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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 後編

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兄弟子の婚約者候補

 アレックスは再び落ち着いて錬金術ができるようになった。

 母とオスカー殿下の手合わせはアレックスとしてはいつも通りに終わったのだが、慣れていない人が多いので後が大変だった。


 オスカー殿下は順番に怒られていって、最後には国王陛下にも怒られたらしい。

 母も怒られるかと思っていたが、逆に謝罪が来た。

 第一王子が失礼しましたと、丁寧に書かれた手紙が送られて来たのには驚いた。

 母とモイラおばさんの影響力は凄いのだと改めて理解した。


 今日は珍しく家にいるメグから、オスカー殿下とエリック殿下の関係がいい方向に変わったと聞きながら作業を進める。

 母に倒されたのがきっかけとは、そんな事もあるのかと驚いていると、店の扉が開いたのか鈴の音がする。


「たのもー!」

「「たのもー?」」


 たのもーって普通道場などで言うような言葉では?

 メグを見ると首を傾げて不思議そうにしている。

 入る場所を間違えた可能性もあるが、一度店に出て対応することにする。


 店の中には凛々しい騎士風の服を着た女性が立っていた。黒髪の女性はオーガだと角を見て一目で分かった。

 角は大きくアレックスの倍以上ありそうだ。

 王都のオーガは角が小さいと聞いていたのでかなりの大きさなのだろう。


「おお、申し訳ない。私はヒルダという」

「ヒルダさんですか。私はアレックスと言います。ここは錬金術の物を扱う店ですが間違い無いでしょうか?」

「これは挨拶が変でした。失礼しました」


 続けてヒルダさんは、母とモイラおばさんを探しに来たと言う。

 毎回母とモイラおばさんを呼ぶ訳にはいかないと事情を尋ねる。

 ヒルダさんは手合わせを願いたいのもあるが、挨拶がしたいと言う。


 挨拶をするためだけに呼んでいると、毎日店に人が溢れることになりそうだ。

 此処は穏便に帰ってもらうことにしたところで、ヒルダさんが兄弟子のマーティーの名前を出した。


「マーティーの知り合いなのですか?」

「マーティーと婚約を考えていた」

「婚約……? 婚約!?」


 詳しく事情を聞くと、どうも婚約を前提に話を進めていたところで、マーティーが王都から故郷に帰ってしまったようだ。

 アレックスの父が死んだから婚約の話が止まってしまったのか。


 ヒルダさんは手紙でどうするか尋ねていたが、返事が来なかったのだと教えてくれた。

 マーティーは大雑把なところはあるが、流石に返事を返すのを忘れたりはしないと思いたい。

 自信がないでいると、ヒルダさんの手紙がゲラノスのギルドで止まっていたと教えてくれた。


 メグがヒルダさんは王都でも有名な騎士だと教えてくれた。

 つまり普通の手紙ではないだろうと、手合わせの願いだと思われて、ゲラノスのギルドで振り分けられてしまったのか。


「故郷で相手を見つけたから返事がないのだと思っていたが、ジョシュア卿が手紙を持って来てくれたのだ」

「マーティーなら断りの手紙は送ると思いますよ?」

「そうは思っていたが、王都からオルニス山は遠いからな。直接訪ねに行くわけにも行かなかった」


 ジョシュの名前が出て思い出したが、スプルギティ村を出る時にマーティーが何か渡していた気がする。

 あれはヒルダさんへの手紙だったのか。


 まずはモイラおばさんを呼んでくることにする。

 モイラおばさんを呼んできて、ヒルダさんを紹介した後に事情を説明する。

 説明が終わると、モイラおばさんまで事情を知らなかったようで驚いている。


「今度帰ったらマーティーに一発入れとくよ」

「それなら私が自分でやるので大丈夫です」

「そうかい」


 モイラおばさんはヒルダさんに、マーティーは好きにするようにと言っている。

 何故かよく分からないが、ヒルダさんはモイラおばさんに気に入られたようだ。

 このままだとマーティー抜きで婚約が決まりそうな勢いがある。


 父はスプルギティ村で暮らすのに苦労していたし、メグにヒルダさんの強さが分かるかと聞いてみた。

 メグがヒルダさんは王都では強くて有名だと言う。


「ヒルダは強いのかい?」

「アレクシア伯爵やモイラ伯爵ほどではないですが、騎士では強い方です」

「戦い方は近距離かい?」

「はい。魔法は補助程度にしか使いません」


 オーガは身体能力が高いので接近戦を得意とする場合が多い。

 ヒルダさんも接近戦を得意としているようだ。


 モイラおばさんが母と手合わせしてみるかと誘っている。

 普通はそのような事を言わないのだが、モイラおばさんが戦っても問題ないと思えるほどヒルダさんが強いのかもしれない。

 ヒルダさんは目を見開いて良いのかと尋ねている。


「以前に手合わせの依頼を手紙で出したのですが、返事がありませんでした」


 手紙が届かなかった理由がわかった。以前に手合わせの依頼を出していたのなら、同じだと勘違いされたのだろう。


「アレクシアが木の棒が壊れるまでだったら問題なさそうだね」

「それでも良いので是非お願いしたいです」

「分かったよ。アレクシアを呼んでくる」


 モイラおばさんが手合わせをする事を決めた。

 アレックスにはヒルダさんの強さは分からないが、モイラおばさんには分かっているようだ。


 母が店に降りてきて、モイラおばさんから手合わせできると言われると、目を輝かせた。

 よほど嬉しいようだ。

 適当な場所で手合わせをする訳にいかないので、エリック殿下に再び連絡をする。


「今度はヒルダ卿ですか……」

「エリック殿下、何度も申し訳ない」

「いえ、これも仕事ですから気にしないでください」


 オスカー殿下も見にきたがっていたが、謹慎中だから来れなかったとエリック殿下が教えてくれた。

 再び王都の外にある演習場を使うとエリック殿下から言われる。


 皆で演習場へと移動する。

 移動中、ピュセーマに母がまた手合わせをするのだと説明をすると、ため息をついた気がする。

 今回は前回と違いそうだと伝えると、チュンチュンと鳴いている。

 本当かと尋ねているようにアレックスには感じた。


「アレクシア、木の棒が砕けたら終わりだからね」

「ん」

「ヒルダも木の棒が砕けたら離れるように」

「分かりました」


 今回もモイラおばさんが審判を務める。

 モイラおばさんの合図とともに母とヒルダさんが動き始めた。


 最初はオスカー殿下の時と同じようにゆっくりだったが、昨日より攻撃速度が上がるのが早い。

 母が村人を相手するのと同じような速度になっていく。

 アレックスには目に追えない速度になってきた。


 想像以上にヒルダさんは強い。

 どこまで続くのかと思っていると、大きな音がして二人が離れた。

 母の持っていた棒がなくなっているので、砕けてしまったようだ。


「ヒルダ、想像以上に強かったよ」

「ありがとうございます」

「アレクシアと此処までやったのだし、骨が折れているんじゃないか? 治すから見せてみな」

「はい。何ヶ所か折れてしまっていると思います。よろしくお願いします」


 母と手合わせして立っていられるとは凄い。

 しかも手合わせをして骨折程度で済むとは驚きだ。

 これならスプルギティ村で生活しても問題がなさそうだ。


 ヒルダさんの骨折はモイラおばさんの手当てですぐに治った。

 治ったところでヒルダさんは母に手合わせのお礼を言っている。


「楽しかった。また相手してくれると嬉しい」

「はい!」


 ヒルダさんが母に元気よく返事をしている。

 あの程度しか怪我をしないのなら、ヒルダさん王都でもかなり強い方なのでは?


「ヒルダ卿強くない……?」

「エリック殿下、確かにヒルダさんはかなり強いですね」

「アレックス、アレクシア伯爵と手合わせすると、大半がオスカー兄上みたいになるんだよね?」

「はい」


 エリック殿下の護衛をしていた騎士が、ヒルダさんは騎士団の若手では一番強いのだと教えてくれた。

 年齢が上の騎士だと技術で負けてしまうとの事だった。


 アレックスがエリック殿下と喋っていると、母とモイラおばさんが、ヒルダさんにマーティーの婚約者になる事をいつの間にか許していた。

 マーティーの婚約は本人の知らないところで決まってしまったようだ……。

新作『かけらの渇望 〜疎まれた転生者は安住の地を求める〜』の連載を7月15日より開始しました。

良ければ読んで頂けると嬉しいです。


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