第3話 幸せの値段 前編
「ぷぎゃー!お、お助け~!」
「待ちなさい!」
ビルとビルの間を物凄い速度で飛び抜ける豚の貯金箱と魔法少女。追いかける魔法少女より僅かに速く飛ぶプカプ。今回は別に、悪さをしたわけではない。
「な、なんだよぉ…オイラはお店の品見てただけだっつーの!」
「誰も見てない隙に盗むつもりだったくせに!」
「んなセコいことしねーっつーの!」
ピタリと止まるプカプは振り返り、魔法少女に向き合う。
「オイラがそんな小悪党に見える~?」
サングラスをクイッと上げ、渾身のキメ顔を見せる。
「見える。胡散臭いし。」
「ぷぷ!?」
しかし、魔法少女には効かなかった。寧ろ煽られたと思われ、怒りは爆発寸前だった。
「それじゃ、辞世の句は終わったと言うことで。」
「ま、待った!オイラが悪かった!この通り!」
空中で必死に頭を下げる貯金箱に、魔法少女の怒りは呆れに変わっていった。
「…はぁ…プライドとか無いの?」
「そんなもんで生かして貰えるならいくらでも捨てるっつーの!」
「…もういいや、さっさと何処か行って。」
「ぷ…?み、見逃すの?オイラ、魔物だよ?」
見逃してほしいのか、戦いたいのかハッキリしない態度にまた少し苛ついたが、グッと堪えて話に応じる。
「だって、悪さしてないし。」
「無差別だと思ってたっつーか…なんつーか。」
「てか、あそこで何してたの?商品見たって買えないでしょ。」
魔物が入店すれば間違いなく騒ぎになり、買い物どころじゃない。それなのに何故か品を見に来ているプカプの行動は理解出来なかった。
「いやぁ…オイラさ、プレゼント渡したい相手が居るんだよね~。」
「…え?」
突然何を言い出すんだこの貯金箱は。いやまて、魔物同士の話かもしれない。だとしても、不自然だが。
「ふーん…魔物同士で贈り物の文化とかあるんだ。」
「いや、人間にだけど?」
思考が停止する。先日まで人殺しを行っていた魔物の仲間が、人間相手に贈り物をすると言う。まるで理解出来ない。
「人間にって…あ、わかった。油断誘って襲うつもりでしょ。そうなんでしょ。」
「は?オイラは純粋にプレゼントを渡したいだけだっつーの。」
頭が痛くなる。魔物が人に、純粋にプレゼントを渡したい?気でも狂ったのかこの貯金箱は。
「だから、今回は見逃してほしいんだよね~。頼むよ~。お前の情報とかは他の奴らには言わないからさ~。」
「…もう良いから、早く消えてくれない?」
「サンキュー魔法少女~。」
嬉しそうに逃げ去る魔物。幸いにも誰にも見られていない。魔法少女が魔物を逃がすなんて論外だ。つい先日、初代から全魔法少女に向けてとある情報が広められた。
魔具のセーフティを外した。これで、魔物を殺せる。
この情報は魔法少女にしか知れ渡っていない。それを確かめるために早速魔物を倒そうとした。で、その相手が貯金箱だった。もうなんか、やる気を削がれてしまった。
「…馬鹿らし…帰ろ。」
…
「今帰ったよ~」
「プカプ。お前何しとん。」
「ぷ?」
廃校に帰ったプカプは、他の魔物達に囲まれた。
「今日は皆で作戦会議する予定だったヌ。何勝手な行動してるヌ?」
「あれ、そうだっけ~?オイラ何も聞かされてないっつーの。」
「は?ワイが聞いたら会議参加する言うてたやん。」
「…あー、あれは行けたら行くって言ったんだよ~。」
身勝手なプカプに全員が呆れた。元より勝手の多い奴だったが、ここまでくると流石に黙っては居られない。
「魔法少女ヲ殺シ、全員ガ団結スル時二、何処行ッテタンデスカ。」
「ちょっとショッピングにね~。」
「…はぁ…もうええ、コイツ抜いて話進めるで。」
取り残されたプカプは屋上へ向かう。とある人間の家から手に入れた望遠鏡。他の魔物からは要らないと言われて何度も捨てられたが、その度に拾い直してきた大切なものだ。
「…ぷぷー。待っててね。」
望遠鏡を覗き、そう呟く。これがプカプの日課…というより、毎日必ず行う行為だ。望遠鏡を覗き、何かに向けて呟いて離れる。他の魔物達は、彼の行動が理解出来なかった。
「…プカプはもう戦力とは思わん方がええな。」
「流石に身勝手が過ぎるヌ。」
「ララ~♪戦力外通告~♪」
ヌイヌやへのへは、魔法少女を狩るという一つの目標に向かって団結していた。しかし、プカプだけは違った。警官の作戦に協力すると言っておきながら、まるで参加に意欲を感じない。その勝手さに巻き込まれて、無意味にやられたくないから、魔物達は彼を戦力から外した。
夜になってようやく作戦会議も終わり、ピコピは作戦の為に外出していった。
「…プカプ…いないねー。」
「知らんわあんな奴。ほっとけ。」
廃校に残った魔物達はそれぞれで睡眠をとる。いざという時、戦えないと困るからだ。
…
「ぷぷー。これ…やっぱり…。」
夜の街で、店の外から商品を見つめるプカプ。彼は気付いて居ないが、街の人達はプカプを見て逃げていってしまったので、今街中にはプカプしかいない。
「…また来たの?」
「ぷ?あ、重力の魔法少女。」
呆れた顔でプカプを見る。アホらしくなり、敵意が失せてしまったからか、攻撃態勢にすら入らない。
「ホント、なに見てんのよ。」
「…お前には関係無いっつーの。」
ふよふよと少しずつ上昇していく。
「また見逃すの?」
「…だって、逃げるだけじゃない。」
「まぁね。オイラは弱いからね~。」
ヘラヘラと笑って逃げるプカプ。魔法少女は、彼が何を見ていたのか気になって店内を見る。そこには一つ、ガラスケースに入れられたフランス人形が置いてあった。