ワイバーンの革鎧−2
作るものが決まったところで解体されていない魔物は不衛生だと、アレックスは魔物を魔法鞄に入れた。
魔物は後で解体しよう。
魔物と下に敷いていた布を片付け終わった後に、今更ながらジョシュに仕事は良いのかと尋ねると、連続で危険な任務だったので流石に数日の休暇が貰えたのだとジョシュが言った。
確かに六体もダンジョンの魔物を狩れば大仕事か。
ジョシュと話していると、そういえば店がある地区、通称路地裏の事情を知っていたのか聞いてみたかった事を思い出した。
路地裏について知っているか聞いてみたが、ジョシュは首を傾げるだけだった。
「路地裏?」
「そう。亜人が多く住んでいる地区らしいんだけど」
「あ、わかったぞ。此処がそうなのか。なるほど。それで再開発が進まなかったのか」
「ジョシュも知らなかったのか」
「そもそも最初に店を出す様に勧めた地区はもっと大通りの近くだったからな」
「そう言えばそうだった」
アレックスが最初に店を出す様に勧められた場所は王都の中心部に近く、地価の高そうな場所だった。
ジョシュが路地裏を亜人の多い地区だと知らなくて当然だ。
兄弟子の友人であるジョシュなら、兄弟子やアレックスが亜人である事を知っているか尋ねると、当然だとジョシュは頷いた。
やはりジョシュは話さなくて良いように気を遣ってくれていたようだ。
改めてジョシュにオーガのハーフである事を伝えて角を見せる。
「マーティーとそう大きさが変わらないな」
「そうかな? 一回りはマーティーの方が大きいんだけどな」
「そうなのか?」
「うん」
ジョシュは不思議そうに首を捻っている。
角の大きさは並んで比べないと分からない程度かも知れない。
ジョシュはオーガである事を知っているとは思っていたが、王都で思った以上にオーガである事を話す事が多かったので、話していない事が少しだけ気になっていた。
ジョシュに話す事ができて良かった。
更に路地裏にはハース家と呼ばれる騎士が居て、今後はそこからも依頼を受ける事になりそうだとジョシュに話した。
ジョシュはハース家と呟きながら考え込み始めた。
「ハース。もしかして騎士団の事務をしているランドルフ・ド・ハースか」
「ランドルフ? 私が会ったのはニコルって騎士だけど?」
「ニコル?」
アレックスは聞いた事がない名前に疑問に思う。
同時にジョシュも不思議そうにしている。
ジョシュが魔物を出した時は見学をしているだけだったロブが、聞いてしまって悪いと言いながらも、どちらもハース家だと教えてくれた。
ニコルの夫がランドルフで、二人とも騎士でありハースでもあるのだと、ロブが説明してくれた。
そう言えば夫婦で騎士だと聞いていた事を思い出す。
ジョシュもロブの説明に納得したようだ。店を譲った話もあるので今度挨拶をしておくと言われる。
貴族の付き合いがどういうものかは分からないので、ジョシュに任せる事にした。
「アレックス、依頼を受けるかどうかは好きにしたら良い。私が口出しすることではないからな」
「分かった」
ジョシュは話に区切りがつくと、別で行くところがあると言って、大梟のソフォスに乗って帰って行った。
ジョシュが訪ねて来た事で、帰る頃合いを逃していたであろうロブに謝る。
しかし、むしろジョシュを見るために残っていたとロブとスーザンに言われた。
残ってでも見たい存在がジョシュなのか。
未だに今一ジョシュの凄さが分かっていない気がする。
そんな事を考えていると、スーザンからジョシュとはどういう知り合いなのかと聞かれたので、兄弟子の友人だと答えた。
更に元々店を所有していたのはジョシュの実家である伯爵家だとスーザンに伝えた。
「それでアレックスは誰も路地裏に知り合いがいないのに引っ越して来れたんだね」
「そうなんです」
店を手に入れられたのは兄弟子のマーティーとジョシュのおかげだ。
しかも路地裏は亜人が多く、アレックスが生活するには向いている環境で、偶然とはいえ運が良かった。
ジョシュが帰ったのでロブたちもそろそろ帰ると言う。
改装費用の支払いを済ませる事にした。
ロブから最終的な値段を聞いて、先に払っていた手付金に加えて改装費用の金貨五十枚をロブに払う。
ロブが金貨を数え終わると、支払いは完了した。
スーザンからまた困ったらいつでも依頼して欲しいと言われる。
壁を動かすような大掛かりな改装でなければもっと安く済むので、気軽に頼って欲しいとスーザンは改装費用の例を出しながら売り込んできた。
改装はしばらく問題なさそうだが、家具は欲しくなるかもしれない。
スーザンに相談すると、家具の担当はスーザンのようで、いつでも工務店に相談をしに来て欲しいと言われる。
これから店を開けば必要な物は絶対出てくる。
欲しい家具が有ったらスーザンの元に相談に行くと約束した。
ロブが良い加減帰るぞと、スーザンに言った後、アレックスに喋りかけてきた。
「それじゃアレックス、また何かあったら呼んでくれ」
「はい。ありがとうございました」
店の前まで、ロブとスーザンたちが帰っていくのを見送った。
見送った後に店の中に戻って店内を見回す。
やはり何ともいえない緊張感や楽しさを感じる。
少しの間店内を眺めた後に、ジョシュから貰った魔物の解体をしてしまう事にした。
路地裏の解体場となっている場所に移動すると、少人数ながらも解体をしている人がいた。
アレックスは挨拶をしてから魔物を取り出して解体の準備をする。
今回の解体は血を無駄に出来ないので、血を回収する特殊な魔道具を使って最初に血を回収する。
血の回収が終わった後は内臓と魔石を取り出す。
内臓は優秀な付加素材となり、魔石に関しては付加素材にもなる。同時に魔道具を作る場合には動力源となるもので、魔物一体に魔石は一個しか取れない重要な物だ。
しかもダンジョン産の魔物は大きな魔石が期待できる。
内臓と魔石を取り出せば、後は肉と骨を分けるだけだが中々大変な作業だ。
スキルで身体能力を上げて力技で解体を進めていく。
普通に解体するのでも一人で六頭を解体するのは時間が掛かる。
一日で終わらせる必要はないので、とりあえず二頭終われば十分だと解体を進めていく。
スキルを使えば短時間で二頭は解体できるはずだ。
予定通りに二頭の解体が終わったところで、皮の鞣しをする必要があるが、どうするか迷う。
アレックスが作業をしても良いのだが、業者にお願いした方が良いものができそうだ。
しかし業者が分からない。
誰かに聞いてみるかと考えていると、そういえばワイバーンの革を貰いに行っていない事に気づいた。
ワイバーンの革を預けているのはハンク防具店なので、ついでに皮の鞣し業者を紹介して貰えないか聞いてみよう。
時計を確認すると、まだハンク防具店に行っても問題無さそうな時間だ。
解体で汚れた場所を手早く綺麗にして店にもどる。
ピュセーマが出掛けてないと良いのだが。
ずっと部屋にいても運動不足になってしまう為、ピュセーマには王都に入るための魔道具を装備させて好きに動ける様にしている。
店の前でピュセーマを呼ぶと部屋から降りてきた。
良かった出掛けてはいなかったようだ。
撫でながら喋りかける。
「いきたい場所があるんだけど、ピュセーマは今から出掛けても問題ない?」
「チュン!」
ピュセーマは元気に返事をしてくれ、アレックスに早く背中に乗れと言う様な行動する。
付き合ってくれるようだ。
行き先はハンク防具店だと伝えると、以前行った事を覚えていたのか、ピュセーマは頷いている。
ピュセーマに鞍を付けて違和感がないか確認する。
問題ない事を確認した後に騎乗して合図を出すと、すぐにピュセーマは空に飛び上がった。
ピュセーマは迷う事なく飛んでいき、ハンク防具店の上空まで飛んできた。
ハンク防具店の前で下ろして貰い、お礼を言うとピュセーマは短く鳴いて止まり木へと飛んでいった。




