おふくろの味
亡くなった母のレシピノートが見つかった。材料を集めるのは大変だったが、用量を守りシチューを作り、食べたら涙が出た。
「……母さんの味だ」
ドンドンと扉を叩く音がする。
「警察です」
「警察?」
「署までご同行願いたい」
私は捕まるような事は何もしていない。なぜだ?
「……その前に病院ですな。どうされました?ずいぶんと血が」
肩の肉がちょっと無くなったぐらいで大袈裟な。私には最低限の医療知識がある。これぐらいは自分で治療出来る。
しかし警察に逆らってもいい事なんかない。
とりあえず協力的な態度を示し、早く終わらせよう。
「率直に申しますとあなたのお母さんに『アイダホの悪魔』の容疑がかけられています」
「アイダホの悪魔ぁ?」
何年か前に13人を殺害してまだ捕まっていない恐ろしい殺人鬼。母がアイダホの悪魔?そんなバカな。母は私にとって優しい母だった。
誤解を解かなくては。
「ところでお母さんはどこに?」
「一年前に事故で亡くなりました」
口の中におふくろの味が残っている。