コバルトガラス−3
話があるのはアレックスにだけではなかったようで、ニコルはメグに声をかけている。
「メグにも頼みたい仕事があると言っていたね。時期が決まったら連絡すると言ってたよ」
「アレックスなしで、私だけ?」
「そうだね。正確には戦える女性で、騎乗できる大鳥を所有している人を複数探しているってさ」
「それって騎士かギルド員しか居ないよね?」
「そうだろね」
女性だけで戦える人を探しているとなれば、何となくだが分かってしまう事も多い。
地位のある女性が移動をする必要があって、人員の確保なのだろう。
男性が女性を侍らせたい可能性はなくはないが、ニコルが自分の孫を危険な場所に連れて行くとは考え難い。
以前受けた依頼は騎士らしき人が注文しており、随分と急ぎの防具作りだった。
しかも一つは防具として普通はしない魔道具にまでしている。
魔道具にした防具を装備するのは当然護衛対象となりそうだ。
騎士が慌てて準備をするような相手と言えば相当地位が高い人となるが、普通に考えれば王族が護衛対象になる可能性が高そうだ。
アレックスはオルニス王国の国民ではあるのだが、王家の家族構成を知らない。
詳しい事は本来は聞くべきではないのだろう。
しかし、断れなさそうな仕事を受けるメグが心配だ。
現在の王家についてニコルに尋ねてみた。ニコルが大きなため息をついた後に答えてくれた。
「王子が三人に王女二人だよ」
「思ったより国王陛下の子供は多いんですね」
「色々と事情があるんだけど、アレックスは何故急にそんな事を聞いてきたんだい?」
「メグが護衛するのは王族かそれに近い人だと予想できたので、聞いておいた方が良さそうだなと思ったんです」
アレックスは防具の依頼を受ける時に、軍服を着た女性が急ぎ防具を依頼していた事や、急ぎ作られた防具が女性物であった事を説明する。
ニコルが再びため息をついた。
ニコルは直接聞いていないので予想だと先に言ってから、今回の依頼について話してくれた。
今回の依頼元は恐らく第一王女。
何故分かるかと言うと、第一王子と第二王子の仲が非常に悪く、二人の評判も良くはない。
評判が良くないが為に、年齢的に王太子が決まっていても良い筈なのに決まっていない。
評判の悪い二人の王子より、年下の第一王女は評判が良く、普通であれば王太子候補にはならないのだが、第一候補と噂されるようになってしまったのだとニコルが言う。
アレックスは王になる条件を尋ねる。
オルニス王国では男女どちらでも王になれるが、王の子供の中で年齢が一番上の者がなる事が普通だとニコルが教えてくれた。
第一王女が王太子になる可能性があるのは分かったが、何故メグに依頼をしたり、防具やポーションを作っているのかが分からない。
再びニコルに尋ねると、王太子になるには手順が色々と必要なのだと言う。
「王都から何回か出てやるべき事があるんだよ。メグはその為の護衛だろね」
「それならそこまで危険ではないんですか?」
「それに関しては分からないね。急ぎ準備している事から本当に急に決まったんだとは予想できるけどね」
「確かに普通だったら事前に準備してから行動しますね」
「後は、二人の王子がどう対応するかが問題になっているんだと思うよ」
防具やポーションの注文、戦闘ができる女性で大鳥を所有していると言う条件を考えると、相当第一王女が警戒しているのが分かる。
正直メグには護衛に行って欲しくはない。
だが相手が王族となれば断るのは難しそうだ。
アレックスはメグの様子を確認すると、メグは何か考え込んでいるようだ。
どうした物かと考えていると、メグが話しかけてきた。
「キャサリンの護衛なら依頼を受けるわ」
「キャサリン?」
「キャサリン・ド・オルニス。第一王女の名前よ。私の友達なの」
「友達?」
メグが第一王女と友達という事に驚く。
ニコルに本当かと尋ねると、本当だと言われる。
メグが第一王女との出会いを教えてくれた。
メグが十歳になる前、路地裏で遊んでいると、見かけた事がない同い年くらいの女の子が居たので、何も知らないメグは遊びに誘ったのだと言う。
メグが後から聞いた話だと前置きして、第一王女はお忍びというよりも、城を抜け出して護衛から逃げてきた状態だったらしいと話してくれた。
遊んだ後はどうなったのかと尋ねると、最終的には第一王女は騎士に見つかって帰って行ったと、メグが言う。
普通ならそこで話は終わりなのだが、メグは祖父が騎士団で働く騎士なので、出会って以降は呼び出されて遊ぶようになり、関係は続く事になったと語った。
大きくなってから騎士にならないかと誘われもしたが、友達で居たいと断ったのだとメグが教えてくれた。
アレックスはニコルが第一王女は評判が良いと言っていたので、もっと真面目な人なのかと思っていたが、城を抜け出すとは想像と随分と違うようだ。
それでも第一王女の事を語ったメグの表情は笑顔なので、悪い人でないのは良くわかる。
ニコルが今回の依頼が来た理由もメグとの関係があるだろうと言う。
「私の夫が忙しくしているのも第一王女に近い立場だからだろうし、メグにだけ先に話が来たのも関係してるんだと思うよ」
「なるほど」
メグの両親が忙しくて挨拶ができない理由は分かった。
メグと第一王女の関係を考えれば断る可能性は低そうだ。それならしっかりと護衛できるように装備を揃えて応援した方が良さそうだ。
メグのワイバーンの革鎧はすでに装備しているし、後はポーションを持って行って貰いたいが、普通の物は既に持っているだろう。
そうなると手に入れるのが難しいハイポーションなどが良さそうだ。
幸いなことにハイポーション用の素材は手元にある。
だが他の珍しいポーション同様に専用の瓶が問題になる。今回依頼を受ける工房で瓶を作れないか相談してみる事にしよう。ハイポーション用の瓶数本なら作って貰えるかもしれない。
断られた場合でも、瓶の質は少し劣るかもしれないが、自作できない事はない。
瓶の質が悪い場合は保存できる日数が減るだけなので、近々使う前提であれば問題はない。
メグに持たせるものについて計画を考えていると、メグが何かに気がついたようだ。
「以前アレックスが作ってたワイバーンの革鎧をキャサリンが身につける事になるって事は、お揃いのワイバーンの革鎧を身に付けているのね」
「元の革は同じ物だから一応お揃いと言えるかも」
「キャサリンの革鎧は装飾は凄かったし、身につけた所を見るのが今から楽しみ」
メグに伝えていないのだが、メグ用に作ったワイバーンの革鎧には、アレックスが故郷から持ってきた貴重な素材を惜しげなく使用して能力付加している。
なので能力付加だけしかしてないのに、魔道具にした第一王女の革鎧とそう変わらない性能を持っている。
アレックスはメグを守る装備だからと気合を入れたのもあるが、故郷にいた頃の癖で使う素材を間違えたのもある。
革鎧が完成した後に、魔道具にした革鎧が金貨千枚で売れた事を思い出して、この革鎧はいくらになるのだろうかと考え、メグには使った材料などははぐらかしてしまった。
少しやり過ぎてしまったと思っていたが、危険な依頼を受けるようだし、丁度良かったという事にしよう。
ニコルから話せることは以上だと言われて、今日のところは帰る事にした。
帰り際、忘れずにブラウニー宛にワイバーンの肉をニコルに預けた。




