉が多いのか更に大きく見える。
椅子から立ち上がったマーティーが大きく伸びをする。
そこでアレックスの近くにメグがいるのに気づいたようだ。
アレックスがメグを紹介すると、マーティーが挨拶をした。
ジョシュが居る場所が分からないだろうとマーティーを案内する。
広場で今は休んでいるジョシュの元に向かう。
そう広くない広場なのでジョシュはすぐに見つかった。
ジョシュもこちらに気づいたのか、マーティーの存在に気付いたようだ。
「マーティー久しぶりだな」
「ジョシュ久しぶり」
ジョシュとマーティーが話し始めると周囲の団員も気づいたようだ。
どうやらマーティーは他の団員とも交友があるようで、声をかけられている。
案内はここまでで良いだろうと離れようとすると、ジョシュから声をかけられた。
「アレックス、キャサリンが先ほど探していた」
「私を?」
「ああ。墓参りがどうとか言っていた」
「ああ。国王陛下からの頼みか」