3-5.彼女の言葉はいつも幾つか足らないから、彼女達はよく誤解をしていたという
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
フレアの朝は遅い。
正確に言うとフレアはいつも夜明けと同時にシンシアより早く目が覚めるが、大抵は二度寝してしまってその眠りが深く、長い。
フレアのすぐ隣で寝ていたシンシアが起きあがり、身支度を整えてくる間にもフレアの目が覚める事はなかった為、シンシアは書き置きを一つ残してリュエンの元へ。
フレアを相手に一日中一緒にいる約束してしまった事情を話すと、リュエンは昨日の間に造って置いたという焼き菓子を持たせてくれた。
今日のお茶会でシンシアに振る舞うつもりだったものだそうだ。
丁寧にお礼を言って、シンシアは宿へ急いで戻り……
宿に帰ったら、フレアがむくれていた。
「シンシアいちにちじゅういっしょにいるってゆった」
「やー、でもほら、急に仕事休ませてほしいとか、本当は無理言ってるわけだから……」
「シンシアがうそついたー!」
「嘘じゃないよぅ。この後はずっと一緒に居るから。ほら、お菓子貰って来たよ。これ食べよう」
懐から取り出した焼き菓子をフレアの口に突っ込むと、大人しくなった。
幼児化したフレアは物に弱い。
「それでフレア、今日は何かしたい事があるの?」
まふまふ、とお菓子を小さな口で少しずつ頬張るフレアは、『何を言ってるの?』という瞳をシンシアに向ける。
「昨日行けなかった旅に出ます。【チャリオット君二世】に乗って、二人で一緒に風になりましょう」
「……えー……」
しまった。覚えていたのか。
しかしここで駄々をこねられたとして、放置するのは非常に危険だ。
最悪、シンシアがちょっと目を離した隙に一人で何処かに行きかねない。
律儀にシンシアの帰りを待ったり、シンシアの言う事を聞いて一晩我慢したりというのがフレアなりの最大限の譲歩……と考えると、既にフレアは絶対防衛ラインまで、引く所まで引かせてしまっている。
これ以上は危険を通り越して、無理だ。もう無理だ。
フレアが駄々をこね始めて
「昨日のうちに準備は万全に整えましたので、いつでも出られますよ」
フレアは部屋の片隅に置かれたリュックを指さす。
(これは……うん、これはダメなやつだ。止められない。完全に止められないやつだ)
「ちょ……ちょっと待ってね!書き置きだけはしておかなきゃ……」
「書き置き?」
「こっちの話!」
シンシアは急いで茶色の紙にインクをしたためる。
『カルネさんごめんなさい、無理でした。なるだけ一日で帰れるように努力します』
◆◆◆
「ふんふーん♪ふふーんふーん♪」
ごぉごぉと音を立ててゆっくりと【チャリオット君二世】を兵舎から出してきたフレアは、はなうたを歌って非常にご機嫌だ。
一度【チャリオット君二世】を止めたところで、後部座席の背面にリュックサックを括りつける。どうにもゆらゆらと動いてしまうのが落ち着かない。
「落ちたりしないかな、これ……」
「大丈夫ですよー。そのひっ着け方で、ゴーレム使いを持ち帰っても平気でしたし」
「……人をこんなに不安定な括り方で運んだの……?」
「落ちた時は落ちた時です。それにあれだけ痛めつければ、落とした損傷なんて誤差の範囲ですよ」
痛めつけた犯人としては反論しがたい所があるが、フレアの倫理観の緩さに少々の不穏さを感じる。
「元々、【チャリオット君二世】にはフレア一人乗りだったんでしょ?私がギルド管理協会に入って二人乗りが当たり前になるなら、荷台も考えなくちゃいけなさそうだね」
「それ、良いですねー。今度親父さんに相談してみましょう。仕事帰りに生け捕った犯人乗せて三人乗りっていうのも今後の課題です」
きゅるきゅる、と音を立てて回り出す車輪、徐々に動き出す【チャリオット君二世】。 どうやらシンシアの『魔剣』の為に補助の宝玉を外してしまっても大丈夫というのは本当らしくて、ほっとする。
帰り路でも【チャリオット君二世】の動きに問題は無い事は確認していたが、『もしかしたら』という不安はどうしても浮かんでしまうものだ。
「フレア、さっきの約束覚えてる?」
「…………なんでしたっけ……」
「ぎゃー!考えないで!今言う!言うから運転に集中!」
徐々に頭が上方向を向きつつあったフレアを、慌てて後ろから抑えつける。
むぅ、という鳴き声が上がる。
「ちゃんと一日で帰ってくる」
「ちゃんといちにちでかえってくる」
「旅は日帰り」
「たびはひがえり」
「遠くまで行かない」
「とおくまでいかない」
「わかってる?良い?大丈夫?」
「……はーい」
渋々、というニュアンスを感じさせるお返事。
「……絶対だからね……で、何処か行きたい所でもあるの?」
「んー、行きたい所っていうか、気になってる所があるんですよねー」
風の抵抗を感じる速度で【チャリオット君二世】を走らせながら、木々の生い茂る山を指さし、フレアは言う。
「細かい所はわからないので、一先ずあそこの峠を狙います。山頂からヤッホーって叫びましょう」
「馬車の通るような道が無いと無理だよね、それは……」
「はい、まぁ馬車の通る道を通るのが目的なので。そこに何も無ければそのまま峠を攻めて山登りです」
「そうなんだ……」
フレアは聞いた内容には答えるが、聞かれなかった内容には答えないし聞き方のニュアンスが違う事にも正確な答えをしてくれない。
その辺りは行けばわかるかな、とシンシアも軽い気持ちで構える。
幸いにしてシンシアの指さした山は【チャリオット君二世】の速度をもってすればそう遠い所にあるわけでもない。山頂まで登ったとしてもそこで遅めのお昼ご飯を食べて、日が暮れる前にはエルピスに戻れそうだ。
シンシアは【チャリオット君二世】の後部座席で、移り変わる風景を楽しむ。
速度が凄い分、がたごとと揺れ幅も凄いし乗り心地が良いかと言うと正直、そんなによろしくはないのだが……通常、馬車では見る楽しむ事のできない風景の切り替わり方は贅沢な娯楽だと感じる。
いっそ、『単純に速さが味わえるだけ』の乗り物というか、娯楽道具、そういった施設でも造れば興行として人気が出るのではないかと考える。
そんな事を考える程度には、【チャリオット君二世】から眺める風景には素晴らしい魅力があった。
「むぅ……森に入ると……枝が邪魔というか……」
「素直に速度下げよ?」
案外、フレアが【チャリオット君二世】に乗ったら馬車の何倍ものスピードを出したがるのも、フレア自身は強力な《身体能力強化》が使えなくて『速さ』への憧れがあるのではないかと感じた。
多少緩やかな速度で山中の道を行くフレアは、何事かに気付きゆっくりと【チャリオット君二世】を止めた。
「どうしたの?」
「うーん。目的の物を見付けてしまいました」
フレアが山道の先を指さすと、そこには壊れた馬車が投棄されていた。
「馬車?捨てたのかな」
「こんな道の途中で馬車を捨てるわけが無いですよー。これは山賊に襲われたパターンですね。間違いないです」
フレアが馬車の中を見分しながら言う。
確かに、馬車にはまだ使えそうな樽が幾つかある。
「……待って。さっきから地味に視線を感じるんだけど、これが目的って事は」
「まぁ、はい、そうなりますよねー。昨日、この道を通ったっていう旅人がギルドに報告をしているのを『偶然』知ったので、多分『いる』だろうなぁと。臨時収入は美味しいですし」
本当に、もう、フレアという子は!
シンシアは剣を抜いて構える。
こうなったら、自分が守らなくてはならない。
……山賊を。悪人に対しては容赦の無いフレアの魔の手から。
「おぉこわいこわい、お嬢ちゃんが剣なんか構えちまって」
「なんだいそりゃぁ。剣3本も持って」
山道の上からざざ、と降りてくる山賊たちが、ぞろぞろと雁首を揃える。その数6人。
「シンシア、山賊は強いですよー。ちょっと私に考えがあるので下がって下さいねー」
「うぉ、なんだこのガキ 白髪……いや、銀髪?」
「それより見てみろあの目、すげぇ赤いぞ。アレか?なんとかって希少種か?」
「あのー、私と取引をして欲しいのですがー」
フレアが胸を張って手をその胸に当てる。
「少なくとも、私と彼女が同時に別方向に逃げたら、捕まえられるのは片方で、もう片方には逃げられちゃうと思うんです。それに面倒くさい思いもするでしょうし。私、炎の矢が使えますので抵抗されて、射抜かれて犠牲者が出るのも美味しくないでしょう?」
「……それで?」
フレアの言葉に、周りと比べて少し迫力のある男が前に出てくる。
「私だけを連れて行きませんか? 彼女は剣士ですから捕まえるのに少なからず犠牲が出ますし、捕まえた後も油断できませんよ。その点、術師の私は口をふさげば安全な上にちっちゃくって抵抗されても捕まえ直すのは簡単です」
何を言い出しているんだろう、とシンシアは考える。
本当に何を言い出しているんだろう。わけがわからない。
それは山賊の男達も同じようだ。
「今ならお互いに無傷で楽に終わると思うんです。どうせ片方を確実に手に入れるなら、珍しいアルビノの、若くて賢い子の方が好事家に高く売れるのでは?」
「なぁ……嬢ちゃん、コイツ何言ってんだ?」
「……ごめんなさい、その子、ちょっと頭がおかしい所があって……」
「頭がおかしいってなんですかー!この人数差じゃ逃げきれないから、せめてシンシアだけでも逃がそうとしてあげてるのにー!」
嘘だ。絶対に嘘だ。今気付いた、フレアは捕まって山賊の巣穴まで連行された後に一網打尽にしようとか、そういう事を考えている。
『山賊の巣穴探すの面倒だから案内してもらおう!』程度の事しか考えていない。絶対にそうだ。
「……あー……こっちとしては、今すぐヤれそうな年頃の嬢ちゃんをみすみす帰すのは惜しいんだがなぁ」
「その分、私が『良い子にします』ので。ええ、ちゃんと『お金になる』よう頑張りますから。ちゃんと『お互いの立場をわきまえた』行動を取ります。大丈夫です」
半ば混乱した様子の山賊たちが用意したさるぐつわを自分から噛みに行こうとして、フレアが振り返る。
「それじゃぁ、シンシア。ちゃんと逃げて下さいね」
言い残してさるぐつわをかんで、あまつさえこの場のリーダー格の男に自分から飛びついて、抱っこまでしてもらう。
「あー……お嬢ちゃん、どうするね?」
「えっと……その……ふ、フレアがその身を犠牲にしてまで逃がそうとしてくれたんだから……私はそれに殉じようかと……ダメですか?」
「……良いんじゃね?俺らも、ほら。あの樽とか運びたいし」
「あ、あの……何て言ったらいいか……」
「あぁ……唐突に相棒を失って辛い気持ちはわかるぜ、俺も冒険者からの落第組よ。お前の相棒は良い奴なんだな、普通自分を犠牲に仲間に手を出さないでくれ、なんて言えないもんだぜ……」
男達は、フレアを抱っこした男と共に、馬車に残された数少ない樽や荷物を持ち運んで山の上の方、道無き道に上っていく。
「……えー…………?」
一人取り残されたシンシアは、途方に暮れた。一先ず、馬車のホロ布をカッティングして、チャリオット君を軽くおして動かした上でその上に乗せ、道には何もおかれていない状態を造った。
一先ずここを通る人が現れ手も、これで安心。
あとは……
「……まぁ、全く助ける必要の無い相手だけど。何もしなくちゃまた不機嫌になるもんね、絶対……」
シンシアは気配を探り、出来る限り足音を立てないようにして男達の去って行った方向へと追いかけ始めた。
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