Side ジョシュ
ジョシュは騎士団の仲間と共に準備を進める。
ゲラノスに着いて三日目、オルニス山のスプルギティ村へと向かう。
スプルギティ村に一泊して次の日に始祖鳥を探しにいく。
始祖鳥を見れるまで繰り返し、見れた後はスプルギティ村に一泊してゲラノスに降りてくる予定だ。
アレックスのように一日でオルニス山を登って降りてくるなど普通は不可能なのだ。
スプルギティ村に一泊して次の日に戻ってくると思っていたら、朝に出て行ったと思ったら夜には戻ってきたのには皆で驚いた。
戻って来れたら戻ってくるとは言っていたが、オルニス山の中腹から普通戻って来れると思わない。
「ジョシュ、準備はできましたか?」
「キャサリン。全体はもう少しだな」
「そうですか」
流石のキャサリンも緊張しているようで顔が強張っている。
アレックスのようにオルニス山を気軽に行き来できる人の方が少数なのだ。キャサリンが緊張するのも仕方がない。
ジョシュとキャサリンは婚約者ではるが微妙な関係だ。
今は婚約者でも今後は分からない。それでもキャサリンとの関係は悪くはない。
お互いキャサリンが王太子になるとは思っていなかったし、王家やジョシュの実家である伯爵家も婚約した時は同じだった筈だ。
「キャサリンはアレックスの言う通りに動くんだぞ」
「分かっています」
「行動力はあるから心配だ」
キャサリンの行動力といえば、護衛の目を盗んで視察中に抜け出して居なくなってしまった事が有名だ。
当時はジョシュもまだ魔導騎士ではなかったので後から聞いた話だが、騎士団はとんでもない大騒動になったと言う。
結局はすぐに保護されたのだが、その時に一緒に遊んでいた少女がアレックスの恋人になるとは予想しなかった。
アレックスからメグの名前を聞いた時にすぐには結びつかなかった。
ジョシュは何回かキャサリンに紹介されて会ってはいたが、アレックスとの関係性が思いつかなかった。
キンバリー卿とメグが一緒にいるところを見て思い出した程だ。
「流石に私でもオルニス山は大人しくします」
「そうしてくれ、私では助けられるか怪しい。ヘルハウンドが居る可能性があるようだしな」
「分かっています」
ヘルハウンドという言葉に多少顔が固くなったが、多少からかったからかキャサリンの顔色は良くなった。
緊張感が完全になくなるよりは良いだろう。
キャサリンの顔色が良くなったところで準備が整ったようだ。
大鳥に騎士団の団員が騎乗し始めた。
キャサリンが大鳥に乗ったところで今回の遠征を指揮する隊長が合図を出した。
一斉に大鳥が飛び始める。
門を出たところで上空で待機して、アレックスとトレイシーが乗ったピュセーマだけ地上に降りた。
すぐにトレイシーがドラゴンに戻った。
大鳥も慣れたものでドラゴンが現れても暴れない。
トレイシーとアレックスを先頭にオルニス山のスプルギティ村を目指し始めた。
オルニス山の上空を飛ぶのは緊張する。
アレックスから麓はトレイシーが居る上に、大人数で飛んでいれば襲われることは滅多にないとは言われているが、魔境と呼ばれるオルニス山を飛ぶのは緊張するのだ。
他の騎士団の団員も顔が強張っているのが分かる。
「ジョシュア」
「何かあったか?」
「ヒッポグリフが逃げていくのが見えたようだ。注意しろ」
「はい」
仲間の団員から注意を受けた。
ヒッポグリフは空を飛ぶ。ワイバーンほど手強くはないが、相手をするのが大変な魔物だ。
そしてヒッポグリフが生息しているということは、グリフォンも生息をしている可能性が高い。
ヒッポグリフはグリフォンと馬の子供だ。
ヒッポグリフならまだ良い、グリフォンとなればワイバーン以上の相手となる。
やはりオルニス山はとんでもない魔境だ。
地上だけではなく上空も注意しながら飛行を続ける。
キャサリンやエリック殿下を連れている為比較的ゆっくりとした飛行だが、それでも徐々にオルニス山の中腹に近づいてきた。
トレイシーが徐々に高度を下げていくのがわかる。
全体も続いて高度を下げていく。
トレイシーが居るおかげなのか魔物から襲われることはなく、遠目に逃げていく魔物を見た程度だった。
「あれがスプルギティ村ですか」
「見た目は山間の普通の村のようだ」
「そのように見えます」
魔境のような場所で、普通の村を維持できているのが異常だ。
高度を下げ続けて村の中へと降りる。
全ての騎士が入り切れるか不安になったところで、トレイシーが人型になって場所を開けてくれたようだ。
なんとか村の中に皆が降り立った。
村は空から見た通り建物などは普通の村と見た目は変わらない。
しかし村人は普通ではないのが角を見るとよく分かる。
マーティーやアレックスの二倍ほどもある大きな角を持って、戦えることが分かる体つきをしている。
ジョシュが周囲を見回しているとアレックスが歳をとった人物を連れてきた。
「キャサリン殿下、スプルギティ村の村長タッカーと申します」
「キャサリン・ド・オルニスです。無理なお願いを叶えて頂き感謝します」
「キャサリン殿下、歓迎いたします」
「タッカーよろしくお願いします」
タッカー?
……もしや元帥タッカーか!
百年前の戦争で指揮を取って戦況を好転させ続けたと伝説で、元帥と愛称で呼ばれたと言う。
確か男爵以上の爵位をと考えられていたが、結局辞退をされなんとか名誉騎士にはなっていた筈だ。
元帥タッカーが村長なのか……。
スプルギティ村で最初に紹介された人からとんでもない。
キャサリンに頭を下げている元帥タッカーを見ていると、名乗られなければ気付かなかっただろう。
というかキャサリンは名前を聞いても気づいていない気がする。
元帥タッカーは騎士団で有名な人だから仕方がないか。
「おい、ジョシュア」
「なんですか?」
「元帥タッカーは本人だって当時を知ってる者が教えてくれた」
「やはり本人なのか……」
小声で話しかけられて何かと思ったが、態々仲間が教えにきてくれたようだ。
アレクシア伯爵やモイラ伯爵に比べたら有名ではないが、騎士団では元帥タッカーの方がまだ目指せると語られている。
騎士団は戦場を体験した人がまだ残っているので、少し事情が違うのだろう。
元帥タッカーと頭の中で考えていると、間違えて呼んでしまいそうだ。
タッカー村長と考えるようにした方が良さそうだ。
タッカー村長とアレックスは共に村を案内してくれるようだ。
キャサリンとエリック殿下に続いてジョシュも回る。
タッカー村長やアレックスが小さい村で見る者だないと言うが、先ほど警戒していたヒッポグリフやグリフォンが普通に吊るされている。
「アレックス、ヒッポグリフやグリフォンが吊るされているがあれは?」
「村の誰かが狩ってきたんだと思う。グリフォンはともかくヒッポグリフは食べれないこともないよ」
「そうか……」
いつもの事なのだろう慣れた様子だ。
普通に狩るのか……。
気になったことがもう一つある。
グリフォンやヒッポグリフに並んで、巨大な蛇のような魔物が吊り下げられているのだが、ジョシュの知らない魔物だ。
「アレックス、あの蛇の魔物は名前は何だ?」
「あれは魔物じゃないよ」
「魔物じゃない?」
「ただの蛇だね」
魔物ではなくただの蛇?
それにしては大きすぎる。
アレックスが蛇は大鳥の卵を狙ったり、弱い魔物なら食べてしまうのだと教えてくれた。
大鳥の卵は鳥の種類にもよるが大人が抱えるほどには大きい。
それでも蛇の大きさを考えれば食べられないことはないのだろう。
それ以上に驚きなのは、ただの蛇が魔物を食べるとは……。
最近常識をアレックスに教えてくれているメグは緊張しているのか、蛇について聞いていないかったようで何も言わない。




