招待状−4
アレックスは父の願いを正確に教えてくれた国王陛下にお礼を伝える。
国王陛下は頷き口角を上げた。
国王陛下から父の墓について聞かれたが、オルニス山のスプルギティ村にある。国王陛下に墓まで来て貰うには少々遠すぎる。
墓の位置を伝えると、キャサリン殿下に代わりに行くようにお願いすると国王陛下が言われた。
父の墓参りにキャサリン殿下が来ると言うのは違和感があるが、国王陛下の代わりが務まりそうなのはキャサリン殿下しか居なさそうではある。
国王陛下からキャサリン殿下の始祖鳥を見に行く事について改めてお願いをされ、王都に来ているトレイシーに関してもいつか会いたいと言われた。
今回は城の結界を壊される訳にはいかないと、騎士団から止められてトレイシーを呼ぶのを諦めたとも国王陛下が語った。
「ドラゴンで思い出したが、アレクシア伯爵がドラゴンに騎乗していると報告があったが間違いではないのか?」
「はい。間違いありません。母はケリーというドラゴンに騎乗して村を出ました」
「本当なのか……」
流石に母がドラゴンに騎乗しているというのは、国王陛下も驚きを隠せないようで、言葉に詰まっている様子だ。
伯爵である母が村を出ている事について問題はないのかと心配になる。国王陛下に母が外に出ている事について尋ねると、母の爵位は特殊なので好きに動いていて良いと言われる。
国王陛下にも好きに動いて良いと言われるほどの爵位を持っている母に驚く。
そのような爵位を持っているからだろうか、母は元気にしていたかなどの話が多く、行動に関してはそこまで聞かれることは無かった。
「アレックス、其方はアレクシア伯爵の爵位を継ぐ気があるか?」
「今のところは継ぐ事を考えておりません」
「そうか。アレクシア伯爵はアレックスが爵位を継ぎたいと言えばすぐに譲るだろう。もし爵位を継ぐ必要があっても出来る限り後にしてほしい」
「承知いたしました」
国王陛下から母の爵位を継ぐ場合の話として、家名が必要になるだろうと言われ、家名にハインリッヒやシュタインはやめておいた方が良いだろうとも助言された。
そしてクリスタルもやめた方が良いと言われた。
何故クリスタルもやめた方が良いのかアレックスが不思議に思っていると、国王陛下がハインリッヒ・ド・クリスタルが、シュタイン共和国があった時のハインリッヒの家系の家名だと教えてくれた。
「其方の祖父は既にクリスタルを名乗ってはいなかったが、覚えている人もいるだろう。やめておいた方が良い」
「承知いたしました」
「シュタイン共和国の貴族だった物の家名は鉱石に類した名前が多い。覚えておくと良い」
「はい」
国王陛下がオルニス王国で貴族の家名と名前の間にドが付くのは、シュタイン共和国からの流れだと教えてくれた。
国王陛下はアレックスが知らない事や、父や祖父がどのように王都で生活をしていたか話してくれた。
アレックスも父と母がどのようにスプルギティ村で過ごしていたかを話した。
随分と長い事アレックスと国王陛下は話をした。
国王陛下の側近だと思われる人に止められて、アレックスと国王陛下の話は止まった。
国王陛下には次の予定があるようだ。
側近の話を聞いた国王陛下が小さくため息をついたのがアレックスにも分かった。
「仕方がないな。アレックス、次はこのような場所ではなく、お互いに椅子に座って話そうではないか」
「国王陛下と再びお会いする機会を頂けるのですか?」
「ハインリッヒの事をまた聞かせて欲しい。それに錬金術師として同じ一門といえよう。困ったことがあれば頼ると良い」
「はっ」
国王陛下を頼るのは難しいかもしれないが、父の事を語っている国王陛下は楽しそうだった。
アレックスとしても昔の父の話は楽しかったし、国王陛下が父の話を聞いている時の表情を見ると、本当に喜んでいることが分かった。
機会があればまた国王陛下と話をしたい。
アレックスは騎士に先導されて国王陛下がいる部屋を出る。
部屋に入った時ほどの緊張感は無くなっていたが、やはりまだ緊張は残っていたようで、アレックスは部屋を出て少しすると大きく息を吐いた。
先導する騎士は聞かなかったことにしてくれたのか、アレックスをジョシュが居る部屋まで何も言わずに送り届けてくれた。
アレックスは部屋に入ると先導してくれた騎士にお礼を言う。
騎士は一礼して部屋を出ていった。
ジョシュから部屋はまだ使えるので、座るように勧められる。
アレックスは椅子に座ると再び大きく息を吐く。
「随分と疲れたようだな」
「流石に国王陛下に会うのは緊張するよ」
「だろうな。お茶を一杯飲んでから帰ることにしよう」
「その方が助かるよ」
ジョシュが控えていた侍女にお願いをすると、すぐにお茶が用意された。
アレックスはお茶を飲みながら国王陛下と何を話したかの説明をジョシュにする。
話をする事は国王陛下に止められてはいないし、キンバリーのように知っている人もいるようだった。
ジョシュに話しても問題はないだろう。
アレックスが父について説明をすると、ジョシュは少し悩んだ様子の後に、ハインリッヒ・ド・クリスタルかと驚いている。
兄弟子のマーティーから父について聞いていなかったようだ。
マーティーは少し大雑把というか、錬金術などの興味のある事以外を忘れる事が多い。今回も忘れてしまったのだろう。
ジョシュがため息を吐いている。
「マーティーは国王陛下にも挨拶をしているのに、忘れたな……」
「マーティーも挨拶してるの?」
「モイラ伯爵の子供だからな。アレックスほど長くは話していなかった気がするが、それでも普通よりは長かったと記憶している」
マーティーが国王陛下に謁見するのにもジョシュが付き添いをしたようだ。
というかマーティーは国王陛下と会っているのなら、父と国王陛下の関係は知っていた可能性が高い。
マーティーには父が死んだと手紙を出しているのに、国王陛下が父の死を知らないという事は伝え忘れた……?
アレックスは頭を抱え込みたくなる。
マーティーでも父の死を国王陛下に伝えるのを忘れるとは思えない。
何か他に事情があったのかもしれない。
そういえば手紙に急ぎ帰ってきて欲しいと書いた事をアレックスは思い出した。
アレックスも父の急死に焦っていたが、想像以上にマーティーを急がせてしまったのかもしれない。
申し訳なくなる。
アレックスは考えた結果、マーティーの伝え忘れた事を知っても幸せにならないだろうと、マーティーの失敗に気づかなかった事にした。
「アレックスの父がハインリッヒということは、今後も国王陛下に呼ばれそうだな」
「今度は座って話そうって言われたよ」
「そこまでか。国王陛下とハインリッヒは相当に近い関係だったのだな」
国王陛下の話を聞いた限りは、父を兄弟子というより、少し歳の離れた兄のように慕っていたように感じた。
ジョシュの言う通りかなり近い関係だったのだと想像ができる。
ジョシュが落ち着いたようだし、戻ろうかと提案してきた。
お茶を飲みながら随分と話し込んでしまったようだ。
アレックスが頷くと、ジョシュがでは行こうと言って席を立った。ジョシュが侍女にお礼を言った後に部屋を出た。
アレックスもジョシュに続いて部屋を出る。
ジョシュの先導で歩いていくが、行きに通った道はすっかり忘れている事に気づいた。
ジョシュを見失ったら迷子になりそうだ。
アレックスはジョシュの後ろ姿を見失わないようにしっかりと着いていく。




