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愛と正義のバッドエンド  作者: バッテン印
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第2話 悪意色の正義 中編

切断の魔法少女こと、霧島詠子の葬儀も終わり、事が落ち着いた頃。一人の魔法少女が怒りに燃えていた。


「よくも…私の可愛い…後輩を…!」


街を見回りながら、懐から携帯を取り出す。待ち受け画面には二人の魔法少女が写っている。一人は彼女本人、もう一人は、亡くなった切断の魔法少女。


「絶対許さない…必ず…私が…殺してやる…!」


復讐と怒りに燃えた彼女の瞳。夢見る少年少女が見れば、きっと恐怖して泣いてしまうだろう。しかし、そんな事を気にする余裕は無い。それ程までに、彼女の怒りは強いのだ。


そんな彼女を遠目で観察する魔物が二人。


「鉄壁の魔法少女やな。」

「ヌ…なら、灼熱と暴風は今変身してないと思うヌ。」

「…大丈夫か?無理そうならワイ一人で回るで?」

「大丈夫ヌ。心配かけた分、頑張るヌ。」


お互いに顔を見合わせ、それぞれ別の場所へ向かう。目標は魔法少女…の、変身前。普通の少女の家である。



場所は変わって、ここはとあるマンション。セキュリティが厳重とのことで有名な、最新マンションである。そんなマンションの一室、勉強机に向かってテキストの問題を解く少女が一人。


「…ふぅ…今日はこの辺にしようかな。」


そろそろ寝る時間。魔具を机に置き、ベッドに入る。今日はいつもより学校での調子が良かった。明日も一日頑張ろう。心で一日の成果を纏め、目を閉じる。


…しかし、すぐに目が覚めた。嫌な気配を感じたのだ。


「…まさか…魔物…?」


起きようと目を開けると…


「ヌヌヌ。窓開けっ放しとか、無用心にも程があるヌ。」

「!?」


開け放たれた窓…腹の上に立つぬいぐるみ…気配探知より速く、魔物に侵入された。とにかく、魔具を手に持たねば。そうしないと、変身出来ない。慌てて体を動かすが、ぬいぐるみが重くて動けない。


「ヌヌヌ。ボクらは決めたヌ。お前ら魔法少女を皆殺しにするヌ。」

「…え?」


皆殺し。これまでの、温い性格の魔物からは想像もつかない残酷な言葉を聞いて、思考が停止する。そして、現状を理解して青ざめる。


「今更気付いたヌ?でも、ボクらを殺したいって願ってるのが、今の魔法少女ヌ。なら、殺されても文句は言えないヌ。殺して良いのは、殺される覚悟のある奴だけヌ。」


助けて。そう叫ぼうとした瞬間、喉に鋭い痛みが走る。


「…がっ…!?」


痛みを感じたと同時に、目の前に吹き出る真っ赤なモノ。喉を押さえると、それが自分から出ているとわかる。喉を裂かれた。痛い。苦しい。声が出ない。


「ヌヌヌ。苦しいヌ?痛いヌ?人間は、そこ切ると簡単に死ぬって聞いたヌ。ねぇ、どんな気分ヌ?見下して、簡単に傷付けた相手にやり返される気分、どんな感じヌ?」


ぬいぐるみが何か言ってる。でも、聞こえない。必死に喉を押さえる。強く押さえる。止まれ。止まって。その願いも虚しく、壊れた水道のように吹き出す真っ赤なモノ。意識が遠くなる。明日が来ると思ってた。明日も友達と…明日も学校に…明日も…明日……まだ…死に…た…く…


「…ヌヌヌ。もう、生きてないヌ。あとは、魔具を回収するだけヌ。なんだ、やっぱり簡単だったヌ。」


真っ赤に染まったベッドを降りて、机の上の魔具を取る。マッチ棒の入った箱。ハートのマークが描いてある。これが魔具である証のようなものだ。


「灼熱の魔法少女…油断しすぎヌ。」


そう呟いて、窓から逃げる。以前は、あんなに壊れそうになる程怖かった行為が、今ではこんなに清々しい。飛びながら空を見上げる。一面の星空が、こんなに美しいと初めて思った。



「へへへのへ。こりゃ、確かに初めては心に来るねんな。」


床に少女の体、ベッドに頭を置いて、魔具を回収するへのへ。暴れたらしく、部屋一面に真っ赤な血がぶちまけられている。


「あー…見られたから殺ってもうたけんど…アレ…汚職警官が何とかしてくれるやろか…。」


開いた扉の向こうで、頭が弾け飛んだ胴体が横たわっている。魔法少女を倒した時、偶然部屋に来たので殺った。見られたら困るし、何より騒がれたくなかったから。


「…ま、ええか。あの世で姉ちゃんと仲良くしぃや。」

「きゃぁぁぁ!!」

「…最悪やな…親起きとったんか。」

「わ、航…ひっ、魔物…!」


へのへを見て、腰が抜ける女性。仕事帰りらしく、スーツ姿だった。


「煩いねん。黙らんかいボケ。」

「っ」


へのへが手元でサラサラと字を書くと、女性の頭が弾け飛んだ。頭を失った体は、少しフラついた後、力無く倒れた。


「えっと…確かこの魔法少女は母子家庭で三人家族やったな。よし!殺ること殺ったし、帰るか。」


へのへは、ヌイヌとは違う。魔法少女を一人、仲間が殺した時から変わった。魔物以外の命に、価値を見出せなくなったのである。


「ま、あの世で家族三人仲良くしぃや。」


魔具を片手にそそくさと外に出て逃げる。これが作戦だ。あの日、警官から提案された…“魔法少女を簡単に倒す方法”なのだ。



「ふぃ…疲れた。」

「ヌ?先に終わるのはボクだと思ってたヌ。」


それぞれが役目を終え、戻ってきた。お互いに手に入れた魔具を確認し合い、魔法少女を倒した事実を再認識する。


「お疲れ様です、お二方。ね?簡単に倒せたでしょ?」

「ホンマやな。魔法少女が見回ってる間、他の奴は見回らんから油断するんやな。」

「これなら、簡単に倒せるヌ。」

「それは良かった。あ、そうそう。お二方が出ている間、ラルラさんとプカプさんにも協力して貰えるという返事を頂きましたよ。これで戦力は万全ですね。」


やたら魔物に協力しようとする警官を見て、流石に不審に思うへのへ。


「…なんで、ワイらに協力するん?」

「なんで…ですか。」

「そうヌ。ボクらに協力しても、良いこと無い筈ヌ。」

「…そうですね。」


少し考えた後、警官は答える。


「私、魔法少女が嫌いなんですよ。」

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