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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 前編

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魔法鞄と鈴蘭のブローチ−1

 朝起きると隣にメグが居ないことを思い出す。

 寂しさはあるが二日目にもなると、昨日のように思いに耽ることもない。

 朝の支度をすると、いつも通りにピュセーマの様子を見に行く。

 ピュセーマは昨日の銭湯で綺麗になったからか、いつにも増して凛々しく見える。

 朝の挨拶をしながら触ると手触りがとても良い事に気づいた。気持ちいい手触りに、思わず長時間撫でてしまう。

 ピュセーマも銭湯を気に入ったようだし、この触り心地なら定期的に行ってもいいかもしれない。

 餌や水の追加をした後に、もう一度ピュセーマを撫でてから一階に降りる。


 朝食を作りながら今日はどうするか考えていく。

 人が殆ど尋ねて来ないとはいえ、昨日は臨時休業にしてしまったし、今日は店を営業をした方が良いだろう。

 営業している間に、何を作るかが問題だ。

 以前に井戸から水を汲み上げるための魔道具は作ってしまったし、国からの依頼を受けに行った方が良いだろうか?

 作り終えた朝食を食べながらどうするか悩む。

 依頼を受けに行くと店をまた閉める事になるので、二日続けて店を臨時休業にするのはどうなんだろうかと思う。

 やはり店を開けていた方が良さそうだ。

 在庫があっても困らないポーションでも作っている事にしよう。


 朝食を食べ終えると、玄関の鍵を開ける。

 朝食の食器を厨房で片付けていると、早朝にも関わらず玄関の扉の開いたのか、扉につけた鈴の音がする。

 慌てて水で濡れた手を拭って厨房から店に顔を出す。

 店に居たのは防具屋のハンクさんだった。


「ハンクさん、お久しぶりです」

「どうもアレックスさん。初めて来ましたが良い店ですね」

「そう言って貰えると嬉しいです」

「今日は以前に鞣し作業を頼まれた魔物の革を持って来ました」

「態々ハンクさんが? それは申し訳ない」

「気にしないで下さい。忙しい仕事が終わったので、少し休みを頂いているのです。なのでお邪魔させて貰いました」


 ハンクさんが言った忙しい仕事というのは、大方メグが護衛に行った第一王女や護衛の騎士が装備する鎧の事だろう。

 しかしハンクさんに最初に会ったのは二ヶ月ほど前だった気がするのだが、たった二ヶ月の間に少し痩せたというか、やつれたようにも見える。鎧作りはかなり大変だったようだ。

 休みを取っていると言っているのだし、せっかくなのでお茶を準備する事にした。

 準備する間は店の商品を見ていてもらう事にする。

 お茶を持って戻ると、ハンクさんはアクセサリーが置かれた棚をじっくりと見ていた。

 机にお茶を乗せると、お礼を言いながらハンクさんが近づいてくる。

 ハンクさんがお茶を飲みながら、置かれているアクセサリーについて仕入れ先を聞いてきたので、アクセサリーは手作りだと返すと、ハンクさんが驚いた様子だ。


 錬金術師は物を魔道具にするが、一から自作する人は少ない。

 アレックスも最初は自作していなかったのだが、田舎に住んでいると注文したり、仕入れに行くことが簡単に出来なかったので、自作するしかないと作り始めたのがきっかけだ。

 同様の理由で仕入れに行くのが難しかったので、ポーションの瓶を作ったりする事ができる。

 ハンクさんから、魔道具にしないでも装飾品として十分に売る事ができる物だと褒められた。

 ポーション作りの次にアクセサリー作りは得意な事なので、商人の目利きでも褒められるのかと嬉しくなる。

 せっかくなので表に出していない、高めの素材を使ったアクセサリーも魔法鞄から出して見て貰う。

 ハンクさんは良い物だと言ってアクセサリーを順番に見ていった。最終的に鈴蘭を模ったブローチのアクセサリーを気に入ったようで、妻へのお土産で買いたいと言う。


「錬金術師からアクセサリーを買うのだから魔道具にすべきですな。一般人の妻に渡す魔道具なら何が良いでしょうか?」

「一般人ですか。攻撃的な物でないとしたら、防御用か日常で使える魔道具ですかね? 後は変わり種としては髪の色を変えるとかもありますが、そもそも無理に魔道具にする必要はありませんよ?」

「魔道具にしなくても良いのですか? ですが髪の色を変えるという魔道具が気になりますな」


 髪の色を変える魔道具について興味を持ったようだ。

 ハンクさんのような商人が魔道具について知らないのが不思議ではある。

 髪の色を変える魔道具の回路は自作ではないので、王都ではあまり出回っている魔道具ではないのかもしれない。

 知らない様子なので詳しく説明してく。

 実際に髪の色を変えるのではなく、幻影を見せているに近い。なので実際の色とかけ離れた色に変えるのは難しいと話す。

 アレックスが今装備している髪留めも似たような魔道具で、髪の色を変えるのではなく、角を隠して見えなくしている。

 ハンクさんは悩んだ様子だったが、髪の色を変える魔道具の注文をしてきた。

 アクセサリー本体の値段と、魔道具にする際の値段を計算して金貨十枚だと伝えると、ハンクさんは問題ないと言う。

 頭金として金貨一枚を貰う。


 制作期間は魔法鞄を革の状態から、大小の二つの大きさの鞄を作る事を考えると、二週間以上は時間がかかりそうだ。

 そこからブローチの作業を始めると、更に数日あれば完成するだろう。緊急の依頼が来ることも考えて、多めに時間を取る事にする。

 完成は一ヶ月後だと伝える。


「分かりました。一ヶ月後に取りに参ります」

「はい」

「それでは鞣した革の方も確認して貰いましょう」


 そう言うとハンクさんは魔法鞄から全部で五枚の革を取り出した。

 アレックスは全ての革を確認していく。どれも注文通りに魔法鞄を作るのに丁度いい硬さになっているようだ。

 ハンクさんに感謝をして、最終的にかかった費用を聞いて、支払いを済ませる。

 少し錬金術の話をした後に、ハンクさんが帰ると言うので、店の外まで見送った。


 店の中に戻るとまずは大型の魔法鞄を作る事にする。

 型紙を取り出して通りに革を切り取っていく。

 魔法鞄は特注品以外は共通の大きさになっているので、型紙も普及しているものがあるので便利だ。

 切り取った革に回路の下書きを書いて行く。

 鞄の形が決まっているのは、大きさが変わると回路の形が変わるので、回路を固定させるために共通の形になっている。

 ミスリルの糸で魔道具にしたワイバーンの革鎧とは違って、魔法鞄は革の表面を掘ってレザーカービングする事で魔道具にしていく。

 魔道具としてはミスリルの糸で作った方が効果は強いのだが、魔法鞄はそこまで高価な素材を使う事は珍しい。

 それにミスリルの糸を使う場合は回路から設計し直した方が良い。

 アレックスが持っている魔法鞄は、かなり高価な素材を使って回路まで製作した特注品だ。

 魔法鞄はしっかりと手入れをすれば百年近く使える。

 ジョシュのように短期間で使い潰してしまう方が珍しい使い方だ。

 使う頻度や戦闘がある事を考えれば仕方ないことかも知れない。

 回路の下書きが終わったら、集中して革にレザーカービングを施していく。

 回路が複雑なので一日で終わる作業ではない。店に時々来る客の相手をしながら作業を続ける。


 二日ほどかけてレザーカービングを施した。

 今回はダンジョンの魔物なので、レザーカービングだけでも普通の魔法鞄として十分な機能を持っているが、ジョシュの使い方では都度手入れをできるか分からない。

 なので回路を保護するコーティングする。

 コーティングに錬金術の素材を混ぜれば、機能の向上にもなるので、やらないよりもやった方が魔道具としていい物ができる。

 ダンジョンの魔物を丸々貰ってしまっているので、この程度の手間では元が取れないほどの貰い物だ。

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