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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 中編

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キャサリン殿下−6

 母が伯爵位を持っているのに家名を持っていない理由は分かった。

 どうせ母の事だから面倒だと家名含めて全てを断ったのだろう。

 家名なしは珍しいようだし、母に何とか爵位を受け取らせようとしたオルニス王国の王家や貴族たちは、かなり無理をしたのではないだろうか。

 当時の王家や貴族たちの苦労がしのばれる。


 メグが小さい声でアレックスに声をかけてきた。


「アレックス、私たち付き合っていたらダメなのかな?」


 急にそのような事を言われて戸惑う。

 何故そのような事を言うのか考えると、伯爵令息だからの可能性が高そうだ。それを言ったらメグも騎士の孫なので、逆に身分差は縮まった気がするのだがメグは不安そうな顔をしている。


「付き合っていても問題はないと思う。そもそもメグも騎士の孫じゃないか」

「そう言われるとそうだけど……。でも伯爵と騎士では違うわ」

「親の話だし、受け継がなければ伯爵にはならないよ」


 ジョシュやキャサリン殿下からも、付き合っているのは問題無いと同意された。

 更にジョシュは、アレックスとメグが結婚したとしても問題になる事はないだろうと言う。ダメになる可能性があるとしたらアレクシア伯爵が反対した場合だともジョシュは教えてくれた。


 母は爵位については忘れていると思う。

 それに母がアレックスの結婚について反対する事はないだろう。

 何故なら母はアレックスが決めた事にあまり干渉をしてこない。アレックスが子供として愛されていなかった訳ではない。実際、父と同じ錬金術師を目指した時は喜んでくれたし、賛成してくれた。

 アレックスも強い母に憧れていた頃もあったが、村の中でも特別強かった母を目指すのは、子供ながらに無理だと悟った。

 その判断は今でも間違っていないと思う。

 母にメグを会わせた時に心配があるとすれば、メグに手合わせをしようと誘う事くらいだ。


 メグに母が伯爵の爵位を忘れている事や、反対される事はないだろうと説明をした。


「一緒に居ていいの?」

「もちろん。私がメグと一緒に居たいのだから」

「ありがとう」


 メグが抱きついてきたので抱きしめる。

 落ち着くまで背中を撫でる。メグはすぐに落ち着いたのか離れた。

 最後にメグに注意をする。


「それと以前も言ったけど母と手合わせをしない事」

「それは絶対にしない」


 メグが真面目な表情で頷いた。

 劇にもなっていると言っていたし、母の強さは今でも有名なのかもしれない。

 キャサリン殿下から今でも母が強いのかと聞かれたので、頷いて今でも故郷で勝てる人は居ないと話す。遠距離で戦うとなると魔法の師匠であるモイラおばさんの方が若干有利だが、基本的に母と師匠が戦う事はない。

 二人が怪我をした場合は、治せる人がいなくなってしまうからだ。


 母と師匠の話をしていると、突然大鳥が大声で鳴き始めた。鳴き声は警戒を呼びかけているようだ。

 頭が痛くなるほどの凄まじい鳴き声だ。

 室内にいても分かるほどの鳴き声など普通はあり得ない。

 何事かと思っていると、ピュセーマであろう大きな鳴き声が連続でする。鳴き声が突然止まった。


「何が起きたのですか?」

「分かりません。確認をさせるので、キャサリン殿下動かないでください」


 キンバリーが指示を出すと、騎士の一人が動き出そうとした。

 丁度その時、店の扉が開いたのか扉に取り付けた鈴の音が鳴った。鈴の音が鳴り止むとアレックスを呼ぶ声が聞こえる。

 聞き覚えのある声だが、本来故郷のオルニス山に居るドラゴンの友人の声だ。

 まさか本人ではないだろうと考えていると、アレックスを呼ぶ声は応接室に近いてくる。

 そのまま応接室の扉が開けられる。


「アレックス、久しぶりだな」


 本当に友人だった事に驚く。

 ドラゴンから人型となった友人は歩いて近いてくる。

 アレックスの間にはジョシュやキンバリーなど護衛が沢山おり、剣や魔法を使おうとしているのが分かる。アレックスが慌てて友人との間に入り込む。


「攻撃してはダメだ!」

「む?」


 友人の不思議そうな声が聞こえる。

 ドラゴンに人間の常識は通じない。攻撃されたら反射的に反撃をしてしまう可能性が高い。ドラゴンからの攻撃を受けて生きていられるのは母や師匠くらいだ。

 普通の人間は大半が即死、助かっても重体だ。

 キンバリーが剣の柄に手をかけながらアレックスに声をかけてきた。


「アレックスの名前を呼んでいるが、知り合いなのか? いや、そもそもどうやって入ってきた?」

「ドラゴンの友人なんだ。恐らく飛んできたんだと思う」

「ドラゴン!?」


 護衛たちがキャサリン殿下の周りに集まった。

 アレックスは友人をなるべく扉の前まで誘導して話を聞く事にした。


 いつも通りの人型姿の友人を眺める。

 オルニス山の周辺に住んでいるドラゴンたちは人型になることが出来る。なので友人のトレイシーも人の姿になれるのだ。

 トレイシーがドラゴンの時は鱗の色が白い。人型に関しては好きに姿を変えられるのだが、大半は中性的な顔立ちに白い髪の毛を腰ほどに伸ばした状態になることが多い。


「トレイシー、どうして王都に?」

「マーティーとマイラから手紙を届けてくれないかと頼まれてな。最近アレックスも居なくなって暇だったので丁度良いと引き受けた」


 ドラゴンのトレイシーは魔法鞄から手紙を何通も取り出して手渡してきた。

 トレイシーの魔法鞄はアレックスの作ったもので、ドラゴンの姿でも人型になっても使えるように大きさが変わる特注品だ。同じようにトレイシーが身につけているアクセサリーは、特注品で大きさが変わるようになっている。


 トレイシーから受け取った手紙の宛名を確認していくと、マーティーの物を見つけた。

 中身を確認すると、メグの事についてお祝いの言葉と共に、謝罪の言葉が綴られた後に、爵位についての話が書かれていた。

 やはりマーティーは爵位について話すことをすっかり忘れていたようだ。

 更に手紙は続いており、王宮に連絡がしたいので、ジョシュ経由でドラゴンについての案内は了解したと伝えて欲しいと書かれていた。


 マーティーだけでは書き忘れが怖いので、魔法の師匠であるモイラおばさんからの手紙も探し出す。

 中にはお祝いの言葉と、母はまだ村に帰ってきていない事や、好きな時に帰ってくるようにとも書いてあった。最後に爵位については昔貰った気がする事や、気にしなくて良いと短く書いてある。

 やはり師匠も爵位については忘れていたようだ。

 師匠が覚えていないのなら母が覚えているとは思えない。


「トレイシー、ありがとう。彼女のメグや、王都でお世話になっている人を紹介したいんだけど良いかな?」

「つがいが出来たと聞いている。私も会ってみたいぞ」


 トレイシーにまずはメグを紹介した。

 メグは緊張しているようだが、トレイシーとの挨拶は無事済ますことができた。

 次はキャサリン殿下やジョシュへの紹介なのだが、護衛含めて皆が緊張した様子だが挨拶が終わった。


 トレイシーを椅子に座らせて、丁度いいので始祖鳥を見にいく事について尋ねる。ドラゴンの縄張りを通って始祖鳥を見にいく許可が欲しいとお願いすると、トレイシーはマーティーから聞いていると許可をくれた。

 あっさりと許可が出た事にだろうかキャサリン殿下が目を見開いて驚いている。


「というか、アレックスやマーティーが連れて歩けばドラゴンは攻撃しないだろ」

「そうなの?」

「アレクシアやモイラに殴られたくないからな」

「私じゃなくて、母と師匠が理由なのか」

「ドラゴンに恐れられる人はアレクシアとモイラくらいだな」


 もしかしてドラゴンに怖い印象がないのは母と師匠のおかげなのか。

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