蘭の館−1
キャサリン殿下を見送った後は、店を守っていてくれたであろうピュセーマにお礼を言う。
アレックスがお礼を言っていると、トレイシーも外に出てきた。
ピュセーマが外に出てきたトレイシーに凄い勢いで鳴き始めた。何を言っているかは分からないが、随分とピュセーマは怒っているように感じる。トレイシーも同じように感じたのかピュセーマに謝っている。
ピュセーマの怒りがおさまったところで、トレイシーの部屋を用意する。
まだ家具が来ていないのでどの部屋を使うかの相談となる。
二階の住居に使っている部屋を案内して行き、トレイシーは日当たりのいい部屋に決めた。
外はまだ兵士が多いので買い出しに行けそうにはないので、お茶でも飲んで話をする事にした。メグも一緒にお茶を飲もうと誘いに行くと、パティとニックの夫婦やジョシュが帰りづらい状態なのか、家に残っていたので一緒にお茶に誘う。
皆で話をしていると、トレイシーへの緊張が取れて来たのが分かるほどになってきた。
話していると、玄関の扉が開いて鈴の音がする。
店に入って来た人は家具を持って来てくれた使者のようだ。家具を受け取ってお礼を言う。
まだ用事があったようで、ジョシュに声を掛けている。
慌てているのか、隠す必要がないのか分からないが、アレックスにも話の内容が聞こえたきた。王都の結界が一部破損して、修理をする必要があるとジョシュに帰還命令が出ているようだ。
「破損? 王都の結界は早々壊れるものではない。何があった?」
「おそらくドラゴンが通った衝撃で破れたのかと」
「ああ……」
トレイシーに結界を壊したか尋ねると、首を捻っている。
どうやら壊したか覚えていないようだ。
ドラゴンは飛ぶ際には魔法を使っているので、飛ぶ時に使う魔法に反応して結界が壊れてしまったのかもしれない。ジョシュにドラゴンが飛ぶ時の魔法について説明すると納得された。
ジョシュがドラゴンの強力な魔法によって、魔法を感知する一部の機能が破損したのかもしれないと予想をした。
ジョシュはトレイシーに、飛ぶなら王都を出てから飛んで欲しいとお願いをしている。
トレイシーも壊すつもりはなかったのだろう。ジョシュの提案に同意している。
結界を修理しに行くと、ジョシュは家具を持って来てくれた使者と共に帰って行った。
メグがドラゴンの魔法に興味があるのか、トレイシーに質問を始めた。
「ドラゴンは飛ぶ時に魔法を使うんですか?」
「ああ。大鳥の大半も使っているんだけど、ドラゴンは大鳥以上に体が大きい上に重いから魔法が強力ではあるんだ」
「確かに大鳥は大きさに比べて軽いです」
「大鳥は魔法を無しでも頑張れば飛べる種類もいるけど、ドラゴンは滑空はできても飛ぶのが難しいよ」
メグはトレイシーに、ドラゴンが人型になった事についても気になったようで質問をしている。
アレックスも以前にトレイシーに同じ質問をした事があるのだが、質問の答えはどう考えても人間には不可能な方法だった。
魔力を使って姿形を変えているようだが、必要になる魔力が異常で普通の人間には到底無理な魔法だ。ちなみに魔法の師匠であるモイラおばさんは姿を変えられる。
ドラゴンと戦える人はドラゴンと同等の魔力を持っているのだ。
ドラゴンの魔法について話が終わったところで、貰った家具でトレイシーの部屋を作ってしまう事にした。
パティとニックも手伝ってくれて、雰囲気の良い部屋になっていった。
トレイシーも大変気に入った様子だ。トレイシーがパティにお礼を言っている。
「皆、ありがとう。布を貰ってしまったが良かったのか?」
「真珠布はまだ数が足りないが、普通の布であれば問題ない」
「真珠布を使えればもっと良くなりそうだけど、数がないなら仕方がない」
「手に入れられるように頑張っておく」
パティもトレイシーに随分と慣れたのか敬語ではなくなった。
トレイシーが欲しい素材があれば言ってくれれば用意するとパティに言っている。
「アレックスに魔道具を作って貰うために採取が上手くなったから、大半の物は取って来れるよ」
「うん。必要な物ができたら頼らせて貰う」
トレイシーが大半の物を取って来れると言っていることは誇張ではなく、ドラゴンの飛行速度は大鳥以上なので本気で飛べば採取場所まで一瞬で移動できる。
トレイシーの部屋を作り終わったところで、一階に戻ると外に居た兵士は居なくなっていた。
パティとニックが帰るかと話していると、店の扉が勢いよく開いた。
「メグ! アレックス!」
「ニコル?」
扉を開けたのはニコルだったようだ。ニコルは息を切らしながら近づいてきた。
アレックスとメグを触って無事だったかと大きく息を吐いている。
一体どうしたのかとアレックスとメグはニコルを椅子に座らせて、水を汲んできて差し出す。
ニコルの呼吸が安定したところで、アレックスとメグが一体どうしたのかと尋ねると、ニコルから逆に見ていないのかと聞き返された。
「何をです?」
「ドラゴンだよ!」
「ドラゴン?」
自然とトレイシーへと視線が動くが、それが一体どうしたのだろうか。
アレックスと違ってメグは何か気づいたようで声を上げた。アレックスはメグに何か分かったのかと尋ねると、ドラゴンの姿で飛んでいれば王都全体から観れたのではないかと言う。
メグの説明でアレックスは納得する。
そうなると王都全体で大変な騒ぎになっているのでは?
ニコルに騒ぎになっているのかと尋ねると、大変な騒ぎになってニコルは路地裏の住民の避難をしていたと教えてくれた。
先ほど王宮から避難は必要がないと命令があったのだとニコルが言う。
ドラゴンが飛んでいるだけで避難までするのか……。
故郷だとトレイシーや他のドラゴンも時々村に来ていたので、ドラゴンが来たと騒ぎになることはあっても避難をすることはなかった。
「ドラゴンはアレックスの家の方に降り立って聞いたから心配していたんだよ」
「心配させてすいません」
「無事なら良いんだ。アレックスたちはドラゴンを見なかったのかい?」
「見なかったというか、私の隣に座っているのがドラゴンです」
「は?」
ニコルとトレイシーが見つめ合った。
アレックスがニコルに友人のトレイシーだと説明をすると。ニコルに疑われているのか本当にドラゴンなのかと尋ねられた。メグ、パティ、ニックにも本当だと説明をして貰ってニコルは納得した様子だ。
ドラゴンの姿になって貰うわけにもいかないので納得してくれた良かった。
メグが更にアレックスの母がアレクシア伯爵だったと説明すると、ニコルが目を見開いた。
ニコルから本当かと尋ねられたので、アレックスは頷く。
「髪の色が似ていると思ってはいたが、親戚か何かだと思っていたよ。まさかアレクシア卿のご子息とは……」
「髪の色が似ているって母を知っているんですか?」
「蘭の館に一時期滞在もしていたから会っているんだよ」
髪の色といった時点で会った事があるのかとは思ったが、母がニコルの家である蘭の館に泊まったことまであったとは。
ニコルがメグの両親と祖父に挨拶が遅れてしまっている事について、無理矢理にでも三人を連れてくるので、すぐに会えるようにすると言い始めた。
アレックスとしてはそこまで慌てる必要はないと返したが、ニコルは縛ってでも連れてくると言う。
メグに顔を向けると、諦めるしかないと返された。
一緒に話を聞く事になってしまったパティとニックからも、アレクシア伯爵の子供であればそうなると諭された。
そんなになのか……。




