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愛と正義のバッドエンド  作者: バッテン印
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第1話 “悪” 前編

小春日和の良い天気、暖かい陽気に包まれて眠くなるある日の昼下がり。仕事で外を歩く人もつい歩みが遅くなり、公園で遊ぶ子ども達も元気一杯。そんな平和な日常を壊す一声。


「きゃぁぁぁ!!」

「ま、魔物だぁ!」


公園から逃げ出す子ども達。付近の人も公園から出来るだけ遠くへ逃げていく。無人となった公園の滑り台に立ち、いかにも悪人らしい笑みを浮かべるぬいぐるみ。


「ヌヌヌ。邪魔が入らないうちにとっとと始めるヌ。」


二頭身で子どもサイズのクマのぬいぐるみは、胴より長い腕を挙げて振り下ろした。すると、遊具や木々の影から無数のぬいぐるみが這い出してくる。召喚されたぬいぐるみによって、公園はめちゃくちゃに破壊されていく。先程まで楽しそうに遊んでいた子ども達の遊び場は、無惨な姿に変えられていった。


「ヌヌヌ。いやぁ気分爽快ヌ。遊んでたガキも、昼寝してた奴も、お喋りしてた奴もザマァ見ろヌ。」


皆の憩いの場が壊れていく様を見て、満足げに笑うクマのぬいぐるみ。背中に生やしたコウモリのような羽をバタつかせて愉快に小躍りをしていた。すると…


「そこまでよ!」

「ヌ!?こ、この声は…。」


ぬいぐるみが振り返ると、公園を破壊していたぬいぐるみ達が倒されていた。ボコボコにされたぬいぐるみ達の中心に立ち、クマのぬいぐるみを睨む三人の魔法少女。予想していたよりも早い魔法少女の登場に、多少戸惑いながらも睨み返すぬいぐるみ。


「魔物ヌイヌ!皆の公園を破壊するなんて…許さない!」

「魔法少女…思ってたより早いヌ…しかし!今日こそは負けねぇヌ!」


ヌイヌと呼ばれたぬいぐるみが腕を挙げると、また影から無数のぬいぐるみが這い出してくる。


「ヌヌヌ。三人居るからって、ボクには通用しないヌ!さぁぬいぐるみ共、やれヌ!」


ヌイヌの合図と共にぬいぐるみ達が襲いかかる。が、容易く倒されていく。


「ヌ!?変身しただけ…魔具も使ってないのにこんなに強いなんて…そ、想定外ヌ!」


あっという間に全て倒され、魔法少女はヌイヌに狙いを定める。その目には怒りが燃えていた。


「覚悟しなさい!」


一人の魔法少女がハサミを取り出し構える。ハサミは光に包まれ、魔法少女の背丈以上のサイズになった。そして、怯んでいるヌイヌの首を一撃で両断した。


「ヌ…せ、切断の…魔法少女…覚えてろ…ヌ…。」


首を切られたヌイヌの身体は、灰のようになって消えた。魔物が倒され、避難していた人々は魔法少女の周りに集まり、彼女達の活躍を称えた。


これがこの街の日常。魔物は倒され、魔法少女は人々に称賛され、必要とされる。テレビや漫画でよくある、お約束の展開だ。



場所は変わって、同じ街のとある廃校。今は肝試しに稀に学生が来る程度で、ほぼ人気の無い場所。そんな廃校の一室、並べられた机と椅子。その一つに腰掛ける一人の男。頭全てを布で隠していて、その布には“へのへのもへじ”が書いてある。服装含め、遠目では案山子にしか見えないその男は、深いため息を吐いた。


「はぁぁ…まぁた負けたんか?てか、敵わへんのに毎度毎度良ぅやるな。アホなんか?」


愚痴る男の対面、教卓の上に座るクマのぬいぐるみ。不貞腐れるように座り、愚痴に突っ掛かる。


「煩ぇヌ…魔法少女がもっと遅く来てれば、ちゃんと戦力を整えられたヌ。ボクは悪くないヌ。」

「整えたとしても無駄やろ?お前の出すぬいぐるみなんて秒やで秒。何の役にも立たへんわ。」

「じゃあ、お前は勝てるヌ?字を書く事しか能の無い愚図にあーだこーだ言われても説得力無いヌ。」

「あ?なんや、やんのか?」


険悪な空気に包まれた教室。その空気を破るように扉が開かれ、また一人入ってくる。教卓より背丈が低く、泣き顔のお面を被った少女だった。気だるそうに歩き、二人の喧嘩に口出しする。


「はー…やめなよー…みんなねてるんだからさー。」

「なんやクシク。お前も喧嘩売るんか?」

「うらないよー…はー…めんどーだなー。」


クシクと呼ばれた少女は、教室の隅に置いてあるブラウン管テレビに腰掛ける。手が隠れる程長い袖の服は、彼女のサイズには明らかに合っていないようだ。それでも、不便そうには見えない。


「とゆーか…ヌイヌ。またまけたのー?こりないねー。」

「ヌ…ま、負けても良いヌ。平和ボケした魔法少女共に、ボクらは殺せないヌ。」

「…せやな。今ワイらを殺せんのは…やっぱ初代しか居らへんな。ありゃぁ別格やもんな。」


初代。この世界に初めて現れた魔法少女。彼女以外の魔法少女達の力は年々弱くなっており、今では完全に魔物を殺すことが出来ないのだ。しかし、初代魔法少女だけは違った。頑丈な魔物の身体をいとも容易く崩壊させるあの力。それだけは受けてはいけないと、魔物の本能が警鐘を鳴らすのだ。


「まぁ、ワイらに抵抗する手段が残されてるとは思えへんけどな。」

「どういう事ヌ。」


両腕を広げ、話を続ける。


「メンツ見てみ。ぬいぐるみ、ガキ、テレビ、貯金箱、女やで?何が出来んねん。マトモに戦えるんは女だけ。ワイらはザコ。それやのに挑むのはアホとしか言えんわ。」

「おんなって…あーしのことー?」

「ちゃうわ。お前みたいなチンチクリン、戦力に数えんわ。」


圧倒的すぎる戦力差に魔物達は俯き、言葉を失う。自分達が持てる能力をフルに使っても、魔法少女一人を相手するのが精一杯の現状。勝てるわけがない。


「…あーしたち…なんでたたかってるんだろーね。」


当然の疑問だった。共生の道は無かったのか。しかし、もう引き返せない。かつて、世界を奪おうとした魔物達。その過去を消すことなんて出来ない。だから、戦うんだ。きっと、そうなんだ。


静かに己を納得させる。これが、世界から“悪”とされたモノの現状である。

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