招待状−2
一ヶ月は作法を覚えたり、服の調整をしているとすぐに経った。
新調した服は以前にキンバリーが着ていた軍服に近いもので、貴族の関係者が身につけるなら正装となる服だとランドルフさんに教わった。
トレイシーに問題がないと思われたのか、ランドルフさんの休暇は結局三週間ほどだった。ランドルフさんは元気になってからは、トレイシーと会話をしてドラゴンの生態などを教わっていた。
アレックスはランドルフさんの休暇が終わる前までに、国王陛下の前に出る時の作法を教わった。
合格点は貰えたので不安はあるが大丈夫だろう。
新調した正装を着て、メグとジョシュに着方の間違いがないか確認して貰う。ジョシュはアレックスを案内するために今日は店に来てくれている。
二人から服装に問題がないことを確認してもらった後に店の外に出る。ピュセーマを呼ぶとすぐに降りてきた。
ピュセーマには既に鞍をつけており、乗るだけとなっている。
「メグ、いってきます」
「いってらっしゃい。アレックス、国王陛下は怖い人ではないから安心して」
「分かった」
アレックスが緊張しているのを感じ取ったのか、メグが言葉をかけてくれる。
メグも国王陛下にあった事があるのだと教えてくれた。謁見ではなく、キャサリン殿下と話すのに偶然そばにいて何回か喋ったこともあるらしい。
メグのような例は特殊な気がする。
それでも偶然会っただけのメグが怖い印象はなかったようなので、安心はできる気がする。
アレックスはピュセーマに乗ると、覚悟を決めて飛ぶように指示を出す。
メグに見送られて空に飛び上がる。
ジョシュの乗ったソフォスの先導で王宮へと進む。
王宮近くの行政区となっている魔法省などの役所がある場所を通り過ぎて、更に奥の王城近くの門に降りる。
ジョシュから此処から別の結界になっているので、特定の場所からしか中に入れないようになっていると教えられる。ジョシュが門の近くの建物に入って、門を通るための許可書を発行して貰うと言う。
ジョシュの指示通りに国王陛下からの手紙を出して、渡された紙に王宮に来た理由を書いた。
手続きはすぐに終わり、門を通るための許可証を発行してもらえた。
「王城内の図書館を使用したい場合は、魔導士の資格を見せれば中に入れる」
「魔導士はお城の図書館を使えるんだったね」
「ああ。王城内と言っても国王陛下がいる建物とは別だ。時間があれば帰りに寄ってみるか?」
「時間があれば、お願いしようかな」
門を潜って再び空に飛び上がる。
今度は高度をそこまで上げないようにとジョシュから注意をされた。どうやら結界はそこまで高い位置まで張られていないようだ。
遠くからでも見えていたお城が近づいてくる。
お城は空から見ると五角形に近い事に気づいた。
五角形の頂点部分と中心部分には塔のように建物が飛び出ており、中心部分の塔が一番背が高いように見える。
塔の中には結界を張るための魔道具があるのだろうと予想できる。
王都の城壁や、故郷の近くにあったゲラノスにも同じような塔が立っていた。父から塔の中には結界用の魔道具があるので、塔には近づくなと教わった。
近づけば問答無用で攻撃されてしまう。
そんな塔の近くにジョシュは近づいていく。
塔の下部にある塔同士を繋いでいる建物にアレックスとジョシュは降り立った。
ジョシュが人を呼んだ。
人が来るまでの間に、ジョシュがピュセーマとソフォスはここで預かって貰うのだと教えてくれた。
「王城内は見渡せる範囲は好きに見ていいが、私の後ろからは離れないように」
「どういうこと?」
「貴族の子供や、新人の騎士がたまに迷子になって大変な事になるんだ。城内は複雑だから気が散っていると、案内している人を見失う」
「そんなに複雑なのか」
攻められた時の対策で場内の構造は複雑になっているのだと、ジョシュは教えてくれた。
ジョシュの後ろをついて城内に入っていくと、一見したところは広いだけで複雑そうには見えない。むしろ花や絵画が置いてあるので綺麗で整然されており、複雑とは真逆の印象を受けた。
城内を歩いて進んでいくと複雑だと言われた理由が分かった。
階段を上がったり下がったり、何回も曲がって城内を進んでいく。アレックスはピュセーマと別れた場所に戻れるか怪しくなってきた。
これは迷子になる。
更に進んでいくと、今まで歩いてきた廊下以上に警備をしている兵士や騎士の数が増えた。
騎士が警備している部屋の扉をジョシュが開けて中に入っていく。
アレックスも中に入っていくと、中は待機するための場所なのだろうか、応接間のようになっていた。
ジョシュから招待状を出して待っているように言われる。
アレックスは招待状を取り出して待っていると、人が部屋に入ってきた。入ってきた人に招待状を渡すようにジョシュに言われる。
招待状を渡すと部屋を出て行った。
「後は待つだけだ。準備ができたら呼ばれる」
「なるほど」
待っている間にお茶や軽食まで出して貰えた。
そう長い時間待たずに呼び出しが掛かった。
今度は係の騎士の後ろを付いて行くようだ。ジョシュを部屋に残し、アレックスは先導する騎士の後ろをついて歩いていく。すぐに大きな扉がある場所に辿り着いた。
先導していた騎士が合図をすると、扉が開き始めた。
アレックスはこの先に国王陛下がいるのだと察する。
大きな扉を通って部屋の中に入っていく。歩いているのだが、緊張で足と手がどう動いているか分からなくなってきた。
アレックスが止まる位置は先導した騎士が教えてくれた。
アレックスはランドルフさんから教わった通りに跪いて挨拶をする。
「アレクシア伯爵、第一子アレックスと申します」
「うむ。余はギルバート・ド・オルニス。楽にすることを許す。このような場所に呼び出しておいて緊張するなと言うのは無理かもしれないが、少し聞きたい事があったのだ。無理を言って済まないな」
アレックスが顔を上げると、国王陛下が少し高い位置にある豪華な椅子に座っているのが見える。
椅子の背後には大雀を中心にして大鳥の彫刻が彫られ、その後ろには大きなステンドグラスが設定されている。
身長などは分からないが、キャサリン殿下と同じような白金の髪を持っているの分かった。
緊張しながら、アレックスの事は国王陛下が気にするような些細な事ではないと返す。
国王陛下はキャサリン殿下やキンバリーを助けた事、そしてワイバーン討伐への助力のお礼を直接アレックスに言い始めた。
アレックスは直接お礼を言われるとは思わず、驚きながらも何とか返事をする事はできた。
うまいこと返せていたかは疑問が残る。
「アレックス、ハインリッヒは元気か?」
「ハインリッヒとは私の父のことでしょうか?」
「そうだ」
「父は二年ほど前に亡くなっております」
「何だと!」
国王陛下が思わずなのか椅子から立ち上がった。
すぐに崩れるように椅子に座って顔に手を当てている。
アレックスは困惑する。
亡くなったと報告したのが母なら国王陛下が衝撃を受けるのは分かる。しかし聞かれたのは父で国王陛下とどのような関係があるか分からない。
状況が理解できないまま国王陛下を見ていると、国王陛下の視線がアレックスに再び向いたのが分かった。
「その顔は何も聞いておらんな?」
「恐れながら父から国王陛下の話は聞かされておりません」
「そうか。アレックスがハインリッヒを継がなかったと言うことはそう言うことか」
国王陛下は少し黙った後に聞きたいかとアレックスに尋ねてきた。
聞いても問題がないのなら聞きたいと国王陛下にお願いをすると、国王陛下は頷いて分かったと言った。




