第一王女の護衛−1 Side メグ
メグはアネモスに乗って集合場所となっているお城の一画へ向かいます。
集合場所がお城で良いのかと心配しましたが、用意された場所は王族や貴族が使わない区画で知られる可能性は低いようです。
メグも初めて来る場所なので、地図を頼りに辿り着きます。早めに着いたようで、集合場所にはまだ数人しか来ていません。
集まっているのは全て女性で、今日依頼を受けた人は全て女性だと聞いています。
知り合いの騎士キンバリー・ド・テイラーがいたので話しかけます。
「メグ、今日はよろしくお願いします。ところで、その鎧はワイバーンでは?」
「最近手に入れたんです。そういうキンバリーもでは?」
「そうです。急ぎ作って貰いました」
「キンバリーなら急がなくても鎧なら持っていたのでは?」
「持っていますね。メグが色々と調べているのを知っているので教えますが、式典用と実務用どちらでも使えるような鎧を必要としていたのです」
「そう言うこと。装飾が多い理由が分かったわ」
キンバリーは式典でも護衛として働くことになるのでしょう。
アレックスから注文されていた鎧の数は四着で、一着は王女のキャサリンが着ることを考えると鎧は三着しかなく、休む暇があるのだろうかと心配になります。
周りを見回すとキンバリーと同じように鎧を着た騎士が五人居る事に気づきました。
キンバリーを入れたら六着あるようです。
追加でワイバーンの鎧を注文をしたのかも知れません。
これだけの防具を作った防具屋は大変だったでしょう。
防具屋に同情していると、時間になったようでキンバリーが大声で今回の護衛について改めて説明を始めました。
目的地は事前に聞いていた通りにオルニス山の麓にある都市ゲラノス。王都からゲラノスまでの移動日数は雨が降らなければ七日、雨が続いた場合は到着が伸びる可能性があります。
ゲラノスでは一ヶ月半ほど滞在して、滞在中の護衛も交代で行うことが決まっています。
一ヶ月半の滞在後に帰還するので、約二ヶ月の依頼になると話して、キンバリーからの説明は終わりました。
依頼内容は事前に聞いていた物と違いはありません。
他の人も依頼内容に齟齬が無かったようで、集まった人たちで文句を言う人は居ません。
問題はないと判断したのか、キンバリーは護衛の配置について指示を出し始めました。メグは護衛対象のキャサリンに一番近い位置と指示されます。
キンバリーの説明が終わったところで、キャサリンが姿を現しました。
キャサリンが大雀に乗ったところで、キンバリーが大声を出します。
「騎乗!」
大鳥に乗って次の指示を待ちます。
「離陸!」
アネモスに指示を出すと飛び上がります。周囲も同じように飛び始めて、すぐに指示通りに陣形を組み始めました。メグもキンバリーからの指示通りにキャサリンの元へ向かいます。
キャサリンに近づくと着ている鎧が見えてきます。
やはり着ている鎧はアレックスが作ったワイバーンの革鎧です。キャサリンが綺麗なワイバーンの革鎧を着ると、予想通りにとても似合っています。
話せるほど近づくとキャサリンが声をかけてきました。
「メグ、今回の依頼を受けてくれて感謝します」
「キャサリンの依頼だから当然受けるわ」
「本当に助かります」
メグから見てキャサリンは少し不安そうに見える。
お城から抜け出している少女時代から何年も経っているので、成長したのは当然だけど、少女の時から本質は変わっていない事をメグは知っています。
王太子なんて重荷を背負う事になったキャサリンを励まそうと、ワイバーンの鎧について話す事にした。
「ところでキャサリン、その鎧似合っているわ」
「これですか。急ぎで頼んだのですが、想像以上に良いものが仕上がって驚いています」
「キャサリンが着れば似合うと思っていたけど想像以上ね」
「……? メグはこの鎧を知っていたのですか?」
「私の彼氏が作ったの」
「彼氏!」
予想通りの反応をキャサリンが返してくれました。
元気になったキャサリンにアレックスの話をすると、悲鳴を上げるように歓声を上げて話を聞き入ってくれます。
今日泊まる街までの飛行が終わるまでアレックスの話をし続けました。
街では貴族の館に降り立ちます。
護衛で呼ばれたギルド員も貴族の館の一画に泊まる手配ができているようで、館の侍女が案内してくれます。
部屋に荷物を置くと、扉の向こうからキンバリーに声をかけられました。扉を開けてキンバリーを中に入れると、感謝されます。
「キャサリン殿下が随分と元気になられました」
「王太子になるのをキャサリンは嫌がっているの?」
「メグはやはりそこまで調べていますか。嫌ではないようですが、複雑な心境のようです」
キンバリーはキャサリンの乳姉妹なので、誰よりも一番近い距離感で色々と話を聞いている筈です。
なのでキンバリーが複雑な心境だと言うのならその通りなのでしょう。
やはり王子に命を狙われる危険があるからかと尋ねると、キンバリーからそれはないと否定しました。
不思議に思っていると、王子同士の仲は悪いが、お互いが関わらなければ問題がない程度の性格だと教えてくれます。
更に王子とキャサリンとの仲は良いので、命を狙われるような事はないのだと言います。
ならば何故このような強行軍で移動しているのか不思議です。
キンバリーは続けて警戒しているのは王族ではなく、近隣の国だと言います。
更に陸路もしくは海路での移動では移動時間が長すぎ、狙われる可能性が高すぎると、空路での移動に決めたと話してくれました。
移動に慣れていないキャサリンを連れて、このような強行軍をする理由が理解できませんでしたが、国内ではなく国外の問題だとは……。
キャサリンが不安そうにしていた理由も理解します。
今一番邪魔なのはキャサリンで、命を狙われる可能性が高いです。
ですがオルニス王国は周辺の国に比べると国力が大きいと教わっていて、実際に行動を起こす国があるのか不思議に思います。
キンバリーに攻めてくる国があるのか質問してみます。
「オルニス王国に今のところ攻めてくるほどの国は無さそうですが、火種を大きくしようと動き回っている者がいるようです」
「今ということは将来を見越して、問題を作ることができないかと狙っている訳ですか」
「ええ。王子同士が敵視し合っていた方が都合が良いようです」
いがみ合っている王子も王子ですが、それを利用しようと狙う国もどうかしています。しかも利用するためにキャサリンが狙われるなんて理不尽です。
更にキンバリーはメグが聞いて良いのかと言うような内情も話してきます。
国王陛下が国内を荒らされるのを嫌って王太子を決めたことや、密偵を何人か捕まえている事を教えられました。
慌てて聞いて良いのかと尋ねると、キャサリンの許可は取っていると言われました。
メグが騎士の孫とはいえ一般人をここまで取り込もうとするのは、よほど人材が足りていないのでしょう。
キャサリンは王族なので護衛の数は多いですが、王太子になる予定がなかったので、嫁ぐ前提の数しか騎士を用意していなかったのかも知れません。
今後の身の振り方を考えないといけないようです。
メグが騎士になってもアレックスは気にしないとは思いますが、話し合う必要があります。
まだアレックスを両親にも紹介していないのに、頭が痛い問題です。
キンバリーから明日以降もキャサリンの元気がないようでしたら、元気付けて欲しいと言われます。
元気付ける話とは難しいと思いますが、なんとかしてみると返しました。
キンバリーが帰って行った後は、食事を食べてすぐに休みます。




