図書館−4
オークの騎士は母とモイラおばさんがオルニス王国の兵士を気にして、随分と献身的に戦った様子を語った。
母が一人で魔物の群れの中で戦ったり、モイラおばさんが治療魔法で回復したりと随分と活躍したようだ。
オークの騎士は母とモイラおばさんを崇めるような口調だ。
アレックスからすると美化されすぎている気がするが、当時を知らないので何とも言えない。
母の戦闘狂的な性格だったり、モイラおばさんの大雑把さが百年前と変わっているとはあまり思えない。
それでも活躍したのは事実なのだろう。
「アレックス、モイラ伯爵から魔法を教わったのは本当なのか!」
「はい。村の子供は大半がモイラ伯爵から魔法を教わります」
「羨ましい」
エリック殿下は呟くようにもう一度羨ましいと言った。
短い期間だがエリック殿下がどのような性格をしているか分かってきた。どうやらかなりの魔法好きのようだ。
そういえばジョシュに図書館で案内されていたのは、魔導士が登録した技術が書かれている書物がある場所だった。
エリック殿下がいた場所がジョシュの目的地だったのかもしれない。
エリック殿下がモイラおばさんがどのように魔法を教えたのかや、モイラおばさんがどのように魔法を使うのかを尋ねてきた。
基礎についてはそこまで違いがあるとは思えない。
違いがあるとすれば魔法の応用の仕方だろう。
アレックスは魔力量が少ないので、教わってはいるが実践できる事が少なめだ。
エリック殿下に教わった魔法の理論について話していくが、どうしても時間がかかる。
護衛の騎士に止められた。
止められたエリック殿下は残念そうにしている。
「確かに魔法の理論を聞いていたら一日どころでは終わらないだろう」
「ではエリック殿下、また機会がありましたらお話ししましょう」
「そうだな。アレックスが良ければ城に呼ぼう」
「私を城に?」
エリック殿下にアレックスが呼ばれても問題はないのだろうか?
国王陛下との関係は問題がないとしても、キャサリン殿下とエリック殿下の関係がアレックスには分からない。
アレックスが原因で問題になったら不味いと、事情を理解していそうなジョシュに相談した方が良さそうだ。
アレックスがジョシュに声をかけようとすると、どうするのが良いか考えているので、待って欲しいと言われた。
ジョシュは考えがまとまったのか、話し始めた。
アレックスとメグの関係から、キャサリン殿下をオルニス山に案内する事までをエリック殿下へと伝えた。
その上でアレックスをエリック殿下の私室に呼ぶのは問題ないと思うが、それ以上に良い案があると言う。
「ジョシュア、私はこれ以上キャサリンに迷惑はかけたくないぞ?」
「エリック殿下が今後キャサリンを補助するのであればやっておいて損はないでしょう」
「ジョシュアがそう言うのならば、何をすれば良いのだ?」
「アレックスの家には今ドラゴンが滞在しているので、アレックスと会話をすると同時にドラゴンと交友を深めるのです」
「……ドラゴン?」
ジョシュが王都にドラゴンが出たことは知っているかと尋ねると、当然知っているとエリック殿下が返した。
王都に現れたドラゴンがアレックスの友人な事や、始祖鳥を見にいく場合はドラゴンの縄張りを通ることになるとジョシュが説明した。
キャサリン殿下が王宮を中々抜け出せないので、エリック殿下が代わりにドラゴンとの交友を進めて、危険がないことを証明して欲しいとジョシュがお願いをしている。
エリック殿下はジョシュの説明が終わっても黙っている。
少しするとエリック殿下は頷いた。何かを決めたようだ。
エリック殿下はジョシュに、再び国を割るような噂にはならないかと確認をしている。
ゲラノス侯爵として叙爵をしたキャサリン殿下の人気はかなりのものなので、国を割るような噂にはならないだろうと、ジョシュが保証した。
「それに報告を聞いているとは思いますが、あの噂が広がった元が間諜の可能性があります」
「聞いている。釣り出せる可能性もあるか……。分かった。やれる事はしよう」
「以前にエリック殿下は、キャサリンと同じように外に出たいと言っておりましたし、楽しまれるのが良いかと」
「ジョシュアにはそのような話をした事もあったな。確かにキャサリンと同じように外に出られるのか」
ジョシュがドラゴンが住む家を襲おうと思う者は居ないだろうと、護衛はそこまで厳重でなくても問題は無いだろうとエリック殿下に伝えている。
エリック殿下が護衛の規模は騎士に相談するとジョシュに返している。
二人の会話を聞きつつ、王族がまた店に来るのかとアレックスは考えた。
キャサリン殿下で慣れたのもあるが、エリック殿下は何となく付き合いやすい。アレックスとしては店に来る分には気にならなそうだ。
護衛に関しては、トレイシーが戦うのを嫌がる相手は母とモイラおばさんくらいなので、ジョシュの言う通りそこまで多くの人は要らないだろう。
エリック殿下は仲が悪いと噂が立った王子のどちらかなのだと予想ができた。
エリック殿下は魔法への興味が強いのは少し変わっているかもしれないが、噂になるほど性格が悪いようには感じない。
以前に兄弟が揃わなければ問題はないと誰かに聞いた気がする。
聞いた話の通りなのかもしれない。
それにジョシュが言った間諜が関わっていると言うのも気にはなる。キャサリン殿下の事もあるので後でジョシュに聞いた方がいいのだろうか?
「アレックス、余が店に行っても良いだろうか?」
「歓迎します」
「それは嬉しいな。視察や社交界に出るために出かける事はあっても、このような事は初めてだ」
エリック殿下は本当に嬉しそうにしている。
ジョシュがエリック殿下に、キャサリン殿下が特殊なだけで、普通は散策したり店に行ったりはしないと苦笑しながら話している。
エリック殿下はそれもそうかと笑っている。
エリック殿下は城に戻って予定を調整してくると言う。エリック殿下はこのまま城に戻るつもりのようだ。
オークの騎士にエリック殿下は「アレックスが魔法を使ったのは余の頼みだ」と言って責任を負ってくれたようだ。
エリック殿下から予定が決まったら連絡をすると言われる。
オークの騎士は報告に戻ると先に帰って行った。
帰る前にアレックスに良いものを見せて貰ったとお礼を言ってきた。
エリック殿下も護衛の騎士と図書館に戻って馬車で帰って行った。
「エリック殿下は馬車なんだ」
「皆が大鳥に乗って上空を飛ぶと邪魔になる。城内の移動は馬車が意外と多い」
「なるほど」
想定外の事が多かったので、アレックスとジョシュはもう一度何か起きる前に帰る事にした。
図書館に近いてピュセーマを呼ぶとすぐに降りてきた。
ジョシュもソフォスを呼んでいる。
ソフォスに続いてピュセーマが飛び上がる。
行きと同じ門を通って外に出て、自宅まで戻ってくるとメグが出迎えてくれた。
ランドルフさんが残していったソファーに座ると、緊張が完全に解けたのか疲れが一度にどっと出た。
メグが持ってきてくれたお茶を飲むと疲れが若干とれた気がする。
コップを置くと、メグが話しかけてきた。
「どうだった?」
「国王陛下とはうまく話せたと思う。想定外のこともあったけど」
「うまく話せたのに想定外?」
国王陛下と会った後にエリック殿下に図書館で出会ったとメグに伝えると、目を見開いて驚いている。
そういえばエリック殿下は何番目の王子なのか知らない。
ジョシュとメグにエリック殿下が何番目の王子なのか尋ねると、第二王子だと言う。




