路地裏の錬金術師−5
路地裏ではアレックスも角を出しても問題ないのかもしれない。
だが店を出すと言う状況を考えると、路地裏以外の住人が来る可能性もあるだろう。
今まで通りに隠しておいた方が良さそうだ。
怖がられそうな状況を考えていると、メグは人間と見分けがつかない事に気がついた。
しかもメグとは出会ったばかりの状態で、涙を浮かべるほど親しい状態かと言われると疑問がある事に気がつく。
好意を持たれている可能性を考えるが、そんな訳ないかと考えつつ、好意でなくても友人としての親しさなら、時間の問題ではない可能性もある。
どちらにせよ間違っていたら気まずくなる。
思いついた考えを忘れようとした。
だが一度思いついた考えは簡単には忘れられず、メグを変に意識してしまっている事を自覚しながらメグとハーフについての会話を続ける。
メグと会話をしていると、スーザンがロブと帰って人を集めると言うので、アレックスは見送りのために外に出た。
ロブとスーザンは明日また来ると言うと、二人は帰っていった。
帰って行く所を少し見届けていると、スーザンがロブの背中を連続で叩いており、何かあったのかと思ったが、ノームなりの習慣かもしれないと気にしない事にした。
メグも帰るかと思ったのだが、昼食を一緒に何処かで食べないかと誘われた。
「もうそんな時間か」
「結構話し込んだみたい。一緒に行かない?」
「王都は詳しくないから、店を選ぶのもお願いする事になるんだけど良いのかな?」
「うん。お礼も兼ねてだから案内させて」
気づくとお腹が減ってくるもので、メグの誘いに乗って外食する事にした。
メグに何処まで食べに行くか確認すると、近場を案内しながら美味しいご飯屋を案内してくれると言う。
案内して貰えるのは嬉しいと、提案を受ける事にした。
昼食を食べに行く前にピュセーマとアネモスの元に行って、近場で食事をしてくる事を二羽に伝え、餌と水が入っている事を確認した。
二人は店を出ると、メグの案内で路地裏を歩き始めた。
昨日から感じていたが路地裏の治安は随分と良いようで、警戒して歩く必要はないようだ。
メグに治安について尋ねると、誰が亜人か分からないし、戦闘系のギルド員が多くいるので下手に手を出せば大変な事になるので、揉め事が路地裏で起きる事は少ないのだと教えてくれた。
「他の地区から何も知らないで入ってくる人もいるから、一応注意した方がいいわ」
「分かった」
故郷から王都に来る前に兄弟子のマーティーから、揉め事が多いので大通りから中にはあまり入るなと言われていたが、路地裏ではそうでもないようだ。
メグと路地裏を歩いていると、住人から笑顔で挨拶をしてくれる。
メグを通して住人に紹介をして貰いつつ道を歩いていく。
色々な人に挨拶をしながら進むと、メグのお勧めの店だと言う食堂にたどり着いた。
店の中に入ると、子供のような声が料理を呼び上げる声が響いている。
実際に忙しそうに動き回っているのも子供のような身長なのだが、路地裏の住人であれば子供ではないのだろうと予想ができる
「メグ、いらっしゃい! 二人かい?」
「そう。席空いてる?」
「もちろん!」
店員はそういうと、席に案内してくれる。
メグは席に座ってから今日の昼食が何かと店員に尋ねると、今日は豚の角煮を蒸しパンで挟んだ物か、ご飯で丼にするかのどちらかだと言う。
店員は今日は蒸しパンの方がお勧めだと教えてくれた。
アレックスとメグは店員がお勧めしてくれた蒸しパンをお願いした。
店員が厨房に行く姿を見ながら、店員がなんの亜人か考えているが、しばらく考えても答えが分からないのでメグに尋ねてみると、メグがハーフリングの店だと教えてくれた。
ハーフリングは子供のような大きさで、食事好きだと聞いた事がある。
食堂をやっているのは納得だ。
食事以外ではエールが好きなことと、タバコが好きだと聞いていたが、食堂にはタバコの匂いがしない。
不思議に思ってメグに聞くと、答えは背後から帰ってきた。
「タバコは吸わないよ。うちは食堂だからね。それ以外でも最近のハーフリングはあんまり吸わなくなったよ」
「そうなんですか」
「王都だと葉っぱを栽培できないからね。僕たちが育てる品種が特殊なのもあるけど、買ってまで吸うのが少ないのさ」
アレックスと会話をしながら店員は、大きめの角煮が挟まった蒸しパンが四個も乗った皿を二人の前に一皿ずつ置いた。
店員は更に水を置くと「ごゆっくり」と言って忙しそうに去っていった。
アレックスは想像以上の大きさに全て食べ切れるか不安になりつつも、一つ目の蒸しパンを手に取ってかぶりつく。
角煮は柔らかく煮込まれており香草や香料で味付けにされているようだ。
その角煮を少し甘めの蒸しパンで挟んでおり、角煮以外にも挟まれている香草と、蒸しパンに塗られたタレが合わさって想像以上に美味しい。
一つ目の蒸しパンをすぐに食べ終わってしまう。
続けて二つ目、三つ目、四つ目と食べられるか不安だった蒸しパンを食べ終わった。
美味しかったが流石にお腹が一杯だ。
水を飲んで休憩していると、目の前に座っているメグが笑って「美味しかったですか?」と尋ねてきた。アレックスは深く頷いて大変美味しかったが少し動けそうにないと伝える。
メグはおかしそうに笑っている。
ここまで美味しい料理は中々食べたことがなかったので、メグのお勧めの店は大当たりであると感心する。
流石にメグは全ての蒸しパンを食べられなかったようで、店員に持ち帰りをお願いしている。そういうことも出来るのかと感心していると、大食漢な種族以外は普通持ち帰りをするのだとメグに教わる。
そうだったのか。
納得しつつ、次は持ち帰りをお願いする事にした。
蒸しパンを包んで持ってきた店員がアレックスに声をかけてきた。
「兄さん、よく食べ切れたね」
「美味しかったので思わず全部食べてしまいました」
「嬉しい事を言ってくれるね!」
「流石にこれ以上食べれませんし、少し動けそうにありません」
「だろうね! 僕たちハーフリングに丁度良い量だから普通の人は多すぎるよ」
メグの持ち帰りを持ってきてから店員は会話を続けていて、不思議に思って周囲を見回すと、いつの間にか店の客は随分と減っている。
店員はどうやら暇になったようだ。
店員にお金を払ってから、路地裏に新しく住み始めた錬金術師のアレックスだと自己紹介する。
店員はハーフリング食堂のレスだと名乗った。
メグがアレックスはオーガのハーフだと伝えると、レスは本当かと目を輝かせてアレックスを見てきた。
アレックスは自分の店を出る前に髪を結び直しており、角が見えない状態に直していた。
ハーフリング食堂の客はまばらにしか居ないので、角を見せても問題ないなさそうだ。
髪留めを取ってレスに角を見せた。
角を見たレスの反応は凄まじかった。
厨房から調理をしていたであろうハーフリングまで出てきて、一瞬レスを止めに入ったのだが、すぐにレスと一緒に騒ぎ始めた。
ここまでの反応を予想していなかったので驚きつつ、ハーフリングが長生きな事を思い出した。
もしかしたらレスたちは戦争中の事を知っているのかもしれない。
メグと何とかハーフリングたちの興奮を抑えると、髪を結んでハーフリング食堂を出る事にした。
食堂を出る時にはハーフリングたちからお土産を渡されて、盛大な見送りを受けた。




