2-1.彼女の乗り物は様々な意味で彼女専用で、自らが動かしたことは一度しかないと彼女は語った
10/13 全体に大幅改稿を行いました。
フレアは唐突に、伝説級道具の使い手を捕縛しに行くと言った。シンシアを連れて。完全に理解が追い付かないシンシアに畳みかけるように、フレアはお財布からお金を取り出す。
「と、言うわけで今後の予定ですが……じゃーん!これをシンシアさんにさしあげます。お小遣いです」
フレアは両手で、1万ルピ硬貨を5つも手渡してきた。
「……え?えっと……どういう事……?」
フレアは、んー、と中空を眺める。
待つ事かれこれ300秒近く。
……長い。長すぎる。
「…………やっぱりあとこれだけさしあげます。それを前金にします」
今度は1万ルピ硬貨を5つも、手渡される。
「いや、だから、どういう事……?」
「せつめいするのめんどいです」
「依頼する仕事の詳細くらい教えて!? 伝説級道具って何!?怖くて受け取れない!」
シンシアはフレアの肩を掴んで、がくがくと揺らす。
「うー……」
フレアはまたも、ぼうっとした、視点が何処にも定まっていない目で宙を見上げる。
正直こわい。
「まって。前から気になってたんだけど、フレアはその領域で外界を遮断しないと物が考えられないの!?鳥なの!?」
「……うー……うぅぅ……がぉー!」
されるがままにがっくんがっくん頭を揺らされながら、フレアは不機嫌そうに吠えた。
可愛いだけだった。
「もー!かんがえるのじゃましないで!」
「は、はい。ごめんなさい」
ぷんすかと幼女のような怒り方をする幼女に、思わず敬語で謝ってしまう。
先ほどまでの、無限の包容力や威厳すら溢れていた姿はなんだったのか……
フレアが見た目相応の一面を見せたのは初めてのような錯覚すら覚える。
……カワイイかよ。可愛いよ。シンシアは何かに負けたような気がして溜息を吐く。
「いまのシンシアさんをへたにつれまわすと、さていにひびいてわたしはただばたらきになるの!りゆうかんがてるの!わかって!」
「わかったから、言い方、言い方。本音漏れてる漏れてる」
「もー!いいかたかんがえるのじゃましたのシンシアでしょー!?」
急激にしたったらずになった幼女がぽてぽてとおなかを叩いてくる。全く痛くない。
ひとしきり無抵抗で叩かれていると、気が済んだのか、恥ずかしくなって誤魔化す為か、フレアはこほん、と咳払いを一つ。
「そうですねー……ようするに、シンシアさんが目にした超巨大ゴーレムも、無数のロックゴーレムも、『ただの人間の術師』独力の技ではありません。伝説級道具と呼ばれる、とんでもなく凄くてズルい道具で一つの秘術を、それこそ『伝説に語られる程』までに引き上げてる道具です。そして何を血迷ったか、持ち主はそんな力を使って何故か冒険者狩りなんてスケールの小さい事をしています」
「つまり、それって『伝説級にすごい』強い人って事なんだよね?」
「いえ。結果的に『伝説に語られる領域で』ゴーレムを造れる・操れるというだけで、本人の凄さとは別物と考えるべきです。私、ゴーレムとは相性が良いので対処は簡単にどうとでもできます。例え30メートル級の超巨大ゴーレムでも、私に掛かれば楽勝なのです」
「……本当に?」
「本当です。というか、【黒天狼】はあの超巨大ゴーレム相手に苦戦するだけ苦戦して、結局は全滅ルートまっしぐらだったので私がとっておきの必殺の魔法で射抜いて倒しました。どんなに強いゴーレムでも一撃で倒せる自信はあるんですが……先ほど伝えた通り、私は火力がありすぎて術者の生け捕りって難しいんですよね。相手は道具に頼った術師な分、本人の魔法使いとしての技量はそこまで秀でた物とは思えませんので、その辺りはご安心を」
「……そうなんだ……?」
「私は朝いちばんにギルド管理協会がらみのお店で剣を買って来ます。本当は使い手に選ばせるべきなのですが、シンシアさんはまだ、単なる一般人ですので……ここでゆっくりと休んでいてください。おるすばんです」
「はぁ……」
ギルド管理協会がらみのお店。一般人のシンシアを連れていくわけにはいかないお店、と言う事か。
「でも、剣まで用意してもらうのにお金まで貰うのは流石に……抵抗があるというか……」
「ギルド管理協会の要人保護期間中は金銭的に何不自由無い生活させないと査定に響くんです。好きなごはんちゃんと食べてもらわないと査定に響くんです。安心安全な生活してもらわないと査定に響くんです。現地協力者扱いにすれば要人保護から質が変わりますが、仕事を頼む分より一層お金を渡さないと査定に響くんです。わかりますか?」
「わかった……わかったから。受け取るから。言い方……」
「えー……一回バレた本音を取り繕うのってめんどくさくないですか?」
妖精か何かの化身かと見紛うばかりの絶世の美少女顔から、とんでもなく残念な本音が飛び出す。
貴族の屋敷に忍び込んでのハニートラップの為だろう、黒のドレスに身を包んだ幼子、プラチナのように美しくきらきらした髪と赤い瞳を悪戯っけたっぷりに細めて笑顔を造るフレアは、しかし、見た目と中身の乖離が本当に残念な子なんだな、とシンシアは悲しくなってしまった。
◆◆◆
「じゃじゃーん! これが私の秘密兵器です!」
エルピス西門の兵舎の中に止められていたそれは言うなれば、鉄で出来た荷馬車だった。
一人分の御者席に、荷物……もしくは、人が一人乗れそうな荷台。その後ろにも台があるが、事実上の2人乗りといった風体だ。
「わぁ」
シンシアはつい珍しい物体に近づいて、食い入るように観察してしまう。
荷台には人間一人分くらいが限界の、荷車を鉄で作ったような外観。
車輪部分には何重にも大量の樹脂素材が巻かれている。
業者席の先には大きな水晶球の物体とそれを取り囲む小さな三つの同じようなものが取り付けられて、幾つかの取ってがある。
先端の取っては、動かすと車輪の向きを変えたり車輪を急に止めたりする機構だろう。そういうものは学術書で読んだ事がある。
「わぁ……わぁ……これ、引き手の要らないくるま?でも足漕ぎが無い……もしかして魔力で動かせるタイプ?っていう事は魔導車?」
「シンシアさん、そもそも概念として魔導車なんて物をよく知ってますねー。流石は貴族令嬢です。高等教育の度合いがどうかしてますし、ちゃんと勉強熱心です。そしてこの子は【チャリオットくん二世】です。私だけの言う事を聞いて、私の命令通りに働く良い子です」
「そ、そうなんだ、よろしくね、【チャリオットくん二世】……触っても良い?」
二世ってなんだろう、と思いながら問うと、フレアは『どうぞー』とお返事が帰ってくる。あちこち触ってみると、やはり御者席の1つの巨大な宝玉と、それを囲うように埋め込まれた小さな3つの宝玉が一番に気になる。
「この宝玉に魔力を込めて動かすの?」
「はい。私の魔力波長を知っている人が《魔力同調》でも使わない限り、私にしか動けないように造られてますし、魔力食いだから結局私にしか動かせません」
「そうなんだ……こっちの小さいのは?」
「予備の魔力炉です。私が魔力を出せなくなっても動けるようになってます。使った事、ないですけどねー」
フレアは、んー、と中空を眺める。
時々、フレアは意識を何処かに手放したような遠い目でぼうっとするのは、本人曰くなにがしか考えているらしい。シンシアはその辺りに対してはもう何も言及しない事に決めてしばらく待つ。
「適当に進める所まで進んでのんびりお昼を食べて、余裕をもって一拍しましょう。急いだところで【黒天狼】が襲撃に遭った地点に着くころには夕方ですし」
「えっと……何か、まるで、今夜にも着きそうみたいな事言ってるけど……襲撃に遭うまで、馬車で5日くらい掛かって移動してるんだけれど……」
「今夜にも着きますよ?まっすぐ走るだけなら【チャリオットくん二世】の最高速は馬車の10倍を超えますし、私の魔力が続く限り馬を休める暇も要らないですし」
「えぇ!? ……またまた、ご冗談を……」
フレアから与えられた情報に、シンシアは戦慄する。
「じゃぁ、乗ってみたらわかりますよー」
御者席に反対に座ったフレアが、とんとん、と荷台を叩き、シンシアに乗るよう仰ぐ。
シンシアはごくりと喉を鳴らして、その荷台に乗り、幾つかの荷物を膝の上に乗せる。
「よーし、じゃぁ、しゅっぱーつ!です!」
「お、おー……おおおぉぉぉわぁぁ!?」
フレアの魔力に反応し、【チャリオットくん二世】が唐突に、暴れ駆け馬より速い速度で走り出す。その勢いに驚いて、シンシアは淑女らしからぬ声を上げてしまった。
ごおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
轟音を立ててフレアの【チャリオットくん二世】は走る。走る、走る、走る。
風が壁のように感じらる速度、時々飛んでいる木の葉や虫でもぶつかると痛い。
シンシアは、そのあまりの速さに驚愕した……いや、驚愕なんてやわらかな言葉では言い表せない『危険さ』に、戦慄した。
フレアは、【チャリオット君二世】の事を馬車の10倍以上の速度で、馬車と違って休憩する事も無く、走らせる事が出来ると言っていた。。
優秀な競走馬と掛け比べをしても簡単にぶっちぎれる速度に、比較にならない程の継続移動距離。
「ちょ……フレア!これ、何!? 何なの!? 凄っ……はやい! すごい!」
「【チャリオット君二世】ですー」
「そういう事じゃなくて!仕組みとか、そういうの!」
「世の中には流通していない、とっても優秀な、欠陥機ですー。込めた魔力を回転運動に変換する術式を中心に、細部には……なんでしたっけ? 最近王都で流行ってる『物理科学』とかいう最新の学問を利用して造られた魔道具ですー」
ごうごうと音を立てて走る中、フレアは大きな声で説明をしてくれる。
「欠陥機って、どういう事!? 私にはこの乗り物、物凄くヤバいものにしか思えないんだけど!」
「あー、やっぱりシンシアにはそういうのわかりますかー。【チャリオット君二世】は、元は王都で、戦争の常識を塗り替える兵器として研究開発されていた【チャリオット計画】の集大成なのですがー」
シンシアの思った通りだった。こんなに凄い乗り物の存在は、それこそ戦争どころか経済、ともすれば人の生活方式の在り方すら変えてしまいかねない。
「結局、異様に魔力喰いなので私にしか動かせなかったんですよー。常人には扱えませんし、運用面の問題が深刻過ぎて量産は見送られたので、開発試験でさんざん乗り回した試験機と同じ、量産試験モデルを軍部からいただきましたー」
さらっと、フレアは信じられない言葉を幾つか吐いた。
『フレアにしか動かせない』というなら、そのフレアの魔力量とは一体どれほどのものなのか。少なくとも『常人に扱えない』『軍が運用を諦めた』という事は、フレアの魔力量は通常の軍人魔法使い――冒険者ランクにしてCあるいはBランクがまともに扱う事が出来なかったものを自由自在に操っているという事になる。
そして、その『軍』で開発されていた品を開発試験で乗り回していたとか、最終的に軍から『機密の塊』であろう実物を買い取るとは。『最悪の場合、対立組織に鹵獲された所で別に問題無い』と判断されるような品だという事は。
「……私! 何も気付いてないから! 何も聞いてないから!」
「私、シンシアさんのそういう、異様に物分かりが良い所とか大好きですよー」
例えば、どんなパーティー、どんな強者にだって、『移動時間』という物が必要だ。
普通のパーティーは依頼現場に急行するまでに、馬車を使っても片道数日。
【チャリオットくん二世】を駆るフレアならその数日で依頼を受けて現場に駆け付け、仕事を終わらせた後に近くの街で観光を満喫してから帰ってきて依頼結果の報告までが出来る。
一個人としての運用の成功例だけでここまで致命的な『差』が生じるのだ。
『軍』が【チャリオット計画】の運用にいくらかでも成功していたら、それこそ戦争の常識など崩れ去るだろう。
(……本当に、せめて私の十分の一でも性能を引き出せる魔導士が揃えられれば戦争の常識も変わってたんでしょうけどねー……揃えられるものなら)
フレアは【チャリオット君二世】への乗車に不慣れなシンシアを気遣って速度を落とす。
万が一にも事故を起こさぬよう、本日のフレアは安全運転の為に『馬車の4~5倍速』程度に抑える。抑えてもなお、それだけの速度が出るのだ。時間対比速度は1時間に対して40キロメートル弱。【チャリオットくん二世】の限界速の半分にも満たないが、初搭乗のシンシアにはそれでも刺激的だったようで。珍しい物を見付けた次の瞬間にはそれが遥か後方に見失ってしまうのが楽しくて仕方がないらしい。
がたごと揺れるし飛び跳ねもするが、シンシアが楽し気なようで、フレアも安心する。
フレアが記録取りに研究者を同乗させた時は、劣悪な乗り心地に大抵の者が嘔吐していたし、【チャリオット】シリーズはそういった意味でも人を選ぶ為欠陥機とされていた。
嬉しい誤算に自然とフレアも笑みがこぼれる。
「ところで、こんなに速くて大丈夫?道、わからなくない?」
目まぐるしく移り変わる景色と地図を見比べるシンシアは、既に自分達の現在位置を見失っていた。
シンシアは早馬に乗って駆けた事はあるが、それはのどかな牧場の走行レーンの話だ。
このような速度で行軍するのは初めての事なので、感覚が掴めないのだ。
「わからなくなくな……あれ?これどっちなんでしょう……わかるのでへいきですー。普段のチャリオットくん二世はもっと速いのでー」
わから……わから……と口にして若干視線が上がり始めるフレアに、シンシアはぎょっとして声を上げる。
「ぎゃー!待って考えないで!今は御者役に集中して!」
「……はーい」
背後から急に頭を下に押し付けられ、若干不服そうなフレアの返事。
冗談ではなく死活問題だ。この速度で走りながらぼんやりされては、その辺の大木にでもぶつかってチャリオットくん二世を棺桶に二人仲良くご臨終だって考えられる。
「もー……地図は良いです。それより計画は大丈夫ですか?覚えてますか?」
「大丈夫……でも良いの?この剣。すごく高そうなんだけど」
「高そうじゃないです。高いやつです。先行投資なのでお気遣いなくー」
「ありがとう……」
「それ何回も聞いて飽きました。フレアちゃん大好きって言って下さい」
シンシアの腰には、真新しい一本の剣が釣り下げられていた。
フレアがギルド管理協会御用達のお店で買ってきたものだ。
なのでそれがどれだけの金額かは知らないが、相当な業物な事は間違いない。。
下手をすれば、金額を知ったら遠慮して受け取れなくなってしまう、よしんば受け取れても怖くて戦闘に全力で使えないであろう額。
「う……えっと……ありがとう……フレアちゃん大好き……」
「えっへへぇ~……そうなの?シンシアは私の事大好きなんだぁ」
「ちょっ……剣を貰ったから仕方なく言わされてあげただけだから!」
「ツンツンしたシンシアもかわいいですよー?」
「あぅっ……あ……ありがと……」
「ありがとうの代わりはー?」
「もう言わないから!」
緊張感の欠片すらない。
とても不安になってきた。何故なら相手は……
「もう……やっぱり念の為確認させて。ゴーレム大量発生事件の背後には、A級パーティーの【黒天狼】に気配すら気取られないで超巨大ゴーレム生成をする凄腕のゴーレム使いの魔法使いが居る」
「じゃっかんノイズが混ざってますが、おおむねそんな感じですー。今後はそのパーティーをBランク程度に考えて下さい、本場のAランクはあんなもんじゃないですよー」
わかった、と相槌をひとつ売って、シンシアは続ける。
「ロックゴーレムが出てくるたび、フレアが探知魔法で犯人を探す間、私がロックゴーレムの囮になってフレアを守る」
「守られますー」
「敵魔法使いを見付けたら、フレアの援護で私が確保……斬って良いんだよね?」
「生け捕りでお願いしますねー。相当激しい抵抗があると思うので、生きてさえいれば損壊具合は手足の4本くらいまで許可しますー」
それ全部じゃん。
「……なるだけ少なく0本で仕留めるね。相手が術師型で援護ありなら私の方が有利だし……」
「ですねー。私、強敵相手だといっつも即死させちゃって怒られちゃうんですよー。今回は生け捕りマストなので、シンシアのお陰で助かっちゃいます」
何でこの子は毎回言葉の端々に物騒なキーワードが混ざってくるのか。
「うん……私も、殺しは嫌だし……」
シンシアはまだ、人間の血で手を汚した経験は無い。
言うなればシンシアは今回、初めて人を斬るのだ。
そう考えると、先ほどまでのんきに風景を楽しんでいた自分が、急に恥ずべきものに想えて、シンシアは気を引き締め直した。
感想どしどし募集中!
面白かったよ!とか
続きが気になるよ!とか
思ってくれたら嬉しいんだけどそう思ってくれたことを伝えてくれるともっと嬉しいので
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして下さったら大喜びです。
ブックマークも大歓迎。
作品への応援、よろしくお願いいたします。




