故郷へ−2
領主館から外に出ると、ピュセーマを出して貰う。
鞍を取り付けて準備ができたところで、キャサリン殿下にどの程度時間がかかるか話す。
「今日中に帰ってくるようにしますが、場合によっては時間がかかるかも知れません」
「分かりました。二日帰ってこなければスプルギティ村に使者を出そうと思いますが良いですか?」
「それで構いません」
何か問題があってもゲラノスに戻って相談する事を確認した。
キャサリン殿下との話が終わったところで、メグに行ってくると挨拶をする。
ピュセーマにアレックスとトレイシーが乗ると、ピュセーマが飛び上がった。
まずは結界の範囲外である門の外にまで出て、トレイシーをドラゴンの姿に戻す。
昨日の騒動があったので、少し遠めの位置でトレイシーにドラゴンに戻ってもらった。
トレイシーと相談して、まずはスプルギティ村に戻る事にした。
トレイシーを先頭にピュセーマが後を追う。
オルニス山で上昇気流が発生しやすい道順を使って、一気に山肌を駆け上がるように飛んでいく。
トレイシーが一緒に居ると魔物に襲われる心配が殆どない。
警戒をそこまでしていない事もあってすぐに村まで辿り着いた。
「大体一年ぶりかな?」
「確かにそのくらいか」
「こんなに早く帰ってくると思わなかった」
「ふむ。それもそうか」
トレイシーと村の上空で話していると、村の皆が気づいたのかこちらに指を刺している。
村の中に大きな体で杖を持った人が見えた。
モイラおばさんだろう。
ピュセーマに指示を出して地上に降りる。
「アレックス? 戻ってきたのかい!」
「手紙が来ていると思うけど、王家からキャサリン殿下を連れてきたよ」
「ああ、マーティーが以前に言っていた気が……。アレックスが連れてきた訳かい」
「そうなんだけど、村では誰が王家の依頼を担当してるの?」
モイラおばさんは首を捻っている。
どうやら知らないようだ。
というか話し方的に王家の依頼については忘れていたのだろう。
モイラおばさんは子供に魔法を教えたり、怪我の治療をする事が多い。あまり村の外に出ないので、王家の依頼には携わってなかったのかも知れない。
「それは他の人に聞くといい。アレックス、彼女ができたと聞いたよ。おめでとう」
「モイラおばさん、いや師匠。ありがとう」
「マーティーもそうだけど、アレックスも大きくなったよ。そうだ。アレクシアは帰ってきてないよ」
「やっぱり母さんはまだ帰ってきてないか」
母が帰ってきてないのは何となく予想ができた。
メグを紹介するのは次の機会になるだろう。
母ならケリーに乗っているので、スプルギティ村へ帰ってきた時に伝言を残せば、すぐにでも王都に来る事ができるだろう。
母と幼馴染のモイラおばさんは、もう一人の母親のようにアレックスの面倒を見てくれていた。
母のような体術より、魔法を使いつつ戦う方が向いていると分かってからは、モイラおばさんから戦い方を教わる事が多くなった。
しっかりと戦い方を教わるようになってからは、モイラおばさんを師匠と呼ぶ事が多かった。
村の皆に帰還の挨拶をしながら、王家の依頼を誰がまとめているのか尋ねると、タッカー村長がまとめていると教えてくれた。
タッカー村長は何処かと尋ねると、村長の声が聞こえたきた。
村長も空を飛んでいるトレイシーに気づいたのかも知れない。
「アレックス、久しぶりじゃな」
「タッカー村長、お久しぶりです」
「トレイシーも戻ってきたか」
「はい」
アレックスが王家の依頼で始祖鳥を見にいく為の人員を連れてきたと説明すると、タッカー村長は頷いている。
村長は受け入れ準備はできているが、人数が多いなら天幕で過ごして貰う必要があると言う。
キャサリン殿下も予想していたので天幕は用意していると村長に伝えた。
村長が更に、始祖鳥が生息している場所は例年通りに雪が溶けた事を教えてくれた。
ドラゴンにも話は通してあるが、トレイシーと帰って一度話しておいた方がいいだろうと助言を貰う。
「それとアレックス、彼女ができたと聞いた。おめでとう」
「村長、ありがとうございます」
「そのうちワシにも紹介してくれると嬉しい」
「一緒にゲラノスまで来ているので村に来たら紹介します」
「ほう。楽しみじゃな」
タッカー村長は高齢のオーガで、母やモイラおばさんに指示を出したり怒ったりできる人で、中々村長を辞めさせて貰えないのだと以前に言っていた。
高齢といっても元気で、アレックスだと勝てないくらいには強い。
オーガの強さは角の大きさで大体予想できるのだが、村長の角の大きさはアレックスの二倍以上あり、かなり強い事が見ただけでも分かる。
村長がアレックスの彼女の事を話したからだろうか、村の皆が騒ぎ始めた。
アレックスはいくつか質問に答えた後、今日は忙しいのでまた今度答えると言うと村長がその場を収めてくれた。
「そういえばアレックス、アレクシアが伯爵であると聞いていなかったと聞いたぞ」
「聞いていませんでした。というか村長は知ってたんですね」
「ああ。ワシも騎士じゃからな。しかし、アレクシアはともかくハインリッヒが伝えていると思っておった」
「村長も騎士だったんですか!」
「うむ。ワシはアレクシアとモイラのついでに貰ったようなものじゃ」
タッカー村長は後ろで指示を出していたら爵位を貰ったという。
百年前から村長は母とモイラおばさんの面倒を見ていたのか。
村長はアレクシアの事だから詳しい事は教えないだろうと、アレックスに礼儀作法は教えておくように村の皆にお願いしておいたが、役に立ったかと言う。
アレックスが正式な礼儀作法が使えた理由は村長のおかげだったのか。
村長にとても役に立ったとお礼を言うと、嬉しそうに頷いている。
村長のおかげで国王陛下に会うのに失敗しなくて良かったと言うと、タッカー村長が驚いた様子で声を上げた。
「ギルバート陛下に会ったのか!」
「祖父の弟子で父の友人だから話したいと言われたんだ」
「ああ……。ハインリッヒはそういえば、ギルバート陛下がオルニス山に来られた頃の共だったな」
タッカー村長は高齢な為、当然前回国王陛下が来た時も案内をしたようだ。
前回の様子を懐かしそうに話している。
村長が前回の人数を話し始めたところで、今回と人数に差があることに気づいた。
今回はキャサリン殿下とエリック殿下の二人なので護衛の数も多い。
慌てて村長に事情を説明すると、二人もいるのかと驚かれる。
言われてみれば当然の反応だ。
一人は魔法好きでモイラおばさんに会いたがっていると言うと、タッカー村長は渋い顔をした。
積もる話はまだあるが、随分と話し込んでしまった気がする。
今日中にゲラノスに戻る為には、次の目的地であるドラゴンが縄張りとしている場所まで移動する必要がある。
「村長、今日中にゲラノスに帰れそうだったら次は殿下たちを連れてくるよ」
「アレックス頼んだぞ」
ピュセーマに乗って、待っていてくれたトレイシーと共に移動を始める。
ドラゴンの縄張りまでは距離はそこまでないが、ゲラノスから村までとは比べ物にならないほど危険な場所となる。
オルニス山には縄張りに入り込まれたと、ドラゴンでも平気で攻撃してくる魔物が居る。
魔物の大半は脅威であるトレイシーを狙うが、間違えたのか態となのかアレックスの乗っているピュセーマを狙ってくる事がある。
攻撃は基本は無視して進むのだが、警戒は必要になってくる。
避けたり結界を張れるように注意をしながらトレイシーの後ろをついてく。




