新1-2.その頃から彼女には既にバーサーカーの片鱗が垣間見えていたという。
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
シンシアは大人達が賭け事に一喜一憂する姿についていけず、御者席で馬を操るクロードの隣に座り、ゆっくりと流れる風景を眺めていた。
【黒天狼】は、ギルドから調査依頼を受けた目的地点までの道を馬車で移動していた。
昨日のロックゴーレムの群による襲撃は脅威だったが、それは油断して囲まれた状況になってしまったからだと結論付けた。
倒したロックゴーレムから抉り取ったゴーレムコアを換金すれば、討伐報酬は大変な旨味になる。金銭面を考えたらギルドからの依頼の完全達成報酬を逃す手は無く、むしろ【黒天狼】としては二度目の襲撃が着てくれてもいいと考えている程だった。
「リーダーはロックゴーレムが襲撃にきてくれた方が金になるって言っていたけれど」
シンシアは、辺りに転がる岩をそれぞれ、じぃ、と見つめる。
どれもこれも、いきなり動き出しそうで怖く感じられる。
「私はロックゴーレム、苦手かなぁ……剣折れるし」
どうあがいても、今のシンシアが岩を普通の剣で斬るなんて無謀の極みだ。
「俺はシンシアちゃんが無理にアタッカーになる必要は無いと思うけどね。魔術師部隊としては、釣りとまとめをする囮のプロフェッショナルが居てくれたら、狩りが楽になると常々思っていたくらいだし」
「それなら、何で私が入るまで居なかったの? 囮専門の人」
「……うーん……【黒天狼】に入れる時点で、相当高位の冒険者だからね。それを囮役専門なんて、侮辱に受け取ってしまう方が普通なんだ。囮役は扱いが面倒なんだよ」
「そっかー……」
クロードは、意図的に『本当の理由』を隠す。
危険な囮をする専門の人間が、長生きできるわけがないのだ。どうしたって入れ替わりの激しい役回りになる。それに、【黒天狼】に入って一山当てたいという冒険者は無数に居る。これまではずっと、そういった人員を使い捨てにしていた。
その点、シンシアはギルドで冒険者手続きをしたその日に、ひょんなことから居合わせた【黒天狼】で最高の片手剣使いであるランドガーを練習試合で打ち破った事から【黒天狼】側からヘッドハントされた変わり種だ。
それもあわさり、冒険者ランクの問題にピンと来なくとも、納得してしまう程にはシンシアは世間知らずの子供だった。
【黒天狼】としてはこれほど扱いやすく、本人の強さと便利さの割に《武器魔力付与》が使えないという解りやすい瑕疵を理由に安値で使えるシンシアは優良物件だった。
「私も剣を振るいたいから、囮専門が嫌な気持ちは解るかも」
「はは、シンシアちゃんは天才剣士だからね。《武器魔力付与》さえ覚えればすぐに【黒天狼】のエースになれるさ」
「私は……《身体硬度強化》までは出来るんだけど、その先の『魔力を身体の外に出す』っていう感覚が全然わからなくって……」
「俺は《魔力放出》専門だからね。《身体能力強化》の感覚の方がわからないよ。お互い、隣の芝生は青いね」
「……ですねー……」
がたごと、がたごとと馬車が荒野を行く。
会話が途切れ、ぼうっと風景を眺めていたシンシアが、何らかの違和感を覚えた。
「ね……クロード、何か……誰かに監視とか、されてる感じがしませんか?」
「……監視?」
「なんていうか……私、昔からそういうのに敏感で。昨日のロックゴーレムの大群の時と同じような気配が……」
「どうした?」
シンシアが感覚的な意見を上手く言語化出来ないでいると、リーダーがぬっと馬車の中から御者席へと顔を出した。
「シンシアが、何らかの気配を察知したと」
「ふむ……」
リーダーは、顎の無精ひげをじょりじょりと弄りながら考える。
シンシアは勘が良い。【黒天狼】に招いてまだ一カ月足らずしか経っていないが、その割に魔獣の奇襲を過去に二回も予見した事がある。
「お前ら、戦闘準備だけは整えとけ」
「うっす」
「あ、くっそ勝ち逃げかよ!」
「あぁぁ俺のストレートフラッシュが」
「うっせぇ!戦闘準備命令が先だ、この勝負は無効だっての!」
馬車が荒野を進み、傾斜を登り切ると、その少し先には無数のロックゴーレムが居た。
「おぉ……これは凄い」
「おいクロード。魔法で先制攻撃の爆撃出来るか?」
「この角度から撃ったら全てがリンクしかねません。かといって爆撃魔法は範囲の関係で釣りには向きませんし、消費魔力量から回数が限られるので……」
「……そら、そうだな」
そこにいるロックゴーレムは、目視できるあけで30を軽く超える。あるいは、40か。50か。
「……あそこにあるでけぇ岩山。アレを背にすれば包囲は防げるんじゃねぇか?」
「なるほど。それは確かに良い考えですね」
リーダーが指さしたのは、数十メートル四方の岩壁だった。
ロックゴーレムの索敵範囲に入らないよう、慎重に大回りをしてその岩壁へと馬車を向かわせていく。
シンシアは唐突に、そこから先には行きたくない恐怖心に襲われる。
そこに辿り着いたらシンシアの苦手なロックゴーレムとの戦いが始まってしまうから、単純にそれに対する恐怖かと自己分析するが、妙な胸騒ぎが止まらない。
果たして、馬車は一匹のロックゴーレムに気付かれる事も無く岩陰に隠す事に成功した。
何事も起こらなかった事に、シンシアは言い知れぬ不安が杞憂だった事に安堵する。
「そんじゃぁ、まぁ……この辺を防衛線にするか?」
「異議無し」
昨日は囲まれた状態から事故が起きても戦線維持出来るようシンシアは後詰めで待機させられていたが、今日は総力戦になる。シンシアは、腰の剣はそのままに【黒天狼】の馬車に積まれた共有武器のメイスを手に握っていた。
「うっし。正面からしか敵は来ねぇ。ぶつかり合えば魔術師部隊がある分こっちが有利だ」
リーダーが作戦……というにはあまりにシンプル過ぎるが、とにかく確認をする。
「クロード。やれ」
「はい。範囲火炎爆撃合わせ!3、2、1……火炎爆破!」
どおおぉぉぉぉん、という爆発音。
地面が揺れるかのようなその爆撃に、5体か6体かのロックゴーレムが砕け、その数倍のロックゴーレムが【黒天狼】に気付き、襲い掛かってくる。
「範囲暴風爆撃合わせ!3、2、1……旋風爆破!」
その戦闘態勢に入ったロックゴーレムの群を前後で割るように、数匹を暴風で巻き上げその自然落下の衝撃で別のロックゴーレムと潰し合わす。
初撃は純粋な破壊狙いだが、ニ撃目はリンクしたロックゴーレムの『足止め』の為の発射。これで、一度に相手をする必要のあるゴーレムは大幅に減少する。
「掛かれえぇぇぇぇぇぇぇ!」
リーダーの激に、うおぉぉと鬨の声をあげながら、【黒天狼】の男達がロックゴーレムに突っ込んでいく。
それぞれがそれぞれに《武器魔力付与》と《身体能力強化》の発動準備をしながらゴーレムへ向かう所を、シンシアは瞬時に発動させた《身体能力強化》で一人だけ突出し、ゴーレムの振り降ろす拳を避けてメイスで殴りつける。
そのまま、その隣にいるロックゴーレムを殴りつけると、メイスはその時点で折れ曲がってしまった。シンシアは舌打ちを一つ残し、【黒天狼】の仲間達の後ろへと戻る。
ロックゴーレムと【黒天狼】の接触の瞬間、ランドガーがシンシアのみを追いかけていた無防備なロックゴーレムの二匹を、両方ともすれ違いざまに斬り捨てる。
囮無しでもロックゴーレムを圧倒できるリーダーを筆頭に、【黒天狼】のメンバー達は接敵の瞬間に必殺の一撃を解放できるよう精神統一を終えていた事もあり、ロックゴーレムの第一波は事も無げに退ける。
そして旋風爆破で足止めされていた、第二波を待ちながらもう一度【黒天狼】のメンバーが精神統一を始めた瞬間。
ゴオオオオオォォォォォォォォォ!
地響きを立てて、背後から大きな音が聞こえた。
揺れる大地に困惑しながら背後を振り返った【黒天狼】の面々は、誰もが驚愕し、その精神統一は解かれてしまう。
ゴゴゴゴゴ、と地面を揺らしながら、通常のロックゴーレムの十倍以上、ちょっとした小山程の超巨大なロックゴーレムが起き上がろうとしている。
いざという時に囲まれないよう、背後を守る壁として使おうとした岩壁。
それが、超巨大なロックゴーレムとなり、今にも起き上がりそうになっている。
「嘘……だろ……」
普段は怖いものなど何も無いというような態度を崩したことなどない、【黒天狼】最強の戦士にしてパーティーのリーダーが、思わずその手に握っていた巨大ハンマーを落とした。
リーダーが震えている。それは明らかに武者震いではない。
位の程は解らないが、戦意を喪失したその恐怖が、【黒天狼】のメンバーに伝播していく。
Aランクのパーティーメンバーが、シンシアよりずっと強いはずの戦士達が、呆然と立ち尽くす。
ゴーレムの大群、その第一波を退けて高まっていた士気は何処かに消えてしまった。
当たり前だ。まるで御伽噺に出てくる岩の巨人。それこそ伝説の武器でもないと倒しようがない程、絶望的な敵が起き上がろうとしているのだ。
シンシアは、心臓の音が耳に聞こえる程高まるのを感じていた。
自分は、この超巨大ゴーレムに立ち向かうのは無理だと思った。
ただのゴーレムにすら攻撃を通せないのだから、戦いにならない。
足手まといにしか、ならない。
だけど、【黒天狼】の皆なら、岩を斬る事も出来る。
あの超巨大ゴーレムを相手に、ダメージを与えられる。
でも、自分には出来ない。出来る事があるとすれば――
シンシアはぐっと歯を食いしばると、折れ曲がったメイスを投げ捨てて疾風のような速さでリーダーの元へ走り、その手からこぼれたハンマーを持ち上げて奪った。
……重たい。全身の《身体能力強化》を引き上げる。
「てめ、何しやが……」
「これ貸してください!そしたら背後は私が全部引き付けます!その間に全員でアレを切り崩して!」
言うが早いか、シンシアは通常サイズのロックゴーレムの群に向かって走り、巨大ハンマーを叩きつける。
小柄なシンシアには振り回すのでせいいっぱいのハンマーでは、ダメージらしいダメージは与えられないが、それでもハンマーの重さから、揺るがして倒れさせる事くらいは出来る。
重たい獲物は握った事が無い。それでも、2匹、3匹と次々にシンシアは新しいゴーレムを殴っていく。
シンシアは既に何度か試し、経験し、学習している。
ロックゴーレムは、自身を攻撃をした対象に執着する。
ならば、全てのロックゴーレムを自分が殴って抱え込んでしまえば、【黒天狼】のメンバー達はあの超巨大ゴーレムに対して背後を気にせず戦う事が出来る。
数匹のロックゴーレムに追われながらも、シンシアはまた新たなゴーレムに襲い掛かる。
目算で40を超える量。
――その全てを、自分が抑え続けさえすれば!――
「な……アイツ、何しやがんだ……くそっ!おいテメェら!ブルってんじゃねぇぞ!」
リーダーは絶望的な戦局を前にしたシンシアの奮闘に、激を飛ばす。
「てめぇら膝だ!とにかく片足を潰せ!まだコイツは起き上がってる最中だ、ハイハイ歩きしかしてねぇ、立ち上がられたら終わるぞ!地面に縛り付けろ!あとは……ランドガー!ボガード!お前らシンシアに群がる奴を斬っとけ!がら空きの背中晒してぶった斬られるのを待ってるボロい戦果だぞ!クロード!てめぇは腕だ!足と腕一本ずつ奪えば勝ち目がある!」
「りょ……了解!一点特化爆炎術式合わせ!左腕、肩部構え!3、2、1……火炎爆破!」
「てめぇら行くぞおおおぉぉぉぉぉ!」
うおぉぉぉ、と【黒天狼】の男達が雄叫びをあげる。
武器を失ったリーダーは、先に馬車の中に入り、予備のハンマーを引っ張り出す。
特注の《武器魔力付与》の掛かった武器をシンシアに持っていかれてしまったのは痛いが、逆に普通の武器をシンシアに持たせたら背後で暴れるシンシアの武器がいつ壊れるか分かったものではない。
クロードの魔術師隊の支援爆撃、リーダーの激の直後、うおぉぉと鬨の声が上がった事だけは、シンシアにも把握出来た。
殴ったロックゴーレムが5匹に達した所で、シンシアは唸りを上げる剛腕の網をすり抜けて距離を取り、一瞬の逃走。
その間にただ無差別に暴れるゴーレムと明確に仲間を狙う意図で動いているゴーレムを識別し、狙いを定め自らを矢のように駆けて殴り揺るがし、すぐに自分を狙っているゴーレム達の元へ走る。
離れすぎると、ゴーレム達は無作為に【黒天狼】の仲間を襲い始めてしまう。
ゴーレムの打ち下ろしを右に飛んで躱す。
打ち下ろしを見舞ってきたゴーレムの背後、シンシアの死角にいた個体が剛腕を振るい、真横に薙いで来る。
「――っ!」
間一髪、背中から倒れ込むようにして躱す。遅れてついてくる髪の毛の先が数本、引きちぎられる。
豪快なラリアットをかましてきたゴーレムは前方に居たゴーレムを巻き込んで派手に倒れ込む。
なんとか躱したと思ったら、今度は別の個体が足を高く上げてシンシアを踏みつけようとする動きに入る。
ハンマーを抱えたままごろんごろんと転がって、間一髪そのストンピングも回避し、飛び跳ねるようにして立ち上がる。
(ゴーレムに傷一つ付けられない私が囮として全ての気を引くくらいの事が出来なきゃ、私はただの足手まといだ!)
数匹のロックゴーレムを引き連れてつかず離れずの防戦――いや、回避戦。
純粋な『力』の差がありすぎて、《身体硬度強化》越しにでも喰らえば、一撃で継戦能力は失われてしまう。
ただの一度の『防御』ですら許されない。被弾などもってのほかだ。
息が上がる。胸が苦しい。それらも無理矢理《身体能力強化》による心肺機能の強化で誤魔化す。あとで酷い反動の発作が来るだろう。
だけど、今戦わなきゃ、どの道超巨大ゴーレムとの戦いに横槍を入れられた時点で、【黒天狼】の仲間達がやられてしまうだろう。
「あああぁぁぁぁぁぁ!」
シンシアはあえてゴーレム達のひしめき合う、致命の一撃の網が張られた包囲の中に飛び込んだ。
持ち慣れない重たい獲物を手に、一発でも受けたら致命の一撃が全方位から飛んでくるのを躱し続けるという極限状態。
なおかつその状況下で新たな敵を殴りつけて退路を自ら削っていく――という、殆ど自殺と変わらないような死線を駆け抜けていく。
研ぎ澄まされた感覚が、視界の外にあるはずのロックゴーレムの攻撃さえ教えてくれる。
あえてゴーレムの群れの中に完全に飛び込んだシンシアを救う為に、ランドガーとボガードは精神統一からの会心の一撃を繰り返し、一匹ずつ、ロックゴーレムを倒していく。
超巨大ゴーレムを前にした【黒天狼(黒天狼)】の面々は、入れ替わり立ち代わり巨大な右膝を削り、左腕を爆撃していた。
その攻撃は、効果が無かったわけではない。だが、時間が足りなかった。
徐々に、徐々に起き上がり、リーダー達は攻撃を当てるのも難しくなってくる。
(クソッ……ここまでかよ!)
ついに立ち上がってしまった超巨大ゴーレムに、立ち向かっていた【黒天狼】の面々、誰もが深い絶望に飲まれ掛けたその時。
何処か遠くから放たれた真っ赤な光が超巨大ゴーレムの腹を貫き、一瞬で腹に巨大な風穴を空けられたソレはゆっくりと地面に向かって倒れていく。
「た……退避ー!」
リーダーの叫ぶような声に、【黒天狼】のメンバーは皆、一様に距離を取り。
ズウウウウウゥン……
巨大な振動と共に、超巨大ゴーレムは倒れた。
その衝撃で大地は揺れ、半ばまで破損していた右膝、左肩より先がそのばきりと崩れる。
「た……倒した……?」
「何だ、さっきの光……?」
困惑する面々に、リーダーは怒鳴りつけた。
「助太刀か何か知らんが、それは後だ!まだシンシアが戦ってるだろうが!ロックゴーレムを潰しに行くぞ!」
◆◆◆
結局、シンシアには超巨大ロックゴーレムが如何にして倒されたか、その一連の流れはわからなかった。
目の前の敵から身を躱し、もはやどれが殴っていないロックゴーレムかもわからずただ暴れ続けていたシンシアに、よそ見をする余裕など全く無かったからだ。
超巨大ロックゴーレムの沈黙後、通常のロックゴーレムの群を潰しきってシンシアが救出された――と表現した方が正しい――時、シンシアはその後数秒間はロックゴーレムを探して周囲に首を振り続け、生還したと気付くや否や糸の切れた人形のようにばたん、と倒れ込んで気を失ったのだ。
「ぅ……ぁ……あれぇ……?」
シンシアが目を覚ますと、マントに包まれて、クロードにお姫様のように抱き上げられていた。手足も満足に動かせない。
「……あぁ、おはよう。急性魔素欠乏症……だな。限界を超えて身体強化を使い過ぎたんだ。ほら、見てごらん」
クロードが体の向きを変え、揺さ振る形でシンシアの視線を促す。
その先には、首と左肩と右膝から先を失い、その他体中を抉り取られた超巨大ロックゴーレムの姿があった。
数人の戦士たちがその体……胸元を背中側から工事現場のように掘り進めている。
「わぁ……すごい……」
「あれだけ大きいロックゴーレムの核だ、市場価格は幾らだろうか」
「さぁ、わからん。少なくとも全員の装備を新調して釣りが出らぁな」
……装備。
「あ、あの……リーダー、ごめんなさい……その……ハンマー……」
「おう」
使っている最中に気付いていたが、自動で多少の魔力強化が編み込まれていたリーダーの特殊武器のハンマーは、それでも完全無強化で振り回された反動で所々欠けて砕けて、見る影も無かった。
リーダーは頭をボリボリとかくと、超巨大ゴーレムの掘削作業に取り掛かりに行った。
「シンシア、気にしなくて良い。リーダーも装備をもっと上等な物に買い替える口実が出来て内心喜んでいるはずだ」
「そ、そうなのかな……あの……ところで、クロード……」
「何?」
「……恥ずかしい……降ろして……」
シンシアは、未だクロードにお姫様抱っこされたままだった。
シンシアの主観だとクロードは穏やかそうな顔をしていて格好良いし、ハンサムだし、近くで顔を見ると少しドキドキしてしまう。
そのドキドキが伝わってしまうのではないかと不安で、仕方がない。
「駄目。シンシアちゃんは今、魔物どころか小型の野生動物一匹にも抵抗出来ない身だ。大人しく抱かれている事。良いね?」
「う~……!」
シンシアはまんざらでもない情況に否定も出来ず、ただうなった。
◆◆◆
「……まぁ、事故です事故。アレは仕方のない事だったのです」
ロックゴーレムからゴーレムコアの掘削作業をしている男達を双眼鏡で眺めながら、少女は独り言を呟いていた。
「監視任務で監視対象の全滅とか、私の査定がシャレになりません。武力介入もやむなしです。なので私が悪くないです。強いて言うなら……悪いのは誰ですかね」
少女は、うーんとうなる。
「順当に考えたら、馬鹿げた大きさのゴーレムを使って人を襲った犯人ですね。何ですかあのゴーレム。たかが岩のゴーレムで竜でも相手にするつもりだったんですかね。人に向けるとは過剰戦力も良い所です」
少女はその紅い瞳を閉じて、無詠唱で一つの魔法の術式を起動する。
真っ赤な魔法陣が少女を中心に展開され、それがぶわっと視界の果てまで広がっていく……
「……周囲十キロ圏内には他の人間の反応は無し……マジですかー……遠隔操作でコレですかー……どう考えても伝説級道具案件じゃないですか。普通のSランク大幅に超えてますよこれ。最悪です。ロックゴーレム無限湧き地獄とか、この辺りはもう封鎖区域確定です。最悪です」
ころん、と寝転がった少女は、そのプラチナのようにきらびやかな銀髪の先を指でいじくりながら、手帳に幾つかの懸案事項を書き記す。
「危機管理力に欠ける【黒天狼】はBに降格。超巨大ゴーレムを相手の私の援護射撃。遠隔操作能力の半端ないゴーレム使い、絶対に伝説級道具持ちで犯罪傾向有」
そして。
「シンシア=アドモスティア。やっぱり初めて目にした時に私がヘッドハントするべきでしたね。なんですかあの暴れよう。バーサーカーですか。ギルド管理協会にもあんな戦闘狂は見た事無いですよ……?」
あの子はどうにかしてこっち側に欲しい。
少女は、数十匹のロックゴーレムを相手に一度の被弾も無く全てを殴り、仲間を守り切った化け物のような少女の活躍を反芻していた。
面白かったよ!とか
続きが気になるよ!とか
思ってくれたら嬉しいんだけどそう思ってくれたことを伝えてくれるともっと嬉しいので
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして下さったら大喜びです。
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