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追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
二章ーその戦いが最大の転機になった、と彼女は言った。
15/33

2-6.そして彼女は世界を覆う一翼になったという。

10/13 全体に大幅改稿を行いました。

10/14 大幅改稿に伴う修正を行いました。

「見間違いじゃないですかー?昨日も今日もフレアちゃんは世界一美幼女のフレアちゃんです。唇を水膨れさせた世界一の美幼女はいません。故に私は唇を水膨れさせたりしません」


 シンシアが目を覚ますと、先に起きていたフレアは朝からやけにご機嫌だった。

 三段論法なんだかそうじゃないんだかよくわからない事を言って、唇や手元の火傷跡が痕跡すら残っていないのをアピールしながら、シンシアをけむに巻く。


「でも……よくよく思い出すと、あの時は肉が焼けるっぽい匂いとかもしていたし……」


「ええと……まぁ、私には色々とあるんです。高級な《|簡易治療用使い捨て術式巻符スクロール》でも使ったという事でひとつ。それより街に戻るまでに、禁呪・邪法のお勉強をしましょう」


 フレアは左右の指でばってんマークをつくって口元を隠す。


「そもそも禁呪や邪法が何故そう呼ばれるかというと、『あまりにもズルいし使い過ぎると世界のバランスを崩すから使った人はムラハチ』にされる特殊な魔法です。《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》は勿論、昨日戦ったニアミスリルゴーレム鎧や超巨大ゴーレムギガントも同じベクトルです。公言しないようにお願いしますね」


 おしまい、と胸を張るフレアに手を叩く事で調子に乗らせて適当にあしらいながら、シンシアもぼんやりと考えた。

 確かに、考えてみたら。

 昨日のニアミスリルゴーレム鎧はあまりにも強敵だった。本来、全長2キロを超える超巨大ゴーレムギガントも同じく、通常なら手の付けられない化け物だろう。

 そして、それを一蹴できてしまう程の強化を他人に掛けて、情況をひっくり返してしまう《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》は、まさに『反則』のお手本みたいなものだった。


 と、考えた結果のシンシアの認識に間違いは無いが本質にまでは届かなかった。


 術者には一切のリスクが無く、被術者のみに命の負担が掛かる、莫大な戦力増加。

 もっとも、本来の術効果では被術者の負担は極めて低く、その分強化の上げ幅も比較にならない程に下がるといえど、それが軍事利用されたら世界の秩序を崩すほどの物だ。


 《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》だけはギルド管理協会フリューゲルにすら隠し通している、フレアの切り札中の切り札。

 例え原理を知っても誰にも真似出来ない術だが、隠すに越したものではない。


「どの道《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》は元々封印していた術です……シンシアと行動を共にする期間もそう長くはありませんし、今後使う機会があるとは思えませんが」


「えっと……その、やっぱりそんなに危険な魔法だったの?」


「いえ、本来の危険度はそれほどでもー。危険なのはシンシアの体質です」


 フレアはシンシアの事を、びしっと指さしてくる。


「まだあと数日間行動を共にするにあたって、正直に答えて下さい。シンシア、《身体能力強化パワード》は覚えたての頃、下手だった時期がありましたか??」


「え……っと、これ言うのは我が事ながらちょっと恥ずかしいんだけど、先生には天衣無縫の才だとかって言われた……かな?」


「……やっぱりですか。それです。ハクレンと同じ、そもそも自力じゃ魔力を体の外に全く排出『出来ない』体質です。本来はそういう、百万人に一人の特異体質の方にこそ《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》は最適の術式……というか、ぶっちゃけハクレンの為だけに試行錯誤されて編み出された魔法なのですが」


「え 今なんて?」


「シンシアはハクレンと違って私との魔力的な相性が良すぎます。《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》の効果も持続時間も、反動までハクレンの時とは比較になりません。次使ったら生き残れる保証無いです」


「それはわかったからその前。その前なんて?まるでハクレンと一緒に戦った事があるかのような話してるよね?」


 ハクレン。

 その姓名はハクレン・アドモスティア。

 シンシアの……シンシア・アドモスティアの血族。

 およそ20年前に黒竜から国を救った英雄。


「いえ……まぁ、色々あるんです。私はハクレンと直接会った事はありませんが、よく知っています。それだけです」


 フレアは、遠い何処かを眺めるようにして答えた。

 普段の考え事をする時にする、意識を失ったかのような瞳ではない。

 純粋に過去を思い返して感慨にふける、そんな瞳だった。



◆◆◆



 フレアと行動を共にする数日間というのは、やけにあっさりと終わりの時が見え隠れしだしていた。


「久しぶりのエリプスー!」


「えりぷすー!」


 エリプス西部地区の、さらに西門。

 門を守る兵舎の中に【チャリオットくん二世】を仕舞わせてもらって、二人は門をくぐった。

 どうりであんなに目立つ【チャリオットくん二世】を見た事が無いはずだ。

 そもそも街中には意図的に入れないでいたのかー、と納得する。


 石畳で舗装された道、レンガ造りの家が立ち並ぶ光景、避けて歩くのが面倒くさいほどあちらこちらへと流れる人の波、街の中を行き交う定期馬車。

 ここ暫く宿ですら木造の村に滞在していたから、ただその光景を見ただけで首都に近い『街』って感じがして、なつかしさが湧いてくる。


「一先ず、宿をとりましょっか。今日の所は宿でゆっくり休んでいてもらって良いですか?私は《ギルド管理協会フリューゲル》の仕事してきますので……あ、シンシアの冒険者カードも貸してください」


「ん」


 シンシアから冒険者カードを受け取ると、フレアはほんの一瞬険しい顔を造る。

 ため息を一つついてそれを懐に仕舞い直す。


「どうしたの?」


「……いえ、大した事ではありませんので。シンシアはゆっくりしててください。安静が必要な身だという事は忘れないでくだ下さいね」


 特筆するべき出来事もなく、それぞれの部屋を取ったフレアは、荷物を部屋に置くとそのまま『仕事』へと向かっていった。


 窓からそのフレアの背を眺めたシンシアは、フレアが一瞬の迷いも無く二人の部屋を分けた事に、『あの子と一緒の冒険も、もうすぐ終わるんだ』と実感してしまい、フレアとの距離を感じてさみしさを覚えた。



◆◆◆



 フレアはギルドオフィスの掲示板に張り出されている中から、魂を感じさせない瞳で熟考して【危険度G】の『害獣駆除』の依頼を手に取った。

 依頼金額などフレアからしたら木っ端な金額だし、【危険度G】は『何かしらの危険が存在するにしても一番低い』ランクだ。


 狙った窓口が空くのを待って、フレアは筆記代の下から可愛らしい顔だけ覗かせて、ニコニコと依頼書と自分の冒険者カードを渡す。


「これを受けたいのですが―」


 窓口の男は、フレアの姿と依頼書内容、冒険者カードを見比べやれやれと首を振った。

 フレアの冒険者カードに記載された年齢は12。ランクはE。種別は《魔力放出リリース》のみ使える魔法使い。技能が一種類でEランクという事は、実質《魔力放出リリース》はDランク相当と冒険者カードが告げている。

 少なくとも、危険度Gのの基準はクリアしているはずだが――


「お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんみたいな小さな子が遊びに来る場所じゃないよ。その依頼もお嬢ちゃんに任せるのは、出来ないねぇ」


「なんでですか?わたし、《火炎弓フレイムアロー》も使えるEランクの魔法使いですよ?」


「それでもお嬢ちゃんはソロなんだろう?こういう危険な仕事に、ソロの小さい子を出す事はうちのギルドではやってないんだよ」


「なるほどー」


 フレアは、すっくと飛び上がると筆記台の上に乗り上げ、窓口の男を見下ろした。


「お役所仕事は楽しいですかー?貴方ここではかなり偉い立場なのに、そういう事しちゃいますかー?私、ギルド管理協会フリューゲルの者です。幾つかお話を伺いたいのですがー」


 フレアがその段に至ってようやく出したギルド管理協会フリューゲルの身分証明カード。ギルドの職員に対して高い権限を持ち、実働部隊ともなると『最低でもAランク』を越える化け物の集団。

 受け付けの男はその瞬間、フレアの冒険者カードが『フェイク』という事に気付き、慌てて言い繕う。


「こ、これは失礼しました、なにぶん若々しい未来ある子供を危険な目に合わせたくない一心で失礼いたしました、今すぐにそちらの依頼の受理手続きを――」


「それはもうしなくていいです。それは貴方が拒否しました。無頼の冒険者の、仕事の受注を貴方が勝手な判断で拒否しました。冒険者に個人の感情を挟み仕事を意図的に与えませんでした。故にそれは貴方が負うべき過失です。重大な規定違反です」


「待っていただきたい!このような、人を騙すような事をして許されると思っているのですか!?だいたい冒険者カードの偽造は違法で」


「はい許されます。《ギルド管理協会フリューゲル》に仕事用の冒険者カードが支給される事を知らないギルド職員が居るわけ無いのですが……また貴方の失点が追加されましたね」


 ギルドオフィス内がざわつく。

 触らぬ神に祟りなしと、フレアから距離を取る者達が増え、しかしその様子を見物していたい野次馬達で溢れ、人垣のようになっていく。


「まぁ良いでしょう、貴方が年齢を基準に依頼を許可したり禁止したりするなら、是非とも私にも出来そうな娼婦のお仕事の斡旋条件を教えていただけませんか?ちょっと興味あるんです」


「それは……エルピスにおいて貴方様には、まだ娼婦は無理……です……年齢が18歳以上、あるいは……婚姻・隷属・その他身柄を保護する者を相手にした場合にのみ特例で16歳以上から……」


「正解です。じゃぁここからが本題です。このギルドハウスにおいて、【黒天狼】は貴方が担当するパーティーと記憶していますが……そこに加入したシンシアという少女の契約条項書類。これは貴方が作成した。間違いありませんね?」


 フレアはシンシアの冒険者カードを受け付けの男に見せつける。


「……そうです」


「それで、そのシンシアさんから借りてきた冒険者カードが、こちら。おかしいですね?おかしい所がありますよね?」


「おかしい、とは……」


「――つまり、あなたの目は節穴と……そういう事ですね?」


 シンシアの冒険者カードに記載された年齢は、15歳。

 シンシアの冒険者カードに記載された、技能欄の《身体能力強化パワード》《武器魔力付与ウェポンプロテクト》の文字。

ランクの表示は――G。


「何故、《身体能力強化パワード》《武器魔力付与ウェポンプロテクト》が使えるシンシアがランク『G』から始まっているんです? 【黒天狼こくてんろう】のメンバーが不正に高いランクを得ている事は後日、書面でお伝えさせていただきますが……」


 高いランクのギルドに低いランクの者が入る場合、低い方の者はパーティーで分け前として渡さねばならない最低額保証金額は大幅に下がる。それを利用した忖度。

 【黒天狼こくてんろう】はを実力不相応に高いランクを得、シンシアを不当に低いランクにし続ける事で搾取する。


 しかしどんな理由であれ、少なくともこの街の条例においては歳のいっていないシンシアに『そのような事』を行うのは犯罪だし、『それを許可するような書類を造った』者も同罪だ。


「そ……それは……その……」


「そもそも、貴方がシンシアさんに対して『路地裏送り』になるようギルド内で働きかけていた現場は私も過去に記録しているので、貴方が今この場で何を言おうが連行される事に変わりは有りません。続きはギルド管理協会フリューゲルで本職の事務官さんと話して下さい。余罪、沢山ありそうですね?」


 顔面蒼白の男のネクタイを握り、引き寄せ、フレアは侮蔑と軽蔑、殺意を込めた瞳で睨む。


「【黒天狼】はがシンシアさんを貴族たちに売った事、その報いを今頃受けている最中――それを貴方が隠蔽しようとしているのも調べはついています。【黒点郎】の担当者である貴方は、もうわかっているんでしょう?貴方達は、『やりすぎた』んです。貴方には『全て』を失ってもらいます」


 フレアがその手を離すと、男は椅子ごと背に倒れた。

 おぉ、と感嘆にも似たどよめきが野次馬達の中で走る。


「さて……すみませーん!もういいですよー!」


 フレアが大きく手を振ってギルドオフィスの入口に合図を送ると、エリプスの正規兵達が数名、入ってくる。


「それじゃ、後はお願いしますね」


「はっ!」


 正規兵たちが受け付けの男に縄をかけ、シンシアに纏わる事件、諸悪の根源を護送馬車に押し込む。


「ふぅ……」


 一件落着。実にあっけない幕引き。ここまで上手くやればボーナスも確定だ。

 いい仕事をした余韻に浸っていると、フレアを遠巻きに観察していた野次馬達が歓声を上げる。


「え なんですか、なんですか!?」


 冒険者たちにもみくちゃにされながら、フレアは困惑した。



◆◆◆



「そんな事があったんだ……」


「はいー。あの受け付けの男はギルドオフィスの主任格だったらしくて。見た目の良い女冒険者にはギルドぐるみで仕事受注を拒否させて、食い詰めさせて路地裏送りにするとか、パーティーが依頼内容を完遂しても何かといちゃもんをつけて査定を下げられるとかで、たいそう皆さんに嫌われていたらしいです」


 朝一番、シンシアはフレアに連行されていた。

 行く先はギルド管理協会フリューゲル、エルピス西部の支部。

 今は送迎の馬車の中。

 シンシアは昨日起こったというフレアの仕事の話、武勇伝を『無関係ではないから』と語り聞かせられていた。


「路地裏送りって?」


「それはシンシアにはまだ早いです。あと3年したら教えてあげます」


「3年て……」


 まるで3年間後も一緒に居るのが当たり前というかのような言い方に、苦笑してしまう。


「今日は何で私まで呼ばれたんだろう」


「捜査の聴取とか、色々あるんじゃないでしょうか……本命は、感謝状とか?」


「何で?」


「ニアミスリルゴーレムのゴーレムコアを斬ったのは誰でしたっけ。すっごく可愛くて剣術が得意な女の子が居たような気がするんですが。現地協力者として金一封くらいは期待出来ますよ」


「良いのかなぁ、そんなの受け取っちゃって……」


「良いんです。何回死に掛けたと思ってるんですか?正直、連れて行ったのが【黒天狼】だった場合は全滅までありえましたよ?それくらいの相手でしたから、あの鎧」


 相性もあったんですけどねー、とフレアは付け足す。


「そ、そうなんだ……緊張しちゃうね?」


「シンシアはゲストなので。私の上司は優しい人なので大丈夫ですよ。私なんていっつもやらかして怒られてますけど、全然怖くないですし」


 そんな物なのだろうか。それはフレアの精神性に問題があるように感じるが。


 思った事を全ては言わない事が美徳になる事を、シンシアは知っている。

 ここはノーツッコミでぐっと堪える。


 その後も益体も無い話を続け、馬車はようやく目的地……人工岩造りの建物、ギルド管理協会フリューゲルの支部に辿り着いた。


 迷いの無い歩でフレアはシンシアを引き連れて進み、『職長執務室』のドアをノックも無しに開けてしまう。


「たのもー。カルネは居ますか?居ましたね。私を呼びつけて不在だったら部屋を焼き尽くすところでした。命拾いしましたね」


 フレアが突然物騒だ。


「フレア……その場合、後々命拾いする羽目になるのは君の方じゃないのか?せめてノックをするなり、もう少しくらい、淑やかさという物を……」


 カルネと呼ばれたとても身なりの良い青年は、忙しそうに何かの書類を書いていた。

 ギルド管理協会フリューゲルの偉い人という事はそうとう偉いはずだが、その割には若い。30歳そこそこで、あまり力仕事をした事の無さそうなひょろりとした体躯。

 背だけは高く、苦労人という文字を貼り付けたような顔をしている。

 

 彼はフレアへの苦言を呈しつつ顔を上げると、シンシアを見て会釈に切り替えた。


「失礼。君がシンシア君か。身内の恥部を見せてしまい申し訳ない。まずは今回、君のフレアへの協力、大変感謝する。君のお陰で『伝説級装備レジェンダリーアイテム』の現物と、その背後を洗う為の為の犯人を生け捕りに出来た」


「い、いえ……そんな事は……えっと、私はシンシアと申します」


 シンシアはスカートの裾をちょこん、とひろげる淑女的なお辞儀をする。

 これはこれは、とカルネも片腕を胸元に当てて頭を下げるという紳士的なお辞儀で返す。

 フレアは興味無さそうに、カルネの部屋の本棚を物色し始めた。


「さて……そして、『そんな事』なのだが……それが、あるんだよ……『そんな事』は……実はフレアが『伝説級装備レジェンダリーアイテム』の絡んだ事件で犯人を現場で即死させなかった事は、一度も無いんだ……うちの問題児が対象を生け捕ってきたのは、今回が初めてなんだよ……」


「そ、そうなんですか……?」


「『伝説級装備レジェンダリーアイテム』を前にすると、何か急にテンション上がっちゃうんですよねー」


 フレアがぺらぺらと本を流し読みしながら会話に入り込んでくる。

 言い訳のつもりなのだろうか。


 確かに、超巨大ゴーレムギガントを倒した時、その直後のフレアのテンションの上がり方は唐突だった。《炎熱穿孔の槍フレアメリーランス》や《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》といい、扱う魔力の規模が大きすぎて、元々『生け捕り』には向いていないのかもしれないが……。


「君をここに呼んだ本題はそこで、物は相談なんだが……シンシア君。君もギルド管理協会フリューゲルに加入してはもらえないか?今回の件でフレアの暴走を抑制した君を、私は高く評価している」


「……と、言う事なんです。てへぺろー」


 フレアはあざとく可愛げに誤魔化す。

 どうやら、少なくとも今朝の時点でフレアはこの流れになる事を知っていたらしい。


「えっと……でも、私は、その……弱いです。《武器魔力付与ウェポンプロテクト》だって使えなくて、きっと何にも出来ないと思います」


「シンシア君は《身体能力強化パワード》に限ればAランク相当の力があると聞いている。ギルド管理協会フリューゲルの職務はその性質上、人との対峙・生け捕っての制圧が主任務になるからね。堅牢な魔物を狩る冒険者業より、よほど君に向いていると思うよ」


 かつかつかつ、と近づいてきたカルネに、シンシアは勢いよく、がっと肩を掴まれる。


「……というか。頼むからギルド管理協会フリューゲルに入ってフレアのブレーキ役になってくれないか?足を引っ張るというのなら全力で引っ張ってくれ。フレアに『生け捕り』という概念を与えた君にしか、フレアは制御出来ないんだ!」


「そこまで言いますかー?ちょっと殺されそうになったらびっくりして全力出して殺し返しちゃうだけじゃないですかー!」


「……そうですね……フレアは、その、なんていうか倫理観が緩いですしね……」


「それに、君にとっても悪い話ではない。シンシア・アドモスティア君。君はこの家名を背負う事に、難色を示す傾向があるとフレアからは聞いているが……どうなのかな?」


 ……驚いた。いや、フレアには冒険者カードを貸した時点で家名はバレるのを覚悟していたし、何かしら言われるかとも思っていた。

 が、あのフレアが他人の繊細な心の機微を洞察して、わざわざ上司に報告するというおよそ大人らしい事をするとは思ってもみなかった。


「そ……うですね。私はシンシアです。出来るのなら、ただのシンシアとして、生きていきたいです」


「それならばギルド管理協会フリューゲルは君にとって福音になり得る。ギルド管理協会フリューゲルは権力を持つ者に組してはならない。簡単に言うと、何処か一つの貴族に贔屓ひいきをしてはならない。結論を言うと……ギルド管理協会フリューゲルに所属する限り、君は家名を失う事が出来る」


 もちろんギルド管理協会フリューゲルをやめれば家名を名乗っても良いんだけれどね、と付け足すカルネ。

 シンシアは、あまりに都合が良すぎる展開に、ぽかんとしてしまう。


 総合した話から察するに、ギルド管理協会フリューゲルに入れば、まずフレアとずっと一緒に居られる。

 次に、ギルド管理協会フリューゲルの基本的な職務は魔物狩りではない。《武器魔力付与ウェポンプロテクト》も使えない自分には、冒険者よりよほど自分に合った仕事が出来る。

 さらに、断ち切りたくてもそんな手段が無く自分につきまとってきた貴族としての名を、公的に消す事が出来る。


 いざ、その家名を失うというのは、ほんの少し怖いような気もするが――それこそが、甘えだ。そんな事で迷う程度なら、そもそも実家を飛び出す事なんか無かったはずだ。


 それに……


「フレアと一緒にいられるのなら……」


 シンシアは、ごくりとつばを飲み込んで、答えた。


「私も、ギルド管理協会フリューゲルに入れて欲しいです!お願いします!」


 まだこの感情が何なのかはよくわからないけれど。


 割と、家名の事はどうでもよくって。


 まだフレアと離れたくない。

 それが、シンシアの答えの一番の理由だった。

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