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追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
3章ーその時点ではまだ自分の狂気に気付いてはいなかった、と彼女は言った。
19/33

3-4.彼女との日々は何処を切り取っても特筆すべき一日になる、と彼女は言った

10/13 全体に大幅改稿を行いました。


「暇です。どっか行きましょう」


 フレアが、開口一番、唐突に提案した。

 

 リュエンの所での仕事帰りのシンシアが扉をあけたら、フレアが居た。


 わんわんが飼い主を待つかのように、扉の前で待っていた。

 とてもかわいい。


「え?うん。そうだね、ただいま」


「おかえりです。そして行ってきますをしましょう」


「ん? あれ? 今? 今すぐ? おなかすいた?ごはんとか?」


「旅です。旅をしましょう。【チャリオット君二世】に乗って、風を感じながら走って何処か遠くへ行きましょう」


「待って」


 目をキラキラさせたフレアに、シンシアはこめかみをおさえる。

 これは酷い事になりそうな流れだ。


「待ちました。行きましょう」


「はやい」


 カルネが言うには、フレアには出奔癖があるという。

 時々、フレアは指令とは何の関係も無く飛び出してしばらく帰ってこなくなる事があるのだそうだ。


 ……それ自体は冒険者換算した際にランクA以上のみで構成されるギルド管理協会フリューゲルの実働部隊には珍しい事ではないらしい。フレアに限らず、強すぎる人は我を通したがる傾向にあり、制御が利かないのだそうだ。


 しかし、フレアには【チャリオット君二世】という高速かつ非常に足取りの掴み難い移動手段がある為、そうなったフレアは他の人と違い完全に『自発的に帰ってくるのを待つ』しか取れる手段が無いというのが問題らしい。


 そして今は、フレアの暴走を抑える為にシンシアをギルド管理協会フリューゲルのメンバーに入れて正式にフレアと組ませる手続きを行っている最中だから、『何があってもフレアを街の外に出さないようにしてくれ』と、カルネから……偉いおじさんから、懇願されてしまっている身なのがシンシアだ。


 何があっても我慢させなくてはならない。これは非常に難易度の高い任務だ。


「えーと……まず、今から出掛けようとしたら街を出るころには夜だよ?今日はもうやめとこうよ」


「えー……私、シンシアが帰ってくるのずっと待ってたんですよ?」


「夜道をあの速度で走るの怖いから……本当に……」


「むー。シンシアだって最高速は【チャリオット君二世】より速いのに」


「まぁ、まぁ……とりあえずごはん食べに行こう」


 本当は既にリュエンの家でごちそうになっているが、フレアの手を握って外に連れ出す。

 行く先をこちらから指定して、無駄に時間を浪費させて諦めさせる。それでいこう。


「むー……」


 一応、フレアは不機嫌そうながら言う事を聞いてついて来てくれている。

 宿から出ると、二人は手をつないだまま大通りへと行く。


「フレア、何食べたい?」


「赤いものが良いです」


 色。


「食材は……?」


「赤ければ何でも良いです」


「赤かー……」


 そういえば、フレアはソーセージの盛り合わせを頼むと、毎回赤いモノに真っ先にチャレンジして、その辛さにギブアップをしている。

 学習能力が無いのか、とも思っていたが……


「あ! もしかしてフレアがニンジン大好きな理由って」


「味です。それ以外に何かあるんですか?」


「……そっかー……」


 シンシアは釈然としないなんらかの感情をぐっと飲み込んだ。


「じゃぁ、ニンジンのソテーがついてくるステーキを食べよう。高い牛肉ならレアに焼いてもらっても大丈夫だろうし。赤いよ」


「なら、それで」


「今日はごちそうだねー!」


「でも、ちょっともったいないです」


「え?」


「ごちそうを味わわずに急いで食べるのはもったいないです」


「……味わって食べよう。今日のところは」


「むー……」


 フレアがご機嫌斜めだ。

 本気で機嫌が悪い時のフレアは幼女化しない傾向にあると最近わかってきた。

 いや、むくれ方は幼女そのものなのだが、幼児言葉を伴わない現状、どうにも彼女の機嫌の悪さは相当なものなのだろう。

 あの幼児言葉は彼女なりのコミュニケーション手段か何かのようだし……と、シンシアは分析しながら少々お高そうな肉屋を選んで中に入る。


「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」


「2名でお願いします。出来れば個室席が良いんですが……」


「かしこまりました、席にご案内致します。こちらへどうぞ」


 拗ねた子供みたいになっているフレアを引っ張って、案内された個室へと入る。

 ごゆっくり、と店員が居なくなったところで、シンシアはメニュー表を開く。


「何食べよっか。今日は私がおごっちゃうよ?どれも美味しそうだねー」


 ひっくり返して対面に座るフレアにもメニュー表を見せるが、フレアは元気が無い。


「どうしたの?」


「きょうがよかったのに……」


「うん。でも、今日はもう夜だし、危ないから……」


「シンシアいつもかえってくるのおそい……ひま……」


 つまり、(あくまでフレアが普段行う命懸けの仕事に比べて、だが)賃金の安い街の中の仕事をわざわざやる気になれないが、シンシアの書類が受理されるまで街の外に出られず、その上でフレアがお気に入りのオモチャにしているシンシアもお仕事に出ている間は暇を持て余していて機嫌が悪い、と。


「じゃぁ、明日は一緒にいよっか。」


「……ほんと?」


「朝いちばんにリュエンさんの所に行って、お休みにしてもらう。それでフレアと一緒にいる。約束ね」


「やくそく!」


 指を合わせると、フレアがにっこりとしたいい笑顔になる。

 やはり見た目が完全に幼女だからか、普段の冷静な様子のフレアより幼児喋りをするくらいの方が見た目と噛み合っているように感じられる。


 そして、そんな自分がだいぶフレアに毒されている事をシンシアは自覚した。

 普段自分を子ども扱いする幼女が突然幼女どころか幼児言葉を使いだす光景に何の違和感も覚えないのは多分不味い傾向なんだろうけれど、今はもう気にもならない。


(まぁ、いっか。かわいいんだし)


「それじゃ、どれ食べよっか。私は量より質の気分……ちょっとだけ食べればいいや。この辺の最高級サイコロステーキ?っていうのにしようかな」


「わたしはこれー」


 フレが指さしたのは、何でこんな高給店に、というほど場違いに浮いてる感のあるお子様プレートの絵。

 牛肉にニンジンとポテトとベーコンのソテー。

 チリンチリンとベルをならして店員さんを呼びながら、シンシアの中でフレアの注文の意図を考えてみる。

 わざわざ純粋に幼女ムーブをするフレアではない。普段のフレアがお子様プレートなんかを押し付けられた日には、一先ずニンジンを片付けられた上で怒られる。


(……あぁ……わかった、相対的にニンジンが多く見えたのか……)


 フレアの選んだお子様プレートの絵は肉が小さく、その分だけ他の絵に比べ付け合わせが大きく見える。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「私はこの最高級サイコロステーキっていうのを焼き加減はレアで。彼女にはお子様プレートの……」


「レア」


「レアで。あと、ニンジンのソテーを大目に出来ますか?」


「かしこまりました。サイコロステーキとお子様プレート、どちらもレアで。お子様プレートにニンジンのソテーを追加でお間違い無いでしょうか?」


「はい、お願いします」


 チップに100ルピ硬貨をテーブルに置きながらシンシアは店員に微笑む。

 その姿をぼうっと眺めていたフレアが、店員の背に手を振るシンシアに向けて、ぐいっと身を乗り出してくる。


「なんでわかったの!?」


「え? ニンジン?」


 わからいでか。しかし説明するのは、何とも面倒くさい。


「……まぁ……勘?」


「シンシアのかんってすごいねー」


 今日は随分と幼児言葉モードが続いている。

 てっきりこれまで機嫌が悪い時のモードチェンジかと思っていたが、発動条件が他にもあったらしい。フレア検定合格までの道は遠そうだ。


 料理が運ばれてくると同時、フレアはお子様用の前掛けをつけられてしまった。

 必要以上の子ども扱いをフレアは嫌うはずだが、彼女の想定よりずっと多いニンジンにウキウキで気にも留めていないようだ。


 なにはともあれ、少なくとも今日のフレア出奔は防げたようだ。

 今のフレアはやたらとしおらしいが、明日もそのままでいてくれたらいいのだが。


 肉はとろけるような舌触りで、久しく口にしていない高級感が満載だ。

 実家ではこのような食事がむしろ当たり前だったはずだが、庶民の食事に口が慣れてしまった今ではあまりの美味さ加減に気分が落ち着かなくなってしまう。


「おいしい」


 肉そっちのけでバターがたっぷり使われたニンジンのソテーを口いっぱいに頬張ったフレアが頬に手を当てる。


「これも美味しいよ」


「ん」


 シンシアがサイコロステーキをフレアのプレートに一つおすそ分けすると、フレアも自分の肉……の、半分近くを切ってシンシアのプレートにシェアしてしまう。


「え……えぇー……? それじゃお腹減っちゃうよ? これもう一個食べよ?」


 シンシアはサイコロステーキをもう一つフレアのプレートに置いてあげてから、フレアのシェしてきた肉を口にする。

 こちらもこちらで、けっこう良い感じの霜降り肉だ。流石に『最高級』と銘された方には劣るが、こちらも捨てがたい。

 フレアはニンジン、ニンジン、またニンジンとウサギのようにニンジンばかりを狙って食べている。


「フレアは本当にニンジンが好きだね……いつから好きなの?」


「いつ……から……?」


 フレアの瞳から光が消える。

 ぼんやりとシンシアの頭の上辺りを焦点のあっていない瞳で凝視しはじめる。


「か、考えなくても良いから! お肉とか冷めちゃう冷めちゃう!」


 シンシアの制止は遅かった。

 こうなってしまったシンシアは……長い。

 どうしようか。気が付いたら肉もニンジンも冷めていました、じゃぁせっかく良くなったフレアのご機嫌がまた斜めに倒れかねない。


 うーんと考えたシンシアは、自分のプレートのニンジンのソテーを、そっくりそのままフレアのプレートに移動させてみる。


 幼児言葉を使ってる時のフレアは物で釣ればだいたい機嫌を直すのだが……


「……………………きがついたらすきでした」


「そっかー」


「……あれ……ニンジンふえてる……たべてもへらないまほうのニンジン?」


「どうだろねー。食べたら減ると思うけど」


「♪」


 幼児の子守りってこんな感じなんだろうか、とシンシアは一息ついた。


 フレアといると、『ただワガママを言われてそれをどうにかする為に食事をした』というだけで、それまでの人生では感じた事のない『特別何かあったような事』のような気分を感じる。


 子育ての喜び……というのをシンシアは恋愛小説で聞きかじって知っているが、今シンシアが感じているのも案外そういうものなのかもしれない、と考えた。

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