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路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
二章 後編

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二人の王子

 オルニス山から帰ってきて、二ヶ月ほどが経った。

 まだ夏の日差しが続いており、外に出ると暑いので日中は店に来る人も少ない。

 アレックスはいつものように錬金術の作業をしている。


 最近はキャサリン殿下の式典に着ていく服の準備をしている。

 今回はアラクネのパティが服を仕立ててくれているのだが、いくつか糸に対して注文が入ったので調整中だ。

 母とモイラおばさんの服もお願いしているのだが、パティとパティの夫であるニックが張り切って作っている。


 それとトレイシーとケリーがドラゴンになっても、服が破れないように魔道具化する作業もある。

 意外とアレックスがする作業は多いため、最近は店に篭って作業をしている。


「アレックス、大鳥が大量に店に近づいてきてるけど、誰か来る用事でもあった?」

「いや、メグからは何も聞いてないけど? トレイシーは何か聞いてないの?」

「私も聞いてないな?」


 エリック殿下が緊急の用事でもできたのだろうか?

 誰が来たかは分からないが大人数で移動するとなると、キャサリン殿下かエリック殿下だろう。

 アレックスは出迎えるために工房から出て店に移動する。


 待っていると店の扉が開いた。

 アレックスの予想は外れて、キャサリン殿下でもエリック殿下でもなかった。

 初めて見る人だが誰かに似ている気がする。

 誰なのかは思い出せないが、今は挨拶をする必要がある。


「ご来店ありがとうございます。本日はどのようなご用でしょうか?」

「申し訳ないが店に用事がある訳ではないのだ。ここにアレクシア伯爵が住んでいると聞いたのだが本当だろうか?」

「母ですか? 住んではいますがどのようなご用でしょうか?」


 アレックスが母と言うと、相手は恐縮した様子でご子息だったかと丁寧に頭を下げてくれた。

 母とモイラおばさんが住み始めてから店を遠目に見たり、色々と来客は来た。

 失礼な態度をとるような人は今まで居なく、今回の来客がしたように丁寧な対応をすることが多かった。


 それでも大鳥で護衛をこれだけ引き連れて尋ねてきたのは初めてだ。

 一体誰なのだろうか?


「名乗らずに失礼した。余はオスカー・ド・オルニス」

「アレックスです。オスカー殿下だとは知らず失礼しました」

「こちらこそ事前に話を通さずに尋ねてきてしまって申し訳ない」


 キャサリン殿下の兄上である第一王子のオスカー殿下だったとは。

 誰かに似ていると思っていたが、国王陛下に似ているのだ。若くて筋肉質なので気づけなかった。


 オスカー殿下だと知ったからには母を呼ぶべきだ。

 アレックスはオスカー殿下に母を連れてくると言って待っていて貰う。


 一階の店から二階へ上がって母を呼ぶ。

 母に事情を話して一緒に一階へと降りる。

 オスカー殿下と母が挨拶を交わした。


「アレクシア伯爵、手合わせをお願いしたいのです。どうか一度お願いできないでしょうか?」

「良いよ」


 オスカー殿下のまさかのお願いにアレックスは固まる。

 国王陛下やエリック殿下には、母と手合わせを願うのを止めるように強く言っていたのに……。


 母が完全にやる気になってしまっている。

 これはどう考えても止められない。

 アレックスは母とオスカー殿下に、場所を用意するから今すぐ手合わせをしないようにと注意する。


 場所を用意するついでに、エリック殿下に連絡をして、モイラおばさんを連れてくる。

 それと限界まで回復できるウルトラポーション入りのハイポーションを用意した。




ーーー


 エリックがキャサリンの手伝いをしていると、火急の用事だと人が入ってきた。

 手紙を手渡されて宛名を見るとアレックスとなっている。

 火急の用事とは何だろうと思いながらも手紙の中身を見る。


 中にはオスカー兄上がアレクシア伯爵に手合わせを願ったと書いてあった。

 オスカー兄上が手合わせを願う可能性はあると思っていたが、本当にするかと頭をかかえる。

 一緒に居たキャサリンに手紙を見せると青ざめている。


「エリックお兄様、お父様から止めて頂きましたよね?」

「余からも強く言って止めて貰っている。キャサリンもそうだと思うが、あの覇気を感じてオスカー兄上が勝てるとは思えない」

「そうですね……」


 アレクシア伯爵に会ったのはスプルギティ村に残って、モイラ伯爵から魔法を教わっている時だった。

 アレクシア伯爵にというより、ドラゴンに最初は驚いたものだ。

 正直アレクシア伯爵の印象は小さいという物だった。


 銅像の大きさからモイラ伯爵より小柄なのは分かっていたが、想像以上に小柄だと感じたのを覚えている。

 雰囲気も荒々しい物では無かったのが、そう感じた理由かもしれない。

 モイラ伯爵と会話をしていると、始祖鳥を見に行った事とヘルハウンドを見かけた事を伝えた瞬間、アレクシア伯爵の雰囲気が変わった。


 絶対に勝てない強者に出会ったのだと理解させられた。

 アレクシア伯爵がドラゴンに乗って去っていくまで固まっているしかなかった。


「エリックお兄様、場所は王都の外にある演習場を使いましょう。私がお父様に伝えますので、お兄様は演習場へ向かって欲しいのです」

「分かった」


 キャサリンの手伝いをしていたメグも一度帰ると言うので、一緒にアレックスの店に向かう。

 アレックスから聞いた話だと死にかけると言うし戦った後が怖い。

 護衛を伴って王城を飛び立つ。


 店に着くとオスカー兄上から何故エリックが来るのかと言われたので、国王陛下から任せられた仕事だと答える。

 実際任せられているので間違いはない。

 その場にいたアレックスに手合わせを止められないかと尋ねる。


「母がやる気になっているので無理です」

「やるしかないのか……」

「モイラおばさんが居るので治療魔法士は足りるとは思います」

「分かった。王都の外にある演習場で手合わせをしよう」


 護衛を伴って演習場まで移動する。

 アレックスもついて来ている。

 アレックスは店を臨時休業にしたようだ。申し訳ないな。


 演習場で手合わせの準備をする。

 一応オスカー兄上に死にかける事を伝えると笑われた。

 信じていないのか、死にかけないという自信があるのか……。


 モイラ伯爵が審判を務めてくれることになった。

 アレックスが他の人だと咄嗟に止められないと言う。


「アレクシア、分かっていると思うけど致命傷は避けるんだよ。私でも死んだら治せないからね」

「ん」

「それとアレクシアが持っている木の棒が砕けたら終わりだ」


 両者が頷いた。

 モイラ伯爵の合図が出ると手合わせが始まる。

 最初はエリックにも見える速度で、オスカー兄上も余裕がありそうだ。


 徐々に速度が上がっていって、オスカー兄上の顔が苦しそうになってきた。

 どこまで速度が上がるのかと思っていると、アレクシア伯爵の攻撃がエリックには認識できなくなってきた。

 木の棒でして良いような音ではない音がしたと思ったら、オスカー兄上が空を飛んでいる。


「アレックス!」

「ポーションかけました!」

「治療魔法いくよ!」


 モイラ伯爵がオスカー兄上を受け止めると、アレックスが近づいてポーションをかけた。

 二人はそのまま連携してオスカー兄上に魔法をかけ始めた。

 二人の魔法が凄いと思っていると、アレックスから手伝うように言われて慌てて魔法陣を展開する。


 オスカー兄上の状態は中々衝撃的な見た目になっている。

 治療魔法が効き始めると見た目が劇的に治っていく。


「うっ……」

「オスカー兄上! 大丈夫ですか!」

「ああ……」


 オスカー兄上はアレクシア伯爵に手合わせの感謝を伝え、更に治療魔法のお礼をモイラ伯爵やアレックスに伝えている。

 その後にエリックにもお礼と謝罪がされた。

 お礼は分かるが謝罪が分からない。


「エリック、余はアレクシア伯爵を武術の基準に考えていた。あの方は基準にしてはならんと分かった」

「オスカー兄上、余も以前はモイラ伯爵を魔導士の基準にしておりました。二方は基準にしてはなりません」

「そうだな……」


 アレクシア伯爵とモイラ伯爵は常識の範囲内から逸脱している。

 しかしオスカー兄上がアレクシア伯爵と手合わせをしたことで、兄上とのわだかまりは減った気がした。


 手合わせが終わった後にオーウェン将軍が来て、オスカー兄上はオーウェン将軍に怒られている。

 この後、オスカー兄上は父上からも怒られることになるだろう。

 長引かないようにエリックが仲裁に入ろう。

以前に上げていた作品の、改稿版ですが新しい連載を始めました。

読んでいただけると嬉しいです。


しくじり転生 〜うまく転生できてないのに、村まで追い出されるってどう言うこと神様?〜 [改稿版]

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