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追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
3章ーその時点ではまだ自分の狂気に気付いてはいなかった、と彼女は言った。
18/33

3-3.女冒険者が性をアピールするのは生存戦略上重要な事だ、と彼女は語った。

10/13 全体に大幅改稿を行いました。


 シンシアを《ギルド管理協会フリューゲル》に加えるという話は、難航していたシンシアの実家との折衝がようやく終わったらしい。

 残すは本国から書類が押印されて帰ってくるのを待つのみとなっていた。


 大事に肌身離さず持っていようと思った矢先に《ギルド管理協会フリューゲル》へと提出させられたアダマンタイトのナイフもたっぷり三日掛けてようやく帰ってきたし、全てが順調なシンシアはこの上もなくご機嫌だ。


 ここ最近のシンシアは日常生活内で複数の剣を持ち歩く重心の変化に慣れるため、《ギルド管理協会フリューゲル》にも許可を取ってエルピスの街区画内で行われる危険度0認定の雑用仕事を受けるようになっていた。

 フレアも誘っているのだが、『そんなお金にならない奉仕活動の何が楽しいんですか?』という身も蓋もないお断りをされてしまうものだから、ここしばらくは定期的にフレアとは別々の時間を過ごすようになっている。


「よいしょっと……ね、リュエンさん、これはどっちに運びますか?」


 共同墓地で、お墓の掃除や幾つかの荷運びを終えたシンシアが、最後に残された大きな一つの木箱……その大きさ、重さからシンシアには運べないと思われていたのだろう。

 それを《身体能力強化パワード》をかなりの強度で発動させ、持ち上げながら管理人に問いかける。


 この墓地の管理人、墓守のリュエンは癖のあるウェーブの掛かった茶毛と大きな胸をたぷたぷ揺らしながら、シンシアに駆け寄ってきた。


「あらあらシンシアちゃん、見た目のわりにずいぶんと力持ちなのねぇ……それは地下の共用墓地に。冒険者さん達と一緒に弔う遺品よ、暗くて危ないから気を付けてついて来てね?」


 墓守のリュエンという女性の後を、大きな箱を持ち上げて追いかける。


「本当、墓守のお仕事は大変なのに、なかなか男手が無くて困っていたの。シンシアちゃんのお陰で助かっちゃった」


「男手……」


「あらら、これは失礼。こんなに可愛い女の子に向かって男手なんて失礼でしたね。冒険者さんって、女性も皆こんなに力強いのかしら」


「どうなんでしょう……私はフレアが言うには、特殊な例らしいですけど」


 指定された場所に木箱を置く。なかなかの重量に、指先と二の腕がすこしだけしびれた。

 やはり、シンシアの得手は筋力強化ではなく、速度系の強化。

 しかし、今のシンシアは戦闘時、『魔剣』用に予備の剣を余計に二本……言うなれば、その分の重りを常に二キログラム以上、抱えて戦う事になる。

 これは、シンシアの最も得意とする速駆け、軽やかな剣使いに大きく影を落とす課題だ。その重さには早急に慣れる為、調整は急がなくてはならない。


「シンシアちゃんの言う、フレアちゃんっていうお友達にも会ってみたいわ。きっと、とってもかわいらしいんでしょうね……さあ、シンシアちゃん。疲れたでしょう?お茶でも飲みましょうか。フレアちゃんもお仕事の後のお茶会になら参加して下さらないかしら?」


 フレアに最近何処で働いているのかを聞かれた折、共同墓地で墓守さんのお手伝いと答えたら当のフレアにはそれだけで露骨にいやな顔をされてしまっている。

 その事を相談したカルネが言うには、仕事の関係で相当数の犯罪者を殺めてきたフレアには、そういった場所は忌避感が強いのだろう……という事で、リュエンからの幾度かのお誘いも、あえてフレアには伝えていない。


「あはは……フレアは独立国家を樹立してる系の子なので……」


「あらあら。そんな独立国家の牙城を崩してしまった貴方は、それではいったいどんな軍事国家なのかしら?」


 暗くてかび臭い地下墓地からお日様の元に上がると、随分と目がまぶしい。

 くすくすと微笑むリュエンが水道でしずしずと洗う横で、シンシアは手を洗うついでにぱしゃぱしゃと顔を洗う。とても気持ちがいい。


 冒険者生活はまだひと月たらずだが、お嬢様だったシンシアも今はすっかり『そちら側』に順応しつつある。

 ハンカチーフで顔を拭くシンシアに、リュエンが微笑みかける。


「あらあら……シンシアちゃん、まるで子犬みたいね」


 大人のお姉さんにくすくす、と笑われてしまうのは少し恥ずかしい。


「先に座っていてね」


「はーい」


 墓地のすぐ隣……という、あまり立地条件が良くないが、とても綺麗な家、整頓されている部屋に通される。

 リュエンもギルドに人手募集の依頼をした時には、シンシアのような女の子が来るとは思っていなかったらしい。

 初日から随分と気に入られてしまい、仕事終わりの度にお茶とお菓子をごちそうになっている関係だ。


 『やさしい近所のお姉さん』を絵に描いたようなリュエンに、シンシアは憧れている。

 椅子に座る前に、リュエンが新婚さんの頃、たったの2年前に流行り病で死んでしまったという夫さん……ドミニコという名前らしい……にお祈りをする。

 ドミニコはちゃんとしたお葬式をあげて墓地に埋葬しているが、リュエンはその遺品を部屋に残していて、それもリュエンにとっての『愛しい人』なのだという。


 ようするにリュエンは未だ、ドミニコと一緒に二人暮らしをしている……という事らしい。


「あら?シンシアちゃん、あの人にお祈りしてくれていたの?ありがとう、シンシアちゃんは本当にいい子ね……はい、シンシアちゃん。熱いから気を付けてね」


「ありがとうございます」


「それと……はい、あなたの分はこれ。今日もシンシアちゃんがお手伝いに来てくれたから、お茶会に誘ったの。ふふ……シンシアちゃんがあんまり可愛いからって、ぶしつけな視線を向けるのはダメよ?」


 こんなにも美人でスタイルもばつぐん、気立ても良いお姉さんと知り合えるチャンスなのに、ギルドへの依頼を受注する者が居なかった理由が、この辺りらしい。


 端的に言ってしまえば……リュエンという女性は、心が壊れてしまっているのだ。

 シンシアは別にそれをどうこうしようとは思わない。

 趣味の恋愛小説の読み過ぎで、少々恋愛関係の価値観が残念なシンシアだが、『そういう展開』の本は読んだ事がある。

 だから別段、それをおかしい事とは思わない。リュエンが今幸せなら、それで良いと思っている。


「ふぅ……美味しいです」


「そう?うふふ、ありがとう。おかわりもあるわよ。お菓子もたくさん召し上がれ」


「ありがとうございます」


「ほら見て、あなた。シンシアちゃんはちゃんとお礼の言える良い子なの。今日も、あなた一人じゃ絶対に持ち上げられないような荷物の入った箱を軽々持ち上げて、地下まで持っていってくれたのよ」


 唐突に虚空を眺める人にはフレアで十分に慣れているつもりだったが、虚空に向かって、まるで相手がいるかのように振る舞うリュエンには、さすがのシンシアも何か感じるものがある。


 リュエンさんには、きっとドミニコさんっていう人が見えてるんだろうな……


「あぁ、そういえば。さっき気付いたの。シンシアちゃん、ちょっとお顔を見せて?」


「はい」


「ふむふむ……うふふ、わかったわ。ねぇ、シンシアちゃん。あなた、まだ、した事ないでしょう?」


「……何をでしょう……」


「女の子にとって、すっごく大事なこと」


 リュエンの手がシンシアのあごを取り、上を向かせ、リュエンが顔を近づいてくる。


「あ、あの……あのあの……私はノーマルというか……フレアの人工呼吸はノーカンにしても初めてはもうちょっと普通な方が良いというか……その……そ、そうだ、ドミニコさんの前でっていうのは色々とまずいんじゃないかとっ!」


「あら……そうねぇ、確かに、男の人の前でするなんて、はしたないわね。あなた、ちょっとだけ待っていてちょうだいね。シンシアちゃん、こっちに来て」


 流れるように腕を引かれ、リュエンの私室に連れ込まれてしまう。

 大きな鏡の立てられたそばの椅子にちょんと座らされる。


「……これか、それともこっち……ううん、もっと薄くて自然な……かわいすぎて使えなかった……」


 リュエンは楽しそうに机の中から何かを探してくる。


「うふふ……シンシアちゃんのお肌、綺麗ね。それだけでもう何もしなくて良いくらい。さぁ、もう少しあごを上げて、唇をつきだして?」


 シンシアは人に流されると弱い。反射的に目を閉じてしまう。

 ファーストキスは見た目幼女の大人でセカンドキスは未亡人さん。いや、考えてみたら幼い頃はお父様やお兄様にも平気でキスをしていたから通算何キスなんだろう。そう考えたらこれくらいどうって事ないんじゃないか。いや、ある。


 と思った時には既に、フレアの唇より少しかための感触が、シンシアの唇をすっと奪っていった。

 あっさりとあっけなかった。

 シンシアはゆっくりと目あける。


「あ……あわわ……」


「はい、完成ー!やっぱり、シンシアちゃんくらいの子はリップを彩るだけでぐっと可愛さが引き立つわね」


「……あ……え?」


 リュエンがシンシアの背に回ってシンシアを鏡に映すと、そこには普段のシンシアよりちょっとだけ色っぽい感じのするシンシアが居た。


 リュエンの手には淡いピンク色の口紅。


 ……恥ずかしい。まさか、お化粧に対して、キスを迫られていると勘違いしてただなんて。


「シンシアちゃんはお化粧、初めて?」


「え……あ……はい……」


 実家に居た頃は、時々使用人達に本格的な化粧をさせられていたが、考えてみたら自分でお化粧、というのをした事は無い。


「じゃあ、このリップを使ってあげて。シンシアちゃんにばっちり似合う色だし、私もつい衝動買いしたは良いけれど、私には可愛すぎるかな、って思って使わないでいた物なの」


「あ……ありがとう……ございます……」


「さ、あの人にも見せてあげましょう?きっと、シンシアちゃんがあんまり美人になっちゃって、びっくりしちゃうわ」



◆◆◆



「たっだいまー!」


「おかえりですー」


 シンシアは元気いっぱいの上機嫌で宿に戻った。

 エルピスに着いてすぐに部屋を分けていた2人だったが、気が付いたら相部屋に戻っていた。


 もはや最近は、部屋に帰った時にフレアが居ないと落ち着かないくらいだ。


「ねぇねぇフレアフレア!」


「はいはいフレアちゃんですー」


「ど、どうかな?今日の私、何かいつもと違いが無い?」


 浮かれたシンシアはくるりと一回転して、フレアに駆け寄り顔を近づける。

 何かの本を読んでいたフレアは、物凄く面倒くさそうにシンシアを見る。


「……今日も墓地帰りですか。今日は一段と激しく死霊がこびりついてる感じがします」


「や、やめてよね!? そういうスピリチュアルな冗談……私霊感とか無いし怖い……」


「10キロ先からの視線サーチはシンシアの中では霊感ではないですかー」


「それは技術!フレアが言ったんじゃない、『魔力が体内循環し続ける体質だからちょっとした集中で超一流の気配察知になるんだろう』って」


「……あ」


 フレアが何かに気付いてくれた。期待が高まる。


「アダマンタイトのナイフ。帰って来たんですね、シンシアがご機嫌なのはそれが理由でしたかー」


「そうだけど!それもそうなんだけど、なんかもっと別の!」


「えー?なんか今日のシンシアめんどくさいですね。めんどくさい女そのものです。なんですか?お化粧でも覚えてきたんですか?」


 当たってる。当たってるのにニュアンス的には外れてる。なんなの。なんなの、この。この子は。


「むうぅぅぅぅぅ!」


「きゃー!? 何するんですかシンシアいったい何しますか!?」


 フレアの頬っぺたにキスをする。

 うっすらと、フレアの頬にピンク色のシンシアの唇の跡が付いた。


「ふぅ。これですっきり」


「あー!シンシア、変な紅つけてますね!?なんですかこれ!なにしましたか!?」


 鏡を見、フレアは一瞬でシンシアの唇のマークを拭き消してしまう。


「まったくもう。まったくもうですまったくもう。こんな紅の一つでそんなに浮かれぽんちになれるなんて、シンシアもまだまだおこちゃまですねー」


「む。まだ足りないか」


「いりません」


 本ガード。

 流石にそれをやられると、どうしようもない。物を汚すのは良くない。


「そもそも、そういう紅は食事で最終的に口の中に入るわけですよね。おなか大丈夫なんですか?ぽんぽんいたいって泣いても知りませんよ?」


「リュエンさん、すっごく良い人だもん。それに口紅が毒なんてそんな」


「シンシア知りませんか?はるか東国から流通して一時王都でも流行っていた、肌を白く染める粉。それを使った女は一時の白く美しい肌を得る代わりに、体中がやせ細る病に蝕まれ死んでいったと聞きます」


「……またまた冗談を……」


「マジです。大マジです。およそ150年は昔の事ですが。鉛だの水銀だのが入った粉を身体に塗れば、さもありなん、というものです」


「あ それは歴史の勉強で聞いた事がある。けどソレ大昔の話過ぎるし、今は禁止薬物だから、こういう一般流通してるリップクリームとは関係無いでしょ?」


「紅は紅です。可愛い言葉にしただけで騙されるようじゃいつか死にますよ、シンシア。冒険者や《ギルド管理協会フリューゲル》はそういう生き馬の目を射抜く世界です」


 フレアの言葉に怖くなってきたシンシアは、結局、ピンク色の綺麗なリップクリームは拭ってしまった。


 実家に居た頃は舞踏会に参加する為、着飾る為に半ばいやいやながらさせられていた化粧だったけれど、いざ自立……というにはまだはやいものの外に出てみたら、『市井の人達のする一般的なオシャレ』というのには、シンシアも非常に興味がある。


 しかしフレアはこの見た目で中身は大人でかなり達観している所があるから、保護者目線でシンシアにオシャレはまだはやいとでも言っているのだろうか、と考えた。


 顔を洗って寝室に戻ると、本から顔を上げたフレアと目があった。


「あれ?シンシア、紅消しましたか?」


「え?……う、うん……」


「せっかく似合ってたのに。もったいないですねー」


 違った。やっぱりフレアは何も考えてなかった。


 その後、しばらくの時間を掛けて、シンシアとフレアとの間でかなり白熱した枕の投げ合いが繰り広げられた。

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