ワイバーン−1
アレックスは、メグとキンバリーから見られている自覚がある中、色々と考えを巡らせる。
第一王女を手伝う事で、アレックスの近しい人が危険な目に遭う可能性はある。一番は親族として母が狙われる可能性が高いが、母に勝てる人が思いつかないので、心配は必要がなさそうだ。
次に村の皆だが、オルニス山の奥まで入ってくる人が居るとは思えないので、こちらも問題はなさそうだ。
意外と手を貸しても問題はなさそうな事に気づいた。
手を貸すことを伝えようとしたところで、店の扉が開いたのか鈴の音がする。
扉の鍵を閉めるのを忘れてしまったようだ。
休業であることは書いてあったが、読めない人もいるので開けてしまったのかもしれない。
申し訳ないが帰って貰おう。
席を立ち上がるとアレックスの名前を呼ぶ声がした。
呼んだ声は聞き覚えがある。
おそらくジョシュの声だ。ジョシュなら文字を読めるので、臨時休業な事も分かっているだろうし、急ぎの用事だろうか?
キンバリーに謝って応接室から出る。
やはり店内にいたのはジョシュだった。声をかけると安心したような表情をしている。
「ジョシュ何かあった?」
「臨時休業と書かれていたから居ないかと思ったが、居たようで良かった。アレックス、すまないが少し手伝って欲しいのだが良いか?」
「えっと、実は今お客さんが来ていて手が離せないんだ」
「すまないが、私から事情を説明しても良いだろうか?」
どうやらジョシュの用事は随分と急ぎのようだ。
聞いてくるので待っていて欲しいとジョシュに伝えると、了承したので応接室に戻る。
キンバリーとメグに、知り合いがどうしても手伝って欲しい事があるようで、中に入れて話を聞いても良いかと尋ねると、二人が問題がないと言うのでジョシュを応接室へ招く。
ジョシュを部屋に招くと、キンバリーがとても驚いた様子で声を出して立ち上がった。
「ジョシュア卿!」
「キンバリー卿?」
どうやら二人は知り合いだったようだ。
とりあえず一度二人を落ち着かせて椅子に座らせる。ジョシュが椅子に座ると早速話をし始めた。
「キンバリー卿、申し訳ないのだがアレックスをお借りしたい」
「どう言う事です?」
「キンバリー卿がよくご存知のワイバーンが見つかった」
ワイバーンと言えば、メグから聞いた話が思い出される。第一王女を護衛した時に出たワイバーンなのだろうか?
話の内容的にアレックスが質問する訳にもいかず、会話が進むのを待つ事にする。
キンバリーが第一王女を襲撃してきたワイバーンなのかと尋ねると、ジョシュが頷いてから、話して良いのかと尋ね返している。
アレックスとメグが事情を知っている事をキンバリーが伝えると、ジョシュは額に手を当ててため息をついている。
どうやら本当に第一王女を襲撃したワイバーンのようだ。
しかしそうなると、何でアレックスが必要なのかが分からない。騎士団でワイバーンを倒すだけではないのか?
キンバリーも同様の疑問を持ったようで、何故錬金術師が必要なのかと、ジョシュに聞いている。
「錬金術師としてではなく、魔導士として力を借りに来た」
「魔導士?」
「知らないのか? アレックスは魔導士だぞ」
「錬金術師では?」
「錬金術師でもある」
キンバリーが目を見開いて驚いた表情で本当かと尋ねて来たので、どちらの資格も持っていると伝えた。
メグはキンバリーに説明をしていなかったのか。
正直魔導士としては活動をしていないので、あまり魔導士としての実感はない。そんな形だけの魔導士の力が必要なのかと疑問が残る。キンバリーが事情を知っている事を伝えてしまったのだし、アレックスが直接ジョシュに質問をしてみる。
「ジョシュ、何故私が必要なんだ?」
「騎士団でワイバーンを倒した実績のある騎士や魔法騎士は、王都から事情があって殆どが出払っている。それでアレックスがワイバーンを倒せると言っていた事を思い出した」
メグの話で陽動で騎士団は動き回っていると言っていたし、まだ王都に帰還していないのか。
ワイバーンの討伐を手伝うのは問題ないのだが、一人で同時に複数を相手するのは倒せなくはないが大変だ。ジョシュに一人で倒すのは大変だと伝えると、騎士団から騎士や魔法騎士が出るので心配する必要はないと言う。
それならばどうにかなるかもしれない。
メグを襲ったワイバーンがどうなったかは実は気になっていた。個人で討伐しに行くほどの事ではないとは思っていたが、場所が分かっていて騎士団と一緒ならば危険も少なそうだ。
それに最近ピュセーマが随分と怒っているように見える。
ピュセーマも表に出さないようにしているようだが、付き合いの長いアレックスには怒っているんだろうなっと何となくだが分かる。
あれはアネモスが襲われたことで怒っているのだろうと予想している。ワイバーンを討伐しに行けばピュセーマの機嫌も治りそうだ。
なので討伐に行けるのなら行っておきたい。
個人的な私怨だが行けるなら行きたいと思っていると、キンバリーから心配をされた。
どう返せば良いか困っていると、メグが代わりに答えてくれた
「キンバリー、アレックスは戦えるから心配いらないわ」
「ですがワイバーンですよ?」
「私とキンバリーが着ていた鎧はアレックスが倒したワイバーンよ?」
「あの鎧のワイバーンを倒したのがアレックスなのですか?」
キンバリーがアレックスの方に顔を向けて質問して来たので、ハンク防具店にワイバーンの皮を売ったことを説明した。
更に注文をしていた時に話を聞いてしまった事を謝ると、聞かれていたのかとキンバリーが気まずそうにしている。
急いでいた事情も分かっているので気にしないで欲しいと伝える。
ジョシュに改めてワイバーンの討伐に一緒に同行する事を伝える。するとジョシュが、すぐに出ることは可能かと尋ねてきた。
今朝のピュセーマの体調は問題なさそうだったし、装備は十分に手入れはしている。ワイバーンまでの距離が分からないので、食料が足りない可能性がある。
ジョシュに移動距離や食料について尋ねる。
移動は大鳥に乗って二日から三日で、食料は騎士団が準備するので必要がないとジョシュが教えてくれた。
それならばすぐにでも出発できそうだ。
「ワイバーンに逃げられる前にすぐにでも出発したい」
「分かった」
急ぎ出発する準備をする事になった。
キンバリーに今日来てくれた事を感謝し、話の続きについては今度しようと謝る。キンバリーからは気にする必要はないと言われ、更に気をつける様にと注意をされた。
戦闘はそう得意ではないので、キンバリーの言う通りに注意をするつもりだ。
店を出る前に装備に問題がないか一通り確認した。
皆で応接室を出ると、店内を抜けて店の前に出る。ピュセーマを呼ぶとすぐに降りてきた。ピュセーマだけではなく、アネモスまで一緒に降りてきた。
鞍を着ける前にワイバーンを倒しに行くと伝えるとピュセーマの表情が変わった。やはり随分と怒っていたようで、やる気が随分とあるようだ。
ピュセーマは何かアネモスと会話をした後に、早く鞍をつけろと言うように背中を見せてきた。
アレックスはピュセーマの鞍を付けていく。鞍を付け終わった後にメグに話しかける。
「メグ、それじゃ行ってくるよ」
「アレックスなら問題ないと思うけれど、気をつけて」
「分かった。無茶はしないよ」
アレックスがピュセーマに乗ると、ジョシュもソフォスに乗って先導するように先に飛び立った。
ピュセーマもソフォスに続いて空に飛び上がる。




