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愛と正義のバッドエンド  作者: バッテン印
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第2話 悪意色の正義 前編

魔法少女一人を殺めてから五日が過ぎた。魔物による恐ろしい犯行。しかし、魔法少女が死んだことは一般の人には秘密にされ、代わりに“普通の女子中学生”が殺されたという話で纏められた。魔法少女であるという事実は、無関係な人間に知られるわけにはいかないからだ。


「…なんや…秘密主義の警察も魔法少女も、今回のアレは単なる殺人って事にするんか。」

「マァ、仕方無イデス。ソウデモシナイト、魔法少女ノイメージダウンニナリマスカラネ。」

「はー…けっきょく、おとなのじじょー。」


ピコピの画面に映るニュースを見て、事実と異なる報道に愚痴をこぼす魔物達。あの日からヌイヌは自分の凶行を悔やみ、ロッカーから出て来なくなってしまった。


そんな魔物達の元に、一人の男性がやって来た。警官だった。


「よぉ魔物の皆様。元気かい?」

「今の挨拶で元気失せたわ。何しに来たんや汚職警官。」

「酷い言われようだ。皆様の成果を丸く収めてあげたってのに。」


やけにフランクに話すこの警官は、魔物達側の人間…ではない。魔物達の動きを表沙汰にしないよう動いているだけの変人である。


「ツーカ、オ前ホント何シニ来タンダヨ。」

「いやね、遂に殺っちまったな~って思ったもんでね。少し落ち着いたんで、話聞きに来たんですよ。」

「もくひけんを、こーししまーす。」

「あれま。信用されてないねぇ。」


警官は帽子を正し、真面目な顔になる。先程までの気楽さは抜け、空気が張りつめる。


「殺ったもんは仕方無いですよ。でもね、ウチにも節度ってのがあるんですよ。越えちゃいけない一線、それを越えたんですよ。皆様には、責任を問いたくてね。」


これまで、魔法少女によって魔物が倒され、警察が後始末するという一連の流れが完成していた。それはあくまでも“魔物は必ず魔法少女に倒される”という結果が約束されていたからこそ成り立っていた。つまり、今回の殺害は完全にその範疇を越えていたのだ。


「というか、皆様の方で止められなかったんです?特にへのへさん。貴方なら事が大きくなるってのくらいわかりますよね?」

「ほぅ、ワイに責任全振りかいな。そりゃ良い身分やな。警察さんはワイらに責任被せりゃ無責任で済むもんな。」

「それは…殺した件についての責任は皆様に無いと?」


警官の顔が強ばる。


「あまりに勝手じゃありませんかね。」

「責任ガ無イトハ言イマセンヨ。デスガ、私達ハ凶行ニ走ル程ニ迫害ヲ受ケテイタトイウ事デス。」

「迫害?悪である魔物の皆様に向けた正当な扱いでは?」


鼻で嗤う警官。その態度に苛ついたのか、へのへと呼ばれた案山子男は貧乏揺すりを始める。


「…おい。責任問うだけやろ。ワイらをバカにしに来たんなら容赦せんで。」

「おぉ怖い怖い。嫌ですねぇ。平和な話し合いじゃないですか。」


ヘラヘラと話す警官に、魔物達の視線は鋭くなる。


「…どつくぞボケが。」

「まぁまぁ、落ち着きましょう?皆様と敵対したら、私なんて一瞬で塵にされちゃいますって。」

「…誰のせいで苛ついとると思っとるんや。」


警官は咳払いをし、話す。


「責任はもうどうでも良いです。こっちでやりますよ。」

「あ?」

「だって、そういう雰囲気じゃないと話してくれないじゃ無いですか。責任なんて今更。それより、本題は今後についてですよ。」


長々と話しておいて、ようやく本題に入る警官。魔物達の苛立ちもそろそろ限界だった。


「魔法少女、殺っちゃったじゃないですか。今、世間は皆様の危険性を改めて理解して、これまで以上の殺意を魔法少女達は抱いてますよ。必要以上に駆り立てたって訳です。どうするんです?」


魔法少女達はあの日以来、魔物に対して警戒を強めていた。

“見つけ次第殺せ”

これくらいの心持ちで日々を過ごしている。あの日から魔物達は一歩として外には出ていない。本能的に、殺意を感じ取ったのかもしれない。


「…ソウダナ…俺達ヘノ攻撃ハ激シクナルダロウナ。」

「きっと…しょだいもだまってないね。」

「ふん。誰が来ても同じや。引き返せんなら、戦うしか道はないで。」


警官は察していた。今、魔物達の間で意見が割れている。戦うか、隠れるか。血の気の多いへのへや、今回殺ってしまったヌイヌは戦う方を選ぶだろう。しかし、クシクやピコピといった非戦力に該当する魔物達は隠れる方を選ぶ。今まで甘んじていた関係を崩す事を恐れているのだ。


「戦うにしても、皆様にその戦力はあるんです?」

「無い。けど、やるしか無いんや。相手が本気で殺りに来てんなら、ワイは腹括るで。」

「でも、他の方々には反対意見もあるんですよね?もしや、お一人で戦うつもりで?」

「一人だろうが関係無い。前々から好き勝手されてムカついてたんや。もうこの機を逃したら、二度と反撃出来ん。もう、うんざりや。」


拳を硬く握りしめながら語るへのへを見て、警官はそれが本心の意見であると理解する。他の二人も、へのへが本気である事を理解し、決意を固める。


「…ん…あーし、やる。もー、これいじょーやられるの、やだ」

「私モ、オ手伝イサセテ下サイ。何カ、役ニ立チタイノデス。」

「クシク…ピコピ…怖いくせに…ありがとな。」


三人の意見が決まった時、警官が拍手した。唐突な行動に驚き、三人は警官の方を向く。


「素晴らしい!まさかそこまで本気だとは…私、感激しました!」


拍手をやめ、三人の顔を見渡して話を続ける。


「そんな素晴らしい皆様に、私から提案があるのですが…。」



「魔物達が本性を現しましたね。やはり、大人しいからといって放置するのは悪手でした。」

「ボクがもっと魔物の動きを見ていれば…こんなことには…。」

「トゥインク、貴方のせいではありません。これは、魔法少女全体で動くべき事です。」


綺麗に掃除された教会で話す妖精と魔法少女。妖精を慰め、魔法少女は手に持ったハートのステッキを掲げる。


「悪は、正義によって討ち滅ぼされるべきなのですから。」

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