ハイポーション−1
アレックスは、メグがワイバーンに襲われたと話した時は焦って怪我はないのかと確かめた。
持たせた魔道具やポーションが役に立ったようで良かった。
しかし、それ以上にメグの話は大半が本来聞いてはいけない事が満載で、アレックスは頭を抱える。
途中で話を止めようと何回かしたが、笑顔で圧をかけてくるメグを止める事はできず、最後までしっかりと聞いてしまった。
「護衛を追加して帰ってきたのは分かったよ……」
「それじゃ次は私から色々と聞きたい事とかあるのだけど」
「はい……」
腕輪の魔道具についてもう一度聞かれる。
ドラゴンの鱗を使っているとは先ほど説明したので、魔道具としての能力を説明する。
以前に説明した通り、攻撃を反射するだけの魔道具だ。
詳しく解説すると、結界に受けた衝撃を反射するという単純な構造になっており、回路に込める魔力量によって受け止められる威力と、反射する攻撃力が上がっていくように設計してある。
メグの話した通りに、ワイバーンが空中で結界に思い切り尻尾を振り下ろしたのなら威力は相当なもので、反射した力が相当な威力になっている事は想像できる。
尻尾が消えて、更に体が真っ二つになってしまっても不思議では無さそうだと、メグに説明する。
「回収したワイバーンを調べたら鱗が割れて粉々になっていたと言われたわ。地面に落ちた衝撃かと思っていたけど、もしかして魔道具の威力なの?」
「ワイバーンで魔道具を試した事はないから何ともいえないけど、魔道具かもしれない」
魔道具は大事に扱っているが、実はまともに使ったことがない。
もちろん魔道具が使えるか試しはしているけれど、大半の攻撃は余裕を持って避けてしまうので、実戦でそこまで近距離で攻撃を受けた事がないのだ。
だけれど魔道具が機能して力が完全に跳ね返っているとしたら、ワイバーンの鱗だとしても砕けてしまう可能性は高そうだ。
何にせよ渡した魔道具がしっかりと機能して良かった。
魔道具が機能していなかったら、もしくは魔道具をメグに貸していなかったらと考えると今更ながらに怖くなってくる。
メグを抱きしめると困惑した声でどうしたのかと聞いてくるが、無言で抱きしめ続ける。
「本当にどうしたの?」
「無事で良かった」
「アレックスのおかげで元気よ」
「魔道具を渡しておいて良かった」
しばらく抱きしめ合った後にキスをして離れる。
メグに怒られそうだが、今ある腕輪は使って貰う事にしよう。
街中からあまり出かけないアレックスより、外に出る事が多いメグが使った方が良さそうだ。
物が物なので受け取って貰えそうにないのは分かる。なので同じような魔道具を作って貸している事にしよう。ドラゴンの鱗はまだ魔法鞄の中に入っているので、似たような魔道具は作れる。
魔道具を作る予定を決めていると、メグから他にも聞きたい事があると言われる。
「何が聞きたい?」
「あのハイポーションは何なの?」
「ハイポーションか……」
「普通の物ではないの?」
「普通の物だよ。ただ混ぜ物がしてあるだけで」
「混ぜ物?」
「失敗作のエリクサーを混ぜているんだ」
「エリクサー!」
メグは立ち上がって固まっている。固まった状態から元に戻ると、なんて物を混ぜているのと怒られた。
慌てて失敗作なので本物のエリクサーではない事を話す。
失敗作なので本物のような寿命を伸ばすような効果はないが、ハイポーション以上に回復することは知っているので、ハイポーションを作った時には混ぜているのだと説明した。
失敗作なので人体に有毒ではないかはきちんと調べていると説明を付け加える。
エリクサーは腕輪と違って実際に使った事があるので、どの程度ハイポーションに混ぜれば良いかもしっかり調べてあるのだとメグに伝える。
メグから困惑したような声で、使った事があるのかと聞かれた。
アレックスの母と戦うと大半の人は大変な目に遭うので、エリクサー入りのハイポーションをまず体にかけて治療魔法をするのだと説明する。
「ゲラノスのギルドでオルニス山に修行に行こうとする人が居るって聞いたわ」
「なるほど。あれは修行だったのか……。たまに母親と戦いたいって人が来るんだ。村の皆で必死に止めるんだけど、大半が言う事を聞かないから大怪我をするんだ……」
「あのハイポーションだけで治らないってどれだけの怪我なの……?」
「生きているのが奇跡なくらい?」
詳しい説明が憚られる程には酷い状態だ。
飲ませるのではなく、体に素早く振りかけた上で、治療魔法を必死でかけるほどだと説明すると、メグが「あのハイポーションで?」と言って硬直している。
メグが硬直してしまうのも分かる。
アレックスも治療魔法に途中から参加していたが、治療魔法を覚える前は突然始まらない限りは見ないようにしていた。直接被害を見ると中々の衝撃だった。
改めてメグに母と会っても絶対に戦わないようにと説得する。
もし戦う必要があるのならエリクサーを混ぜたハイポーションと、治療魔法士を複数連れて行く事を勧める。
「いえ、絶対に戦わないわ」
「その方がいいよ」
「ちなみにアレックスは戦った事があるの?」
「戦うというか稽古をつけて貰ったことはあるけど、随分と手加減されても治療魔法かハイポーションを飲む必要があるから滅多にやらなかったよ」
「稽古でハイポーションなの?」
メグの質問に頷く。
流石にエリクサーを入れていないハイポーションだが、ポーションでは足りない回復量ではあった。
村の皆も母の強さは分かっていたので、アレックスが戦い方を覚える時の稽古は基本村の人が交代でしてくれていた。
そもそもアレックスは元々魔物を倒す事ではなく錬金術師を目指していたので、そこまで戦い方を覚える必要はなかったが、故郷では戦い方を覚えなければ外出するのも難しかった。
なのでアレックスも多少戦えるようになるまで鍛えている。
母の話からハイポーションに戻して、混ぜたエリクサーは何回も使っているので人体に影響がない事を説明した。
メグは説明に納得したようだが、何故エリクサーをハイポーションに混ぜているのかと聞いてきた。
混ぜても混ぜなくても回復量はそう変わらないのだと説明する。
だからこそ失敗作なのだ。
元々エリクサーは父が母と少しでも長く一緒に居られるようにと作った物なのだが、回復力を上げて寿命を伸ばそうとした結果、凄まじい回復力を得ることはできた。
しかし一定以上から回復しない上限が出てきた。
回復が過剰になっているのだろうと予想できた。
過剰分で寿命が伸びている可能性もあったが、父の死を見るに寿命は結局伸びなかったようだ。
そもそもエリクサーは不老不死の霊薬と呼ばれるが実在するか怪しい物ではある。父も分かっており、限りなく近い物を作ろうと努力はしたのだとメグに説明した。
「アレックスの言うとおりエリクサーの話は聞きますが、実際に不老不死となった人の話は聞いたことがありませんね?」
「だよね。だから父は回復力を上げれば近い物ができるのではないかと試行錯誤していた。だけど回復力は一定以上は効果が無かった」
「効果がないの?」
「正確にはよく分かっていないんだけど、体の元となる物が足りないと言えばいいのかな?」
なのでエリクサーと本来呼べないような物なのだが、ハイポーションでもないし相応しい呼び方がないと、失敗作のエリクサーと呼んでいる。
何か相応しい呼び方がないかとメグに尋ねると、考えた様子の後に思いつかないと返された。
やはり当分は失敗作のエリクサーと呼ぶことになりそうだ。
いつかはエリクサーを作りたいと思いつつも、最近は肉体の回復以外の方向性でポーション作りをしていたが、成果らしい成果はない。
ポーションと言えば怪我の治療が重要視されているので、資料を探しても寿命に関する物は非常に少ないのだ。




