表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
二章ーその戦いが最大の転機になった、と彼女は言った。
14/33

2-5.そんな華々しい『勝利』を、彼女は『相討ち』だったと語ったらしい

10/13 全体に大幅改稿を行いました。


「はぁっはぁっはぁっはぁっ」


 シンシアは鎧の宝玉を真っ二つにした瞬間、シンシアは安堵した。

 これで勝ったはずだ・・・と。

 その安堵が、張りつめさせていたシンシアの緊張を解いてしまう。


 瞬間、膝から崩れ落ちた。

 一度緩んだら、もう身体に力が入らない。

 紅の刃を地面に突き立て、辛うじて倒れる事だけは回避する。

 しかし、剣を握り続ける力すらない。


 立ち上がれない。

 それまで耐え続けてきた灼熱の鎧の副作用が、恐ろしい勢いで全身を駆け巡る。


 苦しい。

 苦しくて、苦しくて、あまりにも苦しくて死んでしまいそうだ。

 先日の急性魔素欠乏症とはまた違う苦しさ。


 全身が、恐ろしい熱を持っている。意識が朦朧とする。

 魔力炉心が勝手に高速回転し続けて、止まってくれない。

 《身体能力強化パワード》を解こうとしても、何故か解ける気配が一向にない。 全身を焼くように強い魔力が駆け抜け続け、しびれるように痛む。


 戦闘中の極限の集中状態、極度の興奮状態で騙し続けていた体が、それ酷使された分だけ強く泣き叫んで、暴れている。


「シンシア!」


 フレアの声が聞こえる。

 立ち上がるどころか、倒れないだけでせいいっぱい。顔を上げる事すら出来ない。

 鎧の剣は斬った。攻撃が来るとすれば拳か足。それなら一撃貰っても即死は無い。

 あぁ。攻撃されるなら、はやくしてほしい。

 猛烈な力で引っ張られる意識の手綱を握り続けるのも、もう限界だ。


 フレアが寄り添ってくるのが気配でわかる。

 

 じゅうと肉の焼ける音。

 フレアがシンシアの身体に触れようとして、その灼熱に身を焦がす。


「痛っ……そんな……まだ私の魔力が全く減ってもいないなんて……《対炎熱防御アンチファイヤプロテクト》!」


 危ないって。さっき私が鎧に触って溶かしてたじゃん。

 それにフレアは殴り合いとか出来ないんだから離れてないと。


 鎧が、動いた。

 足元しか見えないその鎧が、ゆっくりと……背中から、倒れていく。


「……っ!はぁっはぁっ……」


 勝った。勝ったんだ。

 フレアの援護があったとはいえ、フレアの用意した剣があったとはいえ、フレアの魔法のお陰とはいえ、強い剣闘士の動きをコピーしたというニアミスリルゴーレムと斬り結び、勝った。

 最後の最後は全部フレアの魔法のお陰だけれど、それでも……勝った。


 満足したシンシアが瞳を閉じて、剣から手を放し倒れようとするのを、フレアが必死に止めてきた。焼け爛れた手で、無理矢理目を開かされる。


「シンシア……シンシア!駄目です!まだ眠らないで!眠っちゃダメ!死んじゃう!」


 フレアのとても大袈裟な声が、頭の中にぐわんぐわんと響く。


「どうしよう……信じられない、相性が良すぎちゃったの……何でこんなに……シンシア、何でも良いです!魔力を外に出して!まずは《身体能力強化パワード》を切って少しでも魔力炉心の回転を落として!《武器魔力付与ウェポンプロテクト》じゃなくていいから……純粋な射出系魔法か《身体硬度強化アーマード》は?使えますか?」


 頭の中に直接響いてくるようなフレアの叫び声に、シンシアは少し苦手気味な《身体硬度強化》(アーマード)を試そうとして、『無理』と答えた。


「シンシア?ねぇシンシア?返事をして!死なないで!」


 無理矢理開かされた目を閉じる事すら出来ず、高熱に浮かされたような頭で眺める先には、蜃気楼のように歪んだ視界の中に、涙を浮かべるフレアが居た。


「おねがいです……を一人にしないで……」


 シンシアに掛けられた炎熱魔力付与の魔法。

 《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》は幾かの魔法を組み合わせた複合魔法だ。

 その効果は対象の全身を灼熱で覆い、超高温で焼き切る、超高温で敵の攻め手を制限するといった、疑似的な《武器魔力付与ウェポンプロテクト》と《身体硬度強化アーマード》を与えるというもの。


 しかしそれだけでは被術者も灼熱に焼かれて一瞬で焼け死んでしまう。《対炎熱防御アンチファイヤプロテクト》は《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》の中でも最も重要な核とも言える魔法。対象の全身を覆う灼熱から身を守る為に何重にも重ね掛ける、対炎熱に特化した遮断魔法。

 

 『灼熱を身に纏う』というコンセプトのもと、他者との連携戦闘にも活用するため、炎熱は被術者の全身の外側も1センチほどを覆う膜の中にとどめるにも使い――


 ようするに、シンシアから1センチ以上離れていれば灼熱も何もないが、もし指一本でも触れた瞬間、誰であろうがその熱に焼かれ死ぬという事だ。


 それは例え、術を掛けたフレアであろうが関係はない。


 シンシアに駆け寄りながらのただ一度掛けの《対炎熱防御アンチファイヤプロテクト》ではシンシアに触れる事すら出来なかったフレアは、もう数度同じ魔法を重ね掛け、それでやっとシンシアの身体を触れるようになった程だ。


 通常なら、シンシアはフレアの魔力が込められた剣を振るう度、《身体能力強化パワード》を使う度にも身体を覆うフレアの魔力が排出され、目減りし、すぐに鎧を切り裂く切れ味も失う……はずだった。


 どれだけ相性がよかろうが、しょせんは他人の魔力。

 異物はすぐに取り除かれてしまう。


 しかし、シンシアとフレアの魔力相性は、高い……などという生易しいものではなかった。

 フレアの想定を遥かに超えて、それこそ『理論の上、学術で分類する上では完全に同一』と言える領域で高く、その効果がほぼ全く減衰する事無く伝わり、ニアミスリルですらバターのように切り裂く魔剣、触れるだけでニアミスリルを溶かす魔鎧となった。

 

 そこまでは良い。戦力上、それが無ければ戦いも苦しいものだったろう。

 だが、殆ど同一人物レベルの相性の良さから、シンシアの魔力炉心はフレアの魔力まで自分の物だと誤認してしまい、シンシアは『全身に纏う』だけのはずだった魔力を、『自分の物と誤認して吸収』してしまった。


 その上で天才的に洗練された。『無駄な魔力浪費や排出』の無い完璧な《身体能力強化パワード》で、彼女の体では本来有り得ない量の、その魔力を全身に循環させ続けてしまっている。

 このままでは、シンシアは完全に暴走した魔力炉心と溢れた魔力の負荷で死んでしまう。


 どうにかして対処をと考えた瞬間、フレアの記憶の中に、該当する例が思い浮かんだ。

 本当は考えるまでもなく気付かなければならなかった。

 情況は完全に同一。

 《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》の魔法を造った経緯の記憶と、その後のこの魔法にまつわる記憶を探ると……


「もしかして……シンシア、《身体能力強化パワード》が上手なんじゃなくて……《身体能力強化パワード》の効率を下げる方法すら、知りませんね!?」


 念の為の確認にも、やはりシンシアの返事は無く、次の瞬間、フレアはシンシアの唇を奪った。

 舌を絡めるようにしてシンシアの唾液を吸い、シンシアの魔力に満ちた肺の中の空気を全部奪うかのような勢いで吸い上げ、一瞬で体内魔力操作を行い魔力の含まれない空気を吹き込み返す。


 フレアは、シンシアが驚くほどに洗練された《身体能力強化パワード》の名手だと、思っていた。

 他の荒くれ冒険者のチャンバラ剣術とは違う、美しい型をから繰り出す剣術を身に着けるまでに費やしたであろう果てしなく地道な訓練の日々を思えば、天賦の才としか言えない程の完璧な《身体能力強化パワード》だって血の滲むような努力の末に掴んだ物なのだろう、まだ若いシンシアには《武器魔力付与ウェポンプロテクト》は危険だから教えない、あるいは『留める』と『放出する』で逆の技術は同時に教えない修行方針だったのだろう、と考えていた。


 だが、現実は。


(この子は生まれつき《身体能力強化パワード》にしか適性の無い子……魔力を放出するのは体質上出来ない子!何で気付かなかったんですか、その予兆はあったのに……!)


 例えば、総魔力量は少ないのにやけに洗練されすぎている《身体能力強化パワード》と、他の魔法技術の習熟度合いに異常な落差がある事。

 例えば、10キロメートル離れた視線・殺気にまで反応する『本人すら無意識に常時発動している超感覚の強化』。

 例えば、シンシアの家名。伝説の黒竜と最後に戦った男、武器破壊者ウェポンブレイカーのハクレン・アドモスティアの血族であるという事。


 あぁ……思い返せば全てが符合する。


 王都を黒竜から護って死んだハクレンだって、援護で受ける《灼熱魔力強化付与エンチャント・ファイヤ》の構築がまだ不安定だった頃は、同じような理由で何度も死に掛けていたではないか!


 酸素と共に魔力を吸い上げ、酸素だけを返す循環呼吸でシンシアの暴走する魔力を奪っていく。

 意識だけはあるのだろう、シンシアは唐突なフレアのディープキスに抵抗をしようとするが、四十度を越えかねない体温のシンシアが、まともな抵抗を出来るわけはない。


「はぁ、はぁ……シンシア、じゃましないで……」


 逆に、シンシアの両掌はフレアの小さな掌で恋人つなぎにいましめられ、足には両足を搦められ起き上がれない体制にされてしまう。


 ――余計にムードが増したフレアのディープキスに、シンシアは涙を流しながらいつの間にか何度かの痙攣を残して失神した。

 シンシアが意識を失った後もしばらく、フレアはその唇を併せての救命活動をやめる事はなかった。



◆◆◆



 フレアは【チャリオットくん二世】の運転席に乗り、融解して落ちたニアミスリルの鎧のパーツをまとめて包んで膝の上に乗せた。

 その後部座席にはシンシアを寝かせ、ベルトで固定している。

 二人乗りが限界の【チャリオットくん二世】に鎧の男をまともに乗せる席など無いが、僅かな荷台スペースにぐるぐる巻きのす巻き状にして持ち帰る事にした。


 その道中には、統括者を失い停止状態のロックゴーレムがあちこちに散見された。


 村に戻ると、『またですか?』という顔をする守衛達に男を引き渡し、その身に付けていた鎧を剥ぐ――実はこの作業は恐ろしく手間の必要な作業だった。

 何せ本来は留め具を弄れば外れる鎧が、熱で溶けて合さり癒着した上に強固なニアミスリル鋼製だったのだから。


 男の右手にひときわ濃密な魔力、異彩を放つブレスレットを確認し、それ一つだけはフレアがギルド管理機構フリューゲルの権限により危険物として押収。


 男の近くに保管したら遠隔操作で牢屋を素材にアイアンゴーレムを造られかねない――などと教えてあげると、二つ返事で快く譲ってもらえた。

 無論嘘である。この手のマジックアイテムが手を離れた先で仕えてたまるものか。

 元・ニアミスリルゴーレム鎧の欠片も全てフレアが抑えた。

 こちらは『術者が気絶した途端に自動運転が始まった』と本当の事を伝えただけで回収出来た。


 犯罪者達の処置は本国からの応援を呼んで、後処理を丸投げだ。

 現場で働くフレアの功績を、事が終わった後に安全圏からハゲタカよろしく付け狙う者達は多い。

 こういう時の彼らの仕事は異常なほどに素早いので、後は放置で良いだろう。


 恐らくは男が今回のゴーレム騒動を引き起こす事が出来たのは、フレアが握った《伝説級装備レジェンダリーアイテム》あってこその事。

 その現物をフレアが握ってさえいれば、巻き返しはどうにでもなる。

 大量のニアミスリル鋼も、何かに使える事だろう。


 男からニアミスリルを剥ぎ取る作業、男の治療……鎧越しの爆撃で骨折していた足や全身の火傷治療と、その他面倒な書類や早馬の手配をしている間に二時間も掛かったが、【チャリオットくん二世】に寝かせていたシンシアが目覚める気配はない。


 宿に戻ると、店員にチップを払ってシンシアをベッドまで運び込む事をお願いする。


 部屋の鍵を閉めると、カーテンを閉めて部屋へ差し込む光を閉ざす。

 人の目の届かない密室の完成。


 フレアはまず、シンシアの脛当てを外した。

 次に籠手を外し、ばんざいをさせて皮鎧。

 ベストとシャツも脱がせる。


 シンシアはブラはつけていないようで、ピンクのシルク生地のキャミソールを下着にしていた。


 うーんと考えたフレアは、先にシンシアのスカートと膝上まで覆うソックスを脱がせる。

 結構な重労働だったが、これでようやくシンシアと皮膚接触に問題ない……と、思われる。

 その姿をフレアはじっとみつめる。



 フレアはシンシアのキャミソールの内側、綺麗な肌に少しだけ触れてみた。

 とても素敵な肌触り。

 戦闘中、派手に飛び回った事で擦り傷や打撲跡は幾つか触診で見当たるが、火傷傷が無い事にひとまず安堵する。

 フレアはシンシアの胸に耳をあて心音を確認を確認すると、その視界に入ったシンシアの肌を守る最後の一枚に対して呆れ顔を造った。


「服や鎧を安物に揃える頭があるのに、何で下着はシルクの高級品なんでしょうねー……ねぇシンシア、本当に隠す気あるんですか?おうちの事」


 深い眠りについたままのシンシアの頬をぷにぷにと弄る。

 シルク生地の上下下着なんて、一介の駆け出し冒険者には通常、縁の無い物だ。

 それこそ、そんな物に身を包むのは名のある商家か、お貴族様か、色香を餌に『野党釣り』する上位冒険者……あるいは娼婦くらいのもの。


 フレアはシンシアのぱんつに手を伸ばして、考える。

 必要なのは触れ合える程度の肌の露出なのであって、これ以上は大差が無い。

 それにシンシアが本気で怒ったらきっと怖い。

 平和主義者のフリしてだいぶ戦闘への躊躇が無いし……


 フレアは自身もてきぱきと服を脱ぎ散らかすと、シンシアの隣に潜り込み、毛布をかぶる。


 シンシアの胸に顔を埋もらせ、全身を押し当てて抱きしめ、足を絡める。


 高すぎる体温。まだシンシアの中には、フレアの魔力が残っている。

 応急措置も緊急措置も行った。確かに現在は小康状態に入っている……が、またいつ暴走し始めるかわかったものじゃない魔力は、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて取り除かないといけない。


 強引に魔力を奪うやり方ではまた暴走させかねないし、下手をしたら次の小康状態に落ち着くまでに魔力を吸い過ぎてシンシアを急性魔素欠乏症きゅうせいまそけつぼうしょうに叩き込み、一気に末期症状まで進行させて最悪殺してしまう恐れもある。


「……ほんとは、わたしも、はずかしいんですよー……?」


 毛布に潜り、シンシアの胸の中で喋りかける。

 蒸れた汗の匂い。とてもじゃないけれど良い匂いとは言えないけれど、その中にミルクのような安心感を感じさせる何かがあった。。


 目の前にあるシンシアのおっぱいに、頬をすり寄せて見る。

 別段、そこに特別な感触は無かったが、人に甘える行為そのものにえもいえぬ幸福を感じる。


「えへへ……わたし、あかちゃんみたい……」


 そのいたずらで、フレアはとても甘酸っぱいような、なつかしさと嬉しさとがないまぜになった気持ちに包まれる。涙が溢れてくる。


「なんでだろ……わたし、おかしいですね……りゆうもないのになくなんて……」


 もう一度、ぽふっと、シンシアの胸に頬を摺り寄せた。

 小さな子供が、母親に対してそうするように。


「ね……アデルちゃん……きっと、ママってこういうのなんだよ……あったかくって、やさしくって、それですっごくなつかしいの……」


 フレアは、シンシアの中の魔力を探りながらまどろんでいった。

 本当はずっと起きているべきなんだろうけれど、魔力操作は自動展開型に切り替え済みだ。

 それよりも、今、眠りに落ちる事で得られる満足感は、フレアが数十年掛けて探し続けてきた『もの』の一つだと確信していた。


 その誘惑に浸る事は、どうしたって抗いようのないものだった。



◆◆◆



「……どうしたものかな、これは……」


 深夜、シンシアが目を覚ますと、殆ど裸同然のフレアに絡みつかれていた。

 自分も下着姿な事に気付くが、ぱんつを覗き見する宣言の後に覗き見どころか、まさか服を脱がされるとは。

 ……うっとうしい。今度は何のいたずらだ。


 半身を起してベッドの下を見てみると、酷く散乱した服。


「あーあーあー……しわになっちゃうよこれじゃ……」


 せめてたたみに行きたいが、気持ちよさそうに眠っているフレアが邪魔で動けない。


 そもそも、何故二人とも服を脱いでいるのか。

 フレアはシンシアの中で、恋愛小説用語で言う所の『朝チュン』というキーワードからあまりにも遠いから、その可能性は真っ先に除外できる。

 んー、と最後の記憶を思い出す。


 禁呪・邪法の類で……つまり結構危険な術で、慣れなきゃ苦しい……と、フレアが言っていた魔法の力で、ニアミスリルのゴーレムを半ば一方的に倒した。

 本来なら、逆立ちしたって敵わない相手だったのにだ。


 けど、それは結果論で、ゴーレムコアを斬った瞬間につい、気を抜いた自分は一気に噴き出してきたフレアの魔法の反動に負けて倒れてしまった。

 幸いにしてゴーレムはそれで機能を停止してくれたが、本当に危うい戦いだった。もう一度やれと言われても、出来ないだろう。やりたくもない。

 

 それくらい、あの魔法の反動は苦しかった。


 それで、その後――そうだ。キスをされた。延々と、長々と、濃密に舌を搦めて。

 最初は恥ずかしいだけだった。それが肺の中の空気を入れ替えんばかりに唇をふさがれて、唾液や呼吸の交換をされて、物凄く苦しかったのが段々と楽になっていって、気が付いたらフレアの舌に思わず――猛烈な気持ち良さまで何度も感じて、気を失ってしまった。


「………………ファーストキスだったんだけどなぁ……」


 濃密なキスをされた事で楽になったという事は、きっとこの謎の添い寝も、そういう治療の意図がある事後処理的に必要なものなのだろう……と、シンシアは前向きに洞察した。


 実際にそれは大当たりで、その洞察力は感嘆に値するものだが、『そうでも思わないとこわい』的な後ろ向きな理由に基づく前向きな考え方だった。


「あー、もー、よだれたらしちゃって……」


 シンシアがフレアの唇を拭おうとした瞬間、違和感に気付く。

 フレアの可愛らしい唇に、大きな水膨れが出来ている。


 まさか、と思い自身に絡みつくフレアの腕を解いて掌を見てみると、真っ赤な火傷跡で腫れていた。


「……っ!」


 あぁ。馬鹿だ。私は大馬鹿だ。

 一瞬でもフレアの悪ふざけを疑うなんて。


 あの時、フレアに唇を奪われたあの時はシンシアはニアミスリルでさえ溶かす灼熱の魔法に身を包んでいた。

 あのフレアがそれの対策になる魔法を使えないとは思えない。なのに、そのフレアが火傷を負っている事実――

 対炎・対熱の魔法を万全にしていたらシンシアが間に合わない状態だったか、それとも万全にしていてなお高熱にさらされたか……


 どちらにせよ、反射的に自分が抵抗しなければする事も無かった火傷傷かもしれない、それをフレアに負わせてしまった。


「ごめん……」


 シンシアはそっと、フレアの顔を胸元に引き寄せて、涙した。


「ごめんなさい……ありがとう……」


 何を謝っているか、何に対して謝っているの自分でもよくわからない。

 けれど、懺悔ざんげしなければ、シンシアは気が済まなかった。

 そして、自分の命を繋いでくれたフレアに、気の利いた感謝の言葉も浮かばなかった。


 その後も、フレアを抱きしめたシンシアは何度も『ごめんなさい』と『ありがとう』をわんわん泣きながら繰り返し続ける。


 シンシアの胸の中で、抱きしめられたフレアは一度だけ瞼を開けると、シンシアの泣き声を、その謝罪も感謝も、聞かなかった事にしてまた閉じた。


 ゴーレム大量発生事件からこちら、死にそうになって、借金まで背負わされ、地下闘技場で怖い思いをして、強姦されそうになって……一時は本当に絶望的だったシンシアが、今、ようやく初めてそれらの事件全てから解放され、心から安心できる情況になったのだから。


 一晩くらい、泣いて、謝って、感謝して、心の整理をつける時間くらいは誰にも邪魔されてはいけないのだから……

感想どしどし募集中!


面白かったよ!とか

続きが気になるよ!とか

思ってくれたら嬉しいんだけどそう思ってくれたことを伝えてくれるともっと嬉しいので


下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして下さったら大喜びです。


ブックマークも大歓迎。

作品への応援、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ