3-2.当時の彼女の武器は4本。うち一本は、特別な意味を持つ物だと語った。
シンシアとの中互いで過去を振り返るフレア。
そこに現れるカルネ、彼が語ったものは――
「ど、どうかな?」
「ふむふむ、なるほどー……そう来ましたかー……」
シンシアはさっそく、宝玉を有効活用する為に武具屋でフレアを相手にちょっとしたファッションショーを始めた。
主に着替えを繰り返すのは、ベルトや留め具だ。
今のフレアは両方の腰に剣を一本ずつ、背中にも一本と合計三本の剣を携えている。
「私、フレアと会う前に、ゴーレムと戦って剣を折られて危ない目に遭った事があるんだ。そういう時、予備の武器があるに越したことないもんね。1000ルピ均一の剣なら、例の切り札でダメになってもお財布へのダメージは少なくて使うべき時に躊躇なく使いやすいし」
それはしかり、とフレアも頷く。
「今度は10カルネくらいする剣を経費で落とそうと思っていましたが……シンシア、思ってたより倹約家ですね。それに、剣の使い捨てというのは理に叶っています」
10カルネ。
「1カルネっておいくら万ルピなの?」
「平均して35万といったところかとー」
「あれ……フレアの上司で、ギルド管理協会でも結構偉いめの人でしょ?思ってたより低い……ね?」
それとも、私が市井の金銭感覚をまだ掴めていないだけだろうか、とシンシアは首をひねる。
「いえ、私が何かやらかす度にカルネの給料は天引きされる仕組みになっていますので。順調な出世コースのままなら50万ルピを下る事は無かったかとー。1カルネも随分暴落したものです」
「ねえフレア?これからはカルネさんをいたわってあげよう?敵は皆生け捕ろう?皆で幸せになろう?」
「そうですねー……私、生け捕りには向いてないので。シンシア、任せました」
「フレアぁ、ちょっとぉ!?」
「実際、シンシアのその選択、素晴らしいです。実戦で剣の使い捨てというのは私、考えつかなかったので。やはりシンシアには戦闘における勘所の良さを感じます。ちょっとついて来て下さい」
シンシアはフレアの小さな歩幅についてゆっくり歩くと、どこに行くにもずいぶんと時間が掛かるように感じる。
そんな穏やかで緩やかなお散歩道を続け、ようやくフレアは目的地を指さした。
「ここです」
それは、鍛冶師の工場だった。
からんころん、と扉を開けると、業物がずらりと並ぶ武器屋のカウンターがあった。
それらをスルーし、店員に向けてちょこんとスカートをつまみ上げる丁寧なお辞儀をしてフレアが言った。
「こんにちわ、おやじさんに依頼した内容、どうですか?」
(――フレアがまともにマナーを守った所作をしている!?)
「親父に聞かないと、何とも……入りますか?」
「はい。シンシア、ついて来て下さい」
「あ、うん。はい」
動揺が抑えきれないシンシアは、思わずフレアに対して妙な受け答えをしてしまう。
フレアに連れられて武器屋の奥へ。そこはひときわ暑い……いや、熱い。
鉄を鍛えて剣を造る場だった。
「おやじさーん!いま、お時間よろしいですかー!」
あまり近づかないようにして、きいん!きいん!とハンマーで鉄を叩く大男に、大声で語り掛ける。
「……おぉ?なーんだ、フレアの嬢ちゃんか。相変わらずちぃっちぇーぇなぁ」
「やだもー。たったの三日で大きくなったりしませんよぅ」
男……親父さんは、一瞬、フレアの頭をなでようとして、慌てて腕周りを拭く。
タオルにはべっとりと、煤と油のような汚れがついていた。
こりゃダメだ、と肩をすくめた親父さんは、腰に手をやる。
「つっても、俺が王都で修行してた頃からずーっと変わらねぇんだもんなぁ。ま、用件は解ってる。ミスリル解析の進捗だろ?」
「話が速くて助かります」
「まず……そうだな……純度はべらぼうに高い。鎧の持ち主がどうやってこんなモンを用意出来たのか、見当もつかんな。ピュアミスリルに鉄だけ混ぜ込んでニアミスリルにしてるのも、正直わけがわからん。もったいねぇ」
「そちらはなんとなくわかりますよー。さすがに、ピュアミスリルに術式を埋め込められる程の腕前ではなかったのでしょう。ミスリルは魔法、弾きますしね」
「混ぜた鉄製部分に術式をってか?っかー!ゴーレム使いってのが考える事は鍛冶師からしたら邪道も良いトコだな」
ダメだ。専門的な話過ぎて全く理解が出来ない。
先日のニアミスリルゴーレムをどうこうしている事だけは、洞察できるが……
「あ、シンシア何後ずさってるんですか。親父さん、この子です。親父さんが気にしてた鎧の不自然な斬れ目っていうの。この子が斬って捕縛しました」
え それでこっちに振るの?
「ほう!どんな化け物がと思ったら、そっちの可愛いお嬢ちゃんが!? いやぁ、悪いねぇ、てっきりフレアのお友達かと思っちまってたよ、がっはっはっはっは」
悪い人でも、怖い人でもなさそうだ。
シンシアは最近、フレアとばかり距離を縮め過ぎて若干人見知りになっている気がする。
「あの……初めまして。シンシアです」
「おう、俺はここの工場を切り盛りしてるドギーってもんだ。親父って呼んでくれ。嬢ちゃんの、その……剣を三本も持ってるのは、なんだい?二刀流ってのはたまに聞くが、三刀流ってのもあるのかい?」
どうやって使うんだ、と疑問符を浮かべるドギーさん……改め親父さんに、シンシアは慌てて手を振る。
「いえ、この剣は一本ずつ使う物なのであって私は二刀だなんて高度な事は……」
困ってしまったシンシアの前にフレアがずずい、と入り込んでくる。
「親父さん、鋳溶かす前の大きな鎧の破片がありますか?実際に見た方が親父さんの疑問も解消されるかとー。シンシア、例の魔剣をお願いします!」
「おぉ!そりゃありがたい!こんなニアミスリル鋼の鎧をどうやってこんな破損のさせ方したのかずっと気になってたんだ!所々溶けてるのはフレアがやったにしても、剣でぱっくりってのは、流石にフレアじゃねぇんだろう?」
シンシアは慌ててフレアの首根っこを掴んで耳元に小声でがなる。
(ちょ……フレア!こんな所であの魔法使うの!?)
(もー、シンシアには宝玉があるでしょう?一斬り、ばちーんとお願いします)
失敗したらどうするつもりなんだろう、と思いつつ、ふぅ、とシンシアはため息をついた。
「その時使ってたフレアの用意してくれた高級な剣は壊れちゃって、間に合わせの剣でも出来るかはわからないけど……」
「おおぅ、本当に間に合わせの剣だなそりゃ。買うならせめて、もうちょい他に何かあっただろうに」
親父さんが鎧の破片を立てかけていく内に、宝玉を握り込んだシンシアが剣を引き抜く。
1000ルピ均一の中ではまだしもまともな物を選んだつもりだったが、鍛冶職人の親父さんには良し悪しがさらに鮮明にわかるのだろう。
「えーと……危ないので、ちょっと離れててください」
シンシアは、二人が右手側に移動するのを確認し、袈裟切りの構えを取る。
実際に試すのは二度目。一度試した感覚的に、発動から2秒以内に振り抜かなければならない。
が、発動は剣が触れるより遅すぎてもいけない。
……緊張、するなぁ。
気を取り直して、すぅと目を細める。
「――行きます……《着火》!」
シンシアが剣を振り抜くその瞬間、その剣は紅蓮に包まれる。
赤熱の刃は積み上げられたニアミスリルの鎧を溶かしながら斬り裂き、振り切った先にぴちゃっと溶けた剣の鉄が跳ね、じゅぅと地面を溶かす。シンシアの手の中の剣の刀身が、ぼとりと落ちた。
その斬撃に晒されたニアミスリルは、台座ごとばっくりと切り裂かれている。
「……す……っげぇ!おい嬢ちゃん、なんだそりゃぁ!?」
「シンシアはこの年でAランク冒険者と切り結べる《身体能力強化》使いの剣士なのに、私の魔力に《魔力同調》まで出来る珍しい子で……その炎は私の魔法を込めた術具ですー。術師の私と相性ばっちりでしょう?」
あ、今後はそういう方向性で行くんだ。
はい私、シンシアです。得意なのは《身体能力強化》と、《魔力同調もできるようになったそうです。
「おう……すげぇ、すげぇよ……この店構えて15年、いや師匠のとこでの修行中も併せて30余年……こんなやばい斬撃は見た事ねぇ……純粋な剣筋の鋭さもさることながら、《武器魔力付与》じゃなく強引に熱で焼き切る……成程な……そりゃぁ、安物の剣を使い捨てるのが当然か。納得いったぜ」
「あ、ありがとうございます……」
あまりのべた褒めに、恐縮してしまう。
「ただ……そうだな、フレアはちぃっとばっかし特殊だからな。肩を並べる為にゃぁ、やっぱそれだけじゃ足りねぇよ。超一流の剣士は、相応しい剣を持たないとな」
親父さんは、ニアミスリルの切断面を見、破顔させながら言った。
「このミスリルの調査はギルド管理協会からの正式な物だがな。成分調査が終われば、それの後のミスリルはこっちで使って良いって事になっている。まぁ、フレアに併せる最高の素材つったら普通ならオリハルコン一択だが……今のを見る限りだと、逆に魔力伝導率が最悪のピュアミスリルってのも悪くねぇ。魔力の干渉を受けにくい分、安定して使えそうだ」
いやぁ愉快愉快と親父さんは笑う。
「おう、嬢ちゃん。ミスリルから不純物を取り除くのと剣製にしばらく時間は掛かるが、そのうちに最高の一品を用意してやるよ。ロハってわけにはいかないが……なに、フレアと稼ぎゃぁあっという間よ。どうせ『元手』は嬢ちゃん達が仕入れてきたようなもんだ」
「えっと……それって……」
「親父さんがシンシアを認めてくれて、タダ同然で剣を打ってくれるって事かとー。シンシア、良かったですね」
嬉しい事が起こりすぎると、理解が追い付かなくて涙が溢れてくる事をシンシアは知った。
今日は、何て良い日なんだろう!
これまでの人生で、最高に幸せな一日。それが今日だってシンシアには思える。
「……ありがとうございます!」
「後はそうさな……嬢ちゃん、さっきの見るに《武器魔力付与》はまだ使えなさそうだな?ちょいとこっちへ着な」
親父さんが念入りに手の汚れを落としながら表の武器屋に歩いていくので、ついていく。
そのまま店内に飾られている刀剣類、槍や槌といった物の中でひときわ異彩を放つ、たった一本だけ飾られていた武器種、ナイフを取に取った。
「ほれ、これをやる。お守り替わりに持っておけ」
シンシアに、真っ黒なナイフが手渡される。シンシアの手に併せて設えられたと言っても納得出来てしまう程の小ささだ。
だが、しかし、その輝きはどうだ。その刀身の美しさに、吸い込まれそうになる。
「わ……良いんですか?」
「ほら、背中見せろ。あんな斬撃を見せつけられて、そんな危なっかしい装備で放り出せる職人がいてたまるか。フレアの相方って事なら、最低でもこれくらいは持たせないと……な。せいぜいこいつに護ってもらえ」
左右に剣を吊ったベルトの背面に、ナイフのホルスターを付けてもらう。
試しに抜いてみると、小さなナイフがシンシアの手にはよく馴染む。
さながら隠し武器、暗器だ。
「何から何まで、ありがとうございます!」
「良いって事よ。嬢ちゃんの剣は……まぁ、相当先になるだろうけどな。用が無くても、たまに茶でもしばきに来い」
「はい!」
工場に戻っていく親父さんに、二人は手を振る。
「……シンシアは人たらしなんですねぇ……」
フレアが、ぽつりと呟いた。
◆◆◆
「先ほどは野暮なので、言わなかったのですがー」
「うん?」
日も暮れ始めた帰り道。
フレアがシンシアに語り掛ける。
「シンシア。そのナイフ、2~3日間、没収です」
「何で!?」
「私達はギルド管理協会ですので……伝説級武器に分類される物の携帯は認可を通さないといけないんです」
「うん……うん?」
「やっぱり、気付いてませんでしたかー……良いですか?神話の時代から存在するわけのわからない物ならいざ知らず、人が伝説級武器を造るには、絶対条件として特定の素材が必要です。分類して3種類」
フレアは指を振りながら一つずつ、挙げていく。
「一つは、オリハルコン。最大の魔力伝導率を誇る鉱物……硬度はそれなり」
「一つは、アダマンタイト。最大の硬度を誇る鉱物……魔力伝導率はお察し」
「一つは、ピュアミスリル。最大の魔力抵抗を誇る鉱物……硬度も堅牢です」
フレアは、シンシアの腰裏につけられたナイフをびしっと指さす。
「それ、純度ほぼ100%のアダマンタイトの塊です。昔、親父さんが独立した後、いつだったかにアダマンタイトを仕入れたら全財産掛けても剣一本分すら得られなかったと酒の席で泣いていた事があります。かといって鉄で薄める事も出来なかったと……そのナイフは、その成れの果てでしょう」
え……っと?つまり?
「大した魔力付与がされているようには思えませんが、あらぬ嫌疑を掛けられた際に別件逮捕の口実にされかねません。|ギルド管理協会(フリューゲルの認可を貰いに行きましょう。大丈夫、この程度なら数日で終わります」
「か……返してくる!そんなやばいもの流石にタダじゃ受け取れない!」
「だーめー!それだけで10カルネ!いえ、ぜんせいきの10カルネはくだらないんです!うけとりましょう、うけとりなさい、うけとれー!」
シンシアにとびかかるフレア、わたわたと踊る大きくなっていく影。
しあわせだ。
こうしてフレアとじゃれつきあうのにも、これ以上ない程の幸せを感じる。
これから先、何があってもこの幸せがあるなら、その幸せを守るためなら命だって掛けられると思えるほどのもの。
「はー……はー……いいですかシンシア。3回きりの魔剣を使い切っちゃったらどうするつもりですか。アダマンタイトのナイフがあれば、アイアンゴーレムくらいまでならギリギリでゴーレムコアを刺して倒せるんですよ」
その囁きに、シンシアはピクリと反応した。
「ロックゴーレムだってコアを一突きですよ。なんなら《武器魔力付与》無しで切り裂けますよ。親父さんはシンシアにはそれが出来ないのを見抜いて、そのナイフをくれたんですよ」
うぐぐ、となる。
言い返せない。反論できる余地もない。
何より、それだけの価値のある品を、ぽんと託してくれた心意気を汲まないというのも、いかがなものかという気がしてきた。
「はぁ……大事に使わせてもらおっか……」
「いいこいいこー。聞き分けの良いシンシアが私は大好きですよー」
シンシアにおぶさったまま、フレアはシンシアの頭をなでる。
どちらが子供なのかよくわからない光景。
たったの一日で、昨日の自分では考えられない程に戦う為の手札が揃ってしまった。
それがギルド管理協会の力、それが組織や権威、フレアの築いてきた人脈、そしてフレアの力その物なんだろう。
(……私には、ここまでしてくれるフレアの為にどれだけの事が出来るのかな……)
フレアとじゃれあいながらも、心は真剣に考え事に浸りながら、シンシアは帰路についた。
面白かったよ!とか
続きが気になるよ!とか
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