3-8.彼女が狂戦士となっていったのは多分この辺りが発端だ、と彼女は言った
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
時間が、妙にゆっくりと進んでいた。
フレアは腹から胸までにかけてひどく流血させながら、ひらひらと高い木から落ちる花びらのようにゆっくりと、時間をかけて地面に叩きつけられた。
「―――――――――!」
シンシアは、何か喋った。
それはおよそ言葉とは扱われないたぐいの、威嚇音だった。
剣を抜き放ち、フレアの血に染まった斧を手にした男に迫る。
キィン、と一閃。
瞬時に《身体硬度強化》を使われたのだろう、シンシアの安物の剣は真ん中から真っ二つに折れた。
もとより、剣と斧とを打ち合わせて剣の方が平気でいられるわけがない。
冷静さを失ったシンシアのミスだ。
「ふん……俺様達を舐めた事をするから、そうなるんだ!」
フレアに延々と痛めつけられていた山賊の大男は吐き捨てた。
シンシアは、『全身の骨を余す所なく砕く程度の事はしなくちゃ危険です』というフレアの言葉を思い出した。
――あぁ。
私は何度同じ事を繰り返すんだ、『敵』を相手に侮って、躊躇して、気遣って、その結果フレアを傷つけて。
頭の中が急激に、冷徹になっていくのをシンシアは感じていた。
シンシアは二本目の剣を抜き放ち、折られた剣は捨てた。
剣の中で宝玉を握り込む。
「剣を何本出しても無駄だ!全部折ってそっちのガキと同じ目に合わせてやる!」
男が迫り、シンシアの剣と男の斧が撃ち合わされる瞬間。
「《着火》!」
シンシアの振り抜いた剣が深紅に煌めき、その赤熱に晒された斧は一合で《身体硬度強化》も何も関係無しに焼き切られ、勢いよく振られたその破片が慣性の法則のままに、シンシアの頭の上空を飛んで行った。
「……は?」
ぶぉん、と半分以上失われた斧に男が呆けている間に、シンシアは最後の一本の剣を抜き放って別の宝玉を手に握り直す。
迫るシンシアと寸前の『魔剣』に怯えた男は、その迫力に『ひぃ』と悲鳴を上げるが……容赦は、しない。
「《着火》」
淡々と、シンシアは『魔剣』を発動させ、男の両腕を叩き切った。
ただ斬りかかるんじゃ、もしかしたら高度な《身体硬度強化》を使われて防がれるかもしれない。。
その場合、長期戦になり得る。そういった可能性すら排除したかった。
「ぎゃああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男の両腕は肘より先が両方とも失われ、切断面は一瞬の灼熱で炭化までしていた。
初めて人に向けて放った『魔剣』の威力に戦慄するが、自分がそれを使った事実にはどこか他人事のような感傷しか湧かない。
この男は、フレアを斬ったのだ。ならば、この程度の目に遭うのは当然だ。むしろ……まだ、足りない。
シンシアは手持ちの剣を全て失ったが、近くに立てかけてあった山賊達の武器の中から手頃な剣を選んで悶えている男を突き刺す。
「ぐおぉ!?」
そのまま、切り上げた。
「おっ!あぁぁっ!」
汚い血が飛び散る。
男はもはや戦闘どころではない。地面に転がりながら無い腕で腹の傷を抑えようとうごめく、肉塊か何かのようにしかシンシアの目には映らなかった。
「……私は弱い」
ぽつりと吐き捨てて、シンシアはフレアのもとへと駆け寄る。
「フレア!」
当のフレアは、いっしょうけんめい首飾りを外そうとしていた。
それどころじゃないだろう。フレアの傷は深く、血が水たまりのように広がっている様から、出血量だけで解る。明らかに致命傷だった。
「ゆだん……しました……
シンシアはフレアを抱き込み、フレアの外したがってる首輪をかわりに外して適当に放ると、その頬に触れた。
「まさか、持ち主の《魔力放出》まで無効化する、道具だった、とはー……」
随分と余裕のありそうな言葉が、シンシアを安心させる為の強がりだという事は一目で解った。
フレアは手遅れだ。血を失い過ぎている。まだこと切れていないのが不思議なくらいだ。
「フレア……フレア……死なないで……」
「なんか……ねむくなってきましたー……」
「フレア!嫌、目をあけて!私を一人にしないで!」
シンシアの瞳から、ぽたぽたと涙が流れる。
心臓がぎゅぅと握りつぶされるような不安感に襲われる。
産まれて初めて経験する、『大切』だと思っていた人の死に、世界の全てが崩れ去っていくような絶望感をも覚える。
「……だいすきって……ゆって……」
「フレア……フレア大好きだから……」
「……はなさないって……ゆって……」
「フレアの事離さないから!」
「…………わたしだけのものって……ゆって……」
「……フレア?」
「……なんでもするって……ゆって……」
「…………フレア?ちょっと?」
穏やかな表情でささやかな最後のわがままを口にしていたフレアの、そのわがままのニュアンスが変わってきた事に気付いたシンシアが眉根を寄せると、フレアは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「……むー」
そのぶぅたれた声と同時に、フレアのからだが炎に包まれる。
「わっ……!?」
その炎が自ら動くようにシンシアから飛び跳ねると、火柱が高く巻きあがる。
そのゆらめく中に、何か芯のような物の影をシンシアは見た。
(……棒……? いや、あれは……剣……?)
火柱が落ち着いていくにつれて小さな人型になっていき、炎がかき消えると中からフレアが出てきた。
どこからどう見ても、フレアだ。服に血の後一つすらついていない、無傷のフレアだ。
「……フレア?」
「はいフレアです…………と、まぁ。こういう禁呪がありまして」
あまりにも驚いて、シンシアは言葉を無くす。
「この魔法が私にある事を知られただけで本当はブッコロ案件なんです。内緒にして下さいね」
「……フレア……私、今、本気で心配してたんだけど……フレアが死んじゃうって、本気で悲しんでたんだけど……」
「はいー。シンシアの可愛い泣き顔、いっぱい見ちゃいました」
「~~~~っ!」
「いたっいたいですシンシア!いたっ!」
四つ足歩きでフレアに近づき、その胸を叩く。
良かった。フレアが生きててくれてよかった。ほっとした。嬉しい。
でも、こういう手段があるなら何で先に言わないのか。物凄く心配したのに。
「それじゃぁ、ここは意外と危険だと解った事ですし、遭難ごっこも十分満喫しましたし、帰りますかー」
「え……? 帰るって……」
フレアが首飾りを拾い上げて、シンシアの首に掛けながら言う。
「危ないので、ちょっと下がってて下さいねー」
フレアの周囲で『魔力』が渦を巻き、気流のように動くのを察して、シンシアはフレアから離れる。
フレアの目の前に大きな炎の球が出来上がっていき、その高熱がぶわりと部屋中の温度を上げる。
「《灼熱穿孔の槍》!」
フレアの放ったとっておきの魔法は、その熱線により洞窟を閉ざしていた土砂を全て溶かし崩し、外に繋がる大穴を造った。
じゅうぅ、という岩の焼けた音を背景に、フレアが振り返る。
「さ、帰りましょっか」
「……ねぇ、フレア。何で最初からそれを使わなかったのかな?」
「やー、だって、シンシアが《獄炎発破》と勘違いして『使うな』って言いましたし。うーんフレアちゃんってば同行者の主張を無下に否定しない、冒険者の鏡ですね」
「ふ……フレアの……フレアの……」
わなわな、ぷるぷるとシンシアは手を震わせて、叫んだ。
「フレアの、馬鹿ー!」
◆◆◆
エルピスに戻ったフレアは、精神的なケア……という建前でのからかいが必要そうなシンシアと泣く泣く別れ、真っ先にギルド管理協会の支部へと向かった。
カルネは何等かの書類仕事をしていた所だったが、押収した伝説級道具を叩きつけて一方的に事の報告を行う。
「……で、『不死鳥』まで使ったと」
「はいー。まぁ、仕方ありませんね。シンシアにはいつかはバレる物だったとして割り切るべきかとー」
「……君が『不死鳥』を使う度に、ギルド管理協会の認識票と活動用の冒険者カードを発行するのはかなりの手間が掛かっているのだがね……」
「ソレは押収した『コレ』に比べればほんの些細な問題です」
「……そうだな。私の命令を無視して外に出て、『結果的に』手に入れた『ソレ』は確かに、危険すぎる品だ」
《魔力放出》によって活性化されたマナを無効化してしまう首飾り。
もし、仮に、万が一、このような道具が『量産』されるような事があれば――世界の均衡が崩れる、程度で済む問題ではなくなってしまう。
「他の伝説級道具なんかはどうでもいいレベルです。最優先でこれの作り手をどうにかしないと、本当に不味い事になります。万一、地獄の番犬のばら撒いた物だった場合……考えたくもありませんね」
フレアはこめかみに手を当てて溜息を吐く。
「フレア。術師としての君に聞きたいが、それを発動させられる相手と戦った場合……通常の術師なら、どうなる?」
「解っているんでしょう? 『私ですら死にました』。それが答えです。油断のせいもありますがー」
「では、その道具が周知されており、油断なく対峙していたとしたら?」
「変わりませんね。魔法兵として正式配備されたCランク程度の術師までは、何をした所で完封されるでしょう。Bランクの術師でも……抵抗出来たらもうけ物、といった所でしょうか」
暗に『軍人として、エリートとして育てられた《魔力放出》使い』が一切太刀打ち出来ないと断言した事に、カルネは愕然とする。
「それほどまでか……」
「戦場の常識が覆りますね。洗練された術式による《魔力放出》の支配していた戦争の常識が、弓とボウガンと歩兵と投げ槍に支配された旧石器時代然としたものに塗り替わるでしょう。今のうちから兵士の訓練課程の中に『弓術』を挟み込む事をお勧めします」
「……上への申告に関しては見当しておこう。なにぶん、私にはそこまでの権力が無いものでね」
「カルネは本当に使えませんね」
フレアの挑発を聞き流すと、カルネは元々行っていた作業の書類からひと房を引っ張り出してフレアに渡す。
「あぁ、それから……エルピス西部区画において異界深度の増加現象がみられる。近々留意しておいてくれ」
フレアはそれをパラパラと、目を通しているんだかいないんだかわからない速度でめくって返す。
「……全域ですかー?観測班は馬鹿ですか?留意も何も、そんな事が出来るとすれば伝説級道具が関わってるとしか思えませんし……」
「全く、エルピス西部地区がこれほどまでに伝説級道具の見本市とは聞いていなかったよ」
「まぁ、一応、留意事項は覚えました。確保命令はもうちょっと位置の特定が出来てから出してくださいね」
フレアはきびすを帰してカルネの執務室から出ると、大きなため息をついた。
……冗談ではない。
エルピス西部に左遷されてきてはや一カ月、急に2つの伝説級道具と遭遇している。3つめとは遭遇見込みか。
伝説級道具は、そう簡単に作れるものではない。
それより、本日の押収品がフレアにとっては気にかかる。
どんなにか優れた鍛冶師と術師が組んだ所で、『全く同じ』物が出来上がる事は無い。
無いが……劣化コピーなら、話は別だ。
その上で、たかが10人たらずの山賊に奪われる程度の警備体制で運ばれていた物の押収品なのだ。
今回押収した伝説級道具に本物とコピー品があったとして……今、カルネの執務室に置いてきた方が『本物』のわけは無い。
あまりにも無造作過ぎる。『既にそういう物の用意がある』というギルド管理協会に対する挑戦状、として受け取るべきとまで飛躍して考える。
いつか、『本物』の《魔力放出》を破却する伝説級道具と相対したとして……果たして、フレアにその防御を崩す事は出来るだろうか。
……理屈の上では、できなくはないのだろう。幾つかの溜めが必要な術式なら、不可能ではないだろう。だが……その『溜め』を座して待ってくれる敵などいるわけがない。
(……まぁ、無理ですね。そうなったら私が死んでおしまいです)
そうなった時、何かしらの、前衛でフレアを守る切り札が必要になってくる。
「今出来る事は……シンシアを鍛えてその成長に期待する、くらいしかありませんか……」
フレアは気だるげに、帰路へ向かう馬車に乗り込んだ。
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