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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 中編

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キャサリン殿下−2

 真珠糸を作りながら、失敗から生まれた粉を安定して作れないか繰り返していると、十日が経って第一王女が店にやって来る日となった。

 店内には既に複数の護衛が配置についており、店の周囲にも騎士や魔導士とわかる人が立っている。更に奥には兵士と思われる人が居るのまで見える。かなり厳重な警戒だ。

 メグも一緒に外の様子を確認している。


「前はこれほど厳重じゃなかったんだけどね」

「命が狙われているし、身分も変わったのだから仕方ないところはあるんじゃない?」

「うん。でも大変そうだなって」


 確かにこれでは気軽に出かけることは難しいだろう。

 今までとは違った行動の仕方をする必要が出てきそうだ。


 メグと話していると、パティが騎士に付き添われて店の前に来たのが見えた。

 玄関で出迎えるとパティが挨拶をしてきた。パティは一人ではなく、一緒に誰かを連れてきている。男性のようだが背はそこまで高くなく、百六十センチほどだろうか。

 少し幼い顔立ちをしている。

 幼い顔の目の下にはっきりとクマが見えるのが、印象的で少し痛々しい。

 パティから男性を紹介された。

 ニックという名前で、どうやらパティの夫らしい。パティの方が身長が大きいので年齢差がありそうに見えるが、実は同い年だとメグが教えてくれた。


「私の事はニックで構わない。この糸を作ったアレックスには恨みごとを言いたかったが、どうやら君も随分と大変な目に合っているようだ」

「私がですか?」

「ああ。ひどいクマだぞ」


 メグとパティに確認すると、アレックスの顔にもニックと同じようなクマがはっきりとあると言われた。

 そうだったのか……。

 思い出してみると、糸を作りながら粉を完成させ、合間にポーションや日焼け止めを作っていた。作業量が多すぎたようだ。

 そういえば、メグから何回か心配されたが、顔色にも出ていたのか。気づかなかった。

 今後は作業量を注意しないといけない。


 ニックに糸の事を言われたので、目の下のクマは布が理由なのかと尋ねる。

 ニックはため息を吐いてから上を見上げた。


「そうだ。私が大半の布を織った。パティは布を織るのがあまり得意ではないからな」

「そうだったんですか。申し訳ないです」

「良いんだ。恨みごとを言いたかったのも八つ当たりだしな。それに、二人では無理だと身内を呼んだ。これから作業は随分と楽になる」

「そうだったんですか」


 布作りは随分と大変だったようだ。

 ニックの話を聞いていて思ったのだが、織り手が増えたのなら糸の注文量も増えてしまうのでは?

 もしかしてアレックスの作業量がまた増える?

 これ以上の作業は無理だと顔が引き攣る。

 技術の登録がもうすぐ終わるとは思うので、糸作りがアレックスの手を離れると良いのだが。


 ニックから糸について質問をされたので答えていると、店の外が騒がしくなったことに気がついた。

 次々に大鳥が店の前に降り立ってくる。

 どうやら第一王女が到着したようだ。

 大鳥が止まり木に行ったのか飛び去ると、女性の騎士が固まっているのが分かる。中心に第一王女が居るのだろう。

 騎士たちが一塊で動いて店に近づいてくる。

 扉を開けたのはキンバリーで、店の中で待機していた騎士に顔を向けた後、すぐに後ろを向いて扉を開けたままの状態にした。扉を通って騎士たちが店に入ってくる。

 騎士に混じって入ってきたのは第一王女であろう女性だ。

 年齢は同じくらいだろうと予想でき、身長はメグと似たような背の高さ。髪の色は白金のような色合いをしている。


「メグ、やっと来れました」

「手続きが増えてしまったのだから仕方ないでしょ、キャサリン」

「分かってはいるのだけど、煩わしいですね」


 聞いてはいたがメグと第一王女は本当に仲がいいようだ。

 目の前で周囲に注意される事なくメグと第一王女が喋っている。二人には当たり前のことなのだろうが、アレックスからすると違和感がすごい。


 アレックスが名前を名乗る前に、警備の問題で応接室へと案内する。事前に段取りは決められており、アレックスを先頭に店内を移動してく。

 応接室の中にはすでに騎士が待機しており、部屋に入っても何事もない。

 段取り通りにアレックスが名前を名乗る。


「アレックスと申します」

「キャサリン・ド・オルニスです。キャサリンと呼ぶ事を許します」

「感謝いたします。キャサリン殿下」


 全て事前に決まっていた通りに話は進む。

 殿下をなしにキャサリンと呼ぶ事を許すと言う話があったようだが、男性が敬称なしは要らぬ誤解を産む可能性があると、キンバリーから却下されたようだ。

 アレックスとしても、いきなり王族を呼び捨ては難しい。キンバリーの申し出はありがたかった。


 パティとニックもキャサリン殿下と挨拶をしている。どうやら二人は既にあったことがあるようで、久しぶりの再会を喜んでいる。

 どちらかと言えばパティの方がキャサリン殿下と仲が良さそうだ。

 挨拶が終わったところで席に座る。

 アレックスがお茶を出して、まず最初に口を付ける。続けて皆が一口飲み終わったところで、事前に決まっていた段取りは殆ど終わった。


「アレックス、まずはお礼を。アレックスの気遣いがなければ私やキンバリーは生きていませんでした。感謝いたします」

「光栄です。メグを心配した結果ですから少し気まずさがありますが。メグには怒られましたし」

「ああ。それはメグから聞きました。何も言わないでドラゴンの鱗を使った魔道具を貸せば怒られますよ」


 思わずなのだろうが、ニックとパティが「ドラゴン?」と小さく呟いている。

 しかしあの腕輪は王族が言うほどなのか。

 キャサリン殿下にすら苦笑されてしまった。

 メグ用にと作っている腕輪はもうすぐ完成するのだが、受け取って貰えるだろうか?


「アレックスが望むのなら男爵に叙爵しますが、どうしますか?」

「いえ、私はこのまま錬金術師でいたいと思います」

「メグの予想した通りですか。分かりました」


 騎士を超えて男爵に叙爵すると言うのは驚いたが、アレックスは迷う事なく断った。

 やはり父の意志を継いで錬金術師のままで居たい。

 キャサリン殿下が食い下がった場合には受ける必要があるとは思っていたが、幸いな事に叙爵するかと聞かれたのは一度だけだった。


 しかしメグには断ることが予想されていたのか。という事はメグは叙爵について事前に知っていたようだ。言わないようにと言い含められていたのだろうか?

 メグに顔を向けると、キャサリン殿下の悪戯だと言う。

 メグはどう答えても問題はなかったと言う。叙爵について頷けば本当に男爵になっていた事も教えられた。

 王族は悪戯の規模が大きいな……。

 キャサリン殿下が手を叩くと、少し砕けた雰囲気となった。砕けた雰囲気が本来のキャサリン殿下なのかもしれない。


「固苦しいことは終わりにして、今日は楽しみましょう。布を見るのを楽しみにしてたの」

「キャサリンの為に一杯織ってあるから確認してみて」

「ええ」


 ニックが持っていた魔法鞄をキンバリーに預けている。キンバリーが魔法鞄から巻かれた布を次々に出していく。

 試作品に関しては全ての布を貰っているが、キンバリーが今取り出している布の方が色合いが綺麗に見える。試作品と本番では布を織る時の速度が違うと言っていたが、一目で見て分かるほどに差が出るとは思わなかった。

 キャサリン殿下が布を触れて喜んでいる。

 あの様子だと触り心地も良いようだ。

 アレックスにも感想を聞きたいと、キャサリン殿下から言われた。アレックスはキンバリーから布の一部を受け取る。

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