3-7.彼女と彼女は喧嘩する事もあり、これが一番最初の大きな喧嘩だった。
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
「………………うわぁ」
洞窟の中の開けた部屋に入り込んだシンシアは、そのあまりの光景に言葉した。
「きゃははははは!まてまてー!」
「ひ、ひぃ、ひぃ、あちっあっちぃっ!お助けぇ!」
逃げ回る男、その後ろから《火炎弓》を矢継ぎ早に放ち続けるフレア。
その《火炎弓》が当たる度、男の背中をちりちりと焦がしている。
他にも部洞窟の中には山賊と思しき男達が居るが、皆一か所に集まって身をテーブルをついたてのようにして身を震わせている。
一瞬で把握するには想定外の情況だったが、ようするにフレアが悪ふさけをしているのかと納得する。
「ちょっとフレアー!何やってるの!そんな弱い者いじめみたいな事しなくても!」
「あ、シンシアー!来ちゃいましたか、これは違うんですよー。私は真面目に《火炎弓》を撃ってるんです。でもまだこの程度しか通らないんです。だから仕方ないんです。そーれ《火炎弓》!《火炎弓》!」
「ぎゃぁっ!あっつ……くそ、てめぇあのガキの仲間か熱っつ!こうなりゃ人質に……」
シンシアは迫ってくる男を軽い動作でひょいと身を躱すが、その動いた先に迫る《火炎弓》に、驚き、慌てて倒れ込んで避ける。
「ちょ!?フレア何やってるの!」
「わ、ごめんなさいですシンシア。大丈夫ですか?」
「納得いく説明を!10秒で!」
「あいつ伝説級道具持ってます《魔力放出》が大半かき消されますが効果が弱まってきたのであと一息です」
フレアは、男が直接外に逃げられる道を塞ぐように移動し、角度を変えて、また《火炎弓》での牽制と的当てを楽し気に始める。
「フレア!事情はよくわからないけど私はそういう弱い者いじめみたいなやり方好きじゃない!その人、もう戦意が無いじゃない」
ひぃ、ひぃ、と逃げ回る男を指さしてシンシアが言う。
フレアは、むぅと頬を膨らませて、八つ当たり気味に無詠唱の《火炎弓》を一発、男にお見舞いしてから言い返す。
「あのですね。『あ、仲間がきたから人質にしよう!』……なーんて考えてる山賊を戦意が無いなんて、シンシアは甘すぎです!甘々すぎます!」
「……言われてみればそうかもしれないけど……」
「でもシンシアの言う事も一理あります。ですが《火炎弓》は嫌がらせ程度にしかなってないし……そうだ、こんなのはどうでしょう。名付けて……《爆撃弓》!」
フレアの放ったシンシアの聞きなれない術式は、男の身体にぶつかると ばちん! と軽く打ってはじけて消えた。
「……失敗?」
「そういう伝説級道具なんですよ。《爆撃弓》!」
フレアは同じ術式を伏せた男の頭上高くに向けて放つと、『どがん』という爆発で岩壁が崩れた。ぱらぱらと男の身体に破片が降り注ぐ。
「この威力が、あの程度まで落ちるんです。厄介なんてもんじゃないです」
フレアは、『やれやれ』と肩をすくめる。
「じゃぁ、後は私がやるね」
「待って待って、待ってくださいよー。ここまでやって後はシンシア任せなんて、興覚めです。今日は最後までフレアちゃんの日ですよ?」
確かに、フレアは昨日からここに攻め込む予定でいたのを我慢させてたんだしとシンシアも思い返し、引き抜きかけていた剣をしまう。
「じゃぁ、あまり苦しめないようになるだけ手早くね?」
「と、いうわけでお迎えのシンシアにもこう言われた事ですし、さっさと片付けちゃいましょうか。行きますよー……《獄炎発破》!」
フレアの術式発音と同時に、どがあぁぁぁぁぁぁんと轟音が鳴り響く。
耳がきぃんと響いて、音がよく聞こえない。
フレアの魔法は、男の身体をしたたかに打った。
「ふふん。とどめにもういっぱーつ!《獄炎》……」
「待ってー!」
「《発破》!」
爆撃魔法の威力に嫌な予感を感じたシンシアはフレアに飛びついて制止するが、遅かった。
圧縮術式が解放され、本来だったら複数体のロックゴーレムですらまとめて破壊する爆裂術式が、発射寸前にシンシアが飛びついたせいで軽く手元が狂い、想定していた位置よりさらに『高い』位置に向かって発射されてしまう。
ドゴオオォォォォォォォォォォン!
がらがらがらがら!がしゃがしゃがしゃがしゃ!ざらざらざらざら!
洞窟の入口を直撃した爆撃で岸壁は粉砕されて崩落し、その洞窟の唯一の出入口は、失われてしまった……
◆◆◆
「シンシアのせいです」
「フレアが悪いんだからね」
もくもくと砂埃が舞う中で、フレアとシンシアは同時に、お互いへと罪をなすりつけあった。
「シンシアのせいで射角がズレてこうなったんです」
「岸壁を崩落させる程の魔法を人間に直撃させたら即死だよ」
「伝説級道具に守られてたんだから即死は免れます。むしろ、伝説級道具を取り返されたら簡易術式で無力化出来ないんだから、全身の骨を余す所なく砕く程度の事はしなくちゃ危険です」
「私が居るんだから物理的な制圧は出来るでしょ?それにこんな場所で考えも無しに規模の大きい魔法なんて使うから……」
「急かしたのはシンシアですー!私はもともと《火炎弓》でちまちま削ってましたー!」
「やり方が人道的じゃないって言ってたの!私は!……それに結局、出口まで潰されちゃってるし……」
「じゃぁもう一回、《獄炎発破》でこの岩盤をぶち抜きますか」
「それは今度こそ、この洞穴ごと、天井から崩れかねない!ダメ!」
辛うじてろうそくの火は消えていないから、うっすらと部屋の中を見通す事は出来る。
きょろきょろと見渡すと、大量のロープが目に入ったので手に取る。
「……とりあえず……そこにあるロープで山賊を捕まえておこう。フレア、牽制お願い」
「はーい」
フレアは無詠唱で《火炎弓の雨》を展開、そのまま維持する。
部屋の中が明かりに包まれたが、密閉空間で炎を使うと息が出来なくなってしまうと聞くので、手早く山賊達を後ろ手に縛っていく。
フレアの《火炎弓の雨》、そしてフレアが散々追いかけ回した男の無惨な姿を見ていた山賊達は、意外なほどに抵抗というものをしない。
トラウマを植え付ける、というのはこういう事かとシンシアは思った。
ひとしきり全員を縛り終えた所で、フレアは《火炎弓の雨》の術式を解く。
「一度発射体制まで持っていった魔法の術式を、撃ちもしないで消し去るのは難しいんですからねー」
「そうなんだ」
フレアは山賊の親分である男が見せびらかしていた、魔法に合わせて不思議な輝きを放っていた首飾りを奪う。
「遺失物ですかー……この場合、せっかくの伝説級道具の使い手を生け捕っても、全く美味しくないんですよねー……」
「フレア!カルネさんとも、無駄な殺しはしないって約束したよね?」
「むー……殺す殺さないの話じゃなくて、ボーナスが出る出ないの話です」
ぶうぶうと文句を言うフレアをおいて、シンシアは崩落した出口を探る。
動かせそうな岩を少し運び外して、ぱらぱらと天井から落ちてくる小石を苛立たしげに見つめる。
「どうしましたかー?」
「これ。どうにかしないと外に出られないじゃない」
「そうですねー」
「フレアは《身体能力強化》使えないでしょ。危ないし邪魔だから下がってて」
「……むー」
本格的に機嫌が悪いシンシアに追い払われて、フレアはむくれる。
シンシアから少し離れた所に、フレアは腰かけた。
シンシアは黙々と、崩れ落ちた岸壁の撤去作業を行う。
シンシアの《身体能力強化》は『力強さ』重点ではないから、慎重に岩を運ぶ作業もどうしても効率は悪くなってしまう。
ただ、山賊達に手伝わせる、もしくはこれらの作業を行わせるのも論外だ。
今は無力化に成功しているが、その縄を外した瞬間に襲われかねない。
もしもフレアの回収した伝説級道具を盗られるような事態になれば、情況をひっくり返されてしまう可能性すらある。
はぁ、とシンシアは額に浮かぶ汗をぬぐいながら溜息をついた。
「シンシア、おなかすきました」
「そう。私もおなかすいたよ」
「今朝貰って来たお菓子下さい」
「……あのねぇ、フレア。この状況。わかってる?」
「……? はい、わかります。シンシアは外に出たいんですよね。なら私の――」
「《獄炎発破》で爆破したら今度こそ天井から崩れかねないってさっき言ったよね?つまり、外に出たいけど出られないの。アレはお菓子だけど貴重な食糧。いざとなったらここにいる11人、全員で分け合わなきゃいけないの」
「なんでナチュラルに山賊にまで食料を分けるんですか?むしろ、いざとなったら山賊の肉を焼いて食べる非常食です」
「次そういう事言ったら本気で怒るから」
いらだちを隠せず、シンシアはフレアに怒気をぶつける。
「……まぁ、馬車の荷物を盗んでるんです。この洞窟の中にもいくらか食べられるものは運んでると考えるのが自然ですね。まずはそちらから当たりますか……シンシアは食料を分け与えるつもりだったんです、彼らの食糧を分けてもらっても何ら問題無いはずです」
フレアは小走りに山賊達のスペースまで戻ると、あれこれと樽を開けたり木箱の蓋を取ったりして、ひとしきり荒らしまわってシンシアの所に戻ってきた。
その手の中には、コップが握られている。
「シンシア喉乾きましたか?」
「ん……飲み物見付けて来てくれたの?ありがと」
シンシアはそれに一口つけて、ぺっと吐き出す。
「……これ、お酒じゃない……」
「水分です」
「私!未成年!戻してきて!」
「はーい」
とてとて、と戻ったフレアは、そのお酒を無作為に選んだ山賊の一人の口に流し込み、一気飲みさせる。
さらに山賊の居住区を荒したフレアは、また何かを見付けたようだ。
「ねぇねぇシンシア見て下さ――」
「――うるさい!」
シンシアは、ちょこまかと行ったり来たりするフレアに振り返る事もせず怒鳴りつける。
崩落した壁、生き埋めになってしまった情況、生還は絶望的。
もしかしたらフレアの発破で崩落した壁をどうにか出来るかもしれないが、それには洞窟『ごと』崩落という危険が伴う。
ただでさえシンシアは精神的に追い詰められて、いっぱいいっぱいだったのに、岩を少しずつ運び変える重労働は残り僅かだった気力や余裕を奪い切るのに十分な負荷だった。
「フレアが考えも無しに調子に乗って、こんな場所で派手な魔法を何度も撃つからこんな事になったんじゃない!私はこんな所で死にたくない!せめて邪魔だけはしないで!」
フレアに背を向けたまま、言いたい事だけを全てぶつけてしまう。
……その行為に、罪悪感を全く感じなかったわけではない。
フレアなりに狙いがあって行っていた事を、自分のせいでこうなってしまったというのは自覚している。
ただ、情況に対してあまりにもふざけた事ばかりしているフレアが許せなかった。
「……おにくみつけただけだもん」
フレアがぽつり、と呟いた。
その悲し気な声に振り返ると、フレアはその手に分厚い干し肉を手にしていた。
そのフレアは、『食料を見付けたから褒めて?』という、小さな子供がお母さんに褒めてほしくて、お手伝いの報告をいちいちしてくる姿、そのものだった。
「……ごめんね、フレア……ごめんなさい」
シンシアは両膝をついて、うつむき加減のフレアと視線を合わせる。
「ごはんになる物を見付けてくれて、ありがとう。でも干し肉は水分が奪われちゃうから、他にも何か無いか探して、どうしても無かったらにしよっか」
「うん」
「じゃぁ、私はまたここの岩の撤去作業に戻るから、他の食べ物になりそうなもの探しをお願い」
「うん!」
たったった、と気持ち元気の良さの戻った可愛い足音を残して、フレアが山賊の居住区に戻っていく。
さてもうひと頑張り、とシンシアが石壁の撤去作業に戻り、新たな岩に手をつけた、まさにその時だった。
「ぎゃんっ!?」
フレアの唐突な悲鳴。
シンシアが振り返った、その瞳に映った光景は。
小さなフレアの体躯が鮮血を飛び散らせながら宙を舞う姿だった。
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