表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 中編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/102

キャサリン殿下−1

 糸車が糸を巻き取る音がアレックスの工房に響き渡っている。

 最初は一台で始めた糸車も三台まで増えている。糸の張り具合や、糸の位置を確認する必要があり、三台以上はアレックス一人では動かす事が不可能だった。

 ここ数日錬金術は真珠糸を作ることしかやっていない。

 手動で糸車を回さない分だけ楽ではあるが、面白い作業かと言われると面白くはない。

 糸を確認しているとメグが後ろから声をかけてきた。


「アレックス、話があるのだけど、少し休憩しない?」

「ん? 分かった。ちょっと待って」


 糸車を順番に止める。

 椅子に座ると机の上にはお茶が用意されており、メグにお礼を言ってお茶を飲む。

 一口のつもりが随分と喉が渇いていたようで全て飲み干してしまった。どうやら集中して作業をしすぎていたようだ。

 メグがお茶のおかわりを淹れてくれた。感謝を伝えて一口飲む。

 一息ついたところで、しっかり休むようにとメグから注意を受ける。その通りだと反省する。

 今後は注意するようにしないと。


「それで話なんだけど、キャサリンが来る日が決まったわ」

「第一王女殿下が来る日が決まったのか。いつになったの?」

「二十日後になったみたい。もっと早くする予定だったけど、下見が終わらないって」

「なるほど」


 ここ数日、騎士や魔導騎士が店に尋ねてきては周囲の確認をしている。

 ワイバーンを討伐しに行った時の騎士団の団員も混じっていて、挨拶を何回かしているのでよく覚えている。

 店に来る騎士や魔道騎士は第一王女をよろしくと挨拶をして行くので、第一王女が民衆にだけではなく、貴族の騎士や魔導騎士にも人気がある事がよく分かった。

 というか、大半の騎士には店に来るのが目的ではなく。アレックスが目当てだと知られているのではないだろうか。

 良いのだろうか?

 王宮にアレックスを呼び出すのと、店では違うのかもしれない。


 メグが更に当日店にパティも呼ぶと言う。

 どうやら布に関しても当日まとめて確認してしまうようだ。第一王女は随分と忙しいようなので、まとめて確認してしまうのは理解できる。

 となると糸をまた追加で注文されるかもしれない。

 すでにパティから追加で糸の注文をされている。なので現在アレックスは全力で糸を作り続けているのだ。


「早く国の登録済まないかな」

「早くても一ヶ月はかかるって言われたわよ?」

「普通なら半年から一年だと言われたから早いんだろうけどね……」


 技術の登録には審査があるので随分と時間がかかるようなのだ。

 色々とある手続きをかなり飛ばしても一ヶ月は掛かってしまうと、キンバリーがメグ経由で教えてくれた。少なくとも後一ヶ月から二ヶ月は糸を作り続ける事になりそうだ。

 ポーションや日焼け止めの在庫が少しずつ減っているので、今後は糸を作りながら他の作業もする必要がありそうだ。

 今日はメグが帰ってきた時点で良い時間なので、作業は再開しないでこのまま終わりにしよう。


 十日ほど同じ作業をしているとやはり色々と物が足りなくなってきた。

 トロールの日焼け止めを作っていると、トロールの石を砕いた物を誤って、真珠糸を作るための模様を写す方の液体の中に落としてしまった。

 どうやら随分と疲れてしまっているようだ。

 また失敗を繰り返さないうちに休憩をしよう。


 お茶を飲んで休憩をした後に、液体の中に入ってしまったトロールの石を取り出そうと錬金術を使う。

 液体の中には糸が沈められているので、糸を無駄にしないためにも混じってしまったトロールの石を取り出す必要がある。

 トロールの石は細かく砕いていたので、取り出すのが非常に難しい。液体にしたり固体にしたりと、錬金術を使っていると液体の見た目が変わってきた。

 見た目の変わった液体はアレックスが求めていたミスリルの煌めきに非常に似ている。


「今これが出来るのか」


 思わず周囲に誰もいないかを確認してしまう。

 今やっている作業量を考えると、他の作業をするのはどう考えても不可能だ。

 今はどうするか考える前に、トロールの石を取り出す事を優先する。先ほどと違ってトロールの石は取り出しやすくなった。粒の大きさが大きくなったのかもしれない。

 トロールの石を取り出せたと思ったら、透明な液体になってしまった。

 どうやら全ての物にトロールの石が纏わり付いていたようだ。


 トロールの石を取り出しても一部はやはり煌めいている。何かが変わったのだろう。

 糸が使い物にならなくなったら不味いと、液体がどのような変化を起こしてしまったか調べていく。

 液体をなんとか調べると、やはりただの水に戻っている。糸を全て取り出して、別の模様を写すための液体へと沈める。

 これで糸は問題なく使えるはずだ。


 糸車の様子を確認しながら、トロールの石がどのような状態になってしまったかを確認していく。

 どうも白雲母にトロールの石が纏わり付いた物だけ、綺麗な輝きを放っていると分かった。

 錬金術を使う必要はあるが、作り方は意外と簡単そうだ。

 素材に関しても、トロールの石は手に入りにくいのが問題だが、白雲母に関しては比較的簡単に手に入る。トロールの石が手に入りにくいのは、需要がないからなので需要ができれば採掘はされそうだ。

 心配になるのは埋蔵量だが、必要があれば国が調べるだろう。


「これ、どうしようかな」

「どうって何を?」

「うわ!」


 誰もいないと思っていたのに、急に後ろから声をかけられて驚いた。

 驚いたと同時に思いっきり煌めいている素材に息を吹きかけてしまったので、粉状の素材は舞い上がった。舞い上がった粉はアレックスに降り注ぐ。

 服や手を確認すると見事に煌めいている。

 これは体全身凄いことになっていそうだ……。


「アレックス、大丈夫?」

「メグ、今のところ変な感じはしないから大丈夫」


 声をかけてきたのはメグだったようだ。


「変な感じはしないって、何かを作ったの?」

「元々目的にしてた粉が偶然できたんだよ」

「確かに凄い綺麗ね。アレックスが煌めいているわ」

「外で見たら凄いことになってそうだ」

「見てみたいわ」


 メグのお願いを聞いて外に出ると、太陽光に当たったことで粉が煌めいている。メグからは綺麗だととても喜ばれてはいる。

 これは本当にどうしようか。


「アレックス?」

「え? キンバリー?」


 何故キンバリーがここに?

 メグが伝え忘れたと謝って、キンバリーが護衛のための打ち合わせのために来ていると教えてくれた。

 今会ったら一番不味い人に会ってしまった気がする。

 やはりキンバリーから光っている物は何なのかと聞かれることになった。

 失敗した結果こうなった事を話すと、キンバリーとメグは目を輝かしているように見える。これは次に言うことが想像できる。


「同じ物が欲しいのだが、用意できるのか?」

「私の分も!」


 やはりこうなったか。

 安全性についてはトロールの石を日焼け止めに使っていた事を考えれば、肌に触れても問題はないと思う。

 というか、今もアレックスの体に触れているので、人体に毒性はなさそうだ。

 失敗の結果できた物なので、同じ物を再度作るには実験を繰り返す必要がある。

 実験を繰り返す必要があるが、現在アレックスは既にやるべき作業が多すぎて、手一杯となってしまっている事が問題だ。

 キンバリーとメグに問題を説明をすると、キンバリーが気まずそうな顔をしている。


「アレックスが頼めそうな知り合いの錬金術師はいないのか?」

「王都の錬金術師に知り合いがいないんです」

「それは珍しいな」


 どうしようもないと、作業を進めつつ実験をやっていく事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーや 世界観が面白くて ぐいぐい読んでしまいました [気になる点] 巻き込まれてるだけで 主体性のないアレックスに ちょいモヤモヤ… [一言] 村の普通て どんなんだろう… 村の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ