2-3.それが彼女達の初の共闘だったという-1
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
ゴーレムを操る魔法使いの切り札を先制攻撃で潰したと思ったら、彼はもう一つの切り札を持っていました。
その『秘術』に二人は追い詰められてしまいます。
「とうちゃーく!ふふんやっぱり位置を掴めた敵には速攻と不意打ちが一番ですねー!私は《ギルド管理協会》(フリューゲル)の者です!状況証拠から貴方を逮捕します!さぁシンシア!やっちゃってください!」
未だテンションが高いままのフレアは、空気を読まず宣言した。
口を半開きに開けて呆然と肩を落とす髪の薄い鎧姿の男は、今にも泣き出しそうな、とても疲れた目をしていた。
流石にちょっとかわいそうに思えて、シンシアはフレアにけしかけられても即斬り掛かる、という気にはなれない。
「え……えー……せめて話くらい聞いてみようよ……えっと、貴方がそこのゴーレムを造ったの?こんな所で、何のために?」
シンシアはゆっくりと剣を引き抜き、構えながら問いかける。
『返答次第では襲い掛かるぞ』という気概を碧眼に込めて睨みつけて。
フレアは、そんなシンシアを『平和主義者みたいな事言って臨戦態勢に入るの速いなー』と感心した。
男は呆然とした顔で、心此処にあらずという様子で答えた。
「そうだ……俺が造った……ここなら幾らでも岩石がある……ロックゴーレムを幾らでも造れる……俺はせっかく手に入れたゴーレム造りの力を究めなきゃいけねぇんだ……」
「け、研究熱心なんですね……?なら、この近隣で異常発生していたロックゴーレムや、先日【黒天狼】を襲った巨大ゴーレムは……」
シンシアが重ねて問うと、男は上ずった声で叫び返した。
「そうさ!俺が造った!性能操作だコノヤロウ!今の俺ならやれるはずだったんだ!A級ギルドの鼻を明かしてやろうと思ったらよう……《ギルド管理協会》(フリューゲル)の奴が何でA級ギルドなんぞに混ざってんだ!脳筋野郎共の中でお前は毛色が違うから俺は警戒してたんだよ!そうさ最初から判っていたさ!お前が警戒を解くまで俺は《超巨大ゴーレム》(ギガント)をけしかけなかった!俺の戦略は完璧だったはずだ!」
男は、びしっとシンシアを指さす。
「え……何言ってるの?」
「察するに、先日は10キロ先からの視線すら察知する『覗き魔サーチャー』を本能的に察知してたアピールかとー。あと《ギルド管理協会》(フリューゲル)は私で当時のシンシアは彼らのパーティーめんば……」
地雷を踏まれたシンシアは男から目を離さず、ヒュンと音を立てた剣の構え替えで背後に怒気を伝え、フレアのおしゃべりを止めさせる。
そういえば、超巨大ゴーレムが湧いたのはシンシアが馬車周りに近づく気配探りを解いて戦線に走った直後の事だった……気がしないでもない。
「私は《ギルド管理協会》(フリューゲル)の人間じゃなくて、ただの現地協力員みたいなものだから。ゴーレムで人を襲うのをやめて欲しいんだけど……」
「嘘つけぇ!ふざっけんなよテメェこの前一番暴れてた奴じゃねぇか!その前も俺を探して右向いて左向いてアー!もう駄目だ憎たらしい!てめぇ一人だけ動き方がガチだったんだよ!騙されるかブァーカ!じゃなきゃ、おとついの今日でここまで《ギルド管理協会》(フリューゲル)が派遣されてくるわけあるか!」
どうにも、最近情緒不安定な人間の相手ばかりさせられている気がする。
「今だって!ロックゴーレムで足止めをした隙に《超巨大ゴーレム》(ギガント)を造って圧し潰す作戦は完璧だったはずだったのによぅ!てめーはどんだけ俺の邪魔すりゃ気が済むんだよぉぉぉ!」
「はーいそれは私がやりましたー!……っていうか、あなたもしかしてバカですね?散発的にロックゴーレムをけしかけるより、峠で時々ロックゴーレムを寝かせて道を塞げば【チャリオットくん二世】で移動出来なくなるから、私達の足止めはそれが一番効果的だったのに」
―間―
「……これは夢だ!悪い夢なんだ!俺は悪くねぇ!そうだ俺のゴーレムが負けるなんてあっちゃいけねぇ、あのお方から授かったS級魔術師になれる力、秘密結社――」
「やだー!ききたくない!ぜぇったい!きかない!やーだー!」
突然、フレアが駄々っ子モードになって叫び始める。
「そういうの聞いたら上への報告義務があるの!貴方が捕まって拷問されて何か吐く度に調書造る為に呼ばれまくるの!捜査協力はお金貰えないのに!無駄に何度も何度も呼ばれるの!そういう事絶対喋らないで!ただ働きは嫌ー!喋りたかったら拷問官に痛めつけられながら好きなだけしゃべって!」
「あ……あの……秘密結社……」
「返事は!?」
「はい……すんません……」
流されてしまう男。良いのかなそれで。
フレアが残念なのは今に始まった事じゃないけど、目の前の男もたいがい残念だ……が。
ゴーレム生成に掛けては規格外の強さを誇る魔術師。
シンシアは顔をリスのように膨らませて、噴出さないように我慢しながらも警戒は緩めない。
「お……俺の《超巨大ゴーレム》(ギガント)を潰せたからって良い気になるなら気が早い!まだ俺の秘術は――」
「《火炎弓》(フレイムアロー)!」
「うわぁっち!?」
男の言葉を遮って、炎弾を撃ち出すフレア。だが、その炎は男の着込んだ鎧に阻まれてしまったらしい。
「む……厄介な鎧着ていますね。死なないギリギリを見極めるのが難しいです。やっぱりシンシアお願いします」
「てめえらおちょくってんのか!俺の話を聞けー!」
「やだー!」
「フレアちょっと黙ってて!?えっと……私ぃ、ちょっと、お兄さんの秘術っていうのどういう内容か聞いてみたいなー?あ、秘術って凄くかっこよさそう!聴かせてほしいなー……?」
構えた剣を降ろし、シンシアは思いつく限りの、やってて鬱にならない程度で済む媚び売りを試してみる。
相手は数十匹のロックゴーレムを統括しながら全長数キロ単位の巨大ゴーレムを生成する程の魔法使い。その巨大ゴーレムを一撃で破壊したフレアと同格――とは思えないが、本来、シンシアは正面に立つ事すら危うい程に遥か格上の相手だ。
切り札の秘術とやらを不意打ちに使われるぐらいなら、概要程度でも情報が欲しい。
そうだ。相手は格上。恥など捨てる。
「そ、そうか!そうだろう、そうだろう?娘、わかっているな!しかしお前は既に我が秘術を目にしている!」
……男はとても嬉しそうだった。
この男、チョロい。
一瞬、シンシアの緊張が弛緩する。
「聞いて驚け!我が鎧は鋼鉄に魔力耐性を持ったミスリルを混ぜ合わせたニアミスリルゴーレムよ!その鎧は最硬を誇り、魔法を通さず、王都の闘技場で3連覇を達成した絶対王者・カイラナの剣術をコピーしたまさに最強にして至高の鎧ッ!それを装備した俺は……絶対王者・カイラナの剣技を、ニアミスリルの鎧を着こんだまま扱えるって寸法よ!」
そういえば名乗りすらさせてもらえていない男は、自分の名を名乗るより先に別人の名前を出しながら嬉しそうに早口でまくし立ててくる――
けど想像してたよりヤバそうな秘術が出てきてしまった事に、シンシアは戦慄する。
「え……ちょっと待って、フレア、これまずそう!多分だめなやつ!どうしようどうしよう!?」
フレアは口を両手で塞いだまま、うんうんと頷く。
――黙っててとは言ったけど、それは流石に冗談が過ぎるのではないかな?
「ではいざ尋常に!勝負だ―!」
言うが早いか、男は腰の剣を抜き放ち、全身鋼鉄鎧とは思えない程の歩速、ゴーレム使いという後衛職とは思えない剣速でシンシアに斬り掛かってくる。
きぃん、と、本能的な反射でシンシアはその剣を受け、弾く。
「……あれ?」
「やるな小娘!とぁー!」
剣を一合合わせて拍子抜けしたシンシアが一瞬で距離を取ると、先ほどと同じように飛び込み、同じように斬りつけてくる――のを、今度は剣を交わせる事無く回避する。
(……あれ?これってもしかして……)
シンシアは眉をひそめて男をみつめる。シンシアの予想が確かなら、出来るはずだ。
「ぬ……これならどうだあぁぁ!」
まるで同じ突進。
シンシアはそこから繰り出される剣を完璧に避け、カウンターでお返しの蹴りをおみまいした。
「ぐおっ」
もんどりうって倒れ込む男。
どすん、と音を立てて倒れるとニアミスリルゴーレムの鎧が重たいのか、なかなか起き上がれないらしい。隙だらけだ。
「……えっと……」
シンシアは反応に困る。
……弱い。とんでもなく、弱い。
「何故だ!俺の剣は最強!あの最強のカイラナと同じだけ強い俺が……このような年端も行かぬ少女に……」
「や……えっと……だって、全部一回目と全く同じ剣筋で来るし……判ったら避けるのもカウンターも自由自在だよね?」
「そもそもー、鎧が動きを覚えていても中の人が邪魔で全然速度が乗っていませんしー。中の人が鎧の強さを阻害していると言いましょうかー」
「なん……だと……」
シンシアに簡単に足蹴にされた事実、そしてフレアの追い打ちで男は頭を抱えた。
「いや……俺はゴーレム使いだ!そう!ゴーレムを生み出して戦えば良いだけの事!」
男はゴーレムコアを辺り一面に投げて地面に手をあて、叫ぶ。
「《連鎖岩人形生成》(チェインクリエイトゴーレム)!」
男の声に反応するように。
ずず、とそゴーレムコアを中心にの辺り一面の岩々が繋がり、ゴーレムとなる――
「《火炎弓の雨》(フレイムアローレイン)!」
――が、それら全てがフレアの炎矢に射抜かれて、その高熱でゴーレムコアが破損、岩と土くれに還っていく。
「あ……え……あ……?」
男は、まさに『わけがわからない』『言葉にならない』様子で狼狽する。
「鎧に護られてない所を狙えば攻撃は通るよね……っと!」
シンシアはその混乱する男の顔を、容赦なく全力で蹴りつけた。
流石に綺麗なフォームで首から横に蹴ったら即死の恐れがあるから、顔正面から高く足を上げての喧嘩蹴りだ。
「へぶっ!?」
男はその一撃で昏倒し、背後に倒れながら……も、鎧が人間の動きではありえない不自然な挙動で立ち上がり、シンシアに対して反撃を見舞ってくる。
「わっ!?」
てっきり相手が意識を失ったかと思っていた所に剣を振り回され、シンシアは驚いて身をのけぞらす
反射的に、身に染付いた動作で構えた剣が半ば偶然に鎧の剣を止めた事に、どっと冷や汗をかきながら二歩、三歩と後ずさる。
男……というか鎧は、ひとりでに立ち上がり、さらにシンシアへと襲い掛かってきた。
「え……えっえっ、ちょっと待って!?」
キン!キン!ガッ!
鎧の振り回す剣は重くて速く、明らかに先ほど、男の意識があった時より強い。
なんとか剣に対して合わせる形で応戦し、防御を成立させるがその度に手が重くしびれる。
ギリギリ、とつばぜり合い、これにはシンシアも徐々に押されてしまう。
「ちょっと待って強い!これ強い!なんで!?」
「使用者の意識が無くなったから自己防衛モードに入りましたねー。ストッパーが無くなった分強化……というか、本来の性能に戻ったのかとー」
「ん……くーぁっ!」
シンシアは剣平を下に滑らせるようにして体を入れ替え、鮮やかな手腕でつばぜり合いにわざと負けると、剣を降り降ろして鎧の体が泳いだ所に体当たりで隙を作ろうとする――が、びくともしない。
「フレア!これなんとかならないの!?」
「中の人ごと焼き尽くす系統なら―」
「やっぱ駄目!」
鎧が剣を振り上げる――それに併せて剣を構えようとした瞬間、足払い。
「わぁっ!?」
完全に虚を突かれて背後に倒れそうになり、尻もちをついたところへ剣を降り降ろされてしまう。
ぎいん!
《身体能力強化》(パワード)を最大にしたシンシアは、男の分の体重も乗ったその一撃を、剣の平に片手を押し当てた両手受けで、なんとか受け止める。
しかし、それも長くは持たないだろう。
「くう……」
尻もちをついた体制、加重を掛けられていく剣。
最初から《身体能力強化》(パワード)は限界ギリギリまで高めているのに、力負けしているのだ。力の入れ難い体制で抑え込みに来られて、急速に体力を奪われてしまう。
抜け出ようにもあまりに無防備なこの体制では、手痛い一撃を受けてしまう。
下手に剣を受け流したら、その時点で蹴りが飛んでくる。シンシアなら必ずそう攻めるだろう、そしてそれを無傷で躱せるビジョンが浮かばない。
「《火炎弓》(フレイムアロー)!」
フレアの援護で、ゴーレムが一瞬揺らぐ。炎によるダメージは無く、あくまで発射された炎弾の勢いに揺れた程度の隙。その隙を見逃さず、シンシアは転がるようにして鎧の剣から逃れた。
「はぁっはぁっはぁっ……ふれありがとう!カイラナさん強い!」
「はいフレです。本物はこんな程度じゃないですよー」
「……劣化カイラナさん強い……ぜぇ……ぜぇ……」
「鎧も中の男が関節稼働とデッドウェイトの面で邪魔そうですねー……この隠し玉は、正直想定外です。困りました」
フレアにとっては正直な話、相手がニアミスリルゴーレムだろうがなんだろうが、殺して良いのなら簡単な相手だった。
熱が完全に通らないわけではないのだから、超高温で溶かせばいずれゴーレムコアが損壊し、停止する。
生け捕り狙いでさえ無ければその他にも色々と切り札がある。
が、この状況は術者を人質に取られたようなものだ。当然それらの手は使えない。
常軌を逸したゴーレム生成力があるのに、自身の術の特性すら理解してい程お粗末な戦いぶり……誰かに与えられたという、先ほど聞き流した本人の言葉。
明らかに《ギルド管理協会》(フリューゲル)すら把握していない、無認可な伝説級装備を装備している。
捕縛してこの男にブツを渡した者との背後関係を掴まなくてはならないが、その為に連れてきた肝心の戦力であるシンシアは完全に気圧され、萎縮してしまってこれ以上の働きは望めない。
そもそも明らかに『魔術師が相手なのだから』とたかをくくって思って来てみれば、全身鎧型ゴーレムに身を包んでいる上に、意識を失った後の方が強いだなんて反則だ。
つくづく、馬鹿の発想は時々本物の天才より性質が悪い。
シンシアにゆっくり自信を付けさせ、優しく《ギルド管理協会》(フリューゲル)へスカウトするつもりだった計画もめちゃくちゃだ。
むしろトラウマをいたずらに刺激して傷つけるだけではないか。
せめて、シンシアが本来の力を発揮出来る程度に回復してくれれば使える切り札が無いわけでは無いのだが……
フレアは鎧が起き上がる度に足元を純粋爆撃の魔法で転ばせて時間を稼ぎながら、魂の抜けたような瞳で天を仰いだ。
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