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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 中編

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真珠織−4

 てっきりキンバリーが布で何かを仕立てるのだと思っていた。

 もし布を第一王女が使った場合、今後求められる糸と布の量が凄まじい勢いで増えるのはアレックスでも分かる。素材となる糸や貝殻は王都に在庫がありそうだが、どう考えてもアレックス一人で加工できる量では無さそうだ。

 というか糸ばかり作りたくない。


 第一王女が布を使う前までに、登録と分業化を進めないと大変な事になりそうだ。

 メグとキンバリーに相談をすると、同じように先に技術を国に登録することを勧められた。第一王女が気に入らなかった場合でも、布が売れるのは確実だと言われる。登録するための準備をしておくことにした。


 偶然なのだが運の良いことに、錬金術で作らないといけない液体に関しては、比較的揃えやすい素材で作られている。

 登録さえすれば王都の錬金術師であれば作れるだろう。

 アレックスの感覚からすると、ポーションを作るより簡単なので、それこそ見習いが作るのに丁度いいかもしれない。

 登録するための書類に書き込むべき事を考えていると、キンバリーから声をかけられた。


「はい。何ですか?」

「色々と頼んで申し訳ないのだが、キャサリン殿下とお会いする話についてもお願いしたくてな」

「……はい」


 忘れていた訳ではないが、そう簡単に実現するとは思っていなかった。


「それで本当にすまないのだが、キャサリン殿下が店に行きたいと言っていて……」

「………」


 何を言っているのか分からない。

 いや、理解したくない。


「困惑するのも分かる。最近キャサリン殿下は随分と忙しくて、少し息抜きをしないと精神的に追い詰められてしまいそうなのだ」

「その、それでも命を狙われているのですし、危なくないですか?」

「周囲の警護は万全にする。それにアレックスが随分と強いと分かったので、問題はないのではないかと言う話になった」


 警護を万全にするのは理解できる。

 しかしアレックスが強いから問題はないと言うのが意味が分からない。キンバリーに詳しく尋ねると、ワイバーンを討伐した事が関係していることが分かった。

 どうも一緒にワイバーンを討伐しに行った騎士団の団員から話が広がったようで、アレックスは随分と過大評価されているようだ。

 そこまで強い訳ではないので戸惑う。


 キンバリーは更に、年齢の近い独身男性を王宮に呼び出すのが今の状況だと良くないのだと教えてくれた。

 確かにアレックスはメグと付き合っているが、正式に結婚をしている訳ではないので、独身男性ではある。

 解決策としてアレックスを呼び出すのではなく、買い物をする先に居たのがアレックスだと誤魔化す必要があるらしい。


「それでも第一王女殿下が買い物に行くのは変ではないですか?」

「キャサリン殿下は時々ではあるが自ら買い物に行っている」

「王族が買い物?」

「私はキャサリン殿下を護衛するので一緒にいるが、メグも大半一緒に買い物をしているので知っている」


 アレックスがメグに確認すると本当だと言う。

 貴族や王族は商人を呼び出す物だと思っていたので戸惑う。

 アレックスが戸惑っているのを察したのか、メグがお城を抜け出すような王女なので、普通の王族とは少し違うのだと言う。キンバリーも第一王女は普通の王族とは少し違うと、深く頷きながら言う。

 戸惑いというか困惑は増すばかりだ。

 キンバリーが第一王女が民衆に人気なのは、自ら出かけて買い物を楽しむ気さくなところが受けが良いのだと教えてくれた。

 メグも同意して、第一王女が買い物に行っても不審に思われることはないと保証してくれた。


 第一王女が買い物に出るのが不審に思われないのは一先ず良いが、店でどう出迎えるかが問題になってくる。

 キンバリーに相談すると、それこそ買い物に行き慣れている第一王女だから、何かを特別に準備する必要はないと言う。

 本当に良いのかと不安になりながらも頷いておく。

 後でもう一度メグに相談しよう。


 キンバリーと第一王女が来店する日は改めてメグ経由で教わる事になった。更に護衛と警護の関係で、何度か騎士や魔導騎士が店の周囲を調べたり、尋ねてくるようだ。

 キンバリーも何回か下調べに来る予定らしい。

 第一王女の来店についての計画を話し終わったところで、アレックスはそういえば来店目的を聞いていない事に気がついた。


「キンバリー、ところで第一王女殿下が店に来られる理由って?」

「色々とありますが、一番はお礼、次に王位の関係で味方が欲しいと言ったところでしょうか」

「味方ですか」

「はい。その二つが表向きの理由で、キャサリン殿下はメグの彼氏に会いたいだけですよ。なので気にしなくて良いです」


 真面目な理由だと思ったら、メグの彼氏に会いたいだけという。アレックスは理由の落差に驚く。

 そういえばメグに話を聞いた時も似た様なことを言っていた事を思い出した。

 あれは本当だったのか。


 キンバリーが護衛の為に建物の中を確認したいと言うので、住居部分はあまり綺麗ではない事を伝えて案内する事になった。

 工房兼厨房、井戸のある中庭、お風呂、住居部分、ピュセーマの部屋、屋根の上。全ての部屋を回り切ると、最後に外観を確認する。

 キンバリーは店の広さに驚いている。

 宿屋だった建物を改装したと事を伝えると、納得した様子だ。


「家の形が古いからすぐに気がつかなかったが、言われてみれば宿屋の外観だ」

「どの程度前からあるかは知らないんですが、少なくとも百年前の戦争以前からあるみたいです」

「なるほど」


 店の周りもキンバリーと一緒に確認をして、店の中に再び戻る。

 路地裏という入り組んだ場所でも店の周りは割と開けた場所なので、護衛はしやすいかもしれない。それでも他の通りと比べれば道が細い。

 キンバリーがどのように判断したかは分からない。

 尋ねてみると意外な事にキンバリーは路地裏の護衛は慣れていると言う。更にこの店なら大鳥用の止まり木もあるし、屋根の上にも出れるので護衛はしやすいとキンバリーが言った。

 キンバリーの言い方からすると、路地裏にも第一王女は何回か来ているようだ。


 しかし路地裏は空き家が多いし、ギルド員も多い。

 どうやって護衛をするのだろうか?

 アレックスも戦力として数えられている様だし、キンバリーに路地裏での護衛について色々と尋ねてみた。

 路地裏に住んでいるギルド員は身元がしっかりしている人しか居ないのだとキンバリーが言う。メグが更にギルド員が路地裏で家を借りるか買うかする場合は、身元を保証する人が必要なのだと教えてくれた。

 空き家についてもメグの祖母であるニコルさんが把握しており、路地裏で見かけない人がいると報告される様になっているようだ。

 路地裏に住んでいる人は全て把握されているのか。

 路地裏は護衛をするには向いていないのではないかと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。


 話を聞くにアレックスの引っ越してきた方法はかなり珍しいようだ。

 アレックスは引っ越してきた時にロブ工務店のスーザンに挨拶をしたが、誰にも挨拶に行かなかったら報告されていたのかもしれない。


「そろそろお暇しよう」

「忙しい中ありがとうございました」

「いや、こちらこそ助けられたと言うのに、面倒を押し付けてしまっている。申し訳ない。何か尋ねたい事があればメグ経由で尋ねてくれ」

「分かりました」


 キンバリーがメグにお願いをしている。


「メグ、申し訳ないが頼む」

「分かったわ」


 アレックスとメグが見送る中、キンバリーは大雀に乗って帰って行った。

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