4-1.後の彼女は暗殺という行為とチェスのルールの親和性を語ったという。
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
三人一組の一党が、エルピス西部の洞窟を調査していた。
暗殺者然とした男女が一組と、その二人と共にいる事が不釣り合いな程に美しい鎧に身を包んだ、騎士然とした男……クレストその人だった。
その三人が険しい顔で見分しているのは、シンシアとフレアの二人が潰した旧山賊の根城だ。
「…………で?」
周囲を調査していたクレストに、不機嫌さを隠す素振りすら見えない暗殺者然とした短髪、黒髪の女が声を掛ける。
「いや、参ったね。ギルド管理協会の動きの速さが尋常でない」
「……私が使うはずだった伝説級道具が、山賊ごときに奪われて? それがよりにもよってギルド管理協会に横取りされたっていうの? 貴方、申し開きはそれだけ?」
女はギリリ、と歯を喰いしばる。
「そうも言ってくれるな、どちらも私達にとっては想定外の出来事なんだ……しかし、かなりの大物が釣れた。間違いなくこれは灼熱皇女の仕業だ」
「げっ、よりにもよってネームドかよ……どういう奴だ?」
もう一人の男……マスクと頭巾で顔を殆ど隠し、手元もマントで隠した男が『その綽名』に反応を返す。
「ギルド管理協会随一の劇薬。処刑人。火葬卿。不老不死の魔女。私達の中では様々な呼び名があるが、灼熱皇女というのは彼女の一番通りの良い名だ。見た目は10歳前後のアルビノの美しい幼子で、用いる戦闘手段は炎と熱に纏わる《魔力放出》のみ……何かしらの伝説級道具の使い手だ。そうでもないとあの強さ……オーバーSランクと言えば伝わるだろうか……は、説明がつかないからね」
「オーバーS……そんなガキんちょが? マジっすか……?」
「あー……でも、ちょっといい?灼熱皇女様って私の記憶だと十年は昔に派手に貴方達とドンパチやらかして死んだはずじゃ?」
君は物知りだな、と前置きをして、暗殺者然とした女の問いにクレストは答える。
「灼熱皇女の死は我々のリストでも二度確認されている。多大な犠牲を払ったが、二度目は確実に殺した……報告によると十数本の刀剣類で突き刺し、彼女の死体が原型を留めぬ程燃やし尽くされる様を確認した、と。残念ながら、彼女の持つ伝説級道具は横槍が入って確保出来なかったがね」
「うへぇ、冗談だろぉ……?それはもう他人の空似とか死んだのが影武者だったとか、道具だけ受け継いだ別の使い手とかじゃねぇのか?」
「その可能性も考えられるが……私としては逆に灼熱皇女じゃなかった場合の方が困るね。この岩肌を見てくれ。この辺りだけ不自然に溶岩石のような気泡が出来ている……恐らくは、《魔力放出》が通じない相手に業を煮やし、伝説級道具によるマナ無散化出力限界を超える超高熱線で焼き払ったんだろう。人間相手にそこまで残虐な術式を使う、これほどまでの威力をはじき出す《魔力放出》の使い手がギルド管理協会の子飼いの中に他にも予備として埋もれていたのだとしたら、それこそ悪夢だよ。死を偽装する何らかの伝説級道具との併用を疑うべきだ。それを奪えたら我らは更なる高みへと行ける」
「……話が見えてきたわ。それで、私達ってワケ?」
「ん?どういう事だ?」
「理解が速くて助かるよ」
「いや解らん解らん」
「でも貴方、私の推理が正しければこの洞窟を調べる前から灼熱皇女に目星をつけてたって事になるんだけれど……?」
暗殺者の女は、話についていけていない相棒の口を指で塞ぎながら鎧の男に問いかける。
「いや、なに。ほんの何日か前にも私達はギルド管理協会に『してやられて』いてね。将来有望なゴーレム使いと彼に託した伝説級道具を失っているのだが……」
やれやれ、とクレストは肩をすくめる。
「彼の造ったと思しき全長三十メートルはあろうかというロックゴーレムの残骸が、どうにも熱線一つで崩壊したようにしか見えなくてね……ちょうど、この岸壁のように」
「へぇ……」
「すわ灼熱皇女の襲来かと、慌てて暗殺専門の君らを呼び寄せ、灼熱皇女を確実に倒す為の支給装備を運ぶ途中にアクシデントに遭い、気付けばそれをギルド管理協会側に奪われてしまっていた……いやはや面目ない」
「暗殺なら、殺せると踏んでいるの?」
「少なくとも、正面から戦うよりは成功率が高いだろうね」
「ふーん……」
「まー、俺もだいたい解ったけどよー」
男の方の暗殺者は、マスクで隠れたその下で、にやけ笑いを造りながら問う。
「別に、情況も手段もお構いなしで俺らの好きにやって良いんだよな?」
「白昼堂々、一般市民を盾にすれば仮に私達が返り討ちにあっても大虐殺の汚名はギルド管理協会のもの。本当、貴方達って良い性格してるわ」
「もちろんだとも。君たちの一番確実と思う方法を取ってくれ。私としては灼熱皇女の排除か彼女の伝説級道具、どちらか片方の結果を得るだけで相応の地位が得られる。もちろん君たちにもふさわしい報酬を約束しよう」
「そうこなくっちゃなぁ!えぇ、おい!」
「……そうね。前払いの報酬が無くなった分は?伝説級道具が無い分、私達は危険にさらされるわけよね?」
「灼熱皇女の詳細な情報は重大な機密事項でね。とはいえそれを公開した程度では相殺出来ないか……そうだな、これを渡しておこう」
「……指輪?これも伝説級道具?」
「いや……それそのものはせいぜいが、物語級道具といった所だろう」
「効果は?」
「伝え忘れていたのだがね。君たちの基準では戦力として期待出来ないだろうが、エルピス西部には伝説級道具を与えた協力者が居る。そちらに聞いて、実際に確かめてみた方が速いだろう」
「……ふぅん……」
「あの分だと私達が善意で伝えた異界化の秘術を熱心に磨いている事だろう……働き者のギルド管理協会なら、そろそろ異界深度の変化を察知して動き出す頃合いだ。君達に送る伝説級道具の話がご破算になってしまった事の失点埋めとして、上手く使ってくれ」
「……街中をギルド管理協会の実働部隊が練り歩くようになるってわけね。狙いやすくなって助かるわ」
「では、健闘を祈る」
先に去っていくクレストの背を、暗殺者二人は見送る。
「気味悪いなぁ。準備が良すぎるっつーか、掌の上で踊らされてる感じっつーか……」
「その割に貴重な伝説級道具の扱いが異常に杜撰過ぎる……彼らの中では私達が返り討ちに遭う事も含めて計画のうちよ。多分だけどね」
「ヒャハッ……面白ぇ。戦う事しか脳の無い猪どもに『暗殺』の怖さをとっくり教えてやるぁ……」
「頼りにしてるわよ」
二人は口付けを交わし、夜の闇に消えた。
◆◆◆
「むー……つまんない、つまんない、つまんないですー」
フレアはチェス台をひっくり返した。
夜長の暇を持て余していたフレアと一緒に遊ぶために宿のフロントからチェス道具一式を借りてきたのだが、フレアはあまりお気に召さなかったらしい。
「あー……せっかく私の勝つ流れだったのに」
「シンシア何回勝ったと思ってますか!? 駒の動かし方知ったばかりの素人に本気になって、恥ずかしくはないんですか!?」
シンシアは、たかがゲームにムキになるフレアの方がよほど恥ずかしい振る舞いをしているような気もするが、指摘したい気持ちをぐっと堪える。
「えー……でも、最初の方で露骨に手加減したらすごく怒ったし……」
「当然です! わざと詰まれに来るキングを取るのはただの作業と同じです! つまりません!」
「うーん」
「私は本気で戦うシンシアを相手に適度に苦戦して、互角の戦いを演出した末にシンシアのキングを取りたいんですー!」
フレアは椅子に座ったまま、じたばたと暴れる。
「まぁ、気持ちはわかるんだけど……」
「というわけでシンシアのルークとビショップとクイーンを奪ってから再戦しましょう」
「え……それ無しでどう戦えと……?」
「シンシアはナイトっぽいのでナイトは残してあげます」
「ありがとう。ついでにクイーンも返して。私女の子」
「嫌ですー。さっきからシンシアのクイーンはえげつなく強いので嫌ですー。余裕しゃくしゃくに私を打ち負かすのは許せません。私はシンシアが必死になって戦いながら悔しい顔をしてる様をみたいんですー」
「すごく性格の悪そうな事を言うね……」
もはや勝利が約束された領域で始まる戦いに、フレアはご機嫌だ。
何せポーン以外はキングとナイトのみのシンシア陣営はスカスカだからだ。
これで勝てない方がどうかしている。
(……まぁ、フレアがこれで満足するならそれでいっか……)
ぱち、ぱち、とお互いの駒が目まぐるしく動いていく。
圧倒的劣勢のシンシアに、フレアは先ほどより雑な攻め方で蹂躙してくる。
ようするに慢心している。
「……あ。ポーンが端まで辿り着いた。プロモーションでこのポーンはクイーンね」
シンシアはフレアの取り駒にしていたクイーンを取ると、端のポーンと入れ替えた。
「なんですかそれ? シンシア何しましたか?」
「最初に説明したんだけど、フレア忘れちゃった?いちばん奥まで進んだポーンは好きな駒になれるの。だからクイーンに成るね」
「そ、そんな……」
「クイーンで睨みを利かせれば……んー……」
「ぐ……ぐぬぬ……」
ぱち、ぱちとお互いに手を進めていく。
シンシアは元々、玉砕戦術で無理矢理にポーンを成らせただけだ。そこから先の戦いはあまり考えていなかった。
クイーンに成った駒をひとしきり暴れさせて一矢報いたが、いかんせん他の駒が無ければどうにもならない。
「うーん……健闘したけど、流石にここが限界かなぁ。リザイン。降参。負けました」
「なんでですか!? 私チェックって言ってないです! チェックメイトって言いたい!」
「えぇー……」
降参、不許可。謎の続行。
割と本気目の抵抗をしたクイーンも討ち取られ、ポーンも一騎ずつ奪われていく。
「完全に詰みが見えてるのに何でそのポーンを取りに行くかな……?」
「シンシアを守る兵士を皆殺しにしたいだけです」
「王様無視して目先の兵士を取っちゃうかー……」
あわれ、シンシアのポーンは全滅してキング一つきりになってしまう。
フレアが楽しそうに駒を動かすたびにシンシアはキングを左右に動かしてフレアのチェックを待つ。
「ふっふっふ……出来ました!ポーンをプロ……プロポーション?でクイーンにします!」
「プロモーションね」
「プロモーションでクイーンにします!」
フレアは覚えたてのルールをウッキウキで使う。
シンシアが適当にキングを右に動かすと、フレアはまた新たなポーンを前に出し始めた。
「あー……フレアってそういう事しちゃう系の子なんだ……」
「プロモーションたのしい」
「そっか」
その後たっぷり時間を掛けて、シンシアがキングを左右に動かすたびにじわじわとクイーンが量産されていき、ついに残った全てのポーンがクイーンという情況になってしまう。
逆に狙ってクイーンを複数造りながら詰み筋にしない方が難しいと思うが、フレアは心底楽し気に量産されたクイーンのうち一つを動かす。
「チェックメイト!」
「はい。ありません」
戦場は完全にクイーンに支配されている。酷い光景だ。
「楽しかったです」
「良かったね」
「…………違います!シンシアの苦戦顔、見れてません!」
「そうだね。どっちかというとフレアの方が序盤中盤謎に苦戦顔さらしてたよね」
「むうぅ……やっぱりチェスはつまりません!カードの方がつまります!」
「二人でカードは……まぁ、いっか。じゃぁ明日はカードにしようね」
シンシアはチェス盤の中に駒を一つずつ片付けていく。
「他に兵士が幾ついても、王を狩り取ればおしまい……だなんて、ボードゲームはしょせんボードゲームです」
「そうなの?」
「王様が死んだら次の王様が出てきます。敵兵、特に敵将は完膚なきまでに叩かなきゃ戦争は終わりません」
悟ってるような事言っちゃうなぁ、とシンシアは思った。
今の流れでフレアに何を言われてしまっても、負け惜しみにしか聞こえないのはとても悲しい事だ。
「私は『一番大事なもの』さえ守りきって条件を満たせば勝ち、それを守れなければ即負けっていうルールは好きなんだけどなー」
「一番大事な物、ですか……」
フレアは、ぼふんとベッドの上にダイブして、はふーと一息ついた。
「自分の命ですかね」
「そういうのは、ある事前提にしとこ?」
「頭の普段使わない部分を使ったので疲れました。フレアちゃんはもうおねむです」
「はい、おやすみ」
「なでなで付きの添い寝を所望します。罰ゲームです」
「あれあれ?知らない間に罰ゲームが追加されちゃった?」
「最後に勝ったので今思いつきました」
「……まぁ、良いけど。普段からしてる事だし」
二人はカップル向けの大きなベッドの部屋に宿泊しているから、寝る時はいつも二人一緒だ。
普段より寝る体制に入るには少し早いが、まあいいかとフレアの隣で横になる。
「おやすみですー」
「おやすみなさい」
一番大事な物。昔はぬいぐるみで、お人形さんと経由してお兄様だった事があるのは覚えている。
いつしかそれが剣になったり恋愛小説になったり、やっぱり剣になったりしたけれど。
(今の私が一番大事な物は……やっぱり、フレアかな……)
シンシアはフレアの頭を撫でながら、幸せいっぱいに瞳を閉じた。
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