集う入部希望者
「ナイピッチ」
俺は平等院さんにそう言われた。
「どうだ?久しぶりのマウンドは?」
「楽しかったです」
俺は短くそう告げた。正直な答えだった。数分前はこんなこと言う事になるとは、
思ってもいなかったし、のぞんでもいなかった。だが今はまだマウンドで投げたい。
「じゃあ入部だな?」
「ハイ」
異存は無い。
「しっかし、いい球投げる割にはビビリなんだな〜。ホームラン打たれた球投げんのが怖いなんて。そんナンじゃエースになれねーな!」
平等院さんが俺の弱点を指摘した。言い返せない。確かにこんな勝負でビビッテたら試合はどうなるのだろうか。こんなんでよくエース出来ていたな、と感じた。
「だけどまあ大丈夫だ。俺がお前をホントのエースにしてやるからよ!」
何処から来るのだ、この自信は。
俺は思わず溜め息を漏らした。しかし、俺はアル事に気が付いた。
「平等院さん」
「ん?なんだ?」
「このチーム、俺を含めても8人しかいませんよね?」
俺は周りの人の人数をかぞえた。1、2、・・・・やはり8人だ。野球は9人でやるものだ。これでは試合が出来ない。エースとか以前の問題だ。
「そんなの大丈夫!まだまだ入って来る!」
「理由は?」
「ナイ!」
「ハ〜」
俺は頭を押さえた。この前向きすぎる考えに呆れた。
こんな新設に近い部にそう部員が集まるとは思えない。そう思うのが普通だ。しかし九十九監督がおっと声を上げた。監督の視線の先には2人の生徒がこちらに歩いて来ていたのだ。そして1人が喋りだした。
「なんや、8人しかオランやん。平等院朱雀がいる言うから来たのに、メチャ少ないやん!」
ちっちゃくて坊主のヤツが言った。
五月蝿い奴。それが俺的の第一印象。
すると平等院さんが前にでた。そして五月蝿い奴の前に行った。
「俺のこと御呼びかい?」
「ワオ!本物や!」
「君は?」
平等院さんが五月蝿い奴に尋ねた。すると五月蝿い奴は答えた。
「俺は倉吉日吉言います。アンタがいるって聞いてここにきたんや!よろしゅうお願いします。ってアレ?」
倉吉って奴が俺の方お見て指差した。
「お前、清水悠一!」
「何で俺の名前知ってんの?」
「前一回試合・・・テユーカ同じクラスやん!」
「そうなの?ごめん、俺今日一日中寝てたから。試合も?ごめん。知らない」
「城陽第一の光源氏って今日初めて言われた俺の存在を知らんとは」
倉吉って奴はワザとらしく溜め息を漏らした。
初めてなら誰も知る訳ないだろう。てゆーかホントに呼ばれたのか?と俺は呆れた。後ろでは監督や他の人、前では平等院さんが笑っていた。もう1人の入部希望者らしき奴は俺同様呆れていた。髪は少し茶色で少し眺長め。顔は目がちょっと大きめで整っている。コイツの方がよっぽど光源氏って呼ばれそうだ。
「君は?」
俺はその少年が気になり尋ねた。
「俺、明星泉。日吉と同じで君と同じクラスさ」
俺と同じクラスの奴、多いな。しかしこの顔どこかで・・・。
「明星」
「泉でいいよ。クラスメートなんだし。悠一」
俺が明星を呼ぶとそういわれたので改めて泉、と呼んだ。
家族とアイツ以外で悠一と呼ばれるのはめったにないのだが、抵抗はナイ。
「お前、俺と試合で勝負しなっかった?」
「ピンポーン。府大会決勝でやったよ。確か、俺が三打数二安打だったよ。試合は負けたけどね」
思い出した。コイツはただ1人、俺から複数安打を放った奴だった。足が速くミートも上手いってどこかの高校のスカウトが騒いでいた。
「アレは俺も流石に驚いたよ。まさか2安打も府大会で1人に打たれるなんて」
俺は少し笑った。
「やっぱ自信あるんだ」
コイツ、痛いとこ突いて来るな。
「今は無いけどな」
もちろんあの試合で。
「へー。まあよろしく!君がいると楽しめそうだよ」
泉がそういったから俺はこちらこそ、と返した。
「スミマセ〜ン。入部希望なんですけど〜?って悠一?!」
女子の声が背後からした。どっかで聞いたような。嫌な予感・・・。まさかアイツ・・・?
俺はソウ思い振り返った。嫌な予感が当たっていた。いや、あったってしまったというべきか。やはり見たことのある顔だった。