第3話 幸せの値段 中編
重力の魔法少女…本名、大宮花は悩みがある。ここ最近になって見かけるようになった変な魔物が居るのである。悪事を働くわけでもなく、いつもとある店の人形をじっと見つめ、魔法少女が来るとそそくさと逃げる。その繰り返し。何がしたいのか、理由があるのか、何もわからない理解不能な魔物なのだ。まぁ、魔物を理解する事自体難しいが。
「…はぁ…なんか、魔物の見方変わっちゃうなぁ。」
登校しながらそう呟く。これまで、魔物による殺害行為が多発していた。それによって警戒も強め、いつも以上に張り詰めていた筈の気持ちが、あの魔物によって緩められてしまっていた。
「…あの人形をプレゼントしたがってるのかな。」
別日に変身せずに入店したが、その人形の値段はあまりにも高すぎた。店主の男性曰く、それ程貴重で歴史ある品なのだとか。知人から拾い物として受けとり、鑑定した結果の値段なんだとか。アンティークというのか…あのような品は、魔物はおろか人間ですら手に入れるのは難しいだろう。
「…あーもう…なんで魔物の事で悩んでんだろ。」
彼女のもやは晴れない。変な魔物、プカプ。アイツは他の魔物とは違うのか。そういえば、アイツが殺したという話は聞いていない。数日前にも誰か殺られたらしいが、別の魔物だと聞いた。何か、何処かに違いがあるのかもしれない。
「…よし。」
その日の夜…
「やっぱり居た。」
「ぷ?」
昨日と変わらず、人形を見つめていたプカプ。心のもやを晴らす為、聞いてみた。
「あの人形、誰にプレゼントしたいの?」
「だから、関係ないから教えないっつーの。」
「大切な人?」
「しつこいっつーの。」
問いかけに対して面倒くさそうに答えるプカプ。答えている間も、ずっと人形を見ている。サングラスでわからないが、本気で欲しがっているのはなんとなく伝わってきた。
「…ねぇ、私が代わりに買おうか?」
「は?学生のくせに無理な事言ってんじゃねーっつーの。」
ようやく振り返って答えてくれた。が、その直後にプカプは硬直した。魔法少女ではない。別のものに驚いているようである。何かと思い後ろを向くと、案山子みたいな奴が血塗れで立っていた。
「っ!?ま、魔物!」
とっさに身構えるが、魔法少女の横を素通りしてプカプの前に立つ案山子男。
「何しとん、プカプ。会議にも顔出さんと、こんな所で油売っとんのか?」
「ぷ…こ、これは。」
プカプの言葉を聞かず、案山子男は魔法少女の方を向く。
「なぁ嬢ちゃん。今、これと話しとったんか?」
「…だったら…何よ。」
「そうか。そんならええわ。」
いきなり、案山子男はプカプを蹴飛ばす。蹴られたプカプはそのまま店の窓を割って店内に転げ込んだ。
「ぷ…いてて。」
「なぁプカプ。ワイはお前の身勝手全部許しとったんよ。お前らしくてええやないってな?でもな。魔法少女と仲良くすんのはちゃうやん。」
割れた窓から入る案山子男。理由はよくわからないが、この二人は今対立しているようだ。
「な、仲良くなんて…してないっつーの。」
「ならなんやあの会話。代わりに買う?仲良くないと出ぇへん言い方やろ?」
「あれは…アイツが勝手に…ぷぎっ。」
言葉を遮るように蹴りを入れる。吹っ飛んだプカプは、フランス人形のガラスケースに直撃した。ケースは割れ、中の人形は床に落ちた。
「ぷ…これ…だけは。」
ふらふらになりながら人形を掴み、抱える。壊れていない事を確認して、守るように大切に抱えた。
「なんそれ。んなもん欲しくてここ来とったんか?」
「…ぷぷー…これの価値もわからないとか…バカだね~。」
「あ?」
踏みつけようとする案山子男に向けてパンチする。とっさに体が動いた。魔物を助けるような事をしたが、これで良いと思う。
「やめなさい。私が相手になってあげる。」
「…チッ…プカプ、帰ったら覚えとれよ。」
魔法少女相手は勝ち目が無かったのか、そそくさと逃げていった。プカプの傍に寄って確認すると、体にはヒビが入り、一部欠けていた。羽も片方千切れかけていた。
「ぷぷー。良かった、無事で。」
そんなボロボロになりながらも、人形には傷一つ無かった。それ程大切にしている人形を持ち去ることはせず、ガラスケースのあったところに座らせてよろよろと逃げていった。
それから数時間後、店を守ってくれた礼として人形を譲って貰った。何度も断ったが、受け取ってくれとしつこく迫られて断れなかった。
「…明日、渡そうかな。」
あんなに欲しがっていたんだ。きっと喜ぶだろう。魔物にも、喜びくらいあるだろう。人形を大切に思う心があるんだ。きっと、嬉しいと思ってくれる筈だ。
…
「プカプもバカヌ。魔法少女と仲良くするなんてヌ。」
「まぁ、バカの考えなんて理解出来ひんからな。」
「ドウスンダヨ。帰ッテキタラ、殺スノカ?」
「んなわけないやん。魔法少女の前やったし、あんなやり方しか出来んかったんや。」
廃校でプカプの帰りを待つ魔物達。戦力外などと言っていたが、やはり仲間を捨てることは出来なかった。帰ってきたら謝って、プカプも協力してくれるような作戦を考えよう。今度は、もっと自由で、自分達らしい、そんな作戦を…
しかしその日、プカプは帰って来なかった。