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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

長い髪 コワレタ少女を愛するコワレタ怪異 

深夜の東京

何かから逃げるような足音と、荒い呼吸音が聞こえてくる。

裏路地を逃げていた男は、先が行き止まりであることに気付いた。


「なんだよ…俺が何をしたって言うんだよ…」


そして、振り返って追ってきているものを見る。

ソレは、一見ただの人間のように見えるが、額には縦に開いた第三の目。

髪は軟体動物のようにうねうねと動き、男を狙っている。

口からは、時折異常に長い舌が現れては、戻っていく。

肌は死人のように青白く、体は痩せ細っている。

明らかに人間ではない。

すると、突然髪が伸び、男を捕らえる。

手足を拘束され、口と鼻を髪が覆っている為に、呼吸が出来ない。


「そのままゆっくり死んでね。ずっと…ずーっと、苦しんでから死んでくれたほうが私としては嬉しいな。」


ソレは、苦しむ男を見下ろしながら、そう言って笑っていた。

男は、苦しみから逃れようと必死に藻掻くが、髪の拘束が解けることはない。

そして、三分ほど藻掻いた所で、男は動かなくなった。

















翌日 ニュース


『髪締め幽霊によるものと思われる遺体が、繁華街の裏路地で発見されました。』

 

翌日、あの男についてのニュースが、全国放送されていた。

髪締め幽霊というのは、昨夜のアレの事だろう。


『発見された遺体には、口と鼻を強く締め付けられていたような跡と、両手足首に大量の髪が付着していたため、DNA鑑定伸び結果はまだですが、髪締め幽霊による被害の可能性が濃厚と言われています。』


正確な事はわかっていないようだが、犯行の手口から髪締め幽霊によるものと考えられているようだ。


『髪締め幽霊』


およそ三ヶ月前から確認されるようになった幽霊だ。

幽霊なんて存在しない。

そう言われてきた常識を根底から覆すような存在で、監視カメラによって、その存在を確認することが出来た。

髪締め幽霊の一番の特徴は、その伸縮自在の髪で、口や鼻を塞いで、窒息死させるという点。

今のところ、それ以外の方法で人を襲っている様子はないが、やろうと思えばできるのでは?という考察も存在する。

その存在が確認され、大々的に報道されたことで、幽霊に関する様々な研究が始まったとも言われている。

また、様々な霊媒師や霊能力者がお祓いをしようとしたが、全て失敗に終わっている。

その理由としては、まず1つは予測が難しいからだろう。

髪締め幽霊は神出鬼没で、いつ、どこに現れるかまったくわからない。

更に、見つけられたとしても、すぐに逃げ出して遠くから虎視眈々と獲物を狙っているのだ。

そして、今のところ、髪締め幽霊に狙われて生き残った者はいない。


『今後も、夜道を一人で歩くときは、髪締め幽霊に注意してください。』


髪締め幽霊についての報道はここで終わった。


















深夜


「さて、今日の獲物は…」


人の姿をした何かが、拳大の石の中から出てくる。

私は、うねうね動く髪を抑えて、人に化ける。

そう、私こそがかの悪名高き『髪締め幽霊』だ。

名前は…幽霊になるときに、対価として払ったために存在しない。

だから、幽霊になったときに付けられた名前が私の名前だ。

名前は『髪姦(はっかん)

なんと言うか…そのまんまって感じの名前だ。

もうちょい、かっこいい名前なかったのかな?

いやいや、今は獲物探しに集中しないと!


「服装は…これでいいかな?」


いつもの服装だと、不気味すぎて誰も近付いてこない。

だから、色気ムンムンの大人のお姉さんって感じの服装にした。

ちなみに、私は元々胸が大きいので、際どい服を着ると凄い事になる。

もちろん、顔も整ってるよ?

…そのせいで、あのな事になったんだけど。


「さてと、甘い蜜に集ってくるゴミクズ(蠅ども)はどこかな?」


私は、この際どい服装で、夜の東京を歩いて回った。

すると、十分ほどで私に集ってくる奴を見つけた。


「お姉さん、ずいぶんいい体してるね〜」

「俺達といい事しない?」


典型的なチンピラ。

さて、こいつらはどんな奴等か…記憶を覗かせてもらおうか。

私が幽霊になった時に得た能力の一つに、相手の記憶を覗く事が出来る力がある。

それを使って、こういうチンピラが、犯罪をしてないか判別する。

そして、こいつらは…麻薬の売人か…粛清対象だね。

麻薬は、百害あって一利なし。

外国では医療用に使われる事はあっても、日本では全面禁止されてる。

それなのにこいつらは…いったいどれだけだの人生を壊してきたんだか…


「いいわよ、こっちにおいで。」

「マジかよ!?」

「ヒュ〜、ついてる〜!」


こういう奴等は、調子に乗ってるから、すぐにホイホイついてくる。

私にとっては好都合だ。

そして、ゴミ共を路地裏に連れ込んだ私は、


「知ってる?綺麗な薔薇には棘があるの。」

「「は?」」


そして、髪を伸ばして一瞬で二人を拘束する。

もちろん喋れないように、口と鼻を塞いでる。


「そのままゆっくり死になさい。この腐れ外道が…」


私は、二人をじっくり時間をかけて殺した。

窒息死ってのは、簡単に死ねないから苦しいんだよね。


「まだ、十ニ時…もう一人くらいは、粛清しておきたい。」


私は、再び夜の東京へ戻った。


















『続いてのニュースです。警視庁は、昨日の髪締め幽霊の被害者が、3人であることを発表しました。。』


私は、腐れ外道から奪った金で、ネカフェにいる。

パソコンでニュースを見ながら、ゴロゴロしてる。


『また、被害者のうち二人は特定指定暴力団『竜頭組』の構成員であることが明らかになっており、今朝、家宅捜索を行いました。』


そう言えば、あの麻薬売買してた奴等、暴力団だったね。

まぁ、暴力団でも悪い事してないなら、私が手を出す必要はない。


『今朝の家宅捜索で、およそ120kgの複数種類の麻薬が見つかれました。これを受けて、『竜頭組』の組長含む幹部等4名を逮捕したとのことです。』


そうか…組長が捕まったか。

残った構成員が馬鹿なことしないように見張っておかないと。


「さてと、これくらいにして、暴力団の監視に向かいますか。」


私は、そそくさと荷物をまとめると、ネカフェをあとにした。


「ん?」


ネカフェを出てすぐの所で、高校生くらいの女の子が、チンピラに絡まれているのを見つけた。

記憶を探ってみるが、それらしい悪行は見当たらない。

せいぜい、未成年飲酒喫煙をしてるくらい。

この程度なら放置でいいでしょ?

ヤンキーとかは、大体は未成年飲酒、もしくは喫煙をしてる。

いちいち粛清してたらきりがない。

女の子を助けるだけにしよう。

…一応記憶を確認して…なにもないね。


「その子、嫌がってるよ?」

「あん?なんだ、うおっ!?」

「すげ~…ボン・キュッ・ボンだ…」


所詮猿か…


「その子、嫌がってるだろ?それ以上は辞めときな。」

「はあ?別に嫌がってねえだろ。なあ?」

「ひっ」


怖がってるじゃん…


「大丈夫?お姉さんが守ってあげるからね。」

「はい…」

「おいおい、邪魔すんなよ〜」

「あ?」


私が、威圧たっぷりで睨みつけると、チンピラ共は冷や汗をダラダラ掻きながら、後退りする。


「なんだって?」

「いえ、何でもありません!失礼しました!!」


そして、一目散に逃げていった。


「まったく、最近のクソガキは碌なのがいないわね。それで、大丈夫だった?」

「あ、ありがとうございます…」


女の子は、申し訳無さそうに感謝してくれた。

…にしても、ずいぶん苦しい人生を歩んでるね。

母親は宗教、父親はアル中、学校ではいじめ…

粛清対象が多すぎるね。

狙うなら…いじめの主犯格か…

母親は宗教にはまってるとは言え家事はするし、父親もアル中だけどちゃんと仕事して金を家に入れてる。

親として、最低限の事はしてる。

しかし、イジメてくる奴は違う。

な〜んにも良いことをしてない。


「大丈夫?ファミレスでも奢ってあげようか?」

「え?」

「いや、ずいぶん肌が荒れてるからね。しっかり食べてないんじゃと思ってね?」


よしよしと頭を撫でてあげながら、優しく語りかける。

…あれ?これナンパじゃね?


「私…ハンバーガーが食べたいです。」

「じゃあ、近くのハンバーガー店に行きましょう。」


私は、女の子の手を引いて、近くの大手ハンバーガーチェーン店に向かった。















ハンバーガーチェーン店


「野菜バーガーなんて…珍しい物を選ぶわね。」

「これが一番好きなので。」


野菜バーガーは、具材が、トマト、レタス、キュウリ、コーンの野菜しか入ってない、マイナーなハンバーガーだ。

ヴィーガンの人でも食べられる…と思いきや、ソースがたっぷり使われているので駄目らしい。


「おかわりしてくれてもいいからね?」

「はい」


私は、美味しそうに野菜バーガーを頬張る女の子を見ながら、いじめっ子に関する記憶を探っていた。

ちなみに、この子には「私はお腹いっぱいだから要らない」と言ってある。

若干不思議そうにしてたけど、なんとか納得させられた。


「ごちそうさまでした。」

「もういいの?」

「はい、私もお腹いっぱいになっなので。」


お腹いっぱいになって、嬉しそうにしている女の子を連れて、私は店を出た。


「これからどうするの?」

「それは…」


家には帰りたくないのか…

確かに、この子の親は、親として最低限の事はしてる。

でも、普通の親ではない事は確かだ。


「あの…お名前を教えてもらってもいいですか?」

「名前…」


どうしよう…髪姦は不味いよね…

となると、偽名を使うしかないか…


「櫻木和葉よ。」

「櫻木さん…あの、私、黒村芽野って言います。」

「黒村ちゃんね?黒村ちゃんはこれからどうするの?」

「それは…」


記憶を覗いてるから、名前は知ってたけど、知らないフリをしてきた。

だって、初めて会った人が、自分の名前を知ってたら怖いじゃん。


「櫻木さんの家に泊まりたいです。」

「それは…難しいわね。」


だって、私家ないし。

普段、霊石の中かネカフェに居るから、私には家がない。

ん?

そもそも、黒村ちゃん、泊まりたいって言ってなかった?

そんな、出会ったばかりの人の家に泊まりに行くとか、危険すぎる…


「黒村ちゃん、もうちょい警戒心を持った方がいいよ?」

「でも、櫻木さんは女性じゃないですか。」

「女性だからって、何もしないとは限らないでしょ?それに、私が人売りだったらどうするの?」

「人売りなんて居るんですか?」

「居るよ?」


私の体験談だもん。

女性だからってついて行って、外国に売られた。

そして、体をバラバラにされて、各部位事に売られた。

人間、どこにどんな奴がいるかわからない。


「警戒することに越したことはないよ。それに、最近は『髪締め幽霊』が出るかも知れないでしょ?」

「幽霊は夜にしか出ないと思いますけど…」

「そう?もしかしたら、昼間も動いてるかもよ?」


だって、私がその髪締め幽霊だから。


「それに、あまり人の事を信用しない方がいいよ?私含めね?」

「櫻木さんは信用できますよ。だって、こんな私に優しくしてくれるんですもん」

「甘いね黒村ちゃん。悪い人ほど、黒村ちゃんみたいな人に優しくするんだよ。良い人は同情だけして、直接的には何もしてくれないからね。」


私も、良い人達はみんな助けてくれなかった。

そして、手を差し伸べてくれたのは、私を売った人売り共だけ。


「ネカフェにでも行く?私は、いつもそこにいるから。」

「じゃあ、行きます。」


私は、黒村ちゃんを連れて今度はネカフェに向かった。


















ネカフェ

黒村ちゃんが、不安そうにしているので、膝枕してあげる。


「あの…」

「ん?」

「どうして…こんなに冷たいんですか?」

「…」


そうだよね。

人の肌が、こんなに冷たい訳ないよね。

さて、なんと言い訳しようかな?


「ごめんなさい」

「ど、どうしたの?」


私が、言い訳を考えていた時、急に黒村ちゃんが謝ってきた。


「実は私…霊とか、怪異とかが見えるんです。」

「は?」

「それで…櫻木さんが怪異だって事はわかってるんです。」


そうか…私を信用していた理由は、私が人間じゃないからか。

黒村ちゃんにとっては、私みたいな怪異よりも、人間のほうがよっぽど怖いんだろう。


「私が怪異だって、わかってて付いてきたの?」

「はい。それに、櫻木さんが怪異だとわかって、家に泊まりたいって言ってました。」

「んー?どういうこと?」


ますます意味がわからない。

私には家がない事をわかってたってことでしょ?

ならどうして…


「“私を、あの世へ連れて行って下さい”そういう意味があるんです。」

「なるほどね。…まだ、死にたいと思ってる?」

「今は…どうでしょう?櫻木さんに優しくしてもらって、この世に未練が出来てしまいました。」

「それはよかったわ。沢山の人を殺してきた私が、人を救えたんだもん。」


私は、髪姦になってから、もう何人殺したかわからない。

外道を殺して、スッキリすることはあっても、満たされる事はなかった。

きっと、私の精神()のどこかに、人間の物が残っているからだろう。

今まで、不要なものとして、捨てようとしていたけど、今では残っていて良かったと思える。


「私に…生きてほしいんですか?」

「ええ。今の黒村ちゃんと、生前の私を重ねてるのよ。虐待されて、いじめられて、ようやく信用出来る人を見つけたと思ったら、そいつは人売りだった。」

「…」

「私は…私を苦しめた奴等への恨みと、人売りに殺されてきた、他の犠牲者達の無念で、この世に怪異として蘇った。私の人間だった頃の名前は覚えてない。でも、怪異としての名前はある。」


この際、黒村ちゃんのためにも教えておこう。


「私の名前は、『髪姦』。世間では、『髪締め幽霊』と呼ばれてる、外道を殺して回る怪異だよ。」

「『髪締め幽霊』…そんな過去があったんですね…」

「ええ。二人で過ごした短い時間で救われたのは、黒村ちゃんだけじゃなかったみたい。私は、亡霊と違って怪異だから、成仏することはないけど、今は成仏しそうな気分だよ。」

「ふふっ。成仏しないでくださいね?」


私のジョークをわかってくれたのか、黒村ちゃんは笑ってくれた。

すると、黒村ちゃんは起き上がると、私に寄り添ってきて、


「私は、髪姦さんに救ってもらったお礼に、いつかこの冷たい体を温かくしてあげます。」

「う〜ん…それは無理だと思うよ?」

「じゃあ、私が生きている間、髪姦さんの心を温めてあげます。」

「ふふっ、それなら出来ると思うわ。出来れば、一緒に温かくなってくれたら嬉しいわね。」


私は、ひんやり冷たい手で、黒村ちゃんの頭を撫でてあげる。


「じゃあ、私は黒村ちゃんを守ってあげる。困った事があったら言ってね?」

「それは…嫌いな奴を殺すという事ですか?」

「別に、それでもいいよ?人殺しの罪は、私が背負う事になるからね。」

「悪い幽霊の、髪姦がやったってこと?」

「そうだね。怖〜い『髪締め幽霊』に殺されちゃった、哀れな人達になるだけだよ。別に、普通に近くに居るだけでもいいけどね?」


すると、黒村ちゃんは少し考え込んだ後、


「じゃあ、いじめっ子の、百歌を殺してください。」

「おうふ…いきなりだね…」

「私を散々苦しめた恨みです。そうだ、私も一緒にやっていいですか?」

「いいけど…何するの?」


黒村ちゃんは、「ナイショ」と言っていたけど、証拠が残らないようにできるのかな?

そこは不安だったけど、決行は今夜になった。

黒村ちゃんって、意外と行動力があるんじゃ…

というか、あんまり触れてないけど、自分をいじめてきたやつとはいえ、簡単に殺そうとする辺り、この子もコワレタ人の一人なのか…

これは、ますます私が大切にしてあげないと。

















深夜

私の宿る霊石が置かれている廃ビルに、髪で拘束されたいかにもギャルっぽい女子高生がいた。


「喋っていいよ?」

「ぷはっ!!なんだよ…どうして私がお前に狙われるんだよ!!」

「それは、あの子に聞いてみたら?」


私は、部屋の奥に座っている少女を指差す。

黒村ちゃんだ。


「黒村…」

「気分はどう?クソ女」


おうおう、口の悪い事で…


「なんだよ…復讐のためにこんな奴と…」

「ん〜?髪姦さんは、私みたいな奴に優しくしてくれる良い人だよ?あと、あんたみたいな奴に虐げられ、自殺した人達の無念の塊みたいなものだからね。余計なこと言うと…殺されちゃうよ?」


う〜ん…あながち間違いではないとは言え、誤解を招くような事を言うのは控えてほしい。


「それで…これまでの復讐のつもり?」

「復讐?違うね。私は髪姦さんと出会って、人生に希望を見いだせた。そして、新しい人生を歩むのにあんたが邪魔だった。だから、邪魔者を排除しておこうと思ってね。」


やばい…黒村ちゃんって、かなりコワレテル人だ…

目とか口とか…とにかく表情がやばい。

サイコパスとかの、そういった部類の狂人だ…


「黒村…お前…そんなやつだったのか…」

「何言ってるの?」


すると、黒村ちゃんは百歌の近くまで来て、百歌の耳元で、


「私をこんな奴にしたのは、紛れもなくあんただよ?私は元からコワレテル訳じゃない。あんたにコワサレタんだよ。自業自得だよ。」


そう言って、私の伸びた髪を百歌の首に巻きつける。


「何する気だよ…」

「髪姦さんの世間での呼ばれ方は知ってるよね?」

「まさか…」


百歌の顔がどんどん青くなっていく。


「あんたは私の手で殺す。私の人生をめちゃくちゃにした代償を支払ってもらわないと。」

「お前…人殺しになるぞ…」

「大丈夫。人殺しの罪は、髪姦さんが肩代わりしてくれる。だって、髪の毛で絞殺されるんだもん。」


黒村ちゃんは、私の髪を撫でながらそう言った。

その顔は、微笑んでいるものの、狂人特有の感情の読めない笑みを浮かべている。

これから、この子の人生を好きなように出来ると考えると、凄くゾクゾクする。

こう、性癖を刺激されるような快感というか…自分の一番好きなタイプのモノを手に入れた喜びというか…簡単には形容できない嬉しさがある。


「簡単には殺さない。ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり時間を掛けながら、この髪を絞めていく。出来れば悲鳴をあげてほしいな。録音して、安眠のための音楽として使うから。」

「趣味悪すぎだろ…おい、本当にこんな奴の代わりに罪を背負うのかよ?」


百歌は、助けを求めて、私に声をかけてきた。


「もちろん。他人に人生を壊されて、コワレタ心のまま生きていく。それでも、一筋の希望の光を見つけて、それを追いかけてコワレタ笑みを浮かべながら走るその姿…私が生前に成せなかった夢をこの子は現実にしている。今のこの子の姿は私の理想そのものだよ。」

「何言ってるのかさっぱりわかんないけど、お前も狂ってるってことはよくわかった。」

「当然だよ。狂ってなかったらこんな事しない。狂ってなかったらこんな子を愛したりしないよ。それなのに、この子を愛おしいと感じるのは、私が狂ってるからだよ。」


人を歯車として見るなら、狂人は一般的な人間とはそもそも噛み合わない歯車で、独特で歪な形をしている。

つまり、一般人とは相触れない存在だ。

しかし、同じ狂人なら、少なからず歯車の形が似ている。

同じように、一般人とは噛み合わない歯車の形をしているから。

だから、狂人同士なら愛し合う事が出来る。


「いつか、黒村に後ろからめった刺しにされると思ってたけど、まさか怪物と手を組んで殺しに来るとは…」

「怪物じゃなくて、怪異だよ?髪姦さんは無念の死を遂げた人達の恨みの集まり。人間の狂気が生み出した、恐ろしい怪異だ。」

「最後のそれは、褒めてるの?」

「さあ?そういう事は考えてなかったので。」


感情の読み辛い表情で首をかしげる黒村ちゃん…やっぱり可愛い。

そうだ!こいつの粛清が終わったら、黒村ちゃんの隅々をこの伸縮自在の髪の毛で…


「なんか…幽霊が気持ち悪い笑い方してるぞ…」

「ほんとね。キモいおっさんの、いやらしい顔みたい…」

「…そんなにキモかった?」

「「キモかった」」


そんな二人して声を揃えなくても…


「取り敢えず、早くそいつ殺したら?」

「駄目ですよ?百歌には、たっぷり苦しんでもらわないと。そのために、これを飲んでね?」

「サイダー?どうしてそんな物を?」


黒村ちゃんは、サイダーを開けると、無理矢理百歌の口にねじ込んだ。

そして、無理矢理サイダーを飲ませる。


「ぷはっ!!一気に飲ませるなんて…めちゃくちゃ喉が痛いんだけど?」

「軽口を叩ける辺り、まだまだ余裕そうだね。」

「強がってるだけに決まってるだろ?絶賛殺されかけてるんだから。」


百歌って、いじめっ子にしては珍しく大物だね。

強がってるとはいえ、弱音一つ吐かないなんて…


「じゃあ、このまま放置するね。」

「…私が漏らすのを待つってか?」

「そうだね。でも、漏らしたことによる羞恥責をしたい訳じゃないんだよ?」


へ?

じゃあ、この子は何がしたいんだろう…


「漏れそうなのを我慢して、膀胱がはち切れそうになる苦しみを味わってほしくてね。かと言って、漏らすわけにはいかないでしょ?」

「お前…ほんとに趣味悪いな。でも、それは時間がかかるだろ?何して待ってるんだよ?」

「それわね…」


黒村ちゃんは、微笑みながら私の方を向いてきた。


「髪姦さんが私のことを可愛がってくれるよ。その伸縮自在の髪を使って、私の体を隅々まで触ってくれるはず。」

「触手か?」

「そうだね。百歌も触手で遊んでもらう?」

「遠慮しとく。」


黒村ちゃんも最初からそのつもりだっのか…

これは、沢山可愛がってあげないと。

私は、髪を柔らかく纏めて、黒村ちゃんに伸ばした。

















気付けば朝になっていた。

黒村ちゃんは、私の膝の上で寝てる。


「なぁ、どうして黒村に協力しようと思ったんだ?」


凄く眠そうな百歌が話しかけてきた。


「簡単だよ。私の性癖にドンピシャで突き刺さる子だったからだよ。」

「…ロリコン?」

「酷いね。生前の年齢を合わせても、君や黒村ちゃんと同じ年齢だよ?」

「まじか…もっと年上だと思ってた。」


私は、思考や言動が大人みたいだから、勘違いされがちだけど、ピチピチJKだ。


「じゃあ、同い年の奴が乱れてる姿を、一晩中見せられてたのかよ…」

「どうだった?」

「どうって…想像以上にヤバかった。」


それがどういう意味でかは聞かないでおこう。


「死ぬのは怖い?」

「…どうだろう?何故か、何も感じないんだよ。」

「そっか。それって、ある意味幸運なのかもね。」

「無駄に苦しまずに済むからか?」

「そうだね。怖くないんでしょ?」


死ぬ事に何も感じないということは、これまで感動したことがないんじゃないかな?

死という生物全てにおける恐怖を感じないということは、それ以外の事でも怖がらないし、そもそも何も感じない。

ある意味可哀想な人間だ。


「なんとなくで、黒村ちゃんをいじめてたの?」

「いや、単純に気に入らなかったから。」

「意外と普通な理由。」


しかし、死を持ってして何も感じないとは…この子もコワレタ人なのかもね。


「なぁ…どうしてあんたは怪異になったんだ?」

「ん?それはね…」


私は、怪異になった経緯を話した。


「なんと言うか…とんでもない目に遭ってるんだな。」

「そうね。普通、人売りに出会うなんて、滅多にないよ。」

「そもそも、日本に人売りが居たことに驚くよ。」


ん?そう言えば…


「昨日は、強がってるって言ってたけど、あれはどうなの?」

「あれか?黒村に、私がコワレテル事を知られたくなかったんだよ。」

「どうして?」

「嫌いな奴に、自分のコンプレックスを話すか?」

「なるからね。」


何も感じない事が、百歌のコンプレックスだったのか…

それで、強がってるように見せかけてたのか…


「膀胱の調子は?」

「めちゃくちゃ痛い。このまま漏らせたらどれだけ楽か…」

「漏らしたら、人としての尊厳に関わるからね。」


そんなこと、誰だってしたくない。

だから我慢するけど、それだと苦しいだけ。


「どうする?黒村ちゃんを起こして、殺してもらう?」

「そうだな。もう、何も感じない人生に飽き飽きしてた。こいつに当たってたのは、それが原因かもな。」

「そう…黒村ちゃん、起きて。朝だよ?」


私は、裸の黒村ちゃんを突いて起こす。

すると、嫌そうに私の髪を毛布代わりに深く被る。

なんて可愛らしいんだろう。

私が、ニヤニヤしながら黒村ちゃんを眺めていると、百歌の咳払いが聞こえて、再度黒村ちゃんを突く。


「なんですか…」

「まだ殺さないの?そろそろ髪を解きたいんだけど?」

「あー…後五分寝てから…」


そう言って、また私の膝を枕にして寝始めた。


「起きなさい。学校に遅刻するよ?」

「え!?」


そう言うと、分かりやすく飛び起きる黒村ちゃん。


「目が覚めた?」

「髪姦さんのバカ…」

「ごめんって。でも、私もそろそろ髪を解きたいんだけど?」


すると、ふらふら歩きながら、百歌に近付く黒村ちゃん。


「お前…全裸でそれするのか?」

「着替えるの面倒くさい。」

「狂人から、痴女に堕ちるぞ?」

「別にいいよ。怪異相手に、あんな事したんだもん。」

「それ、私がやばいみたいに聞こえるんだけど?」


しかし、黒村ちゃんは無視しやがった。


「取り敢えず、もうゆっくり殺すのも面倒くさいし、一気に首絞めるね。」

「好きにしろ。覚悟はできてる。」


どちらかと言うと、何も感じないから、怖くないが正解じゃないかな?

そして、ようやく飽き飽きしてた人生に終わりを告げられるんだから、清々しい気持ちなのかもね。


「じゃあ…死ね」


黒村ちゃんは、力いっぱい髪を引っ張って、百歌のか首を絞める。

私は、それを手伝う形で、髪に力を入れる。

すると、あっという間に百歌の首が折れて、即死した。


「黒村ちゃんって、結構力強いね。」

「そうですか?これで、髪を解けますよね?」

「ええ。ようやく解けるわね。」


私は、百歌に巻き付いていた髪を解く。

そして、死体は遠くに捨てることにした。



















あれから半年。

百歌が居なくなった事で、いじめはなくなったらしい。

それでも、黒村ちゃんは他のいじめっ子達を殺したいらしい。

私は、正体を暴かれないようにするために、時間を置いて殺すことを提案した。

黒村ちゃんは、それに賛成してくれて、まだ一人しか殺していない。


「髪姦さん。また、遊んでくださいよ。」

「はいはい。黒村ちゃんもだんだん色っぽくなってきたね。」


成長期なのか、やたらと胸部が成長してる。

男子から、いやらしい目で見られて困ってるらしい。

私は、その立派に成長した胸部で遊んでる。


「たまには、私の方から触ってもいいですか?」

「いいよ。私は怪異だから効くかわからないけどね。」


そもそも、生殖能力が無いから、効果があるか不明だ。

個人的には、効いてほしいと思うけど…どうだろう?


「髪姦さん」

「どうしたの?」

「どうしたら、私も怪異になれますか?」


とんでもない質問が飛んできた。

黒村ちゃんが怪異になる?

いったいどんな怪異が生まれるのやら…


「わからないけど、もしかしたら、私と一緒に居れば怪異になれるかもね。」

「怪異のオーラ的な何かを吸ってですか?」

「ええ。もしかしたらだけどね。」


怪異になりたいということは、私とずっと一緒に居たいという事だろう。

黒村ちゃんの愛はそこまで強いのか…

人を辞めてでも私のことを愛したい。

…もしかして、私を独占したいとか?


「怪異になれたら、ずっと髪姦さんを私のものに出来るんですよ?それって、素晴らしいと思いませんか?」

「そうね。なら、私はずっと黒村ちゃんを私のものに出来るわね。」


確かに、この愛おしい黒村ちゃんが、ずっと私のものになるならそれは素晴らしい事だ。

すぐにでも、人を怪異に変える方法を探さないと。


「もし怪異になれたら、絶対に離しませんよ?浮気なんてしたら、浮気相手と髪姦を殺して、私も死にます。」

「大丈夫。そんなことしないよ。逆に、黒村ちゃんが浮気しても同じことをするからね?」

「わかってます。その時は、絶対私を拷問してから殺してくださいね?私もそうするので。」

「はいはい。」


言われなくても、元からそうするつもりだ。

黒村ちゃんは、私のもの。

誰にも渡さないし、邪魔するやつはなんであれ殺す。

だから、ずっと一緒だよ?黒村ちゃん。



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