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愛と正義のバッドエンド  作者: バッテン印
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第1話 “悪” 中編

「反省会ハ、ソノ辺デ終ワリデスヨ。」


クシクが腰掛けたテレビの画面に、点と線だけの顔が現れる。片言な喋り方が特徴的なテレビは、自身に乗ったクシクを腕のようなコードで器用に降ろし、宙に浮く。


「ピッピッ。湿気タ面シテンナ。」

「ピコピ。起きてたヌ?」

「エェ、タッタ今起キマシタ。」


敬語と乱暴な口調を交互に話すピコピという魔物は、ふよふよと浮きながらヌイヌに近寄る。


「ジャア、魔法少女二ツイテ教エロ。」

「ヌ。ボクを倒した奴ならわかるヌ。あれは切断の魔法少女ヌ。」

「切断ノ魔法少女…先週ノ火曜日二、プカプサンガ戦ッタ相手デスネ。」


テレビの画面に魔法少女の写真が映し出される。ピコピは魔物のブレインのような立ち位置で、魔法少女達の情報を熟知しているのだ。


「今年二入ッテ魔法少女ニナッタガキダナ。戦闘経験モ薄クテ手荒。魔具ノ“ハサミ”ニ気ヲ付ケレバ良イ。」

「ガキでも強いもんは強いやろ。経験より、強さで計らんかい。」

「ピッピッ。経験ヲ調ベルノハ、相手ヲ知ル為ニ必要ナノデス。知識ガアレバ、対策ハイクラデモ取レマスヨ。」


魔物達も、負けてるだけではない。こうして対策を練り、勝てるその日を目指しているのだ。一番の問題は、対策を実行出来るだけの戦力が無いことである。


「ぷぷー。そんなことしたって、実行出来なきゃ意味ねぇっつーの。」


陽気な声で茶々を入れるのは、サングラスをかけた豚の貯金箱。背中に生やしたふわふわな羽でパタパタ飛んでいる。


「なんやプカプ。先週何一つ出来んくて負けたんやから、黙っとれや。」

「いやいやぁ。オイラは間違ったこと言ってないもんね~。だって事実だもんね~。」

「あとはラルラだけだねー。なにしてんのかなー。」

「ピッピッ。買イ出シト言ッテイマシタヨ」


これが、魔物の日常である。人に隠れて生きて、たまに暴れて戦って、負けて、だらだら作戦を考える。勝てる未来なんて無い。そもそも、この甘ったれた現状を受け入れている。

“悪”は、そんな気の抜けた日々を良しとしているのかもしれない。


しかし、こんな気の抜けた連中でも、ふとした拍子にとんでもない事を思い付く時がある。


「そーいえば…まほーしょーじょにかてないんだよねー?」

「勝てるわけないやん。戦うだけ無駄やで。」

「ソウダナ。作戦ヲ考エテモ、勝テル見込ミハネェナ。」


クシクは黒板にチョークで落書きしながら話を続ける。それは、本当にただの“もしも話”だった。


「じゃーさ…まぐ、うばったら…どーなるの?」


全員が一斉に黙った。


今まで、魔法少女に苦戦を強いられてきた。それは、魔法少女の力の源である魔具があるからだ。魔法少女は、一般の少女に魔具が授けられて誕生する。魔具さえ無ければ、単なる少女なのだ。


「…せ、せやけど…どうなん?魔具奪える算段とかあるん?な、無いと思うんやけど。」

「そ、そうだよね~…オイラ達弱いし、無理だっつーか。」

「そうでもないの~♪」


ガラリと戸を開けて入って来たのは、あと一人の魔物。頭全てに包帯を巻いており、白いワンピースにスレンダーな白い肌の身体。その手には、買い出しで買ったと思われるカップ麺がぎっしり詰まった袋が下げれていた。


「ラルラサン…オカエリナサイ。ソウデモナイ…トハ?」

「作戦なら、私にお任せなの。ララ~♪」


数日後…


「行ってきまーす。」


元気一杯な女学生が、家から出てきた。彼女の名前は霧島詠子。何処にでもいる普通の中学生。しかし、彼女には誰にも言えない秘密があった。それは…


「…ふふ、またニュースに私の姿映ってた。」


そう。彼女は魔法少女だ。つい数日前、公園を破壊していた魔物を、他の魔法少女と共に協力して倒し、街の平和を守ったのだ。しかし、魔法少女は正体を明かしてはいけないという絶対のルールがある。だから、これは親にも言っていない秘密なのだ。


正体がバレないよう、変身した姿には認識阻害の魔法がかけられている。変身さえ解かなければ、バレることは無いのである。


「ヌヌヌ。ずいぶん機嫌良さそうヌ。ボクを倒したあの日がそんなに忘れられないヌ?」

「っ!?」


頭上から声をかけられ、とっさに上を向く。そこには、あの日倒した魔物…ヌイヌがいた。


「ヌイヌ…!」

「ヌヌヌ。ボクは倒しきれないヌ。だから何回でも戦えるんだヌ!」


長い爪を出し、襲いかかるヌイヌ。急すぎる襲撃だが、魔物が近くに来れば魔法少女は気配を察知し、速やかに変身出来るのだ。


「あの時の復讐?何度来ても無駄よ!」

「ヌ!?」


一瞬で変身し、魔具でヌイヌを両断する。学校へ行く彼女からしたら、この時間の襲撃は迷惑でしかない。速やかに終わらせ、登校しなければならない。


「ヌ…ヌヌ…ボクは…諦めない…ヌ…。」

「何回やっても同じよ。」


灰になって消える魔物を無視して学校へ急ぐ。今日は小テストの日。遅刻なんてしたら大変だ。


「ふふ、魔物をこんなに早く倒せた…やっぱり強くなってるのかも。」



「良シ、作戦通リダナ。」

「ララ~♪この調子で行くの~♪」


付近で見ていた二体の魔物。魔法少女の検知範囲外から、今の出来事を観察していた。その日、切断の魔法少女である霧島詠子にとって、最悪の一日となるのだった。

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