図書館−5
エリック殿下は第一王子か第二王子のどちらかだとは思っていたが、第二王子だったようだ。
ジョシュがエリック殿下は魔法が絡むと少々面倒だが、他は基本的には普通の性格をしていると教えてくれた。
アレックスも何となくそうだとは思っていたが、やはり魔法が好きなようだ。
ジョシュに話しかけてきたのもジョシュが魔導士だからの可能性が高そうだ。
「アレックスは関わるかもしれないので覚えておくといい、第一王子であるオスカー殿下は武術を好む。なのでオスカー殿下はアレクシア伯爵を尊敬している」
「母を? そういえばエリック殿下はモイラおばさんの話に随分と興味があるみたいだった」
「その通りだ。武術と魔法で意見が食い違うようだ」
「それで仲が悪いって話になるのか」
両殿下は決定的に仲が悪い訳ではないが、口論になりやすいのは事実だとジョシュが教えてくれた。
メグもキャサリン殿下に似たような話は聞いていると補足をしてくれた。
アレックスからすると、母とモイラおばさんの凄さを見ているからか、何を口論するのかが分からない。
しかし第一王子は母を尊敬しているのか。
母をか……。
母は流石に目指してどうにかなるような強さではないと、村の皆から言われていたので、アレックスは母の強さを目指したことはない。
とりあえず、第一王子が母に出会って稽古をお願いしない事を祈っておこう。
「アレックスはアレクシア伯爵の子供で、モイラ伯爵の弟子なので両殿下から興味を持たれる可能性が高い。城への出入りが増えるようなら注意をするように」
「あ、そうか」
ジョシュに言われて気づいたが、言われてみれば両殿下に興味を持たれる要素を持っている。
国王陛下からまた会おうと言われているのだし、アレックスがまだ会っていない第一王子に出会う可能性は高そうだ。
母を尊敬しているとなれば、探してくる可能性もある。
アレックスは王族に会う事になるとは王都に来る前は思ってはいなかった。
ここまで来たら慣れてきたので会うのは良いのだが、両殿下が同じ場所に揃ってしまった場合が怖い。
メグも同じ心配をしたのか、キャサリン殿下に両殿下の事を相談しておくと言ってくれた。アレックスはメグにお願いをした。
両殿下の話は一旦終わりにして、国王陛下と父の関係をメグに伝える事にした。
アレックスが話を進めていくと、メグは時折驚きながら最後まで話を聞いてくれた。
話を聞き終わったメグが、ハインリッヒとシュタイン共和国についてはランドルフさんから、戦争中の出来事として話としては聞いていると言う。
「ランドルフさんは騎士団の事務をしていたから知っているのか」
「そう。だからポーションの苦労話は聞いているわ」
「それを解消したのが父の家系なのか」
「そうだってお祖父様から聞いてる」
父と母が出会った時の事も説明をした上で、母が断っていた事も説明をすると、メグはどうやって二人が結婚する事になったのか気になったようだ。
父と母が結婚した理由については聞いていないので、アレックスも知らない。
メグに知らないと伝えると残念そうにしている。
モイラおばさんなら知っているだろうから、村に帰った時に聞いてみても良いかもしれない。
今は話せる事がないと他に何かあっただろうかと思っていると、作業を机でしていたトレイシーが顔を上げて知っていると言う。
そういえば忘れていたがトレイシーは年齢的には母以上の歳ではあるので、父が始祖鳥を見るためにスプルギティ村へ行った時の事を知っているのか。
完全に忘れていた。
「もしかして国王陛下を案内したのもトレイシー?」
「いや、誰だったか……? 長老の誰かだった気がするが覚えていない」
「そうなのか」
「うむ。最初はアレクシアがケリーに案内をさせようとして、全力で長老が止めた。代わりに長老が向かったはずだ」
流石にケリーでも案内くらいはできると思う。しかしケリーに対して心配性な長老が多かった気はする。
トレイシーが長老と仲が良いためアレックスもたまに話す事があったのだが、ケリーはトレイシーと結婚してから随分と落ち着いたと言っていたのを思い出す。
ドラゴンの長老組はケニーの若い頃をよく覚えているので、任せるのが無理だったのかもしれない。
アレックスがケリーの事を考えている間に、メグが待てなかったのか母と父が結婚した理由をトレイシーに尋ねている。
トレイシーは全てを見ている訳ではないがと前置きして喋り始めた。
父は母に断られても何度でも求婚をして、母が結婚はまだだと言いながらも折れたことで付き合い始めた。
父が母の面倒を懇親的に見たのが良かったのか、そこからは早かった。すぐに結婚まで辿り着いたとトレイシーが語った。
「皆はハインリッヒの作戦勝ちと言っていたな」
「意外と普通なんですね」
「ここまでだとそう思うだろ。私とモイラでアレクシアについて話した事がある。最初からアレクシアは内心喜んでいたんじゃないかと意見が一致した。断っていたのはただの照れ隠しだろう」
「照れ隠し?」
「メグはアレクシアを知らないから不思議に思うかもしれないが、アレクシアは本気で嫌がっていたらその場を去るか、殴り飛ばしている」
メグとトレイシーの会話に、アレックスは納得する。
確かに母が本気で嫌がっていたら最悪殴り飛ばしそうだ。
そうか、モイラおばさんに弱すぎて殴れないと相談している時点で、会わないように去っていないし、殴ってもいない。嫌がっていない証拠だったのか。
母の不器用さを理解できた。
メグは母の事を知らないので、理解ができるか心配だったが、楽しそうにトレイシーから色々と聞いている。
理解できているかは分からないが、楽しめてはいるようだ。
母の話にそこまで興味があるのが不思議で、メグに何故そこまで興味があるのかと尋ねると、英雄の話だからだと言う。
「英雄か」
「アレックスはまだ銅像を見に行ってないんだっけ?」
「そういえば母とモイラおばさんの銅像があるんだったね」
「時間がある時に見に行く? 少しは人気がある理由が分かるかも」
「そうなの?」
「うん」
せっかくなので今度見に行く事にする。
まだ伝えていなかった国王陛下に今後呼ばれるかもしれない事をメグに伝えると、とても驚いたのだろう「嘘」と声を上げた。
やはり普通はない事なのだろう。
メグは少しすると、キャサリン殿下に後で伝えておくと言う。
それとエリック殿下について、メグとトレイシーに伝えなければいけない事がある。
エリック殿下が今後家に訪ねてくる事をメグに言うと、再びメグは「嘘」と呟いて固まった。
流石にメグも信じられなかったのか、本当にエリック殿下が家に来るのかと確認してきた。
ジョシュからも本当だと言うとメグは信じたようだが、驚きは隠せないようだ。
ジョシュがエリック殿下が来る事になった理由は、キャサリン殿下を手伝うためだと言うと、メグは驚きながらも納得したようだ。
トレイシーにエリック殿下が来るのは、トレイシーの様子や友好を結ぶために来ると説明をすると、好きにすると良いと返された。
トレイシーらしい返事だ。
「私は私だ。それに人間がドラゴンを怖がるのは分かる。スプルギティ村の皆がおかしいだけだ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「うむ。下手に山から出ないようにとは長老から教わっている。といっても私はケリーに連れまわされて守っていないがな」
「そうだったのか」
ケリーは母と出会ったことで随分と大人しくなったとトレイシーが言う。
トレイシーと結婚して大人しくなったと聞いた事があるのだが、母と出会って大人しくなったと言うことは、二回大人しくなって今のケリーなのか。




