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追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
3章ーその時点ではまだ自分の狂気に気付いてはいなかった、と彼女は言った。
24/33

3-9.彼女の才覚は単純な剣腕とは別の所にあった、と彼女は語ったという.txt

10/13 全体に大幅改稿を行いました。


 人を斬った。


 それはいつか経験する事になるとは思っていた。

 実際、ニアミスリルのゴーレム鎧との戦いで中に人が入っている鎧を斬って、少なからず手傷を与えた。


 だから初めての経験ではない。

 なのに、まるで初めての事のように感じている自分に、シンシアは自己嫌悪に陥っていた。


 山賊を無力化する為に斬り捨てた。

 門番に関しては、制圧目的でいたら苦戦していたのを、『斬ろう』と覚悟を決めた瞬間、視界が開けて身体が軽くなった。剣で戦っているのに、傷つけるのを恐れて及び腰で戦っていたのだから、当然だったかもしれない。

 『技量の差』があったから、浅く斬りつけるだけで終わった。


 斧でフレアを斬りつけた男に対しては――『死ぬなら死ね』と殺意を持って、剣を振るった。

 『魔剣』を使って両腕を奪った時点で脅威ではなくなったのに、自然と身体が動いて必要以上の追い打ちを与えた。

 それは単なる『復讐』なのではないか。

 あの時の自分は、殺意に塗れていた。


 フレアを危険に晒した自分も許せなかった。


 フレアは結果的に死ななかっただけだ。『フレアが無事でよかった』だなんて結果論で終わらせられる話じゃないのは、当然の事だ。

 もしフレアが普通の人間なら、あの斧による一撃で、あっけなく死んでいた。


 シンシアは人質として突入するなら、『自分なら縄で拘束されても《身体能力強化パワード》で引き千切れる』から自分の方が適任だったと思っていた。

 縄で縛った程度では、自分を含め高位の《身体能力強化パワード》の使い手は捕縛出来ないという判断材料を持っていながら、山賊を縄で縛っただけで安心していた。


 フレアの言う通り、それこそ手足の骨くらいは折っておかなくては敵の捕縛など縄では出来たものではなかった。


 シンシアは自身の考えの甘さに、何重にも重なる自分の失態で自己嫌悪に陥り、死んでしまいたくなっていた。


 弱い自分が敵を捕らえる為にするべき最善は、捕縛行為よりその前段階に抵抗すら考えられなくなる程に痛めつける事。


 その程度の事に躊躇するようでは、この先自分の身を守る事も出来ないし、フレアも守れない。フレアと一緒にいる事は出来ない。


 あまりにも冗談のようにあっけらかんとしているフレアに、つい、シンシアは流されてしまっていたけれど、『初めて経験する身近な人の死』の感触は思い出すだけで吐き気がする程に苦しく、辛いものだった。


 その感情を二度と味わいたくない。誰にもフレアを傷つけさせはしない。

 シンシアは自分がフレアとは比較にならない程に弱い事を解っていながら、決意を新たにする。


 そこに、ノックもせずに、がちゃんと音を立てて鍵を開け、フレアが帰ってきた。


「ただいまですー」


 てってって、と走ってきたフレアは、ベッドに向かってダイブした。


「つかれましたー」


 ベッドに突っ伏して足をぶんぶか振るフレアの傍らに腰かけて、シンシアはフレアの髪を撫でる。


「……♪」


 フレアは、シンシアが自分を子供に見立てて、保護者ぶる事で心のバランスを保っている節がある事は既に看破しているし、その行為に依存している事も分析している。


 だから、今日もフレアは駄々をこねるようにシンシアを困らせる。


「カルネにおこられたー!」


 ぶうぶうとフレアは文句を言う。


「あぁ、やっぱり、あの……『禁呪』っていうのは……」


「まぁ、不老不死とか究極の禁呪ですしね。知られる相手によっては国が動いて戦争に発展するものですし」


「……それでよく、フレアはギルド管理協会フリューゲルの実働部隊なんてやらせてもらえるね……もし私が偉い人だったら……」


「それ以上考えない方が良いですー。高名らしき研究者達が次々に謎の焼死を遂げる研究は凍結されてしかるべきなので」


「……なるほど」


 フレアはシンシアの勘所の鋭さ、利口さに舌を巻く。

 不老不死を利用した使い減りの無い戦力、抵抗してくる危険物押収班としての運用はギルド管理協会フリューゲルにとってはの次善の……というより苦肉の策。

 そこに疑問を抱ける程度の教養と判断力があるだけでも、フレアにとってシンシアはお気に入りのオモチャとしてそばに置いておく理由になるというものだ。


 それに今回の件から逆算して、シンシアはフレアにとって切り札にもなり得る。


 シンシアの為に組み直し始めた《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》の術式はまだ完成の輪郭すら見えないが、フレアの《魔力放出リリース》が全て無力化されてしまう事態を想定したら『切っても良い方の切り札』の一つに採用せざるを得ない。


 故に彼女はフレアが禁呪で死んだり生き返ったりする『程度の事』で挫けてしまっては困るし、『その程度の事』で壊れてしまっても困る。


 フレアはシンシアに甘えて、彼女の思考の誘導を試みる。


 これまで組まされた事のある『仲間』という言葉で称される他人は、誰もかれもがフレアを侮り、お荷物として侮蔑し、なんなら敵意さえ向けてきた。

 結局彼ら、あるいは彼女らはほぼ全員が死んでいった。


 それと比べるとシンシアは、そこそこの力がある癖にその自覚が足りず、それ故に未熟者で、だからこそフレアに心を開いているように見える。

 ほんのわずかな期間の付き合いしかないのに警戒の気配も無く、親愛の情しか向けてこない彼女の精神性が少々不気味ではあるが……その辺りは彼女が持つ、異常に鋭敏な第六感のせいなのだろうか?

 フレアにとってシンシアのような未熟なお子様は警戒が必要な対象ですらないし、別に彼女を利用してどうこうという野心も無い。彼女の実家には個人的な恨みこそあるが、せいぜいがその程度。

 恐らくは彼女の第六感も、身内の功績で貴族に召し上げられた商家を巡る骨肉の争いを幼い頃から目にしてきた中で『望まぬうちに得てしまった』技術なのだろう。


 そんな彼女と一緒にいる事はフレアにとって新鮮な感情が湧くものでもあった。

 押し付けられた子守りも、子守られも、そう悪いものばかりではない。


(……仲間というのがシンシアみたいなものを指すものなら、それも案外アリかもしれないですね……)



◆◆◆



「私は気付いたんですけど、シンシア」


 唐突に虚空を見つめ始めたフレアが帰ってきて一番に言った。


「なあに?フレア」


 シンシアも、もはやフレアの『考える』行為には疑問を挟む事すらない。


「結局、一日中一緒じゃありませんでした」


「……まだそれを引っ張るんだ……先に言っておくけど明日はダメだよ?流石に2日連続でリュエンさんの所をお休みするわけにいかないし。そんなに暇で寂しいなら一緒に来ない?」


「墓地は好きません」


 フレアは、ぷいっと視線を逸らす。

 シンシアは、それがなんだかとてもかわいく思えて、ついフレアを良い子良い子してしまう。


「それより宝玉を出してください。使ったらすぐに魔法を込めないといけません」


「ありがとう、2個使ったよ」


 フレアはシンシアから2つの宝玉を受け取り、一つずつもにょもにょと術と魔力を込めていく……


「ねぇフレア、ちょっと気になってるんだけど、それって具体的にはどんな効果なの? なるだけ具体的に知っておきたくて」


「前に言った通り、簡易的な《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》ですよー。《対炎熱防御アンチファイヤプロテクト》を纏わせて守りつつ、《灼熱融解フレアメルト》という超高熱を生み出す魔法を《炎熱固定フレイムセット》という炎の質量化魔法で固定してます。つまり複合魔法なんですよね」


「そっかー……今回、手持ちの剣が全部ダメになって宝玉1つ残ったわけだけど、その宝玉を握って《着火バースト》して殴ったらどうなるの?」


「……怖い事考えますねシンシア。《対炎熱防御アンチファイヤプロテクト》より《灼熱融解フレアメルト》の方が圧倒的に効果が高いので、もしそんな事したらシンシアのおててがその炎に焼かれてナイナイしちゃいます」


「そっかー……普段から使っても手元は全く熱くないのに、刀身だけ溶けて落ちるから疑問に思ってたんだ」


「……淡々としてますね。せめて、ぞわっとしたりするくらいは無いんですか?」


「? してるよ。やらなきゃいいんだよね」


「……一応言っておきますと、この宝玉の魔力は発動させられる時点でシンシアにも操作が出来るはずなんです。なので理論上は、操作を誤ると剣を握っていてなおその炎で自分の身を焼く事も考えられます」


「じゃぁ、逆に完璧に使えるようになれば素手でも使える?」


「……シンシアは自分の手が消し炭になるのが怖くないんですか……? 絶対試さないで下さいね? 一応、理論上は不可能じゃないですけど……」


「…………操作が出来るって事なら、いざとなったら私の《魔力放出リリース》として発射する事も出来る?」


「…………え?」


 フレアが想定外の問いに絶句し、問い直す。


「やっぱりそれも無理かな?」


「いや……えっと……待って下さいね……?」


 シンシアの事を、信じられないものを見つめる目でフレアは見つめる。


「どういう発想しましたか? シンシア馬鹿ですか? それとも天才ですか?」


「えー……?」


「……肯定します。シンシアの中で強いイメージさえ保てれば、《魔力放出リリース》としても使える可能性はあります。威力に関しては……通常の《着火バースト》から考えて下さい」


「……わかった。ひとまず、その使い方は封印って事だね。そもそも使う相手もいない、と……」


 フレアは険しい顔をしてシンシアに言う。


「……シンシアは何を考えてるんですかね……本当に、何を考えましたかね……」


「いや……宝玉だけ残った時に、有効活用できないかなって……」


「想定外すぎます。そもそもシンシアは《魔力放出リリース》はおろか、《武器魔力付与ウェポンプロテクト》の感覚すら知らないんです。禁止ですからね」


「はーい」


 シンシアに宝玉を手渡しながら、フレアは身震いするのを抑えられなかった。


 宝玉に関してはたった一斬で効果の切れてしまう、簡易的な《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》としてフレアに渡したものだ。


 効果の実検も何もかも、『《武器魔力付与ウェポンプロテクト》が使えない欠点を埋める補助道具として』渡したものだ。

 それを、『手持ちの剣が尽きたから』というだけの理由で《魔力放出リリース》としての運用に気付くとは。


(……普通、そうなりますか?魔剣としての運用で満足するものなのでは……?)


 剣士として優れたシンシアが、回数制限付きとはいえ《魔剣》と《魔力放出リリース》の択一利用……それが大成すれば、シンシアは死角を完全に消せる可能性も出てくる。


「……シンシアはもしかしたら、本当にとんでもない子になれるかもしれませんね……」


「……?」


 シンシアは何を言われているのかもよく解っていないような顔をしている。

 フレアは、今はまだ未熟なシンシアの末恐ろしさに心強さすら覚えた。


 ――本当に、この娘をこちら側に引き入れたのは正解だった。


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