練習開始
放課後、部活開始の時間だ。清水達は教室で着替えてグラウンドへ行く。朝練で悟ったのだ――部室は狭い――と。
「遂に全国に俺の名が広まる第一歩を今…踏み出すぜ!!」
「馬鹿か…」
倉吉が叫ぶと泉が溜め息を吐いた。倉吉がその後、ギャーギャー騒ぐ。清水は反応しない。くだらないからだ。
「甲子園出たら名が広まるわ!!」
「レギュラー確定じゃ無いだろお前」
「うっ…うるせー!!」
清水はそんな2人のやり取りに背を向け、グラウンドへ向かった――
~グラウンド脇の部室
清水が部室に荷物を置きに行くと平等院がスパイクを履いていた。
「おう」
「…ちわす」
平等院に清水は軽く頭を下げた。最低限の礼儀だ。平等院は清水を見た。
「早くしろよ。お前ラストだ」
「? 泉等は…」
「アイツ等も他のみんなも向こう」
平等院は空いた部室の扉の向こう、グラウンドを指差した。みんな、軽くストレッチをしている。
清水はいつの間に泉と倉吉が来たのか不思議に思った。そしてスパイクに履き替えた――
「ちわっ!!」
部員全員が監督の九十九に挨拶する。
「今日から遂に夏に向けて始動…という訳だが…まだまだチームの連携も取れない。だからゴールデンウイーク当たりには合宿をして、その締めに練習試合をしたいと考えている!! とりあえず、まずはそこを目標に頑張って行くぞ!! いいな!?」
「はいっ!!」
九十九の言葉に部員が返事をする。
「ランニング行くぞ!!」
「おおっ!!」
キャプテンの源の声に部員が返事した。二列になり、ランニングを始めた――
ランニング、ストレッチ、塁間ダッシュ(十往復)を終え、次はキャッチボールだ。
「清水、やろうぜ」
平等院が右手にミットを持ち、清水に声を掛けた。清水は無言で頷いた。
たっく、軽く返事位しろよな。俺は気にしないが、伊達辺りがかなり五月蝿いだろうな。――いや無理か。コイツは多分、昔から先輩からエースの座を奪い、投げ続けていた野郎だろうからな。礼儀とか、知らなくてもそこら辺の監督は勝ちに目が行って、コイツを使っていたんだろうな。その結果、これか。けど監督、九十九を相手にのはそうはいかんだろうがな。まあ、慣れるだろうし。
平等院は清水を見た。ボールを手の中で回している。
「始め!!」
源の声が響いた。部員が返事し、ボールを投げる。パンッ、と心地良くグラヴにボールが収まる音がする。
「清水!」
平等院が呼ぶと清水はボールを投げてきた。胸の前に差し出したミットにキチンと収まる。
「ナイスボール!」
平等院は清水に投げ返した。こちらもキチンと胸のグラヴに収まる。
距離は徐々に遠くなり、球のスピードは速くなる――。
「行くで!?」
倉吉が言う。泉はおうと返事をした。
距離は大分ある。百メートルはあるだろう。清水と倉吉が少し喋っている。清水は向き直り、平等院に助走をつけてボールを投げた。低い弾道で平等院さんのミットに収まる。泉の後ろで誰かがおお、と感嘆したようだ。
凄いな。流石超高校級か。
泉は思った。倉吉を見る。肩を回している。
ん? アイツ、清水の真似する気か? 無理だろ。仕舞いに肩潰すな。知らねーぞ。
泉がそう思っていると、倉吉は助走をつけて泉に向かって投げてきた。――清水よりは少し高い弾道だが、ノーバンで軽く泉に届かした。
「やるねぇ…倉吉君」
平等院が泉の横で呟く。流石に平等院も驚いている。泉も驚く。
なる程。ただの馬鹿って訳じゃ無さそうだな――
キャッチボールを終え、皆は監督の九十九の前に集合した。
「少し休憩入れて、野手はノック。清水、平等院! お前等はブルペンだ」
九十九は清水を見て言った。平等院は少し笑みを浮かべ、返事をした。
今回はキチンと受けさしてもらおうか、超高校級。
平等院はミットを叩いた。小気味よい音がした。
~ブルペン
清水はマウンドの土をならした。案外、きちんと整備されているようだ。キャッチボールを済ませて、肩はできている。監督の九十九がネット裏から見つめる。平等院はマスクを被り、ミットを鳴らした。
「まず、真ん中、ストレート!」
平等院の声を聴くと、清水は振りかぶった。そして、美しいフォームからボールが放たれる。速い。
パンッといい音がしてミットにボールが収まる。九十九は表情を変えない。平等院が返球する。
「次、外角低め、スライダー!」
「シンカー、内角!」
二球投げ、平等院からまた指示が出る。
「フォーク、真ん中低め! 投げろよ?!」
この野郎、舐めやがって。試してやるよ。
清水は心の中で呟き、ボールを握った。振りかぶる。
「オッと!!」
平等院はホームベースの一メートル前でバウンドしたボールを止めた。
やっぱこれは緊張すんのか? いや、俺を試した、か。
「オイ!」
平等院は立った。清水はゆっくり帽子を脱ぐ。
「そんなので勝てるとおもうな。今のは何処も振ってくれねーよ。もう一回同じのだ」
平等院は返球した。
俺を試すとは、やっぱ自分を天才と思ってやがる。いい投手にはいい捕手が自然と付くからな。てか、信用少しはしろよな。俺様な奴だ。さて、お試しは終わった。俺の力量も測った。これでまたミスったらアイツは相当後遺症が残ってる。まあ、ミスったら監督に話して何とかしよう。
「よし、コイ!」
平等院は構えた。清水はゆっくり振りかぶった。腕がしなり、ボールが放たれる。がさっきより前でボールはワンバンして平等院のミットに収まった。
「駄目か」
平等院は小さく呟き、返球した。後ろを向き九十九に話しかけた。
「監督、実は…」
平等院は手短に清水の後遺症のことを話した。
「そうか…分かった。じゃあ、清水のいた中学ってどこだ?」
九十九は平等院に問うた。平等院は少し考え、口を開いた。
「確か、鹿苑中学でした」
「分かった」
九十九はそう言うとバッティング練習をしている方へ歩いていった。
九十九、なんか思いついたな。
平等院はそう考えると清水を見た。
「すまねえ! 再開な」
平等院はそう言うと座り、後五十球投げさした。フォークは無しで。
作者の分かり易いつもりの野球用語解説
ブルペン…投手が投球練習を行う所。
百メートル…この距離を投げれたら凄いです!!用語解説じゃないが…
感想お願いしまっす!!